
比較レビュー:登山用ガスストーブは結局どれを選ぶのがいいのか?比較してみた
前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて解説していきます。
各項目詳細レビュー
燃焼力
各メーカーが公表している出力(kcal/h)は、火力について取りあえずの参考にはなりますが、実際に鍋の中身が最も短時間で温まるのはどれなのか?それは実際に同じ条件の下で比べてみないことには分かりません。
そこで今回のテストでは同じ日時場所で、同じ温度の水が完全沸騰(蓋が間隔短く浮き上がる、PCSは水切り穴から勢いよく蒸気が出続ける)するまでの時間を比較することで、実質的な燃焼力の比較を行ないました。
沸騰までにかかった時間(無風)
アイテム | P153 | ウインドマスター | レギ | ジェットボイル | イータスパイダー |
---|---|---|---|---|---|
公称最大出力 | 3,600kcal/h | 2,800kcal/h | 2,900kcal/h | 1,512kcal/h | 1,900kcal/h |
沸騰までの時間 | 03m30s | 02m45s | 03m46s | 02m31s | 02m26s |
テスト条件 |
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最も沸騰時間が短かったのはイータスパイダー、僅差でジェットボイルでした。やはりヒートエクスチェンジャー付きの専用カップは有利です。ただそれらに次いで3位のウインドマスターも燃焼力が低いとまでは言い難い差であり、上位3モデルはいずれも高い燃焼力であったといえます。ここではスペック上の数値は必ずしも実際の燃焼力と一致しない結果となりましたが、もちろん環境や条件によって多少の変動の可能性は否定できませんので、常にこうなるとは限らないことはご留意ください。
耐風性
燃焼力テストでは無風状態でのテストでしたが、今度はもう少し厳しい利用環境、ある程度の風が吹き付ける状況での燃焼力を比較してみました。野外で使用する以上はこうした厳しい状況での使い勝手が重要です。
沸騰までにかかった時間(風あり)
アイテム | P153 | ウインドマスター | レギ | ジェットボイルミニモ | イータスパイダー |
---|---|---|---|---|---|
沸騰までの時間 | 04m21s | 03m41s | 06m29s | 03m58s | 03m09s |
テスト条件 |
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風防一体型のクッカーが有利なことを考慮しても、やはりイータスパイダーの実力は確かです。無風状態とあまり変わりません。また風防がないにもかかわらず、ウインドマスターが想像以上に健闘していたことも驚きでした。
一方でP-153は目に見えて沸騰までの時間が延び、レギにいたっては倍近い時間がかかってしまいました。両モデルともヘッド部分が露出した形状のため風の影響をもろに受けてしまいます。これらのモデルを現場で使用する際にはしっかりとした風対策の必要があります。風向きを考えた場所選びや風防などによる風を避ける工夫など、その場の自然状況への準備は常にお忘れなく。
燃焼効率
ここでは「いかに少ない燃料で効率よく温められるか」を比較します。ただ、厳密な計測は不可能に近いため、便宜的に各社が発表している時間あたりのガス消費量のほか、さらに実際に無風状態で燃焼テストをした前後で「新品のガスの重さ-使用後のガスの重さ」でも評価の指標とすることで、実際の使用に基づいた燃焼効率を比較しています。その結果は以下のようになりました。
沸騰までのガス使用量比較
アイテム | P153 | ウインドマスター | レギ | ジェットボイルミニモ | イータスパイダー |
---|---|---|---|---|---|
公称最大出力 | 3,600kcal/h | 2,800kcal/h | 2,900kcal/h | 1,512kcal/h | 1,900kcal/h |
公称燃焼時間 | 約55分(IP-250タイプガス使用時) | 約90分(SOD-725T使用時) | 非公開 | 非公開 | 約84分(IP-250ガス使用時) |
公表ガス消費量 | 245g/h | 130g/h | 235g/h | 120g/h | 160g/h |
沸騰までのガス使用量 | 11g | 8g | 13g | 7g | 8g |
予想通りジェットボイルの燃焼効率の良さが頭一つ抜けていましたが、ウィンドマスターとイータスパイダーも負けてはいません。総じて出力(火力)は低くても実際の沸騰時間が短かったモデルというのはガス消費量も少なくてすむ(=燃焼効率がいいストーブ)という傾向になりました。
重量
