未知なる断熱素材「エアロゲル」搭載のインサレーションジャケットを冬の北海道で使い倒してみた【実着レビュー】
冬のアウトドアで欠かせない、防寒のための中間着(ミッドレイヤー)ですが、今シーズンは未来の素材ともいえる「エアロゲル」を搭載した化繊中綿インサレーションジャケットがアツい!ということは、先日当サイトでも「導入編」として紹介したところです。その記事をご覧になると、この未知の物体がいかに革新的で素晴らしい素材であるかが十分にお分かりいただけるでしょう。知れば知るほど、驚くことばかり。
そこで今回は、贅沢にもエアロゲル素材が搭載された化繊インサレーションジャケット5アイテムを実際に購入し、極寒の北海道でフィールド比較検証してみました。
2020年12月の北海道にて、登山・ランニング・日常使いと使用してみました。服装は基本的にベースレイヤーの上にジャケットを着用したのみ(筆者はかなりの汗っかき)。
今回の検証はエアロゲルが搭載されているという共通点があるのですが、それぞれのスペックが大きく異なったり、使用コンセプトも違うため従来の横並びの比較というやり方ではなく、単体としての検証要素が大きかったことをご理解ください。それではいってみましょう。
比較結果&スペック
※☆☆☆☆☆~★★★★★評価はレビュワーによる相対評価です。
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
アイテム | Patagonia DASパーカ | NORRONA trollveggen Primaloft100 Zip Hood | THE NORTH FACE ワンダーラストフーディ | THE NORTH FACE レッドランプロフーディ | L.L.Bean プリマロフト・パッカウェイ・フード・ジャケット |
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参考価格(税込) | ¥58,300 | ¥36,300 | ¥34,100 | ¥27,500 | ¥19,800 |
ここが◎ |
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ここが△ |
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保温性 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ |
快適性 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
動きやすさ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ |
蒸れにくさ | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ |
耐候性 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ |
重量 | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
機能性 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
スペック | |||||
重量(公式) | 556g | 528g | 425g | 380g | 381g(Mサイズ実測) |
素材 |
| 100% NYLON CORDURA. PRIMALOFT® GOLD WITH CROSS CORE TECHNOLOGY |
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| 身頃/裏地:再生ポリエステル100% 中綿:PRIMALOFTR GOLD WITH CROSS CORE TECHNOLOGY(60グラム、ポリエステル100%) |
ポケット |
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エアロゲル搭載インサレーションジャケット 各アイテムレビュー
Patagonia DAS パーカ: 化繊インサレーション史上最強の軽さと暖かさを実現
ここが○
- 厳冬期にも臆することなく使える絶対的な安心感
- ずば抜けている重量あたりの保温性能
- 操作性に優れたジッパーとドローコード
ここが△
- 携行性
- 肌触り
- 価格
化繊なのにまるで空気を纏っているかのような暖かさと軽さ
DASパーカといえばPatagoniaのビレイ用パーカとして名作の座に君臨し続けていましたが、2016年に惜しまれながらも廃盤に。経緯はわかりませんが、今季エアロゲルを引っ提げて見事に復活。最初に伝えていましますが、今回の検証で間違いなく保温力最強とお伝えしたいのがこのDASパーカ。ダウンジャケットと化繊インサレーションの良いところが高いレベルで融合し、非常に贅沢で完成度の高いアイテム。
