比較レビュー:ウルトラトレイルを走り続けるための防水ランニンググローブをUTMF完走ランナーがはめ比べてみた
春から秋にかけては、トレイルレースのシーズンです。
特に70Km以上のウルトラトレイルレースなど長時間にわたる場合は、夜間走行や突然の天候の変化への対応に迫られる場合もあります。
レースによっては必携品が定められており、レインウェアや寒冷対策のウェアリングなどは入念な対策を行いますが、案外見落としがちなのが手先の濡れ・冷えへの対応です。特に高冷地における夜間雨天時の走行では、筆者のように鈍足ランナーだと長時間にわたる手の冷えは、気持ちだけでなく大きなダメージにつながる場合もあります。
そこで今回は、ウルトラトレイルレース完走の観点から携行すべき防水グローブを比較してみました。
目次
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今回の比較候補となったグローブについて
選考の基準
2018年4月、2年ぶりに開催されたUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)を43時間25分28秒で完走しました。幸運にも終始天気が良く、用意したレインウェアや防寒着はほとんど使用しませんでした。
最初のヤマ場である天子山塊や後半の石割山・杓子岳といった山岳パートでも、当初の予想に反してあまり気温は下がらず、ウェアの着脱はほとんど行わずに走ることができました。とはいえ、夜間や朝方には気温が下がります。
その時に防寒対策として行なっていたのがグローブの交換です。指先の冷えを守るだけで体感温度は随分変わってきます。今回のUTMFで用意したグローブは、サロモンのフィンガーレス、薄手のメリノウール、パタゴニアのシェルウィンドグローブの3種類です。日中はフィンガーレスを、夜間走行の際はメリノウールを、山岳部ではシェルウィンドと使い分けてました。今回は天候が良く雨も降らずにいたため、この使い分けは有効でしたが、ゴール後「もし雨が降っていたら完走できなかったかも、特に自分のように完走ギリギリのランナーにはグローブの選択は最も重要ではないか」と感じました。
この観点から今回、ウルトラトレイルレースのための防水グローブは、
- 雨天時の防水性、撥水性
- 日中から夜間まで長時間での単独の使用が可能か
- コンパクトに収納できるか
を基準に比較してみました。さらに
- トレッキングでの使用を前提に作られたモデルであること
- 日本の正規代理店、通販サイト等から購入可能であること
これらの条件を満たし、かつトレイルレースで実際に使えそうな以下のモデルを選択しました。
- アクシーズクイン ライトシェルウォータープルーフグローブ
- finetrack エバーブレス・トレイルグローブ
- mont-bell OutDry オーバーグローブ フィット
- ISUKA ウェザーテックレイングローブ
- Black Diamond ライトウェイトウォータープルーフ
テスト環境
単独での使用を前提としながらも、風の強い場合や厳寒時にはベースレイヤーを組み合わせて使用する場合もあるためエクストリミティーズメリノタッチライナーグローブ(写真)を用意し、レイヤーした場合の快適性もテストしてみました。
割と強い雨の降る(降水量7mm)、それほど気温の高くない(気温19℃)とある5月の日曜日に、鎌倉のトレイルでテストしました。テストは、性能の違いがより体感できるように両手に別々のグローブを装着し、約2kmづつ(30分)走ってみました。ちなみに着ているレインウェアは、ノースフェイスのストライクトレイルフーディとパンツです。
採点・評価にあたっては以下のように雨天時でのトレイルランニングレースでの使用を前提に、防水性・超時間での使用・収納のコンパクトさを重点ポイントとして採点しました。
- 重量・・・少しでも速くためには軽いに越したことはありません。
- 防水性・・・グローブをはめた状態でどれだけ浸水しにくいかで採点しました。
- 透湿性・・・雨天時に長時間快適に走り続けるためには、「蒸れないこと」いわゆる透湿性から採点しました。
- 収納性・・・ウルトラレースにはトレイルに加えロード区間もあり、終始グローブをつけたままというわけではありません。限られた容量のザックにコンパクトに収容できるかと点から採点しました。
