【コスパ優秀】BlackDiamond ストームラインストレッチアノラック レビュー:レインウェアに、ウィンドシェルにと幅広く使えて価格も手ごろな、動きやすいプルオーバー型レインウェア
登山における必携装備のレインウェア(いわゆる雨具)は元々安い買いものではなかったとはいえ、今ではジャケットだけで3万円以上も当たり前になりつつあります。
そうした中でずっと昔から品質と価格のバランスを高い次元で維持しようと頑張っている数少ない製品のひとつが、今回取り上げる一着、クライミングから幅広いアクティビティへと拡大を続ける北米発の名門ブランドBlackDiamond の定番シリーズ「ストームラインストレッチアノラック(以下ストームライン)」です。こちらはプルオーバータイプですが、ジャケットタイプの「ストームラインストレッチレインシェル」もあり、そちらがむしろメインのモデルだと思いますが、今回はあえて自分の好みであるアノラックタイプをチョイスしました。
5月の春先から6月の梅雨入り時期までさまざまなシーンで着てみましたので、早速レビューしてみたいと思います。
目次
BlackDiamond ストームラインストレッチアノラックの主な特徴
BlackDiamond ストームラインストレッチアノラックは、アウトドアに必要な防水透湿性を備え、手頃な価格のプルオーバー型レインジャケット。2.5レイヤーの薄手軽量生地は雨風を防ぎ蒸れを逃しつつ、同時に2方向にストレッチすることでソフトシェルのように動きやすく、生地の擦れる音も少なく快適な着心地を提供します。フロントのつばが付いたヘルメット対応の調節可能なフード、長めのフロントジップ、大きなジッパー付きカンガルーポケット、ベルクロ式の袖口、内ポケットに収納可能なパッカブル仕様など、ハイカーや登山者が求めるほとんどの機能を備えています。少々手荒に扱っても問題ないほどの適度な耐久性を備え、ハイキングやバックパッキングからランニングやサイクリング、スキーまで、さまざまなスポーツに一年中使用できます。
お気に入りポイント
- 精巧な立体裁断と適度なストレッチによってきれいなシルエットと動きやすさを両立
- 軽量でコンパクト
- 生地はしなやかで音がうるさくない
- フィット感が高く防水性も高いフードの作り
- 全体的な質の高さからは考えらにくい手ごろな価格
- パッカブル仕様
気になるポイント
- 激しい運動中には蒸れから逃れられない(ピットジップはあれば良かった)
- 多くの2.5層生地にありがちな、肌に張り付きやすいビニールっぽい裏地の肌触り
- ポケットは腹部のカンガルーポケットのみのため、ザックのウェストベルトを締めているときにはあまり役に立たない
主なスペックと評価
項目 | BlackDiamond ストームラインストレッチアノラック |
---|---|
重量 | 260g(Mサイズ、実測値) |
カラー | ブラック・ダークカリー・ドリフターブルー |
サイズ | 平置きサイズ(実測値/cm)
※計測値は個体差、計測誤差、仕様変更により異なる場合があります。 |
レディースモデル | ◯ |
防水透湿機能 | BD.dry2.5レイヤー(耐水圧10,000mm、透湿性10,000g/m2/24h) |
表地 | 100%ナイロン(2ウェイストレッチウーブン、DWR撥水加工、110g/m2) |
裏地 | プリント加工 |
ポケット |
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その他機能 |
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参考価格 (2024/06/18現在) | ¥21,560 (税込) |
Outdoor Gearzine 評価 | |
対候性(防水・防風性) | ★★★☆☆ |
透湿性・ムレにくさ | ★★★☆☆ |
快適性・動きやすさ | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
コストパフォーマンス | ★★★★★ |
春の低山トレイルで着用した詳細レビュー
快適性・動きやすさ:雨具というより「全天候型パーカー」というのがふさわしい、天気を選ばず着たくなる着心地の良さ
