
THE NORTH FACE「HST ヒューム6」レビュー :「これ、本当にバックパック?」驚きの軽さとフィットがすべてを変えた、究極の軽量ランニングベスト
真夏のトレイルで長期テストを重ねて分かったこと–このベストを背負った瞬間、「軽さ」という言葉の概念が覆されました。身体に吸い付くようなフィット感は、まるでウェアの一部のよう。これまでのランニングベストって何だったんだろう?そう思わせるほどの革新性がここにあります。
ザ・ノース・フェイスが提唱する「HIGH SPEED TRAIL KIT」コレクション。これは、近年のトレイルランニングシーン、特に高速化するショート~ミドルレンジのレースにおいて、ランナーが自身のパフォーマンスを最大限に引き出すために、ギアの「軽量性」と「機能性」を極限まで高めるという、妥協のないモノづくりを追求したものです。実際に使用してみて、この強いこだわりを十分に感じ取ることができた経験でした。その中核を担うのが、今回レビューする「HST ヒューム6」です。
目次
一目でわかる、THE NORTH FACE「HST ヒューム6」の核心
「軽い、涼しい、使いやすい、揺れない」–この4つが全てを物語る
ヒューム6は、「軽量性・通気性・収納力・身体の動かしやすさ」という4つのテーマで開発された、次世代ランニングベストです。背面にはTHE NORTH FACE独自開発のモノメッシュを採用し、保水しにくく通気性に優れた特性により、長時間の使用でも重量増加を最小限に抑えます。フィット感を高める3本のマグネットチェストストラップや、走りながらアクセス可能な多彩なポケット配置など、実際のレースシーンを想定した実用的な機能が随所に散りばめられています。
お気に入りポイント
- 圧倒的な軽さ(Mサイズ約155g)
- 驚異の通気性〜モノメッシュが背中をドライキープ
- マグネットバックル〜近づけるだけで「パチン」と決まる快感
- 走りながら手が届く計算されたポケット配置
- 腕振りが自由すぎるポール前面装着システム
- 見た目より収納できるストレッチファブリック
気になるところ
- 6L容量〜ロング走には物足りない
- ジッパーなしポケット〜貴重品管理は要工夫
- ハイドレーション派は困る給水袋収納なし
主なスペックと評価
項目 | THE NORTH FACE「HST ヒューム6」 |
---|---|
実測重量 | S/約140-150g、M/約155-165g、L/約175g |
容量 | 6L(S、Mサイズ)、7L(Lサイズ) |
素材 | ストレッチファブリック、モノメッシュ(背面) |
カラー | ティングレー |
女性モデル | ユニセックス仕様 |
チェストストラップ | 3本(マグネット式) |
メインアクセス | パネルローダー式 |
ポールホルダー | フロント斜め装着式 |
Outdoor Gearzine 評価 | |
快適性 | ★★★★☆ |
安定性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★★★ |
耐久性 | ★★★★☆ |
汎用性 | ★★☆☆☆ |
詳細レビュー ~実際に使ってどうだった?~
素材編:「これ、本当に布?」妥協なき軽量化の秘密
薄いのに強い、軽いのに機能的——素材革命を体感
ヒューム6がこれまでのランニングベストと一線を画すのは、その素材にあります。
自分が特に驚かされたのは、本体に採用されたストレッチファブリックです。一見すると驚くほど薄手ですが、特筆すべきはその適度な伸縮性と強度。この素材が持つ柔軟性のおかげで、見た目の容量をはるかに超える荷物を効率的に収納でき、パック全体のシルエットを保ちながら、身体の動きに一体となって追従する感覚を味わいました。
このパックの真の主役だと感じたのが、背面全体とショルダーハーネスを覆うモノメッシュです。従来のベストは、安定性やクッション性を追求すると生地が分厚くなり、通気性が犠牲になるというジレンマを抱えていました。結果として、汗を吸収した生地が重くなり、不快なべたつきに悩まされたものです。
しかし、THE NORTH FACEが採用したこのモノメッシュは、その課題を根本から解決してくれました。吸水性を極限まで排除しながら、高い通気性を確保することで、背中は常にドライに保たれ、これこそランナーにとって理想的な状態だと感じました。これは、ギアに余分な吸水性能は不要であり、速乾性に優れたウェアと連携することで最高のパフォーマンスを引き出すという、シンプルかつ合理的な設計思想の具現化に他なりません。
背負い心地編:「ウェアみたい!」身体と一体化する装着感
155gとは思えない安定感——これがフィットの革命か!?