- プロテクション・・・コースには鎖やロープをつかむテクニカルな場面もあり、安全につかめるか・滑りにくいかから採点しました。
- デザイン・・・見た目のデザインです。これは、筆者の主観で採点しました。
- 価格・・・なんだかんだと実は消耗品なのがグローブ。結構モデルによって価格差もあるため、あえて評価項目としました。
テスト結果&スペック比較表
各モデルの評価結果
finetrack エバーブレストレイルグローブ
ファイントラックは、グローブでもファイントラック
ココが◎
- 撥水性
- 収納性
- フィット感
- 蒸れにくさ
ココが△
- 保温性
- 完全な防水ではない
ファイントラックのレインウェア素材として評価の高い防水透湿性素材エバープレスを用いたグローブです。
素材は、とても薄くストレッチ性があり装着すると手に密着するフィット感があります。その分、洗面器テストでは防水性にやや不安を感じたのですが、雨の中で走ってみてその不安は一掃されました。まるでワックスがけした車のボンネットのように雨滴が表面をコロコロと転がり、振り払うと一瞬にして水滴が落ちていきます。
手のひら部分には滑り止めがあり、濡れてもグリップ力は高くテクニカルなコースでも安心して使用できます。
また単独での使用に加え、寒冷時での使用も考えベースレイヤーも装着して走ったのですが、どちらの場合も蒸れは感じられず、高い透湿性を実感しました。長時間のランニングでも問題ないと思います。
重量は30gで、素材の薄さもあり不要時にはショーツのポケットに入れて走っても気になりません。もしベースレイヤーとの併用を考える場合は、サイズ的には普段使用しているものからワンサイズアップをおすすめします。
ISUKA ウェザーテックレイングローブ
意外に使えるダークホースな防水グローブ
ココが◎
- 防水性
- 蒸れにくさ
ココが△
- 収納性
- 重量
防水性・防風性・透湿性・結露防止性に優れた3重構造の高性能素材ウェザーテックを使用した、レイングローブ。グローブの中にメッシュのインナーがあり、ベースレイヤーなしで使用。防水性は高く、メッシュのインナーのおかげで走行中、蒸れることはありませんでした。素材の伸縮性はないものの、見た目以上にフィット感があります(Sサイズ)。また、手のひら側には滑り止めもありテクニカルなコースにも対応。厳冬時を除くほとんどのシーズンはこれで対応できると感じました。コストパフォーマンスが高いのも魅力です。ただし重量は88gとやや重くかさ張り、スマホ操作は不可。
アクシーズクイン ライトシェルウォータープルーフグローブ
水を寄せ付けない強力シェルグローブ
ココが◎
- 重量
- 防水性
- 収納性
ココが△
- 蒸れやすさ
- 保温性
- 手のひらのプロテクション
防水透湿性に優れたPERTEX SHEILDを使用したシェル型のグローブ。26gは今回のアイテム中最軽量。ベースレイヤーの上から装着して走行しましたが防水性は高く、洗面器で長時間漬けても浸水は全くありませんでした。軽くてコンパクトに収納できるため常時携帯してても気になりません。さらに装着したままスマホ操作も可能。ただ、外気温が高いと徐々に中が蒸れによる不快感があったのと、手のひら側にすべり止めはないためプロテクションは低いのがやや気になりました。
レイヤーが基本のグローブとなるので、普段使用しているサイズのワンサイズアップがおすすめです。
mont-bell OutDryオーバーグローブフィット
走るよりも歩くためのグローブ
ココが◎
- 防水性
- プロテクション
- 耐久性
ココが△
- 重量
- 操作性
- 収納性
- 蒸れやすさ
防水透湿性を備えたOutDryテクノロジーを採用した防水仕様のグローブ。手のひら部分には滑りにくく、耐摩耗性に優れたデュラグリップ®を使用。重量は85gとやや重め。
防水性は高く浸水は全くありませんでした。ただベースレイヤーを装着して走ったところ、蒸れによる不快感が若干感じられ、着心地という点でも全体的にゴアつき感が否めません。その結果スマホ操作は可能ですが、操作性は高いとはいえません。防水という点では申し分ないものの、トレイルランに使うには、ちょっとオーバースペックという印象です。
Black Diamond ライトウェイトウォータープルーフ
寒冷時専用防水グローブ
ココが◎
- 保温力
ココが△
- 重量
- 収納性
- 蒸れやすさ
