Review:全面アップデートしたSALOMON SENSE RIDE 3 と SENSE 4 /PRO は「クッション性」と「推進力」を兼ね備えたトレイルシューズの新スダンダード
トレイルシューズのトップブランドであるサロモンがここ数年で確立した新しいトレイルシューズのスタンダード・ラインナップ「SENSE」ファミリーの代表モデルといえば、楽しく怪我せず走りたいランナーのためのSense Ride、そしてより軽快さと速さを求めるトレイルランナーのためのSense Pro。異なるランナーのために作られたこの2つのトレイルランニングシューズが、今シーズン新開発の疲労軽減技術を導入し、全面的にリニューアルしました。
特にSense Rideは初代から2代目、GORE-TEXモデルといったすべてのモデルを履きつぶれるまで使っているお気に入りの一足。そんなぼくでも今回アップデートされたシューズで実際に走ってみて、その変貌ぶりにはびっくりしてしまいました。その理由なども含め、早速この2つのモデルを実際にフィールドで試走したインプレッションをお届けします。
目次
各アイテムの主な特徴
「SENSE」シリーズは、世界トップクラスの山岳ランナーでSALOMONの契約アスリートでもあるキリアン・ジョルネが、アメリカ・カリフォルニア州で開催される歴史的な100マイルレース「ウェスタンステイツ・エンデュランスラン」で勝つための機能を極限まで追求した「S-LAB SENSE」を起源にもつ、サロモントレイルランニングシューズの新世代スタンダード・ラインナップ。人間が本来もっている自然な脚の動きと機能を最大限に高める「ナチュラルモーション」コンセプトをベースに、初心者からハイアマチュアまで、レベル・目的に合わせたさまざまなモデルが展開されています。
SENSE RIDE 3
SENSE RIDE 3(以下SR3)はSENSEシリーズの中でも、地面からの適度なレスポンスの高さと、初心者にも優しいプロテクションをバランス良く備えた、オールラウンドなトレイルランニングシューズ。これまで定評のあったミッドソールには、新たに「opti-vibeテクノロジー」を採用したことでさらに衝撃・振動吸収機能が向上し、疲労や怪我のリスクを軽減させています。
フィット感と通気性に優れたアッパー、そしてあらゆる状態の地面に対応するグリップ力の高いContagrip®アウトソールは健在。さらに手厚くなったプロテクションによってよりビギナーが安心して走れるようになりました。ビギナーからセーフランニングを意識したアスリートまで、幅広いランナーが楽しく安全に走れるシューズです。
おすすめポイント
- 距離・地形・レベルを問わず汎用性の高い万能トレイルシューズ
- 履き心地の良さと高いプロテクションを兼ね備えた安全なアッパー
- 新しいopti-vibeによるクッション性・サポート性の高い安定感抜群のミッドソール
- ぬかるみや濡れた岩、ロード全般に強いオールラウンドなアウトソール
気になったポイント
- 前作に比べれば地面からのレスポンスや柔軟性が薄れ重さも増しており、相対的にダイレクトなライド感が少ないかも。
SENSE 4 /PRO
SENSEシリーズの共通モチーフであるナチュラルモーションのコンセプトを、レースのためによりストイックに追求したモデルといえるのがSENSE 4 /PRO(以下S4P)。通気性と疎水性の高いアッパーのメッシュ生地は薄くて軽量にもかかわらず強靭。さらにEndoFit・SensiFitをはじめとした独自のフィッティング・テクノロジーによって足全体をしっかりと包み込むようにホールドし、抜群の履き心地を実現しました。4mmと低めのドロップに加えて柔軟でレスポンスとグリップ力の高いソールは、あらゆる地形での素早い動きに対応し、心地よいライド感を提供してくれます。今モデルからミッドソールに待望の「opti-vibeテクノロジー」が搭載されたことによって、優れた足裏のフィーリングに加えて、より高い衝撃・振動吸収と疲労の軽減が可能となりました。過酷で長距離のレースを、アグレッシブに攻めたいアスリートにはもちろん、すべてのトレイルランナーにとって野山を走る楽しさをドライブしてくれる一足です。
おすすめポイント
- 高速トレイルランニングのために必要な機能を凝縮し、ライドでの安定感と走る楽しさを実感
- 軽さと通気性、柔軟性、フィット感、レスポンスの高さを兼ね備えた優れたアッパー
- 最小限の構造ながらopti-vibeによる優れた振動・衝撃・疲労軽減
- 濡れた路面をはじめ急勾配・ロードなど多様な地形で優れたトラクションを発揮するアウトソール
気になったポイント
- ヒールカップが浅く(薄く)柔らかいため、前足部で踏ん張れないと脱げそうになる
- シューレースガレージが入れにくい
