【忖度なしの自腹レビュー】すべては快適さと、使いやすさのために。斬新で実用的なアイデアがてんこ盛りの軽量テント SEA TO SUMMIT アルトTR1プラステント
Sea to Summit(シートゥーサミット)はその名を、創業者が達成した「ベンガル湾からエベレスト山頂まで無酸素で歩き通す」という唯一無二の偉業に由来するオーストラリア発のアウトドアブランド。
その独創的なチャレンジが示すように、彼らの作るプロダクトには常にユニークで気の利いたアイデアが散りばめられ、なおかつ機能的で、リアルなフィールドでの実用性に溢れています。彼らの作る製品は寝袋のインナーシーツからスタートし、スタッフサックやクックウェアなどの開発でも飽き足らず、ついには寝袋やマット、ハンモック、シェルターといった大物を手掛けるまでに成長を続けています。
そんな彼らが3年以上の研究開発を経て、今シーズン満を持して本格ダブルウォールテントを世に送り出しました。普段から彼らのこだわりに触れているいちアウトドア・ファンとして、心がザワつかないわけがない!
最新テントは、共通する革新的な技術とコンセプトを持ちながら、用途別に最適化された2シリーズ。1つは軽量さと居住性を兼ね備えた半自立型ダブルウォールテント「ALTO(アルト)」シリーズ、もう1つは高い汎用性と同時に優れた居住性、快適性も実現した「TELOS(テロス)」です。
今回はそのどちらも発売直後に自腹購入し、しばらく使ってみることができましたので、まずはソロでのバックパッキングに使うために入手したアルトTR1プラステント(以下、アルト)の方からレビューしていきます。
目次
SEA TO SUMMIT アルトTR1 テント 主な特徴
おすすめポイント
- スマートに収納され、パッキングしやすい「モジュラーストレージシステム」
- 立体的な空間の広さを実現した「テンションリッジ」
- 高い通気性を確保したベンチレーション
- 夜の明かりを快適にしてくれる天井のライトバー
- スタッフサックが室内収納に早変わり
- 着脱・調節のしやすいクリップやペグ
- フライのみでも設営可能
- 軽量化と耐久性を両立した生地・ポール
- 優れた耐風性を確保する標準付属のガイライン
気になるポイント
- フライをポールに固定するための面ファスナー着脱が面倒
- 非対称の形状のため、キレイに張るための角度などが若干デリケート
- 個人的にはインナー・フライ一体型での設営ができて欲しかった。
- ボトム生地の耐久性やフライモードでの建てやすさなどを考えるとフットプリントを同時購入をおすすめ
主なスペックと評価
アイテム名 | Sea to Summit アルトTR1プラステント |
---|---|
就寝人数 | 1名 |
重量(実測) | 総重量1,190g
|
インナーテント素材 | 15D PeUリップストップシルナイロン(耐水圧:2,500mm) |
フライ素材 | 15D PeUリップストップシルナイロン(耐水圧:1,200mm) |
ポール素材 | アルミニウム DAC TH72M |
外寸 | 109 × 169 × 223cm |
フロア高さ | 100cm |
フロア面積 | 1.81㎡ |
前室面積 | 0.7㎡ |
収納サイズ | 11 × 11 × 44cm |
付属品 |
|
評価 | |
居住快適性 | ★★★★★ |
設営・撤収の容易さ | ★★★★☆ |
耐候性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ ※別途フットプリントを敷けば★★★★☆ |
重量 | ★★★★☆ |
携帯性 | ★★★★☆ |
汎用性 | ★★★★★ |
Sea to Summit アルトTR1プラステント 詳細レビュー
「テントのデザインをもう一度見直そう」――テント界のジャイアントとのコラボレーションで生まれた新しいテントの形
まずこのテントについて触れておきたいのは、フライシートの一片に記された見慣れないシグネチャーについて(下写真)。
そこに記された人物とは、このテントを生み出したキーマンの一人であり、熟練のテントデザイナーであり、そして現代のテント業界をリードするテントポールメーカーDAC社のファウンダー、ジェイク・ラーその人です。