防水透湿素材BDRYを採用しウェットコンディションに最適なハードシェル系の3シーズングローブです。
グローブの中には保温性のあるインナーが縫いつけられているため、単独で使用してみました。まず防水性に関して、手首部分は防水性がないため洗面器テストでは微妙な結果となってしまいましたが、フィールドテストでは全く問題ありませんでした。ただインナーもあるためグローブ内の空気の抜けが悪く、走行中すぐに蒸れてしまいます。また重量も88gあり比較したアイテムの中では最も重く、収納もコンパクトにできません。トレイルランなどの高負荷アクティビティで使うならば、気温の低い季節以外では向いていないと思います。サイズは、普段と同じサイズで大丈夫です。
各項目一言レビュー
防水性
洗面器に張った水の中に5分間漬けて指を動かしながら浸水程度を比較するとともに、各アイテム雨天時にフィールドで実際に装着して走って比較しています。その結果アクシーズクインとモンベルは完璧な防水性が確認できました。ただブラックダイヤモンドに関して、本体の防水性は問題なかったのですが、手首部分から浸水してしまい、その部分で若干評価を下げています。
透湿性
長時間のランニングでの使用の場合、「蒸れない事」は非常に重要な要素です。この機能では、finetrack エバーブレストレイルグローブが突出していました。ただ、イスカ ウェザーテックレイングローブはインナーのメッシュ構造が非常によくできておりかなりのドライ感を実現しています。
収納性
限られた容量のザックで挑むトレイルレースでは、コンパクトさは大切です。finetrack エバーブレストレイルグローブが突出しておりショーツのポケットに入れて走っても気にならないコンパクトさです。アクシーズクイン ライトシェルウォータープルーフグローブもコンパクトに収納でき悪天候時のお守りとしてザックに入れておくのもおすすめです。
プロテクション
アクシーズクイン ライトシェルウォータープルーフグローブ以外は滑り止め機能がありましたが、finetrack エバーブレストレイルグローブが指先・手のひらに滑り止めがあり、しっかりと鎖やロープをつかめます。
デザイン
見た目は、やはり重要です。持っているだけでモチベーションが上がります。その点、あくまでも筆者の主観ですが、アクシーズクイン ライトシェルウォータープルーフグローブとfinetrack エバーブレストレイルグローブは積極的に持っていきたくなるビジュアルだと思います。
価格
イスカ ウェザーテックレイングローブは、比較したアイテムの中でも最も安価で、また防水性・透湿性ともに高評価で、コストパフォーマンス的に最も高いです。
まとめ
(1)ベストチョイス:finetrack エバーブレストレイルグローブ
筆者の走力だと70~80kmで15時間前後、100kmオーバーだと20時間近くかかります。
特に山岳レースの場合は、いつ天候が変化するかわかりません。その時に、グローブに求める性能としては、防水性はもちろん長時間装着しても気にならない事、いつでも収納できかさ張らないことが何よりも重要です。
その観点からのベストチョイスはfinetrack エバーブレストレイルグローブです。
防水性のテストでは浸水があり残念な結果になりましたが、フィールドテストでは高い撥水性が確認でき、長時間の強い雨でなければ、ほとんどのレースで日中から夜間パート・雨天時もこれで一つで対応できると思います。春先や冬場のレースで寒さが心配な場合は、薄手のインナーを持って入れば完璧です。
(2)次点:イスカ ウェザーテックレイングローブ
惜しくも次点となったイスカのウェザーテックレイングローブですが、正直最初はあまり期待してなかったモデルです。
ところが実際装着して走ってみると、防水性も高く蒸れにくい、何より価格もリーズナブル。これでデザイン(見た目)と収納性がよければベストチョイスに迫るほどの高パフォーマンスでした。ぜひ選択の候補に加えていいモデルです。
花園聡一郎
長崎県生まれ。40歳でサーフィンに目覚め鎌倉へ移住。波がない時に走り始めて47歳でフル初完走。その後、トレイルランに目覚め信越五岳・ハセツネ・美ヶ原等を制限時間ギリギリでゴールし、55歳でUTMFを何とか完走。時間を目一杯使うからこそわかるギアの性能を伝えていきたい。
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