主なスペックとOGZ比較評価
項目 | SENSE RIDE 3 | SENSE 4 /PRO |
---|---|---|
重量 | 298g(27cm片足実測) | 268g(27cm片足実測) |
スタックハイト | 27mm/19mm (8mm ドロップ) | 25mm/21mm (4mm ドロップ) |
アッパー |
|
|
ミッドソール |
|
|
アウトソール | Contagrip® MA | Contagrip® MA |
フィット | ★★★★☆ | ★★★★★ |
クッション性 | ★★★★★ | ★★★☆☆ |
重量 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
グリップ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
プロテクション | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
安定性 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
通気性 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
SENSE RIDE 3の詳細レビュー
履き心地の良さに加えてより高いプロテクションを手に入れたアッパー
ぱっと見た感じ、第一印象としては前作に比べてそこまで大きく変わっているとは思えませんが、SENSE RIDEを初代から履き続けている自分がこの3代目にはじめて足を入れたとき、その変貌ぶりに軽く衝撃が走りました。履いたときの快適さ・安定感が明らかに増した印象です。
アッパーを覆う単層構造のメッシュ生地は、前作の3Dメッシュに比べて密度が濃く、ややしっかりとした質感になりました。またつま先をはじめ、足の周囲をカバーしているプロテクションもより強化されています。トゥボックスは特別広いわけではありませんが、前作同様狭くもなく広くもなく、適度に余裕のある作りといっていいでしょう。
もちろんこれまで通りSensiFit™による足全体のホールド感も非常にきいており、シューレースを締めたときのしっくりとくる履き心地の良さは相変わらず。また今モデルからSensiFitパーツをアッパーとライニングの間にサンドすることで、ホールド感と耐久性を確保しつつ、フィット感が微増。デザイン的にもクリーンに仕上がっています(下写真左)。
シューズの内側には、足裏からシュータンまでが一体化したEndoFit™によって、足の裏から甲にかけて包み込むようなフィット感を可能にしています。これと素早く均一な締めつけを可能とするQuicklace™シューレースシステムは、いまではサロモントレイルシューズの絶妙なフィットにとってなくてはならない存在です。
かかとは少し厚みを増したパッド入りで、深さも高くなり、更にヒールカップのプロテクションと剛性も高くなっているため、かかとが重力でブレるという感覚が少なくなっています(下写真)が、過度に保護されすぎているということはなく、適度な安定感を提供しています。
進化した[opti-vibe]テクノロジーを搭載したミッドソールによってより安定した走りが可能に
SR3が実現した安定感の高さは、ミッドソールでも顕著の感じられます。特にSENSE RIDEシリーズの目玉機能であったVibeテクノロジーは「opti-vibe」として進化。走行中に脚が受け続ける微振動を吸収することで、怪我や疲労のリスクを軽減するというコンセプトをベースに、今回はさらに衝撃減衰率を15%、衝撃吸収率を8%向上、結果として筋肉疲労の発生率を4%減少させることに成功。クッション性とダイナミズムを兼ね備えた独自のコンビネーションで、脚への衝撃と振動を軽減しつつも、推進力を発揮しています。
具体的には踵部分にクッション性と反発力という2つの異なる特性を持つ素材を組み合わせたパーツを配置したことで、走行をサポートするクッション性がありながらも、脚を保護する安定感を両立を実現しています。確かに全体的にソールが硬めになり(下写真)、さらに前作に比べて後方サイド部分のソールがより盛り上がっていることでも分かるように(さらに下写真)、2代目よりもかなり着地時のブレも少なく安定感が増していることが分かります。ただ、とはいえクッション性が特に減っているということもなく、着地時の安心感は相変わらずです。特にビギナーや脚力の整っていない人に多いというヒールストライク着地のランナーにとってはこの特徴はありがたいはず。また地面からの突き上げについても、足裏に挿入されたProfeel Filmが保護してくれているため、よほどの衝撃でない限りはダメージを受けることはないでしょう。
オフロードでもオンロードでも確実なグリップを発揮する万能アウトソール