マスプロダクトであるアウトドア道具に設計者の名を記すというのは、自分のこれまでの経験では聞いたことがありません。もちろんこれは単なる目立ちたがりということではなく、作り手としての自信と責任感、そして何より熱意のあらわれ以外の何ものでもないでしょう。要するに、間違いなく「気合い入ってる」ってことです。
こうして、アルト(&テロス)の開発はSea to SummitとDACという共に「創造性」と「匠の技」をもち、アウトドア・ギア業界をリードする2人の創業者兼デザイナーのコラボレーションによって進められました。
彼らはまず「人々がテントの何に困っているのかを徹底的に調べる」ことからスタートしたと、ある雑誌で語っています。そのなかで出てきた問題をすべて一から再検討し、「テントとはこういうもの」という既成概念に囚われることなく「今のテントが抱える問題を解決してくれるような理想のテントとはどういうものなのか」をゼロから形作っていったのです。
こうして3年の歳月を経て生まれたアルトは一見すると他のテントとよく似ているのですが、よく見れば、そしていざ使ってみると、その微に入り細を穿つきめ細かな快適さ、使い勝手を追求するその姿勢に舌を巻く、紛れもなく革新的で完成度の高いテントでした。具体的に見ていきましょう。
スマートに収納され、パッキングしやすい「モジュラーストレージシステム」
これまでのテントの収納は、最もシンプルなもので1つの袋にすべてを詰め込む、少し親切になるとインナー&フライとポール、ペグが別々の袋に収納するといったものでした。
一方アルトは、インナーテント・レインフライ・ポール・ペグとすべてのパーツが個別のスタッフサックに分けてパッキングされています(上写真)。こうすることで1人が全部持ち運ぶのではなく、同行者と荷物を分け合うことができるようになります(1人用ではあまり恩恵にはあずかれませんが)。
しかもこれだけで終わりません。これらの4収納は「モジュラーストレージシステム」によってひとつにキレイにまとめて持ち運ぶこともできます(下写真)。テント自体はそこまで小さく畳むことはできないのですが、こうした柔軟なパッキングができるということでストレスを最小限にしてくれています。
中身を出して付属品を並べてみました(下写真)。インナーテント・フライ・ポールの他、ペグは9本、ガイライン4本に補修用ポールと必要十分な装備が揃っています。ちなみにテント生地、ポール・ペグの材質などはすべて重量・耐久性ともに高いレベルの素材を使用しています。
1人用テントとは思えない広さが体感できる「テンションリッジ」ポールシステム
ポールの構造は一方が二股になっていてそれぞれテントの端を固定し、他方は1本で片側の中央を固定する(両端はペグ固定)形になっている半自立式となっています。
四隅をポールで固定する完全な自立式のテントの場合安定感はありますがポールが多く必要とになり、重量が増えてしまう。一方完全な非自立式テントはポールは減って重量が軽くできる一方、設営スペースが必要なことや耐風性の面でも不安があります。その意味で、ある程度のポールとペグの両方を使った半自立式は軽さと耐久性、建てやすさをバランスよく実現するのには良い選択といえます。
ただここで問題になるのは、半自立式は居住空間(特に上部の空間)が狭くなるという問題です。その昔このタイプのポール構造が出始めたばかりの頃は、この居住快適性の低さは軽さとトレードオフだからしょうがないと、諦めざるを得ませんでした。
その問題を大きく解決するのが、このテントで新しく実装された「テンションリッジ」と呼ばれるポール構造です。
テンションリッジとは、テントのちょうど頂点の位置にある、Y字型のトップポール部分のことをいいます。確かに、テントの頂点を横切るポールはこれまでも他メーカーの軽量テントで見たことがある人もいるかもしれません。しかしよく見ると、テンションリッジは他のテントと違ってポール両端がはっきりと上に向いています(下写真)。
その上向いたテンションリッジ先端にインナーテントループを引っ掛けることで、側壁部分を固定します(下写真)。
すると、側壁がほとんど垂直に立ち上がり、これまで感じていた窮屈感が嘘のように少ない。イメージとしては下写真の点線のように、これまで上部空間は狭くなってしまっていたのに比べ、テンションリッジによって頭部付近が大幅に拡張されていることが分かります。
