
パタゴニア「エンドレス・ラン・ショーツ&マルチ・トレイルズ・ショーツ」レビュー:走り重視の「勝負ショーツ」とマルチに使える「爽快ショーツ」で、この夏は街からトレイルまで死角なし
自分のような山屋上がりの人間にとってはなかなか勇気がいることでしたが、いざやってみると「短パンで山」ってのもなかなかいいものです。
以前のレビューでも書きましたが、かつては肌の露出を恐れて「山ではロングパンツ」をかたくなに守ってきた自分でしたが、異常な暑さとファストハイクやトレイルランニングといった好みの変化のせいもあって、数年前から日帰り低山やトレイルランニングではもっぱらランニングショーツ・スタイルでの山行が増えてきました。確かにプロテクションは下がるものの、それと引き換えに得られる動きの自由さと爽快感は一度慣れてしまうとそれ以降は止められません。
そんな自分にとってこれまでのお気に入りショーツはパタゴニアの「ストライダー・プロ・ショーツ」でしたが、当然ながらどんなに気に入っているといっても、あらゆるシーンこれ一着ですべて賄えるとは考えていません。ランニングショーツという狭いカテゴリにおいても、そこには当然季節やシチュエーションによってさまざまな最適解があり得ます。
そこで今回は、前々から気になっていたパタゴニアのトレイルランニングショーツ・ラインナップの中から、より専門ジャンルに特化したモデルである「エンドレス・ラン・ショーツ」、そして逆に幅広いシーンに合いやすい汎用性の高い「マルチ・トレイルズ・ショーツ」を試してみることができたので、トレイルランやハイク、日常に使い倒してみたレビューをさっそくお届けしていきます。
目次
パタゴニア「エンドレス・ラン・ショーツ&マルチ・トレイルズ・ショーツ」それぞれの主な特徴
エンドレス・ラン・ショーツ 6インチ
お気に入りポイント
- タイツのように密着し適度にストレッチする高いフィット感と動きやすさ
- コンプレッションするほどではないが筋肉のブレや股関節をサポートしてくれる感覚
- 適度なストレッチと紐でフィット感の高いウェスト
- 優れた速乾性
- 十分な耐久性
- 背面とサイドに配置されたランニングに適したストレッチポケット
気になったポイント
- 密着感がありリラックスしたシーンではやや窮屈
- 耐久撥水性がやや弱い
- 高価
マルチ・トレイルズ・ショーツ 6インチ
お気に入りポイント
- 軽くてしなやか、肌触りサラサラで速乾性がある快適な生地素材
- 穿いていることを感じさせない自然な履き心地と動きやすさ
- 適度なストレッチと紐でフィット感の高いウェスト
- 快適で通気速乾性の高いライナーボクサーパンツ型ライナー
- 日常からトレイルまで対応しやすい汎用性の高さ
気になったポイント
- ポケットは走るために最適化されていない
- 耐久撥水性がやや弱い
- 摩耗によって毛玉ができやすい
主なスペックと評価
エンドレス・ラン・ショーツ 6インチ:詳細レビュー
穿き心地はまるでスポーツタイツ。3種類の生地によるフィット感と通気速乾性を両立した一体型構造が、擦れを抑えて強度の高い行動をサポート
エンドレス・ラン・ショーツを初めて見たときの印象は正直「何だこれは?」でした。きっと上の写真を見れば、ぼくと同じように反応に戸惑う人も多いのではないでしょうか。所々を見るとまるでショートタイツというか、スパッツというか。でも前から見ると一部分がショーツっぽくもあり。位置づけとして本格的なランニングショーツだということは知っているものの、穿き心地がまったく想像できないという意味で未知のパンツです。いいじゃないですか。
そしていよいよ足を通してみてようやく「なるほど」となりました。穿いた時のフィット感は基本的に「タイツ」です。よくよく見ると、パンツの裾部分から背面のお尻にかけてタイツのような伸縮性の高いニット地がマッピングされており、それが身体に沿ってピッタリとフィットしています。
しかし、面白いことに、実際にはいわゆるスパッツの穿き心地よりも段違いに快適なのです。その秘密は前面パネルの2層構造にありました。
この前面パネル、外から見えている表生地は防風性、撥水性、耐久性、そして通気性を兼ね備えたパーテックス・クアンタム・エアのナイロン生地が外からの風や摩耗を抑えつつ、中の蒸れを外に排出しやすくしています。そして肌に当たる裏面には高い伸縮性と通気性を備えたライナー的な薄手生地が配置されており(下写真)、これが心地よい肌触りとフィット感に加えて蒸れ感を抑えてくれます。つまり基本的にタイツのようなフィット感と、同時にプロテクションや肌触り、穿き心地、ルックスと、いい具合にすべてにおいて絶妙なバランスが取れているという分けです。