袖を通した瞬間から得られるまるで暖かい空気をまとっているかのようななんとも言えない包まれる感覚。本格的な寒さのなかでも、見た目の重量感からは考えられない保温性の高さに驚きを隠せずにはいられませんでした。使用されている中綿素材はPrimaLoft Gold Insulation with Cross Core Technologyのなかでもボリュームの大きい133g。今回の5アイテムの中では全体の重量も556gと最重ですが、保温性能に関しては間違いなく頭一つ飛び抜けていました。
その133gボリュームのインサレーションに加え、前面には40gのインサレーションが補填されており、保温性能はもちろんのこと防風性能もかなり向上、DWR加工もしっかりと施されており耐候性にも優れています。
シルエットを見ると一般的なジャケットの寸法と比較し裾丈が長く作られおり、激しい運動で裾がずれても下からの風の侵入を防いでくれます(写真1)。
ハードシェルの上から着用することが想定されているため、サイズ感はやや大きめで作られています。普段日本規格のLサイズ(海外企画ならMサイズ)を着用している筆者ですが、このアイテムはSサイズでちょうど良い感じでした。
使い勝手抜群の細かな機能
その他、細かな機能面もかなり優秀。左右のポケット内にあるドローコードはアクセスしやすく引っ張るだけで裾を調整することができ、裾部分に配置された大きめのリリースボタンも押しやすく操作性抜群です(写真2)。
さらには袖内側にあるサムループに親指を引っ掛けてテンションをかけてあげると容易に袖口を絞ることができ、冷気の侵入を防ぎ温められた空気を外に逃すことなく内部に閉じ込めておくことができます(写真3)。この仕様はなかなか珍しく筆者自身初めてお目にかかりました。
メインジッパーは上下から開閉可能な2WAYジッパーになっており、換気の調節もできます(写真4)。
Dasパーカに使用されているジッパーはいずれもビスロンジッパーで滑りもよく特にストレスは感じませんでした。収納は左胸ポケットと左右のハンドウォーマージッパーポケットの他、 内側左右にも大きめのメッシュポケットが配置。ここにはグローブや、クライミングスキン、ハーネス、小物など何でも入れることができ使い勝手も抜群。暖めたナルゲンボトルを入れることも可能でした。
大きめのフードはヘルメットの上から装着するのにも対応しています。フードの後ろに操作性抜群のドローコードが配置されており、ヘルメットを装着していない状態でもしっかりとフィットさせることができます(写真5)。
全体的に必要な機能がふんだんに配置され、無駄な機能が一切なく、それでいていずれも操作性抜群なので手放したくないと思わされる名作だと思います。
その上で個人的に改善して欲しいところを挙げるなら、内側の生地は柔らかく肌触りに問題はないのですが、欲を言えば口元付近には柔らかいフリース素材などを配置して欲しかった。さらにスタッフサックがシュラフ並みに大きいためもう少しコンパクトにして欲しかったことぐらいです(写真6)。
ちなみにもう少し小さめのスタッフサックに収納することもでき、それなりにコンパクトに収納することもできます。
総じて素晴らしいアイテムなのですが、本領発揮することができるシュチュエーションはアイスクライミングや厳冬期の冬山登山など、低温・濡れが厳しい冬のハードな場面かと思います。そこまでハードな使用環境を想定していない人であれば、金額的に見てもオーバースペックになってしまうと思いますが、価格に見合ったパフォーマンスが期待できるアイテムなのは間違いないです。
NORRONA Trollveggen Primaloft100 Zip Hood: 実用性抜群の厳冬期登山向け極暖化繊ジャケット
ここが○
- 耐久性
- 重量あたりの保温性能
- 見た目からは想像のつかない軽さ
- 充実した収納
- しっかりしたフードのつば
ここが△
- 携行性
- 透湿性能
耐久性に優れあらゆるハードな環境に対応
北欧はノルウェーのハイブランドNorronaから厳冬期登山やクライミングでの使用を想定し、極暖化繊インサレーションジャケットとして出されたのがこのTrollveggen Primaloft100 Zip Hood。Patagonia Dasパーカに使用されているものと同じGoldをベースにしたエアロゲル搭載中綿を採用。Dasパーカと比較すると若干ボリュームを抑えつつも、保温性に関しては正直そこまでの違いは感じられないくらい、こちらも抜群の暖かさを持っています。見た目のボリュームからは想像できない軽量性。ここでもエアロゲル素材の底力を感じます。
表地素材にはコーデュラ製のナイロンで耐久性は非常に高く、引っ掻きにも強いなめらかな表面はハードな環境下でも気を遣うことなく使用できます。ロープやハーネスとの干渉程度では問題なさそうです。
