より軽く、より安全に、よりスマートに。テント泊登山に持っていく調理道具リストと、選び方【基本編】
もしあなたが極限まで食料を切り詰めたストイックなハイカーでも、すべてを現地調達で済ますようなサバイバリストでもない限り、テント泊登山には食事を調理し、食べるための道具を持っていかなければなりません。
ただ、実際に山で煮炊きをしたことがない人にとっては、どのような調理器具を用意するのがよいのか、想像がつかないことがほとんどでしょう。そこには「季節や場所」「人数」「用途・山行スタイル」「国内か、海外か?」など、多くの要因によって最適なチョイスが変わります。しかも便利な新しい道具が日々生み出される昨今、永遠に「正解」にたどり着くことはないのかもしれません。
とはいえ、過不足なく最適な道具がハマった山行では、まるで自宅のキッチンが小さなバックパックの中に丸々収まったかのような魔法を体験することでしょう。
そこで今回は、泊まりのハイキングや登山で必要な調理・食事道具のリストと、選び方の基本的なポイントをまとめました。1日歩き通しでカロリーを燃焼し尽くした身体をとっておきの食事で満たすために必要なもののすべてが、この記事をきっかけに選べるようになれば幸いです。
目次
加熱・調理用器具(ストーブ・バーナー)と燃料
どんな燃料・タイプのストーブを選ぶか?
自然の中で煮炊きするために必要な加熱・調理用器具(バーナー・ストーブ)は、「ガス」や「ガソリン」といった燃料の種類をはじめ、さまざまなタイプが存在しています。
それぞれには特徴の違いにより一長一短があるため、どれが常にベストであるというわけではなく、用途や目的によってそれぞれの長所を活かしながら選択することが大切です。
はじめての人には迷わずおすすめの「直結型ガスストーブ」
この中でも、はじめて登山用に手に入れるとしたら、価格や種類の多さからずばり「直結型ガスストーブ」がおすすめ。火力はもちろん、サイズもコンパクトで軽いものからサイズの大きいモデルまでバラエティに富んだ選択肢のなかから選ぶことができます。またどのモデルを選んだとしても汎用性が非常に高いため失敗も少なく、それゆえに人気も高いスタンダードなタイプといえます。
ガスストーブ燃料は1年中使用することを考えれば「ODタイプ」が安心。暖かい時期の低山なら手軽な「CB缶」タイプも
ガス缶には、「CB缶」と「OD缶」の2つがあります。CB缶は、「Cassettegas Bombe(カセットガスボンベ)」の略で、細長い筒状のガス缶のこと。冬のお鍋など食卓でもよく見かけるものと同じ種類です。コストパフォーマンスが高く手軽なのが魅力で、暖かい時期の低山ハイキングなどであれば十分活躍してくれます。ただ1年を通じて登山全般で使用したいという場合には、丈夫で寒くても火力が安定しやすいOD缶「Outdoor(アウトドア)の略」がおすすめです。CB缶とOD缶、どちらを使用するかはバーナーの種類によって異なりますので、購入の際には注意しましょう。
利用シーンが決まっていればより便利な「高熱効率型」やその他の燃料タイプも
一方、ある程度用途や目的が決まっているのであれば、ガスの「高熱効率型」や「分離型」タイプ、そして「ガソリン」や「アルコール・固形燃料」などガス以外のストーブも選択肢としてありです。もしあなたが重さやコンパクトさは二の次、とにかくストレスの少ない調理が一番というならば、分離型は最適な選択肢となるでしょう。
参考までに、以下に上で話した長所と短所をまとめた表を作りました。表はあくまでも一般的な特徴ですので、実際にはモデルによって多少のバラつきがあることはご理解ください。
燃料の違いによる一般的な特徴(ガスはすべてOD缶を想定)
タイプ | 直結型ガスストーブ | 高熱効率型ガスストーブ | 分離型ガスストーブ | 液体燃料(ガソリン) | アルコール・固形燃料 |
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イメージ | |||||
強み |
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弱み |
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適したシーン・アクティビティ | |||||
寒冷地/高地 | ◯ | ◯ | ◯ | ◎ | |
ソロハイク | ◯ | ◎ | ◎ | ||
大人数パーティ | ◯ | ◎ | ◎ | ||
湯沸かしメイン | ◯ | ◎ | ◎ | ||
調理メイン | ◯ | ◯(一部) | ◎ | ◎ | |
超軽量ハイキング | ◯ | ◯ | ◎ | ||
国外利用 | ◎ | ||||
初心者でも使いやすい | ◎ | ◯ | ◎ |
動画で確認!ガスストーブの正しい取り扱い方
