Review:THULE Capstone 22L カーキャリアのトップブランドが示した”街にも山にも映える本格デイパック”という新しいカタチ
普段使いから旅行に、山歩きに、自転車にと、さまざまなシーンで活躍して欲しいのが20L(リットル)程度のデイパック。そこに求められる特徴といえば、もちろん快適に運ぶための構造や便利な機能は昔から大切な要素ですが、都市に生きるイマドキの山好きにとって同じく譲れないポイントは、街にも違和感なく溶け込むような「洗練さ」ではないでしょうか。
山歩きに必要な本格的な機能を備え、街にも馴染んでくれる、そんなデイパックを探している人にはぜひこのTHULE(スーリー) Capstone(キャップストーン)をおすすめしたい。スウェーデンに本拠を置くTHULEといえば、自動車積載用のラック・キャリアなどでお馴染みのブランド。一方でPCバッグやカメラバッグなども有名で、個人的にこのサイトを始める前から愛用していました。いずれにせよアウトドア分野では日本でまだあまり知られていないブランドであることは確かです。
それもそのはず、THULEがアウトドア向けのバックパック展開をはじめたのは2015年とつい最近のこと。ただ参入してまだ日が浅いにもかかわらず、実は既に知られざる良作がゴロゴロと存在しています。カーキャリアのトップブランドは、アウトドア・バックパックでどんな革新的なプロダクトを世に問うたのか。早速レビューしていきましょう。
目次
大まかな特徴
秀逸な通気性を発揮するテンションメッシュのバックパネルが背中の熱とムレを効果的に排出します。主な収納にはジッパーで開け閉めの容易なメインポケットの他、上部とヒップベルトに小物類を収納可能なジッパー付きポケット。さらにヒップベルトには用途に合わせて交換可能なVersaClickアクセサリーにも対応(標準ではパックを降ろさずヒップベルトにトレッキングポールを装着可能なVersaClick Pole Holderを付属)。レインカバーも付属、ハイドレーション対応のリザーバー・スリーブも備えており、シンプルでスタイリッシュなボディのなかにハイキング用バックパックとして必要な快適性と機能を十分に備えています。
おすすめポイント
- 通気性・快適性・荷重安定性抜群の背面パネル・ショルダー・ヒップベルト
- 普段使いから本格ハイキングまで対応可能、デザイン性と汎用性を両立させたボディ
- 機能性とカスタマイズ性抜群のVersaClickアクセサリー
気になったポイント
- ポールやアックスの収納には一工夫必要
- 硬いフレームが邪魔して収納性・コンパクトさは低い
アイテム外観
主なスペックと評価
スペック | |
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項目 | Thule Capstone 22L |
素材 |
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カラー |
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サイズ(背面長) |
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容量(リットル) | 22 |
重量(実測) | 1,003g(M/Lサイズ、VersaClick Pole Holder・レインカバー込) |
寸法 | 23.87 x 26.92 x 53.08 cm |
バリエーション |
※すべて女性モデルあり |
メインアクセス | ジッパー |
背面システム | 秀逸な通気性を発揮するテンションメッシュのバックパネル。 |
背面長調整 | 不可(32L以上のモデルは可能) |
ハイドレーション対応 | ◯ |
レインカバー | 付属 |
ポケット・アタッチメント |
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評価 | |
快適性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★☆☆ |
汎用性 | ★★★★★ |
使いやすさ | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
総合 | ★★★★★ |
詳細レビュー
背面パネル・ショルダー・ヒップベルトは通気性・快適性・荷重安定性抜群
Capstoneシリーズの背面はテンションメッシュ(トランポリン構造)タイプ。今や珍しくなくなりましたが、背中に空気の通るすき間ができることによってムレを抑え、ピンと張られた背面メッシュは通気性の良さだけでなく肌当たりも柔らかで、暑い夏でも汗を気にせず快適に背負い続けることができます。
通気性を重視した薄いメッシュのショルダー・ヒップベルトは一見ややクッション性に欠けますが、腰に当たる部分に配置された厚めのクッションが荷重によるダメージをかなり和らげてくれるため、全体としての荷重安定性は非常に高いです。
トランポリン構造のバックパックは得てして重くなりがちですが、このモデルに関してはそこまで重量がかさんでいないのもなかなか。ちなみに32L以上のモデルに関しては背面長の調整まで可能で、それらを含めても技術的にはかなり成熟されているといえます。
普段使いから本格ハイキングまで対応可能、デザイン性と汎用性を両立させたボディ
もちろん人によって好き嫌いはあると思います。でもここまでムダを削ぎ落としたシンプルでミニマルなフォルム、落ち着いた上品なカラーリングは、本格登山向けデイパックではあまり見たことがありません(今回試用したモデルはラインナップのなかでも唯一派手めな色味でしたが)。