タイツ部分は軽量で伸縮性に優れたナイロン素材(漁網をリサイクルしたポスト・コンシューマー素材)にポリウレタンを26%とたっぷりブレンド。伸縮性の高いストレッチニットは身体のラインにピッタリとフィットしつつ、かといってコンプレッションタイツのようなタイトな締め付け感やストレスは一切感じられません。速乾性にも優れているため、汗をかいても肌にまとわりつくこともありませんでした。
ウエストはソフトで伸縮性と速乾性を備えたソフトなバンドが、長時間のランニングでも束縛感や緩みがなく快適なフィット感を提供してくれました。外側のドローコードで調整もできます。
大きなアクションでもストレスフリーなパターンの素晴らしさ
こうして計算され尽くした生地構造と裁断によって、心地よい風を感じながら下半身の動きはすこぶるスムーズで、それでいて体幹はスパッツを履いているときようにサポート感が感じられ、動きの中で快適な着心地と高いパフォーマンスと体への負担軽減感が感じられました。そして筋肉のブレも抑えられるなどの効果により疲労感の軽減も見込めます。
レースにとって十分な質・量のそろったジェルや小物用ポケット
山を走るアスリートのためにデザインされたというそのコンセプト通り、エンドレス・ラン・ショーツには走りにとって邪魔になるほどの豊富な収納はありません。ただしそぎ落とされた中でも十分な質と量を備えたポケットは、長距離・長時間のコースを快適にサポートしてくれるものでした。
両サイドには深くて伸縮性のあるポケットが1つずつ配置されています。大小のジェルはもちろん、スマートフォンやソフトフラスクまで入る大きく深いサイズとなっていて非常に汎用性の高い収納となっています(下写真)。しかもストレッチが効いているの中身をしっかりと固定し、ジェルを入れた場合は走っているときの揺れもそれほど感じられませんでした。ただスマホやフラスクの場合は、入るには入るけど実際にはさすがに重さでやや引っ張られる感じがしましたが。
バックには口の真ん中が縫い付けられたストレッチメッシュポケットが1つ。ここにはジェルはもちろんですが、カードホルダーや鍵などが入ります(下写真)。スマホはちょっと無理でした。
全体にDWR(耐久性撥水)加工が施されているが、撥水性は今ひとつ
アウトドア仕様のボトムスとして必要な撥水加工(DWR)もしっかりと施されており、ちょっとした水はねや汚れは弾いてくれます。(下写真)。
ただその強さや耐久性という面ではやや期待したほどではなく、これは昨今の撥水処理全体にいえることですが、ここは個人的にもう一歩技術的な進化を期待したいところです。とはいえ速乾性の高い生地なので、浸透したとしてもすぐに乾きやすくはなっていて、パンツの濡れや蒸れが気になるということはありませんでした。
マルチ・トレイルズ・ショーツ 6インチ:詳細レビュー
フィット感の高いライナーと、軽くて通気性抜群の表地による軽快な動きやすさと爽快な穿き心地
マルチ・トレイルズ・ショーツは前半のエンドレス・ラン・ショーツと比べると大分オーソドックスな外観をしたシンプルなランニングショーツです。すでに以前からストライダー・プロ・ショーツでパタゴニアの短パンについて基本的な穿き心地は体験している身からすれば、想像通りの心地よさ(もちろん良い意味で)。しかも生地の構成もストライダー・プロと同じですのでなおさらです。
生地は軽量で通気速乾性に優れたリサイクルポリエステル素材(プラスチック汚染の危機にさらされている沿岸部の共同体から供給され、オーシャンサイクルの認証済み素材)にポリウレタンを10%ブレンド。非常に軽くてしなやか、そして4方向への伸縮性も十分、汗をかいても肌にまとわりつくこともなく、動きを妨げるようなストレスは一切感じません。
吸湿速乾性に優れた内蔵ボクサーパンツ型ライナー
インナーにはグリッド状で吸湿速乾性と伸縮性に優れたポリエステル素材のブリーフライナーが内蔵。程よいストレッチによって下着なしで履いても違和感はまったくありません。ストライダー・プロのブリーフ型と異なりボクサーパンツ型になっているところが新しい。アクティビティ中だけでなくよりリラックスした状況での快適さも重視したといったところでしょうか。
いずれにせよ、脚上げでの抵抗感はまったくなくスムーズで快適な行動をサポートしてくれました。また抜群の通気性によって汗の発散性も高く、常にドライでいてくれるので股ずれもありません。ハイキュ・ミント防臭加工済みで臭いも安心!