ガスストーブは誤った使い方をすると命の危険に関わってくる器具でもあるため、必ず自己流ではなく正しい取扱い方法を知っておく必要があります。炎が出るだけの一見シンプルな道具ですが、油断は禁物。意外な注意点があるのを見逃しているかもしれません。
以下に、これを見ればアウトドア用ガスストーブを使用するときの注意点がよく分かるという動画も作成してみましたのではじめての人はもちろん、そうでない人もあらためて確認してみてはいかがでしょう。
1. ガスストーブとガスカートリッジの連結
安定した場所を決め、接続部にゴミなどが付着していないかどうか確認してから、ヘッドのゴトクを広げてガスカートリッジと連結させます。このとき火力調節ツマミが閉まっていることも忘れずに確かめておきましょう。
注意:作業は縦向きにして行います。横向きにしながら連結すると、バルブから液体のガスが漏れて大事故に繋がる可能性もあります。最後までしっかりとバルブに回しいれましょう。
2. ガスの噴射・点火(着火)
火力調節レバーをゆっくりと回します。ガスの出る音を確認したら、点火装置のスイッチを入れて点火します。
注意:回し過ぎに注意。いきなり全開にしないこと。
【補足】点火装置が無い場合
点火装置が元々付いていないモデルの場合はライター・マッチなどを使います。
いつでも点火装置がしっかり働くとは限りませんので、ライター・マッチは必ず持参するようにしましょう。
その時ライターは必ずやすり式で点火する「フリント式」を選びましょう。
4. ストーブの取り外し
基本的にストーブは使い終わったらガスカートリッジから取り外します。
数時間ならまだしも、帰宅後も付けっぱなしなんてことがあると、連結部分にあるOリングの劣化を早める原因となってしまうため気をつけましょう。
またガスカートリッジの接続バルブ部分が傷つかないよう、早めに蓋をしておくのも忘れずに。
ガスストーブを取り扱う上でこれだけは覚えておきたい3つのこと
1. 知らなかったではすまされない!「一酸化炭素中毒」には要注意
ストーブやランタンなどのガス器具を使用する際に最も気をつけなくてはならないことの1つは、一酸化炭素中毒による事故。アウトドアに限らず日本中で毎年のように事故が起こっています。ガス器具を使用するのであれば、何よりもまずこの危険について知っておきましょう。
換気が悪い場所でガス器具を使用すると燃焼に必要な酸素が不足するため不完全燃焼を起こし、一酸化炭素が発生します。それを吸い込むと血液による酸素の運搬が阻害され、全身の細胞や組織が酸素不足に陥ってさまざまな症状を引き起こし、最悪の場合は死に至ります。これが一酸化炭素中毒です。
何が恐ろしいって、自分が今一酸化炭素中毒にあるかどうかの明確なサインがほとんどないということ。一酸化炭素は「無色無臭」のため発生しているかどうか判断しづらく、さらに一酸化炭素中毒の自覚症状というのが初期の場合で「頭痛、吐き気、めまい、集中力の低下、嘔吐、眠気」など、一般に風邪(インフルエンザ)の症状によく似ているため気づきにくい。中等度または重度にまで進行すると自力で動くこともできなくなるためもはや手遅れ。一酸化炭素中毒が「いつの間にか死に至る病気」と言われる所以です。
このように厄介で恐ろしい一酸化炭素中毒にかからないようにするためには「一酸化炭素が発生するような状況をつくらない」ことに尽きます。外が寒いからといってテントやクルマ、その他密閉された屋内でガス器具を使わないということを徹底しましょう。万が一上にあるような症状が「おかしいな」と思う状況になったら、すぐに新鮮な空気のある場所に移動することを心掛けてください。
2. 山に持っていく前に、きちんと使えるか、Oリングのチェックも忘れずに
「Oリング」は、ガス器具とガスカートリッジを接続させる部分についているゴム製リングのこと。このOリングはゴムでできているため、たとえ使わなくても時間と共に劣化していく消耗品です。
そこで大切なのが、劣化のチェック。一部が切れていたり、ささくれていたり、ひび割れていたりしませんか? 縮んだり、硬くなっていたりしても、それは劣化の合図。ガス漏れによる事故(火傷、火災、破裂など)を防ぐため、山に行く前に必ず”目視”で、異常がないことを確認してからパッキングするようにしましょう。
ちなみに、10年以上前から交換しないでいたOリングと新品のOリングを比較したのがコチラ【Oリング写真】です。やや縮んでおり、くっきりと凹んだ痕がついてしまっています。表面もボソボソで、弾力もなくなっています。一方新品のOリング(写真右側)は表面もツルツルで弾力性もあり、違いは一目瞭然です。
ガスカートリッジを取り付けた状態で異音や異臭がした場合は絶対に使用せず、異常がある場合は販売店やメーカーに相談しましょう。またメーカー指定の純正Oリング以外は絶対に使用してはいけません。Oリングを交換していても、物には寿命があり見えない劣化があるかもしれません。ストーブも10年を目安に買い替えをおすすめします。
3. 購入する前に!そのバーナーに「PSLPGマーク」はついてる?
