Review:NEMO ANDI 1P 軽さ・居住性・設営スピードを兼ね備えたシングルウォールテント
テントが欲しい――。そうなったときに誰もがまず感じるのが、一口にテントといってもさまざまな種類が存在しているということ。一般的には本体とフライシートの組み合わせであるダブルウォール式がメジャーですが、決してそれが万能というわけではありません。季節や目的によっては別の構造や方式の方がより適している場合もあり、テントもバックパック等と同様、長く登山をやっているとどんどん用途別にいろいろな種類が欲しくなってしまう、そんな悩ましい代物であったりします。そのあたりの細かな種類の違いやそれぞれの特徴について興味のある方は以前の記事を参考にしてみてください。
山岳用テントには、シンプルに本体の1層だけで成立するシングルウォール構造と呼ばれる種類があります。パーツが少なくてすむため軽くてコンパクト、そしてスピーディな設営が可能なのが主なメリットである一方、前室(入り口に設けられた玄関・雨避けスペース)がないものが多く、通気の面や内側が結露しやすいなどという点でのデメリットもよくいわれます。
今回レビューするNEMO ANDI 1Pは、そんなシングルウォールのメリットを活かしつつ、デメリットをかなりの程度克服した、用途によっては素晴らしく使いやすい、ドーム型自立式のシングルウォールテント。今シーズンは待望の1人用ニューモデルが登場したということで、早速レポートしてみたいと思います。
大まかな特徴
早い設営・撤収と軽量性をとことん追求したドーム型自立式シングルウォールテント。本体部分の素材は20デニールの独自の防水透湿素材を使用し、ポールは吊り下げ式で悪条件下でも素早くかつ確実な設営が可能。おまけに前室まで一体化することで、ダブルウォールに迫る居住性の高さを兼ね備えています。
おすすめポイント
- テント本体に一体化した前室フライによる居住性の高さ。
- ほぼ1kgという軽さと非常にコンパクトな本体収納サイズ。収納袋の作りも素晴らしく、撤収が非常にスムーズ。
- シングルウォールと吊り下げ式によるスピーディな設営。
- 入り口の幅広いメッシュパネルによる高い通気性。
- 見た目以上に1つ1つのパーツの固定力が高い。
気になったポイント
- 軽くて薄い素材ゆえに扱いには多少の繊細さが必要。
- (一般論ですが)強風時には特に正しい手順で設営をおこなわないと設営のしやすさというメリットが得られないので注意。
スペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
就寝人数 | 1人 |
最小重量 | 1.02㎏ |
本体素材 | 20D OSMO™ W/B(防水透湿性素材) |
前室部素材 | 15D PU ナイロン |
フロア素材 | 20D PU ナイロン |
フロア面積 | 1.85㎡ |
前室面積 | 0.74㎡ |
高さ・横幅・縦幅 | 102㎝・89㎝・218㎝ |
付属・オプション |
|
快適・居住性 | ★★★☆☆ |
設営・撤収の容易さ | ★★★★★ |
耐候性 | ★★★☆☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
重量 | ★★★★☆ |
携帯性 | ★★★★★ |
総合点 | ★★★★☆ |
※★での採点は比較テストを行うまでのインプレッション評価ですので、あくまでも参考までに。
詳細レビュー
収納サイズについて
一式はこんな感じです。まずはテント本体のこの小ささに驚きます。
テント本体の収納袋の作りも変わっていますがこれが非常に便利。口が広く出し入れしやすいです。
袋にはありがたいことに説明書がついてます。またそれ以外に、星座の見取り図といった洒落たものまで付いています。
設営・本体について
ポールはドーム型の基本である2本入り。中心部分に何やらパーツがあります。
最初にポールを立ち上げてフックを止めていく吊り下げ式構造で自立していきます。
設営にはポールを一旦全部伸ばしてから、四隅にあるリングに固定します。筒に入れるポールスリーブ式のように少しづつポールを伸ばしながら設営するわけにはいかないため、混んでいるテン場での設営時にはより周囲への配慮が必要です。要になるポールのエンドとテント本体をつなげるリング部分の固定力はシンプルな見た目以上にしっかりしてます。
最初に何だろうと思ったパーツは天井交差部分のポール同士を連結させるために使うようでした、なるほど。このパーツは交差するとロックされ、平行にすると外れる仕組みになっています。
ペグは出入り口と4点の張り綱用で6本丁度入ってました。Y字の形をしています。地面への固定も安心です。
張り綱と入口にペグを打ち込んで完成です。
見た通り前室が本体と一体になっています。これは素晴らしい構造です。前室は出入りのために本体脇に折り畳むこともできます。これは長所でもありますが前室が広いので狭い所など、場所によっては前室の利用は気を付ける必要がありそうですね。場所が狭ければ前室を折りたたんだまま使う、という方法もできそうですが勿体無い使い方になってしまいそうです。