たくさんのポケットやアタッチメントがついていれば確かに便利にはなります。ただその反面、微妙な重量増やデザイン性が奪われてしまうことも事実。その意味では、このモデルはパッと見デザイン性に振り切ってしまったかのように思われます。ただ、やはりそこは他分野で確かな実績を築き上げてきたTHULE、街使いと山使いのニーズを両立させるため、高いデザイン性を保ちながら利便性を維持するためのさまざまな工夫がちりばめられていました。
メイン収納へのアクセスは天蓋ではなく、開閉が容易なジッパーアクセス。バックルなどのパーツが減りデザイン的にスッキリするだけでなく、このクラスの容量であればその方が便利とも言えます。ジッパーは取っ手がついていて手袋でも取り回しが楽です。また小物を収納するジッパーポケットも分かりやすい位置にあり、ハイドレーションチューブの位置も左右に出し分けやすいなど良くまとまっています。
右のヒップベルトには、5インチ以内のスマートフォンであれば収納できそうなサイズのストレッチ・メッシュポケット。
両サイドには伸縮性・耐久性も十分なメッシュサイドポケット。ペットボトルはもちろん太めのナルゲンボトルも入りました。ちなみに32L以上のモデルにはサイドストラップと広めの前面ポケットが追加で配置されています。
底部は420Dの丈夫なナイロン生地を使用し、耐久性も十分。レインカバーはここから引き出してそのまま覆い被せれば簡単にセットできます。
一見何も無いかのようなパック前面には縦二列にボタンホール・ウェビングが配置され、ショックコードやカラビナを通すことによってギアの取付が可能になります。街ではスッキリ、山ではしっかりという使い分けができ、幅広い用途への対応が可能です。
機能性とカスタマイズ性抜群のVersaClickアクセサリー
もうひとつ、シンプルなボディに最大限の使いやすさを実現する工夫として秀逸な、THULE独自のアタッチメントシステム「VersaClickシステム」について見ていきます。これは端的に言うと、左のヒップベルトに配置された交換可能な各種収納用アダプターのことで、例えばCapstoneシリーズを購入すると、写真のようなトレッキングポールホルダーが標準で付属してきます。ストラップを開け閉めすればパックを下ろすことなくポールをしまっておくことができ、急に現れた鎖場などで一時的に両手を自由にしたい場合に便利です。
さらに現在このアタッチメントにはさまざまなラインナップが展開されており、新たに入手することで自分の必要な収納を追加することができます。
下の例「Rolltop Safezone Pocket」は完全防水・耐衝撃の、安全に電子機器を収納することができるポケット。このほか汎用性の高いポーチや一眼レフカメラ用ホルスター、断熱効果のあるドリンクボトルなど豊富な種類が選べ、それぞれの用途や好みに合わせて自分好みのパックを構築することが可能です。個人的には一眼レフ用カメラホルスターにめちゃくちゃ惹かれています。
気になる点
ポールやアックスの収納には一工夫必要
ここまで、機能を削ぎ落とした点について良いことばかりを述べてきましたが、ここは残して欲しかったという部分がトレッキングポールのアタッチメントについて。通常の登山向けバックパックならボトム部分にアイスアックス等を固定するループが取り付けられているのですが、これが省略されていることで、外部にポールを設置するためにはサイドポケットを使わなければなりません。しかしそのままだとポケットからはみ出た部分がブラブラして危険です。固定するためにはストラップなどが必要ですが、このモデルはそれもついていない(32L以上のモデルにはポール用のサイドストラップがついています)。
このため写真のようにボタンホール・ウェビングに取り付けたカラビナにポールを通すという、やや強引な方法でとりあえず固定できそうなのですが、いずれにせよ別途カラビナやショックコードなどが必要なことと、これでも完全に固定できている分けではないので、正直上手い方法とはいえません。ここはちょっと省略しすぎかなと思ってしまいました。
まとめ:どんな活動におすすめ?
THULEは進歩も競争も激しいアウトドア向けバックパックへ参入してまだ数年というにもかかわらず、Capstoneはそんな経験不足を微塵も感じさせない完成度の高さを見せてくれました。ハイキング向けとして最先端の標準機能をしっかりと抑えつつ、さらに現代的な洗練さをプラスした、ライトにアウトドアを楽しむ人にとって絶妙にバランスのとれたデイパックです。シンプルながらも細部にわたって丁寧に作り込まれ、日々の仕事から旅行、そしてカジュアルな低山日帰りハイキングやサイクリングなどに最適。これから山登りをはじめようと思うけど、最初からあまりゴツいのはちょっと、という人にとっては最良の選択肢になってくれるはずです。
その反面アタッチメント類は最小限に絞っているので、クライミングをはじめとしたテクニカルな活動にはやや物足りないかもしれません。その意味では、汎用性が高いといってもそのレンジが「アウトドア・アクティビティ全般」ではなく「街からライトなアウトドア」の範囲で幅広いというイメージ。またしっかりとした背面フレームのためパック自体の収納性も低く、サブザック的な使い方も難しいでしょう。
アウトドア・ギアはかつては限られた人にとって必要な専門用具でした。その後すべての人々が気軽に自然を楽しむようになった現代では、より都市に生きる人々に寄り添った、あるいは都市と自然の境目をブリッジしてくれる道具が求められていることは、ここ最近ひしひしと感じられます。そうした潮流にしっかりと向き合いながら、これからの新しい人々をアウトドアに連れ出してくれるこの”新しい”ブランドには今後も要注目です。