「PSLPGマーク」とは、厳しい検査を合格し国が定めたガスこんろの基準に適合しているマークのこと。いわばこのマークのついた製品は、「法律で定められた検査に合格していますよ」という証です。しかし近年、この「PSLPGマーク」を取得していない輸入品がインターネット上を中心に数多く出回っています。
むろん、このマークがついていても、各々が正しくガスこんろを使わなければ100%安全とはいえませんが、ついていない製品は法律で定められた検査に合格していない製品です。安全な登山のためには、必ず「PSLPGマーク」があることを確認してから購入するようにしましょう(マークがあるかどうか分からない時はお店の人に聞いてみましょう)。
クッカーを選ぼう
さすがに家で使っている鍋やお皿を持っていこうとする人はいないと思いますが、環境的に制約の厳しい登山では、効率と快適さのために、できる限り必要最低限で最大の快適さを実現できるように最大限の知恵を絞って選ぶ必要があります。ご多分に漏れずこの山で使う調理器具(クッカー)も、今では目的や用途に合わせて素材や形状、サイズ、デザインなどバラエティに富んだ数多くのモデルのなかから選ぶことができます。ここではその選び方のポイントを説明していきます。
どんな形のクッカーを選ぶ?
クッカーの形状は、大まかに縦長の「深型」、いつもの鍋に似た「浅型」の2つに分けられます。それぞれにはメリット・デメリットがあり、目的や好みに合わせて選ぶのがいいでしょう。
深型
深型は中にガスカートリッジを収納したり、ザックの中でデッドスペースができにくいなどの理由からパッキングがしやすく、収納性と携帯性に優れています。
一方でサイズが一般に小さめ、調理しずらい、食べにくいといった傾向があるため、できる限り荷物を少なくしたい、調理はお湯を沸かす程度と割り切れるソロハイクなどのシーンに適しているといえます。
浅型
一般的なお鍋に近い形状で、登山でも昔からおなじみの形。パッキングしやすさは深型に比べればやや劣るものの、調理しやすさ、食べやすさ、洗いやすさなど、実際の使いやすさを重視するハイカーやビギナーにおすすめといえます。
多くのメーカーからバラエティに富んだ選択肢の中から選ぶことができます。
角型
上の2つと違って種類は多くないものの、ちょっと変わり種として挙げられるのが四角い形をした「角型」クッカー。基本的には浅型と同じ特徴ですが、円筒形に比べて火が全体に回りにくいという点がありながら、パッキングのしやすさ、インスタント麺が中に収納できるなど浅型の欠点を補っているのが特徴です。
ソロハイクで調理内容も限定したメニューの場合にはおすすめです。
アルミかチタンか、素材を選ぼう
登山ではなるべく荷物を削減するため、調理用の鍋と食事用のお椀を兼用することが多く、クッカーの材質は火にかけられる「アルミ」か「チタン」といった金属製の選択肢が一般的です。
初心者のうちはチタンの方が軽いし、高価だし、何となく良いものと思ってしまいがちですが、実際には素材によって一長一短があり、一概にチタンが優れているとも言い切れないのが現実です。そうした特徴の違いについて、下にメリット・デメリットをまとめました。
素材 | アルミ | チタン |
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イメージ | ||
メリット |
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デメリット |
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アルミは軽さこそチタンに劣りますが、調理のしやすさや価格など、初心者にとっては扱いやすい素材といえます。山での調理に不慣れで、湯沸かし以外に調理も楽しみたいならアルミ製のクッカーを持っておくと、何かとつぶしがきくでしょう。
逆に調理はほとんど湯沸かしのみと割り切り、少人数、ファスト&ライトなハイキングなどとにかく軽量さを優先したいという場合にはチタン製クッカーがおすすめです。
サイズと個数はどれくらいがいい?