極限まで重量を削ぎ落とされたパックは、どうしても安定性が犠牲になりがちです。しかし、このヒューム6は、その軽さからは想像できないほどの、まるでウェアのように身体に吸い付く高いフィット感と安定性を両立させていると、自分は感じました。
その秘密は、身体のラインに沿うように設計されたショルダーハーネスにあります。
薄く幅広のハーネスは、圧迫感なく優しく身体に密着し、パックの重さを一点に集中させることなく、背中全体に均等に分散してくれます。そして、この一体感をさらに高めてくれたのが、3本のマグネット式チェストストラップです。走行中の激しい動きでもブレることはなく、それでいて片手で瞬時に着脱・微調整ができる直感的な操作性のおかげで、集中力が途切れることはありませんでした。一度体験したら、もう普通のバックルには戻れません。
フラットなトレイルでは、パックの存在をほとんど感じさせませんでした。特に、急な登りや下りでも、マグネット式チェストストラップが身体にぴったりと密着し、荷物の揺れを完全に抑えてくれたんです。 その安定感は、これまでのランニングベストでは体験したことのないレベルでした。
しかし、このパックは、トップランナーの体型とパフォーマンスを極限まで追求した、非常にストイックなつくりになっていると自分は感じています。微調整はチェストストラップのみで行うため、体型に合わない場合はその密着度を十分に得られません。最高のフィット感と揺れのない安定性を手に入れるには、購入前の試着が不可欠です。ルーズな着こなしを想定しない、この妥協なき設計こそが、ヒューム6の真骨頂と言えるでしょう。
長時間にわたるランニングで、パックの存在を忘れてしまうほどのこの快適性は、まさにパフォーマンスを追求する設計思想の結晶です。
収納編:「6Lなのにこんなに入る?」計算し尽くされた空間術
容量より配置——走りながら使える収納の極意
6Lという容量は、ミニマルな装備でのアクティビティに最適だと感じましたが、このパックの真価は、その容量以上に、すべてが計算し尽くされた効率的なポケット配置にあると気づきました。
トレイルランニングのミドルレース大会における必携品を収納するには、このサイズで十分でした。具体的には、自分はフラスク2本、ジェル5個、軽量なレインウェア上下、ヘッドライト、ファーストエイドキットなどを入れても余裕があり、ストレッチファブリックが荷物の増減に柔軟に対応してくれるおかげで、容量を最大限に活用できました。
ただし、バックパックにはハイドレーション(給水袋)を収納するスペースがないため、水分計画には要注意です。フラスクなど、前部のポケットでの水分補給を前提とした設計になっています。
特に際立つのが、走りながらアクセスできる外部収納です。ショルダーハーネスには、フラスクやペットボトルが入るボトルポケットに加え、ジェルや小物類を細かく分けて収納できる2段ポケットを配置。これにより、パックを下ろすことなく、必要なアイテムに瞬時に手が届くんです。ただし注意点がひとつ、ジッパーのないポケットが多いため、スマートフォンや貴重品を収納する際は、落下の可能性に注意が必要だと感じました。
さらに背面下部のストレッチポケットは秀逸で、ウィンドシェルやヘッドライトといった、素早く取り出したいギアを後ろ手にアクセスできるため、レース中のわずかな時間ロスも徹底的に排除するという設計思想が貫かれています。
ポール装着編:「腕振りが自由すぎる!」革命的な装着システム
背面から前面へ——常識を覆した斜め装着
これまでのポール装着って背面が当たり前でしたが、ヒューム6は前面斜め装着。最初は「え?」と思いましたが、使ってみて納得でした。腕振りが全く邪魔されないし、走りながらの脱着がこんなにスムーズとは驚きました。