前作同様、ウェットな路面にもしっかりと足裏の食いつきがよいContagrip® MAコンパウンドを採用したアウトソールは、すべてのランナーにとって頼もしいトラクションを提供してくれるはずです。ラグの高さを測ってみると約4mmほど。決して高くはないですが、オフロードでの踏み込むには十分な高さでもあります。この適度なラグは、これまでのSENSEシリーズでもあった舗装路での強さをそのまま引き継いでおり、ロード・トレイルが混在したコースでも難なくこなしてくれる、万能なアウトソールと言えるでしょう。
SR2と大きく違うのは、前作までのスリットが入って分割されていたソールが改善されたことです。前作までは前足部の屈曲こそしやすかったのですが、長く使うとスリット部分周辺が消耗して剥がれやすかったことがありました(実際に下写真左では剥がれたソールを接着剤で修理しています)。SR3では前足部分の全体に満遍なく細かくスリットを入れて屈曲性を保ちつつ消耗も抑えることで安定感と耐久性を両立させてくれています。
試走インプレッションとまとめ
フィールドを走る楽しさを残しながら、より安全・快適に進化したオールラウンドトレイルシューズ
家周りのロードをジョギング、その他春の陽気が顔をのぞかせはじめた近場の低山トレイルを数十キロ、SR3、そしてSR2との左右互い違いに履いて走ってみました。
相変わらずすぐに足に馴染み、どんな足型にもフィットしやすいアッパーは心地よいの一言。着地時には心地よいクッションでしっかりと衝撃を受け止めながら、受け止めすぎてグニャッと力が逃げるようなこともなく、クッションと安定感のバランスは確実に向上しています。特に下りでも迷いなく踵を地面に落とすことができるほどにしっかりと衝撃を吸収し、滑りにくいアウトソールと相まってズレを抑えてくれます。
さらに、前モデルまでは前足部にも入っていた衝撃吸収素材(OPAL)がSR3では踵部分に集中しているため、着地から踏み込みにかけて適度な反発力とともに高い推進力を感じることができます。かかとからつま先にかけてカーブを描いたロッカージオメトリー形状のソールによる、自然と足が前に進む感覚も健在です。
一方で、SR3は前モデルまでにあった、軽快さや柔軟性、足裏感覚の繊細さといった、走りそのものの楽しさを強調してくれる要素は、相対的に薄れているといえなくもありません。ただ、ロードとトレイルシューズのハイブリッド的な部分での魅力が際立っていたこれまでと違い、走りの安定感、保護性・サポート性といった、長距離トレイルランでの快適性や安全性は格段に向上したことで、トレイルシューズという意味ではより優れたオールラウンドモデルなっているといえるでしょう。走りの楽しさだけでなく、安全に、快適に、疲れを残さず走りたいというランナーにとって素晴らしい一足になることは間違いありません。
SENSE 4 /PROの詳細レビュー
軽くて柔らかく、靴下を履くようにピッタリとフィットする絶妙なアッパー
手にとってみると、まず何といっても軽くて、薄い。トレイルシューズとは思えない、ロードレース用モデルのような最小限の構成によってつくられたシューズであることが分かります。
アッパーを覆うメッシュ疎水性素材は水をまったく吸収せず、さらに向こう側が透けて見えるほどに極薄・軽量で通気性も抜群。渡渉があるような過酷なレースでも影響を受けにくい用になっています。SensiFit™パーツはアッパーとライナーとの間に仕込まれているため、クリーンで洗練されたデザインが好印象です。
靴の外側・内側共に内部に仕込まれたSensiFitと、前述したおなじみのEndoFit™によってホールド感・フィット感はS/LABシリーズを除いたサロモンシューズの中でもダントツに高い水準を感じました。
トゥボックスはつま先を動かして窮屈さを感じない十分な広さがありながら、限りなくスリム(人によっては窮屈さを感じるかもしれない)。軽量性を追求した熱圧着によるプロテクションは必要最小限ですが、一般的なテクニカルな地形でも足を痛める心配のない程度には十分なプロテクションといえます。
Quicklace™システムは相変わらずクオリティが高く、簡単に均一な締め上げが可能です。しかもシューレースホールがテープになっていることでテンションの部分的な調節も多少できます。ただ、上から下に収納する新しいシューレースガレージは入り口が若干小さいため、余った紐を収納するのにはやや苦労しました。
インソールだけ見るとSR3と同じなのですが(下写真左)、アウトソールを重ねてみると若干ソール幅はS4Pの方が狭く、スリムさが際立っていることが分かります(下写真右)。SR3に比べてS4Pの方は、足の形に合わせて窮屈さを感じさせずに密着し、足全体を包み込むようなアッパーは、まるで靴下を履いているかのようなさらに絶妙な感覚です。