クッカーにはマグカップ程度のサイズから、大人数でカレー食べるための鍋まで、幅広いサイズが存在していますので、実際に自分が調理するモノと食べる人数を照らし合わせてサイズを検討するというのがまずは大事。
1人の湯沸かし程度しか使わない場合
サイズは1リットル未満でも十分です。ただしその場合、本格的な調理は諦めなければならないので、調理を前提にする場合には最低でも 1リットル 以上の大きさをは持っていくことをおすすめします。
複数人で調理まで考える場合
2人なら約1リットル程度のサイズがおすすめ。さらに2つ以上のクッカーセットであれば、調理の際に米と主菜を並行して作れるので効率的。3人以上の場合であれば、人数と食事計画に合わせて1.5リットル以上の鍋を含めたクッカーセットが必須と考えましょう。
その他考慮するとよいこと
収納性
中身が空洞で圧縮もできないクッカーは、サイズ違いの容器をマトリョーシカのように重ねて収納(スタッキング)できるようになってると、コンパクトに収納できて便利。たとえ今は一人分の小さなクッカーひとつで十分だったとしても、2人・3人とパーティが増えたときに無駄なく買い足していけると非常にスマートです。
なお、スタッキングできなかったとしても、クッカーの形や大きさ次第では、ガスカートリッジや食器、マグカップ、ストーブ、ライター、食材など、調理関係のアイテムを収納することもできるので、なるべく無駄な空間ができないようにするのがパッキングのコツです。
取っ手(ハンドル)
軽さと耐久性や収納性を重視するアウトドアでは、鍋の取っ手は必要最低限にとどめてあるのが一般的です。
とはいえ、なるべくならば使いやすいに越したことはないので、握りやすさ(簡単にズレたり曲がったりしない)、熱伝導(熱くなりにくさ)、畳みやすさなどをチェックしておくといいでしょう。
蓋(リッド)
蓋があれば調理時間はより少なくて済み、時間も燃料も節約できます。登山用のクッカーセットの中には、蓋が小鍋(あるいはプレート)としても機能する便利なモデルも。
一方で、一部のクックセットには軽量化のためか蓋が付いていないモデルもあるので、注意しましょう。
なお、蓋に穴が空いているタイプは、コトコト長時間弱火で蒸らす飯炊きなどが非常に困難ということも留意しておきましょう。
あると便利なキッチン道具たち
カトラリー
基本的にはスプーン、フォークの一対があると事足りますが、どうしても箸がいいという人はそれを加えてもいいでしょう。
ほんの1グラムでも重量を節約しようとする多くのバックパッカーに定番なのが通称「スポーク」と呼ばれるスプーンとフォークが合体したタイプ(写真右から2番目)。さらに一部のスポークは、外側の歯の端に小さなナイフさえ備えていたりするので、カトラリーの世界も奥が深いといえます。
キッチンペーパー
食事した後の鍋の掃除は、山ではその場所に排水するわけにはいきません。そんなときに水がなくても汚れを拭き取れるように、キッチンペーパーやペーパータオルなどを必要な分だけ持っていくと便利です。
なおトイレットペーパーでは千切れやすくて代用はできないので、ある程度丈夫で拭きやすいタイプが使いやすいと思います。
調理器具(お玉・しゃもじ・トングなど)
ソロハイクならば不要ですが、ある程度の量をしっかり調理するのであれば、スプーンとフォークだけでは限界があります。
その際は登山用に折り畳めるお玉などが売っていますので、それらがあると便利です。
まな板(にも使える平らな板状のもの)
下敷き程度でも構わないので、何か平らな板状のものがあると、それはまな板の代わりになります。
さらに整地しきれない凸凹な場所でストーブなどの下に敷けば、より安定してくれます。
マルチツール(十徳ナイフ)
オートキャンプであればたくさんの道具を持っていけますが、山に持っていくならばすべてが一通り揃ったマルチツールが便利。
ナイフと栓抜き程度はどんなモデルでも基本的に備わっていると思いますが、それ以外の缶切り・コルク抜き・ハサミ・ドライバー・プライヤーといった機能については、すべてついているモデルでは重すぎるため、自分の好みに合わせてあまり大きすぎないモデルを選ぶのがよいでしょう。
余裕をもった装備計画で、楽しいアウトドアを!
山で作って食べるご飯は、たとえシンプルな料理であったとしても、なぜだか美味しさは下界で食べるご飯と違って、格別なものです。多少大雑把な道具しか揃えられなかったとしてもあまり神経質にならず、調理は大雑把でも構わず、広い心でいきましょう。最適モデルを考えるとき、厳密に自分の利用シーンを限定できなかったとしたら、なるべく汎用性の高いモデルを選んでおけば、大抵のシーンで工夫しながら活躍してくれるので、結果的に長く使い続けられます。最初のチョイスに困ったら、そんな選び方を参考にしてみてください。
それよりも大事なのは、道具の扱い方や注意点をしっかりと理解して、安全に使用することです。アウトドアで使うガスストーブは正しい使い方さえ学んでおけば魔法のようにアウトドアライフを豊かにしてくれますが、ちょっとした油断で思わぬ事故になってしまうと、せっかくの旅が台無しになってしまうどころか、命の危険まで発展してしまいます。
楽しく安全なアウトドアのためにも、食材、ガスストーブとクッカー以外にも、ちょっと面倒でもガスストーブの正しい使い方と知識も一緒に持って楽しく出かけましょう。