ウエストは平ゴムバンドで全周を覆いながら、さらにドローコードで調整もできる手厚い仕様。相変わらず丁寧な作りが快適で、ソフトで高いフィット感にゴロつきも皆無です。
大きなアクションでもストレスフリーなパターンの素晴らしさ
軽快な着用感と秀逸な裁断、抜群のストレッチ性によって、アクティビティ中での爽快感と開放感は格別です。大きく足を上げたり開いたりしても、まるで何も穿いていないかのごとき心地よさは素晴らしいのひとこと。
またクセのないルックスと蒸れを感じさせない快適さは、歩いてもよし、走ってもよし、さらにはレジャーでリラックスするもよしという、幅広いシーンに自然に溶け込む汎用性の高さ、使い勝手の良さが何よりも感じられます。
ポケットはアクティビティ向けというよりも「日常・ハイク向け + α」
このショーツは「マルチ・トレイルズ」と銘打っているだけに、トレイルランニングだけに特化している訳ではなく幅広いアクティビティをカバーするような配慮がされていました。
それを端的に示しているのが左右1つずつのジッパーポケット(下写真)。大き目のスマホも入る深くてゆとりのある大きさで、使いやすさは十分。ただこの作りであれば走っているときに揺れやすくもなるので、ポケットに物をたくさん入れて走る方には不向きかもしれません。一方で激しく動くことの少ないハイキングやキャンプ、日常シーンでは便利で使いやすいわけで、このことからこのショーツが多様なシーンでのマルチな使いやすさを想定していることが垣間見えます。
背面にはスナップボタンのポケットが1つ(下写真)。こちらもスマホがぎりぎり収納できる大きさでした。
この背面ポケットは裏返して本体を丸めることでコンパクトにまとめられるパッカブル仕様で、中にはキーループにもカラビナループにもなるループもついています。このことからも、このモデルが毎日のトレーニングやレースで穿くということだけでなく、さまざまな旅に携帯することも想定しているということが分かります。
生地の耐久性と撥水性はそこそこ
以前ストライダー・プロをレビューしたときにも指摘しましたが、同じ生地を使用しているこちらのモデルも。擦れに対する耐久性についてはやや注意が必要です。バックパックなどで絶えず摩耗やストレスを加え続けると毛羽立ちが見られるようになっていきます。タフな使用で長く使えるかというと疑問符が付きます。また撥水性(DWR加工)についても、エンドレス・ラン・ショーツと同様、過度な信頼はできない印象でした。
まとめ:暑さのなかで自然の中を走り続けるために必要なすべてがある
走り抜けるために必要な快適性に加え、体幹の安定や疲労軽減など、パフォーマンスを向上させるためのサポート機能までも備わった「エンドレス・ラン・ショーツ」、一方走りだけでなくハイキングやキャンプ、レジャーなど幅広いアウトドアで自然に着こなせることを目指した「マルチ・トレイルズ・ショーツ」と、性格の対照的な2つのランニングショーツですが、どちらにも共通して存在する、そのコンセプトに沿ったうえでの軽さと高い着心地の良さ、実用性の高さ、作りのしっかりした丁寧さは相変わらず安心できます。
山でインテンシティの高い活動を行うためにショーツを探しているという人はどちらを選んでもとりあえず後悔はしないものの、より高いパフォーマンスを求めるならばエンドレス・ラン・ショーツを選ぶことがベターだと思いました。やっぱり走るときのサポート感がまるで違います。また1着でショーツを穿くシーンをすべてカバーしたいと思ったら、迷わずマルチ・トレイルズ・ショーツです。夏山登山でのアプローチから、本格的なハイキング、アウトドア旅行、ウォータースポーツ、夏フェスなど、山に、街にとシームレスに幅広く使い倒せますので、初めてのアウトドア・ショーツを選ぶというビギナーにもぴったり。スタイルや目的に合わせたぴったりのショーツで、今年の猛暑も乗り切っていきましょう。