通常レインジャケットは伸縮性がなく、関節の動きを想定した立体裁断などにすることで動きやすさを実現しているものの、一般的に着心地がよいものとは考えられていませんでした。このジャケットではその常識を覆し、表地に2方向の伸縮を可能にしたストレッチウーブンの100%ナイロンを使用しています。ここでポリウレタンなどの伸縮糸を使用していないことは経年劣化を避けるという意味でも重量で、幅広い動きやすさと快適な着心地を可能にしながら、耐久性も確保されています。
重量はSサイズの実測値で230gと平均よりもかなり軽量の部類に入り、着た時のずしりとした重さはほとんど感じられません。また上記のストレッチ性に加えて肩や肘に施された立体裁断によって、腕の曲げ伸ばしや肩の回転によって服が突っ張ることもなく、自然で動きやすい着心地です。
動きやすいレインジャケットの何が良いって、雨が降ったときに「やむを得ず」着るという守りの着方ではなく、「雨は降っていないけどちょっと肌寒さを感じたときや風で体温が奪われるのを防ぎたいときに羽織る」というような、ソフトシェル的な着方ができること。実際このジャケットの利用シーンは、万が一のためにザックの奥底にしまっておくだけでなく、早朝の動き始めや、風の吹き抜ける稜線上を歩くとき、ちょっとした休憩の間など、レインウェアにしては雨に限らず多様なシーンに対応します。さらにそうした雨以外での「攻め」の着用を考えたときに、ザックのウェストベルトにジッパーが干渉せず、より快適に着られるのがプルオーバータイプの良いところです。
サイズ感はスリムなシルエットながら着た感じは中に中間着を着ても窮屈感のない、ややゆったり目のシルエット。袖は(BDのアパレルではおなじみですが)相変わらずやや長め。176cm、62kg、痩せ体型の自分がSサイズを着用してちょうどよいフィット感でした。
裏地には防水透湿メンブレンを保護するためのプリントが施されています。このプリントは微妙に凹凸があるコーティングで、汗をかいていない段階ではサラッとした快適な肌触りが感じられていましたが、いったん汗をかいたりして濡れてしまうとやはり従来の2.5層同様、ペタッとした肌触りがやや快適さを損ねてしまいます。このため長袖のベースレイヤーなどの上に着るのが最適で、残念ながら半袖Tシャツとの相性はあまり良くありません。
なお、裏地の首の裏側部分にはマイクロフリースの裏地が当てられており、汚れの溜まりやすい首裏の油分や汗は程よく吸収することで快適性と耐久性を高めてくれています(下写真)。またここに配置された、小さいながらしっかりと縫い付けられたハンギング ループもお気に入りです。
耐候性と透湿性:プロテクションと透湿性は及第点(価格帯的には優秀)
ストームラインに採用された生地は「2.5層 BD.dry」です。これは防水透湿メンブレンを、表側で薄手ながら耐久性の高いナイロン生地(1層)、裏地にはプリントされた多孔質のコーティング(0.5層)によって挟みこんだ構成で、内側に生地が当てられた3層構造よりも耐久性や通気性に劣る一方で、軽さやコンパクトさでは有利に働きます。
このジャケットの公表された耐水圧や透湿性のスコア自体はやや平凡ですが、(独自に調べた限りでの)生地構造や実際に使用してみた限りでは、パタゴニアなどの他メーカーの(同様の構造と推測される)独自素材とほとんど変わらない印象です。その意味ではよほどの豪雨でない限り浸水を気にする必要がないほどしっかりとしたプロテクションがあり、防風性・防水性に関しては心配ないといってよいでしょう。
当然ながら縫い目はすべてテープで留められているため、雨が降っても水が縫い目などから侵入することはありません。フロントジッパーも止水仕様で(余分なフラップなどが不要で軽量化を実現しながら)効果的に防水します。
また防水透湿性を確実に機能させるための耐久撥水(DWR)加工も、軽量レインウェアとしては驚くほどうまく機能し、かなりの長時間シャワーを当てても表面は水を弾き続けました。