「ポールの角度を逆(上向き)にすることで、テントに重量やかさばりを加えることなく、クラス最高の内部空間と換気を実現しました」とラー氏が別のメディアで語ったように、僅かな差ですがこのY字状に上向いた先端がテントの側壁を他よりも垂直に引き上げてくれ、頭上のスペースは2人用テントかと思うくらいに広々。天井も高く、上部空間は広く快適になるという仕組みです。長辺側に配置された出入り口のドアも高く大きくなり、1人用軽量テントにありがちなせせこましさは大きく改善されています(下写真)。
広々空間を支える細かい工夫として、頭側ボトム部分の頂点には芯材が入っており、壁がより垂直に立ち上がるようにも配慮されています(下写真)。
当然足元側も高く持ち上げられ、圧迫感は感じられません(下写真)。
底面は非対称の作りで奥にちょっとした膨らみが設けてあり、寝床の横にバックパックなどの荷物を置くスペースとして活用できます(下写真)。
前室は特別広いわけではありませんが、テンションリッジによってバックパックを無理なく置けるほどには余裕があり、ストレスを感じることはありません(下写真)。
参考として、インナーテントの全方向からの設置写真を掲載しておきます。
以下はフライを被せた全方向写真。フライをかぶせるとほぼ前後左右対称のドーム型に近い形状となり、垂直に立ち上がった側壁が風の影響をもろに受けるといった心配も、風向きによる影響差なども少なくなります。
「テンションリッジ」もう一つのブレークスルー。これまでになく効率的な換気性能の実現
アルト(&テロス)には、インナーテントがメッシュ(TR1)と非メッシュ(TR1プラス)という2つのパターンが選べるようになっており、その点は日本のような非メッシュ好きな国にとっても優しいラインナップと言えます(もちろん自分も非メッシュの方を選びました)。
一般的に非メッシュの超軽量テントでは、軽量化の問題もありどうしても通気性(換気しやすさ)がないがしろにされがちです。ところがこのアルトではその問題も見事に改善されています。その立役者はもちろんテンションリッジ。
テンションリッジポールが両端をせり上げることで、ちょうどテントの最上部にベンチレーション(換気口)を配置することができるようになっています(下写真)。
それに合わせてインナーテントの両サイド上部、さらには天井部にもメッシュの開閉式ベンチレーションを配置(下写真)。
こうして温かい空気や水蒸気が逃げるのに最適な最上部にベンチレーションが付いたことで、これまで以上に効果的な空気の流れが実現。室内の熱のこもりや、結露を抑制してくれます。正直言って(非メッシュで)ここまで抜けの良いテントは初めて、文句なしです。これまで我慢を続けていた超軽量テントユーザーから「これこれ!」という声が聞こえてきそう。
さらに「ベースラインベント」機能によって、フライを被せたままの状態でも最大限のエアフローを作り出す工夫がなされています(下写真)。バスタブの高さも比較的高めに設定されているため、このままで雨の侵入もさほど心配ありません。
もちろん、通常のようにフライ・テントの入り口を全開して通気性を最大化することももちろん可能です。天井まで高く開閉可能なため、開放感も十分です(下写真)。
環境や場所・シーンによらず、常に快適に過ごすことができるさまざまな設営モード
強風や豪雨、猛暑、湿潤、寒冷など多様な環境だけでなく、長期縦走から軽ハイキング、バイクパッキングやキャンプなどさまざまな目的の異なるシーンで使うことの多くなった現代では、テントに求められるニーズも多彩になってきてます。このテントはそうしたわがままな愛好家のために、さまざまなモードでの設営を可能とし、幅広いシーンで快適に使いやすく過ごすことができる配慮がされています。
まずは最も基本的な、インナーテントにフライシートを被せたパターン(下写真)。軽量テントにもかかわらず、試験施設での映像では十数メートルの強風下でもびくともしないことが示されていました。
雨の少ない気温の高い季節などはフライを外してインナーテントのみで使用することももちろん可能。これがメッシュタイプのインナーテントであれば、星空を眺めながら寝るなんてこともできます。その際はフライを捲くり上げるだけで部分的にフライを被せたりするなど、微妙な調整までも可能です(下写真)。