ヒールカウンターは低めですが、しっかりとした構造になっていて、極力シンプルな作りで安定感と保護力を可能としました。
Midsole:[opti-vibe]テクノロジー初搭載で、速いだけでなくダメージの蓄積も軽減するミッドソール
今回のアップデートで一番のポイントは、軽量さとレスポンス・敏捷性重視のモデルにダメージ・疲労軽減機能であるopti-vibeテクノロジーが搭載されたことです。SR3同様、かかと部分にクッション性と反発力を両立した素材を内蔵することによって、走行時に発生する脚への衝撃と振動を軽減しつつも、変わらぬ推進力を最小限のパッケージで維持することが可能となりました。
ドロップは4mmと小さく、SENSE RIDEに比べれば明らかにフォアフットランニングでのスピードランナーに向いている構造といえますが、そのうえでも踵部分の衝撃吸収はしっかりと感じられ、長距離になればなるほどその恩恵は強く感じられることでしょう。
悪路でのスリップを防ぎ、急勾配でのトラクション、ロードでの安定性を兼ね備えたアウトソール
アウトソールはSENSE RIDE 3と同じ濡れた路面でのスリップに強いContagrip® MAコンパウンドを使用。SR3と比べて微妙にラグは深く、そしてラグの間隔が空いていることから、より泥抜けの良さや急坂での牽引力を意識した作りとなっていることが伺えます(下写真左)。
しかし同ブランドのスピードクロスのように極端な高さでもなく、基本的には柔軟性と耐久性にすぐれているため、ロードでも安定した走りが期待できます。つまり基本的には万能なアウトソールであり、よりテクニカルな地形への対応を強めた構造です。
試走インプレッションとまとめ
走る楽しみを知るランナーが、ただ速く走ることに没頭できる高速トレイルシューズ
こちらも同じように家周辺のロードと低山のトレイルで、S4P単体、そしてSR3との左右交互履きを交えて走ってみました。
前述したとおり、驚くほどに軽量かつ靴全体が柔軟でフィット感の高いアッパーはまるで靴下を履くように足全体に絡みつき、履いた瞬間これは速くて優秀なシューズになりそうだいう予感がプンプンとしました。
果たしてその予感は家周りのロードを試走した時点から明確に当たりだと確信しました。軽量でスリムなシューズはまるで履いていないかのように素早い足さばきを可能とし、地面からのレスポンスはよりダイレクトに感じられ、一歩一歩のステップが活気に満ちた、素晴らしい乗り心地です。opti-vibeミッドソールはその削ぎ落とされた構造にしては十分すぎるほどの衝撃吸収性を発揮し、足裏に適切なクッションとプロテクションを提供するのに役立ってくれています。やや大げさに言えば、まるで厚底シューズのラグジュアリーなクッション性とベアフットシューズの敏捷性を同時に実感しているようです。
上り坂でも軽快さと俊敏さは変わらず。ただし、ある程度脚力のできあがったランナーに照準を合わせているのでしょうか、ヒールカップの浅さと柔軟さは少し気になりました。走り方や中に履いた靴下の影響も少なからずあると思いますが、決して緩めて履いているわけではないにもかかわらず上り坂では踵からシューズが脱げそうになることがしばしばあり、しっかりと前足部で踏み込める走りをしていることが必要でした。またSENSE RIDEに比べるとソール幅(特にかかと周り)はスリムで接地面積が小さいことから、重心をしっかりとした位置に乗せないと身体はブレやすくなる点にも注意する必要があります。
一方下り坂では、この足裏感覚の繊細さと軽さ、柔軟性が障害物を避けるときに威力を発揮します。その上ミッドソールの適度なクッションと安定性によって、いつもよりもスピーディで楽しいダウンヒルが可能になるでしょう。
素晴らしい履き心地と、軽快な乗り心地を両立したSENSE 4 /PROは、すでにトレイルの走り方を知っているランナーにとっては、より高速に進むために必要なクッション、ダイナミズム、トラクション、プロテクションをバランス良く備え、なおかつ極上のフィット感まで感じられる素晴らしいシューズです。
一方でアップダウンの激しくタフな路面での足さばきが落ち着いていない段階で履くと、人によってはそのサポート性の少なさに不満が出てもおかしくないというハードルの高さも若干感じられました。とはいえそこまで大きな偏りがあるとは言えず、いずれにしても新しいSENSE PROを履いてトレイルを走ってみれば、誰もが野山を駆けることの楽しさにふれることができる優れた一足になってくれることは間違いなさそうです。
SALOMON SENSE RIDE 3 & SENSE 4 /PROそれぞれの詳細と購入について
製品の詳細についてはSENSE RIDE 3/SENSE 4 /PROそれぞれの公式通販サイトもあわせてご確認ください。