一方で日中で激しい運動をした時などには蒸れを逃しきれず、衣服の中が結露していくのを感じてきてしまいます。このとき、ジャケットタイプの方は脇下にピットジップ(ベンチレーション)によってかなり換気が助けられ、生地の透湿性の低さをカバーすることができるのですが、このプルオーバータイプの方はフロントの長めのハーフジップだけが換気として機能します。ある程度長めに作られているので、雨が降っていない時にはここを全開にして十分な換気が得られるのですが、雨が降っているときに湿気を逃す選択肢がないのはやや残念。重量に影響するとはいえ、プルオーバータイプにもピットジップがあれば良かったように思われます。
機能性:フード、ポケット、パッカブルと文句なし
形がよく、簡単にジャストフィットする調節可能なフード
ストームラインは、プルコード1つでクライミングヘルメットから頭のサイズまで幅広くアジャストできる調節可能なフードが便利です。伸縮性のある生地と後頭部のコードロックによって簡単にジャストなフィット感が得られ、首を動かしたときも、ストレッチ生地によるちょっとした「伸び」が雨の際でも快適な着用感をもたらします。さらに、あごを覆う高めの衿と、前方からの雨を防ぐのに十分な長さをもったつばもよくできています。
プルオーバータイプならではの収納力抜群のカンガルーポケット
ストームラインの二つのタイプのうち、今回のプルオーバータイプには大型のカンガルーポケットがひとつ配置されており、左右のジッパーから出し入れすることができます。この大きなスペースには大きなスマホはもちろん、大きめの地図やペットボトル、グローブ、行動食など考えられるものは大抵収納することができ、この収納性の高さもプルオーバータイプの利点と言っていいでしょう。ただ現実的にはハーネスやザックのウェストベルトを締めている際には多少干渉してしまうため、行動中にはそこまで積極的に使用するものではありませんが。
ちなみに、フルジップジャケットタイプの方では十分なスペースの左右ジッパー付きハンドポケットを備えています。
さらにこのポケットの中にはストレッチメッシュのインナーポケットが備わっており、全体を裏返してこのメッシュポケットの中に丸めていくと雨具を収納することができるパッカブル仕様となっているため、収納袋を無くしてしまう心配もなく収納も便利。しかもカラビナなどを通すループが付いているため、この状態でハーネス等にぶら下げておくことも可能と、実用性を考えた細かな配慮が何かと嬉しい。
ベルクロ留めの袖口、裾ドローコード
袖口は手袋の上からでも容易に脱ぎ着が可能な広めのデザインに、ベルクロによる調節できる仕様。春先から初冬まで幅広く対応します。
裾の右側には操作しやすい形のドローコードが配置され、ここを絞れば雨や冷気の侵入を防ぐことができます。
まとめ:レインウェアだけでなく、ソフトシェル的に多様なシーンで羽織れる高コスパ万能ジャケット
※2024年3月から8月末まで、期間限定で今期製品の価格を欧米の市場価格よりも20%低いお買い得価格で販売中
今回試してみて、個人的にストームラインの魅力を一言でいうと「値段以上の価値がある万能レインジャケット」。ベーシック+αな機能を備えたレインジャケットでありながら、さらに軽さと快適さ(動きやすさ)、デザイン性といったプレミアムな特徴に加え、競合製品に比べて競争力のある価格と、総合的に高いバランスがハイカーにとって魅力的な一着といえるのではないでしょうか。
真夏に大量の汗をかくようなアクティビティではなく、通常のハイキングや登山、バックパッキング、寒い季節でのランニングやスキーなど、1年を通じて中程度の活動量のアクティビティで快適に着られる手ごろな一着を探している方にはピッタリ。自分のように行動着としての動きやすさを最優先するならばアノラックタイプを、アウターとしての使い勝手や換気性の高さを重視するならばフルジップジャケットタイプを選ぶのが良いでしょう。
なんにせよ、この価格帯で、スタイルの良さも含めた総合的なクオリティの高さは正直言って現在なかなか見つかるものではありません(実はこのモデル、円安が始まる前にはもっと信じられない破格の値段でした)。世の中あらゆる場所で「コスパ」が叫ばれて久しいですが、本来の意味での「コストパフォーマンス」とはただ値段が安いことではないはず。アウトドアを安心して楽しめるしっかりとした信頼性を実現したうえで、価格以上の価値を提供するこのレインジャケットはこれからももっと評価されていいはずです。