登りで装着、平坦で外す、下りでまた装着する。この一連の動作がストレスフリー。これぞスピード重視の設計思想です。
耐久性編:「軽いのに意外とタフ!」ミニマル設計の意外な強さ
見た目に騙されるな——必要十分な頑丈さ
軽量化を徹底したギアは、どうしても耐久性が心配されることが少なくありません。しかし、ヒューム6は、その懸念を良い意味で覆してくれました。
自分はこのパックを1ヶ月にわたり使用し、複数回洗濯を繰り返しましたが、型崩れや目立った劣化はほとんど見られませんでした。そのタフさには本当に驚かされました。本体のストレッチファブリックも、背面のモノメッシュも、見た目の軽さとは裏腹に、しっかりとしたタフさを備えていることが分かります。これは、無駄な装飾を削ぎ落とし、本当に必要な素材だけを厳選して配置するという、ミニマルな設計思想の正当性を証明しています。
ただし、このタフさはあくまでトレイルランニングに特化したものであり、ゴツゴツとした岩場をよじ登るような、より過酷な山岳行動を想定したものではないため、レースでより速くゴールするために開発された点を理解しておく必要があります。
まとめ:ランニング向けバックパック選びの概念を覆す次世代ランニングベスト
HST ヒューム6は、自分にとって単なるギアではなく、トレイルランニングにおけるバックパック選びの概念を刷新する革新的な製品でした。驚異的な軽さ、モノメッシュによる抜群の通気性、マグネット式チェストストラップの直感的な操作性、そしてすべてが計算し尽くされたポケット配置など、その完成度は他の追随を許さないと感じました。
このベストは、「軽さと機能性を両立させた究極のベスト」を探しているスピード重視のランナーにとって、間違いなく新しいスタンダードとなるでしょう。23,100円という価格は決して安価ではありませんが、その革新的な機能性と、長期にわたってタフな使用に耐える品質を考慮すれば、十分に投資する価値のある製品だと自分は思います。ショート〜ミドルレンジのトレイルレース、ウルトラマラソンレースなど、軽さと動きやすさへのこだわりを捨てないアクティビティに最適です。
購入推奨度:★★★★★「対象ユーザーなら迷わず買い!」
ショート〜ミドルレンジでスピードを追求するトレイルランナーにとって、これは単なる装備ではなく、パフォーマンス向上のための最強ツールです。その価値は価格を遥かに上回り後悔しないでしょう。
THE NORTH FACE「HST ヒューム6」の詳細と購入について
THE NORTH FACE「HST ヒューム6」 の製品の詳細については、公式サイトをご確認ください。
執筆:東條 一矢
茨城県水戸市生まれ。社会人になってトライアスロンを始め、苦手なランニングと格闘しているうちに山岳耐久レースにハマり、第1回日本山岳耐久レース(通称:ハセツネ)を完走。そこからマウンテンスポーツの世界へ。30代で埼玉県川越市に引っ越してからウルトラマラソンという新たな沼にハマり、信越五岳、上州武尊、KOUMI100といった過酷なロングレースを連戦完走しながら国内各地のトレイルレースを駆け回る日々。
「自然の中で思いっきり遊ぶこと」と「その美しい自然を守ること」は、絶対に切り離せないという信念に基づき、実際にフィールドで体験したことや、本当に信頼できるギア情報を皆さんにお届けしたい!とOutdoor Gearzineに参画。現在はNPO法人「彩の国ウルトラプロジェクト」(https://npo-sup.org/)の代表としての顔を持ち、レースをプロデュースしたり、地域のイベントを開催したりと、走る以外でもアウトドア界の盛り上げに奔走中。