内側の生地を見るととても柔らかく、肌触りに関しては全アイテム中で一番筆者好みでした。特に口元とフード部分に備えられたフリース素材はありがたく高評価ポイント(写真7)。
充実した収納性能
収納もかなり充実しています。左右のナポレオンポケットとハンドウォーマーポケット。内側は左側だけ大きめなメッシュポケットが配置していますが、どうせなら左右に欲しかったのが本音(写真8)。
フード部分のドローコードとリリースボタンはDasに比較すると操作はしにくかったものの、操作性は悪いというほどではありません。それよりもフードのつばには形状作成できるプレートが入っているため、雨や雪による水分が顔に滴ってくることを防いでくれる点はお気に入りポイントです。
あくまでも比較の問題として、使い勝手的にDasパーカの方が使いやすいと思えてしまう部分がちらほら見えてしまいましたが、一般的には機能性はとても充実しているといえます。一方で考えれば、価格的にみてかなりの価格差があるDasパーカと比肩するレベルまで到達しているといってもいいかもしれません。
使用時にはハードシェルの上に着用するのはもちろんのこと、中間インサレーションとしても大活躍してくれます。ただし、透湿性能に関しては期待外れでした。レッドランプロフーディもそうでしたが、エアロゲル素材の透湿性能に関しては、従来の化繊素材の方が優っていると感じることが多かったです。ビレイ系ジャケットには透湿性能はあまり求められていないのかもしれませんが、使用用途の汎用性を高めるためにも今後改善して欲しいポイントのひとつです。今後に期待します。
THE NORTH FACE レッドランプロフーディ: 真冬のランニング用として、温めつつ動けるジャケット
ここが○
- 身体に吸いつくフィット感
- ストレッチ性抜群で動きやすい
- フリース素材の肌触り
ここが△
- 期待したほどではない透湿性能
- 防風性能
ストレッチ性抜群で寒い時期のトレランに大活躍
今回のラインナップの中で最も動きやすく運動時におけるストレスがありませんでした。脇と袖下に、4WAYストレッチ性と通気性を併せ持つバーサアクティブフリースが採用されており、非常にストレッチ性能に長けているモデルでした(写真9)。
さらには全体の肌触りも良く、後頚部に使用されている暖かいフリース素材についても心地よくてありがたい(写真10)。腕周りや見頃にピッタリとフィットしてくれる裁断のためデッドスペースが少なく、スタイルと動きやすさを両立しています。
表地にはPERTEX® QUANTUM 素材が使用されており、しっかりと水を弾いてくれ耐久性と耐候性に優れています。ただし、フリース素材が使用されている部分は当然風を通しますので、全体としては防風性に優れているとは言えません。同じく保温性能についても防風性能と切り離せない部分があるので、これを着て稜線上でじっとしていても暖かくなるとは言えません。これはある程度活動的なシーンで着ることが前提です。
中綿にはエアロゲルを内蔵した細かいボール状の中綿素材、THERMOBALL® PROが使用されています。全体の重量についても特にボリュームが少なめで薄い作りであることも影響してか今回のアイテム中では最も保温力の低いモデルといえます。また寒冷時におけるランニング等、動きのなかで着るイメージのジャケットながら、透湿性能についてはやや期待外れ感が無いとも言えませんでした。自分は汗っかきなので一概には言えませんが、行動時に激しく汗をかき始めると、どうしても汗が飽和状態となることが多かったです。ある程度は脇と袖下に配置されたフリース部分から抜けてはいきますが、中綿部分からはなかなか抜けていかず、裏面の内壁を確認すると飽和した汗が水滴状になっていることもしばしば(写真11)。
快適性や運動性能については優秀なモデルですが、透湿性能についてはもう少し頑張って欲しいところが本音。以上のことからハードなアウトドアではなく、街や軽いトレイルでのランニング、あるいは春・秋の登山などに適したモデルであると言えそうです。
THE NORTH FACE ワンダーラストフーディ: 街にもトレッキングにも使いやすい、オールラウンダー
ここが○
- 中綿の復元力
- 携行性
- スタイリッシュなフォルム
- 汎用性の高さ
ここが△
- 価格あたりの保温性
- 本格的な冬山には物足りない
見た目だけでなく、復元力がもはやダウン
見た目はまるでダウンジャケットですが、しっかりとエアロゲル内蔵中綿が使用されている化繊ジャケット。
こちらのモデルも保温性と重量比から考察するとかなり優秀モデル。その軽さと見た目からはダウンジャケットとの判断がまったくつかないほどでした(写真12)。
使用されているのはPRIMALOFT® Silver ThermoPlume® PROという限りなくダウンの性能に寄せてきている素材。この素材何がすごいかって、復元力がハンパじゃないです。付属のスタッフサックに詰め込んでから、取り出すと待ってましたと言わんばかりに膨らむ様には驚きました。もちろん、重量あたりの保温性もかなり高い。