さらにフライだけでも設営が可能(下写真)。これは強い日差しと風を防ぎたい夏のピクニックなどにはピッタリです(下写真)。ここからインナーテントを中に設営することも可能で、これは先にフライを張って雨を防ぎながらテントを設営するといった安全面からも有効なオプションです。ただし、実際に建ててみて気になったのは、別売りのフットプリントがないとポールがやや横方向に間延びしてしまい、あまり上手くは立てられず、そこはちょっと残念。
まだまだ終わらない、細部まで考えられたこのテントにしか無い工夫の数々
これまで説明した革新的な構造だけでなく、このテントにはついついニヤリとしてしまうような使いやすく快適なニクい機能が散りばめられています。
下写真はフライシートを装着するクリップ。高耐久アルミのシンプルな構造にすることで、軽量かつ壊れにくく、着脱も簡単です(下写真)。
長さ調節もしやすくなっています(下写真)。
航空機にも使用される高品質の7000番台アルミ合金を採用したペグは変形Y字デザインで軽量かつ強靭。ロープを掛けるノッチが複数設けられているため、ペグを打ち込みにくい地面で浅打ちであったとしても地面近くに固定することができます(下写真)。
個人的にこのテントが素晴らしいと思えるのは、設営後のスタッフサックまで快適性向上のために総動員される点です。テント・フライを収納していたスタッフサックは室内の隅に取り付けて、小物入れとして活用することができます(下写真)。これには正直「やられた」と思いました。こうした隅々まで行き届いた細やかな気配りは、米一粒まで美味しくいただく日本人の得意技だったのに。
もちろん、通常のメッシュポケットも室内には標準装備されており、天井収納が換気で使えなかったとしても不便さはまったくありません(下写真)。
さらに極めつけ、個人的にも大のお気に入りパーツがこの「ライトバー」(下写真)。一見すると何の変哲もないテントポールの収納袋なのですが、中に白色半透明のプレートが仕込まれてり、テント内の天井に吊り下げることができます。
この中にヘッドランプを入れ、水平方向に明かりをつけると、あら不思議。まるで蛍光灯のごとくテント内を灯してくれるランタンとして活用できます(下写真)。ここにも、一片も無駄にすることなく便利パーツとして活用してしまう抜け目なさが。いやいや恐るべし、そしてあっぱれです。
まとめ:ファストパッキングからトレッキング、縦走、沢登り、バイクパッキング…。決して器用貧乏ではなくどんなアクティビティにも応えられる頼もしい住処
かなり長々とレビューしてしまいましたが、実際このテントにはまだまだ語り尽くせない特徴や魅力が山ほどあります。3年間の研究開発を経て満を持してリリースされたテントは伊達じゃない。それくらいにこのテントは、最近のアウトドアアクティビティ全般に対して幅広くしっかり適応してくれるようなきめ細かな適応力の高さが細部に至るまで考えられている、斬新で素晴らしく、スキのない1張といえます。
それでもあえてまだ欲しがる点があるとすれば、それは「設営の簡単さ」です。慣れている人ならばなんとなく上手く建てられますが、ビギナーの場合は「フライをポールに固定するための面ファスナー着脱」や「非対称な形状のテントをシワなくキレイに張る」ことが手間だったり、難しかったりするでしょう。また、個人的にはインナー・フライが一体型で、一気に設営ができるテントが大好きで、それが実現できればもう言うことはありません。
何れにせよ、テンションリッジを搭載した新しいテントのうち、特に軽量モデルであるこのアルトは、何よりもまずライト&ファストのスタイルを好むハイカーが、これまでの軽量さを犠牲にすることなく、極上の快適さを手に入れることができる新しい選択肢であり、彼らにはどストライクでアピールするはず。さらに重量と快適さ、そして耐候性の絶妙なバランスが魅力のアルトは、ウルトラライトに留まらず、通常の登山やトレッキング、沢登り、バイクパッキングなどでも満足のいく使い心地を得ることができるでしょう。ただしハードな使い方をする場合には、フットプリントで底面を保護することをお忘れなく。
キャンプなどでももちろん使えないことはないですが、そうしたライトなアウトドアレジャーには、同時に発売されたもう一つのテント、テロスの方がよりフィットします。それについては、今後のレビューをお待ち下さい。