今回はセット内容の異なるモデル同士のため比較方法ではやや悩ましいのですが、最初に述べたように、できる限り条件を揃えるためPCSはセット全体を、単体モデルはmont-bell アルパインクッカー 14(0.8L 実測180g)を使用したとして実際の重量を計測し、比較しました。ちなみに着火装置や収納ケースは除いています。
重量比較
アイテム | P153 | ウインドマスター(+SOD-460) | レギ | ジェットボイルミニモ | イータスパイダー |
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セット重量 | 295g(115g) | 267g(87g) | 402g(222g) | 440g | 635g |
※()内は本体のみの重量
最軽量はウインドマスター、次いでP-153と、やはり直結型モデルはクッカーをシンプルにすることで重量も少なくできます。レギはPCS程ではないにしても分離型の分だけやや重く、残りのPCS2モデルは熱伝導フィン付きのクッカー・コジー・湯切り蓋・計量カップ・スタビライザーなどがセットである分、軽くしようとしても限界があります。とはいえ個々のパーツが無駄なわけではないので、このあたりは重さをとるか、スマートさをとるかというトレードオフになりそうです。
収納性
この項目も重量比較と同様、PCSはセット全体を、単体モデルはmont-bell アルパインクッカー 14を使用したとして比較しました。すると一番コンパクトに収納できたのがP-153。驚異的なコンパクトさは下の写真を見ても一目瞭然。僅差ですがウインドマスターも今回のクッカーにガスカートリッジごとすんなりと収まります。一方レギはヘッドやガス供給管など大ぶりなサイズのためアルパインクッカー 14には収まりきらず、写真のように一回り大きなアルパインクッカー 16(1.5L)に入れてちょうどよい大きさでした。なお、PCSも元々ガスカートリッジと一緒にスタッキングできるようになっていますので、決して使い勝手が悪いわけではありません。
安定性・使いやすさ
ここでいう安定性とは、鍋をのせて調理したときの安定性を示しています。大前提として、火力の調整やとりまわしの良さに関しては今回比較したどのモデルもハイレベルにまとまっているため、どれを選んだとしても使い難いという印象のモデルはありませんでした。そのうえで、さらに細部の使い勝手を「セッティング(片付け)のしやすさ」「調理・食事のしやすさ」「その他機能」の3点に注目し、評価しています。
セッティングのしやすさについては、やはりシンプルな構造のP-153、ウインドマスターは総じてセッティングも片付けも楽です。特にP-153は点火装置を含めて部品がひとつしかなく、煩わしさはゼロ。その他のモデルはパーツを組み立てたりする分、若干手間がかかる、部品を無くしやすい等のリスクがあります。
次に調理・食事のしやすさについてはイータスパイダーの安定感が際立っていました。低重心の安定性もさることながら、焦げにくく広口のクッカーや見やすいリッド、微妙な火力調整も難なくこなし、調理するには最適です。ジェットボイルミニモは簡単な調理でも安定しているだけでなく、調理後に直持ちできるネオプレン製の一体型コジーがとにかく便利です。またレギの独特な設計もある程度高く評価できるものでしたが、2本の脚が自由な長さに固定できないない、ガス供給管が硬いなど、安定させるには思ったよりもコツがいる感じがしました。
その他の点で見逃せなかった点をいくつか挙げると、寒さ対策としてウインドマスター、ジェットボイルは「レギュレーター」機構を、イータスパイダーには「プレヒート」機構があり、厳しい低温状況でも安定した火力を発揮できるメリットがあります。P-153とイータスパイダーの円形ツマミは繊細な調整も素早い調整もしやすく、他モデルのワイヤーツマミは素早い調節が難しいためその分扱いにくく感じます。またジェットボイルの点火装置はテスト中どのような環境でもほぼ一発で点火し、他モデルと比較しても優秀でした。
まとめ
今回の比較レビューではPCSが有利な結果になることはある程度予想の範囲内でしたが、それにもかかわらずウインドマスターのタフさには驚かされっぱなしでした。逆に最大級の火力を持っていて、おそらく日本で最も売れているであろうP-153は(決してモノ自体が悪いわけではないものの)比較ではいまいち伸び悩み、個人的に愛用していた身としてもちょっとショック。カタログスペックや人気だけでは結果はわからないものだとあらためて感じました。しかし今回はあくまで条件が限定されたテストで、また環境が違えば異なる結果がでるかもしれません。なによりも大切なのは、自分の使用環境にあった相棒を選ぶことだと思います。軽量でオールラウンドなウインドマスター、燃焼効率と使いやすさのジェットボイル、重くても安心の使いやすさのイータスパイダー、マイルドな野営中心なら使いやすいレギなど、それぞれ目的に合わせて最適なモデルを選んでみてください。