生地にはパーテックスカンタムが使用され耐久性があり、DWR加工により水もバンバン弾いてくれます。バッフルに縫製が使用されておらず圧着で各隔壁が構成されているので、保温性能や防水性能の向上も嬉しいところ。
メインジッパー裏に配置された大きめのウィンドフラップも防風性能を高めてくれています。ストレッチの効いたフードも頭にしっかりとフィットしてくれますが、ヘルメットには対応していない大きさ。こちらのモデルはバリバリの冬山用というよりも、トレッキングや街使いなど、あくまでも汎用性の高い1着と言えそうです(写真13)。
全体的に激しい動作でも動きが制限させることがなく、ストレスはありませんでした。内側の生地は硬めでシャカシャカ感が強めです。ウィンドフラップの顎部分にはフリース素材が使われていますが、欲を言えば顎部分にジッパーガードをつけて欲しかったですね。スタッフサックが付属しており携行性に優れています。
あらゆるシーンで活躍する汎用性の高さ
保温性能からみても厳冬期の登山には厳しいかなと思いますが、一般的な登山、アウトドア、ウィンターアクティビティの中間インサレーションとして使用することや、予備のギアとしてザック内に忍ばせておくのもありだと思います。
また、スタイリッシュなフォルムなので、日常使いにも持ってこいと比較的オールマイティで汎用性の高いアイテムとなっています。
L.L. Bean プリマロフト・パッカウェイ・フード・ジャケット: 汎用性とコストパフォーマンスでバランスの良い1着
ここが○
- 手頃な価格
- 軽量性
- パッカブル仕様
ここが△
- 機能性
- 復元力
- 寸胴型でフィット感の弱いシルエット
最高品質のエアロゲル素材で得た軽量性
恥ずかしながらL.L.Beanがエアロゲル素材を早期から取り入れていることを知りませんでした。そんなこともあって使用前にはあまり期待はしていなかったのですが、実際にはその予想をいい意味で裏切ってくれる高パフォーマンスが感じられる結果となりました。
中綿に使用されているのはPrimaLoft Gold Insulation With Cross Core Technology。ボリュームは60gクラスと決して多い中綿量ではないため復元力はほどほど(Patagoniaのナノパフと同じくらいとお考えください)。ですが得られる断熱性は従来の化繊素材と比較しても(ちょうど手元にあったナノパフと比較)明らかに高いと感じられました。最高品質の中綿を使用することで、ギリギリまで軽量化を図っているようです。とにかく軽い。
さらには細かな部分をみると、すべてのジッパーには保護性を高めるジッパーガレージがついています(写真14)。
裏面のポケットはパッカブル仕様になっており、携行性にも優れています(写真15)。
ただ、基本的な機能の他に目立った使い勝手のよさとしてはこれ以上で眼を見張るようなポイントはなく、シルエットもお世辞でもスタイリッシュとは言えず、オーソドックスなアメカジ風の寸胴型(写真16)。ストレッチ性も特になく、激しい運動をすると脇や袖下が突っ張る感じがありました。
圧倒的なコスパの良さ
細かな点をみると目立った点が少ないのですが、それにしてもこの保温性と軽量性を1万円台で手に入れることができるということは忘れてはいけない点です。おそらく同じスペックの製品を他のメーカーが販売するにしてもこの価格までは厳しいのではないでしょうか。
最新素材による一歩進んだ保温性と軽量性を、できる限り手頃に手に入れたいという方にはおすすめです。
まとめ
今回は最新エアロゲル素材を使用している5アイテムについて同時に実着レビューしてみました。どのアイテムもエアロゲルという軽量で保温性の一段高い中綿を使用していることから、従来この重量では考えにくい高い保温性を感じることができたのは間違いありません。特に中綿量が豊富なDasパーカ・trollveggen Primaloft100の2モデルに関しては下手なダウンジャケットに比べても引けを取らない快適さを備えていると実感しました。もちろんダウンにはまだまだ軽さ・コンパクトさではかなわないのですが、ここまでの性能であれば、何より濡れても保温力が落ちないという安心感と、気軽に洗濯も可能な扱いやすさを備えたこれらの化繊インサレーションジャケットを選ぶ理由は十分にあると言えます。
またTHE NORTH FACE レッドランプロフーディは登山というよりも真冬の雪のない低山で、ハイキングやトレイルランニングなどのアクティビティで使うのにちょうど使い勝手がいいと感じました。前者であれば防寒着としてシェルの中に着れば十分な保温性と動きやすさを、後者は凍える寒さの中でも適度な暖かさとプロテクションを提供してくれます。
以上、みなさんのアイテム選びの参考になれば幸いです。