入口は長辺側に1カ所。広いので出入りが楽ですね。入り口下半分には大きな半円形のメッシュが配置され、必要に応じて開け閉めができるため、通気性もかなり向上させることができます。
ちなみにメッシュの切り替えは内側からのみできるようになっています。
入口の反対側の壁には短い棒がぶら下がっています。何かな?と思いましたが、反対側の通気口を開いておくためのパーツ(突っ張り棒)でした。
シンプルかつ無駄のない良い仕組みで、なるほどね~なんて唸ってしまいました。
パネルの立ち上がりも良いですね。
収納袋の素晴らしさは撤収の時に感じました。本来テントは折り畳み専用の袋に入れる必要があります。もっと快適にコンパクトに収納したければ自分でコンプレッションバックを購入する必要がありますが、こちらは備え付けの袋で簡単に収納、圧縮できます。
あえて畳まずに適当に袋に詰めてもきれいに全部収まり圧縮までできました。素晴らしい。このあたりはぜひ体験して頂きたいところです。
実際に使ってみたインプレッション
シングルウォールを使うとなるとこれまで前室がないことがほぼ当たり前だと思っていたので、実際に使用してみるとまず前室が広く、靴や道具を快適に置けることに感動しました。些細なことですが内部の空間を広く取るには大事なポイントです。
居住性も問題なく、通気の部分もメッシュパネルのおかげで風や空気がしっかり通っている感じはありました。日本は多湿の気候なのである程度の結露や空気がこもるのは仕方ありませんが、それでもこの手のシングルウォールテントにしては十分通気がいいといえます。
その他の細かい部分、基本的な部分は一般的な他のテントと変わらない構造です。
肝心の設営に関してですが、よくドーム型で、このテントの様な吊り下げ式の方が、筒に通すスロープ式のものより、風の抵抗を最小限に抑えて設営できるといわれています。では実際に組み立ててどうだったかというと、最後の1~2つのフックを止める際、生地から強いテンションが懸かって伸ばせずらくなり、加えて風が強く吹いていたこともあってパーツ同士がぶれ動いて、なかなかフックが留められずにあと少しのところで本体が風であおられ設営に思いのほか手間取ってしまいました。スロープ式の方もこれまで沢山設営してきましたが、実際のところその2つのタイプに厳しい環境での組み立てやすさの違いにそれほどの差は感じられませんでした。近年作られた山岳テントのほとんどが自立の種類を問わずに組み立てやすい仕様になっていますので、重要なのはこの構造だから大丈夫という考え方ではなく、その自立式タイプの特性を理解したうえで、環境に応じた安全かつ効率的な設営方法を正しく身に着けることであると改めて実感しました。本番前には練習が必要と学生の様な話ですが、ある程度設営の練習をしたうえで、固定するフックに注意して作業をしてみると非常に効率よく無駄なく組み立てられました。
話に出ましたフックの部分ですが、上部のあたりが外れてしまうと内側の空間に影響がでてしまいました。ですが、フックの固定力は相当なものでワザと本体をもって揺さぶるなどいろいろと試してみましたが外れることはありませんでした。
また、よく見ると他にも張り綱が取れる場所もあり、その他固定のためのバックアップ用に備え付けのペグがもう少しあってもいいように思います。
まとめ:どんな人、どんな活動におすすめ?
このテントの魅力は、軽さと居住性、設営スピードが高い水準でまとまっているところにあります。ただ軽くある程度の要素を切り離したコンパクトになるシングルウォールテントというものではなく、作りや構造もしっかりしています。縦走登山やトレイルハイク、ウルトラライトなど荷物を軽くコンパクトにしたい活動には幅広く対応してくれることでしょう。そういう意味では人を選ばないテントであるといえます。
ダブルウォールの良さも兼ね備えているため、テントをすでに持っている方の中でシングルウォールテントを利用したことがない、という方にも機能的な面から満足してもらえると思います。興味のある検討してみても良いテントではないかと感じます。
一方で、軽量テントではありますから使う場所や時期は考慮するべきところはあるかなと思います。かなりの強風が予想される季節や場所での使用に関しては慎重になる必要がありますし、春~秋3シーズンでも稜線のような場所で強い風が吹く悪天候な状況では、フックを止める作業が手間取ってしまうなどは感じやすいです。その環境を考慮さえすれば雪のある場所や時期などの使用も充分いけるはずです。
軽い=万全という訳ではありませんが、その軽さは大きな武器であることは間違いありません。ソロの場合、テントが軽くコンパクトであればその分、他の装備に気を配ることもできます。このテントで沢山の思い出を作っていくのも悪くないかと思います。それくらい器用なテントでありますからこれからソロのお供に考えてみてはいかがでしょうか。