比較レビュー:素足で走る楽しさを。ミニマリスト系 トレランシューズを履き比べ
公園で遊ぶこどもたちを眺めていると、人間は裸足で歩く生き物なんだと再確認できる。
できる限り裸足に近い状態で走りを追求する、いわゆるミニマリスト系ランナーが生まれて久しい。彼らは足の保護を極限までそぎ落とし、人間に本来から備わっている足の働きのみを最大限に引き出すことによってより速く、遠くまで走ろうとする。それによって普通のシューズで走るよりも正しく身体を鍛えたり、理想的なフォームを実践したり、より自然を堪能し、自然との深い対話を可能にする。一方、急に飛びつけばケガや疲労のリスクもあり、誰でもがすぐに飛びつける世界でもない。ともあれ、ランニングという行為のこれまでにない新しい価値を教えてくれる、刺激的な世界であることは間違いない。
そうした裸足感覚を堪能できるランニングシューズは、クッション性が足袋のようにほとんどないベアフットシューズと呼ばれるものから、ある程度のクッションを備えつつ前足部とかかとの高低差が少ないゼロドロップシューズなどいくつかの種類が存在するが、ここでは総称して「ミニマリストシューズ」と呼ぶことにする。そうしたランニングシューズがトレイルランニングでも増えてきた。日本ではALTRA、inov-8、New Balance、Merrell、Zero Shoes、そして五本指シューズで知られるVibramなどさまざまなメーカーからオフロードを走るためのミニマリストシューズが登場し、それぞれにコアなファンが存在している。
いずれもソールが薄く、ドロップ(シューズのかかと部分とつま先部分の高低差)が小さく、最低限のプロテクションやクッションが特徴だ。 今回は認知度が高めのブランドや、日本初上陸のブランドまで、トレラン系ミニマリストシューズを比較してみた。
目次
比較テストしたトレラン系ミニマリストシューズについて
ドロップは0mmから4mmまでで、裸足感覚で走れ、路面を感じやすいモデルや、最低限と言えども機能面が長けているモデルなどを選択した。
- Topo Athletic Terraventure 2
- ALTRA SUPERIOR 4
- Vibram FiveFingers V-Trail 2.0
- ニューバランス MT10 GD
テスト環境
さまざまな路面状況で比較するため、硬いロードやトレイル、芝、ぬかるみなど路面バリエーション豊富にテストした。テストフィールドは丹沢や自然公園内のトレイルなど。岩場やダウンヒル、硬い舗装路などを実際に走ってみて以下のポイントを評価した。
- 快適性・・・快適な木型、トゥーボックスやフッドヘッドのフィット・窮屈感、通気性などを考査。
- 繊細さ・・・いかに足裏の感覚の繊細さを保ち、地面をダイレクトに感じ、裸足と同じような自然なコンタクトが実感できるかを判断。
- クッション性・・・着地時の衝撃吸収性や蹴り出しの反動力を判定。
- グリップ・・・どれだけ着地時のブレーキングでスリップしにくく、蹴り出し時に踏ん張ることができるか判断。
- プロテクション・・・アッパーやアウトソールが薄く、軽量モデルが目立つミニマリストシューズゆえに評価した。
- 重量・・・単なる軽量と言うのではなく、ミッドソールなどの構造を鑑みて、実際に走ってみた際の重量感も検討。
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方は こちら
各モデルのインプレッション
Topo Athletic Terraventure 2
ここが◎
- 快適で通気性の高いアッパー
- 柔軟性とクッション性の高いソール
ここが△
- ミニマリストシューズというにはゴツすぎる
2013年に創立したばかりのシューズメーカー、Topo Athleticが今シーズン日本初上陸。創設者はブランド名の由来でもあるTony Post。Vibram USAでVibram FiveFingersの開発を手掛けた人物であり、徹底して走るという行為を研究し続けた結果生み出されたシューズの実力は確か。そのTopoからトレイル向けランニングシューズとして、Terraventure 2 を選んだ。
シューズ全体は統一感のあるデザインで好感がもてる。公式重量は306g(M9)。足入れしてみたところ、トゥーボックスは広い「ROOMY TOE BOX」という設計でゆったりとして心地よい。後述のALTRAに近い感じであるが、こちらはアッパーに通気と軽量化を重視した素材「Lightweight breathable materials」を採用しているところが特徴で、より蒸れを感じにくい。インソールには通気性と衝撃吸収に優れた「Ortholite」を採用しているが、普通のランニングシューズのそれよりもかなり貧弱な印象だ。
走りの感覚的には、うっすらと足裏の感覚を感じながらも思った以上にクッション性が高く、快適なことはこの上ない。ミッドソールには繊維樹脂製の柔軟性が高い「ESSロックプレート」を内蔵した「Rock protection plate」を採用し、快適性と安定感が高い。ドロップも3mmと脚力に自信がない初心者にも優しい。アウトソールは「Vibram XS Trek」で、柔らかさとグリップ力のバランスがよく、比較的スリップせずにトレイルをしっかりとらえ、走りを後押ししてくれた。ただその分、今回の比較の中ではベアフット感(繊細な足裏感覚)には乏しいことは否めない。ミニマリストシューズとして考えるとやや物足りなさを感じる方もいるかもしれない。いずれにせよ、脚力の弱い人も安心してフォアフット走法への導入として試せる一足だ。
ALTRA SUPERIOR 4
ここが◎
- 快適なフィットと足の自由さ
- クッション性と繊細さとのバランス
ここが△
- トゥーボックスが広いため足が靴の中で動きやすい
- グリップ力
足や腰への負担が少なめのゼロドロップ構造で人気のALTRAからはSUPERIOR 4がエントリー。もうこれ以上削る部分がない、完成されたシューズという評価が定着しているらしい同モデルの、満を持してのフルモデルチェンジというが……。
まず、足を入れてみると、確かに完成されたといわれるだけあって、履いた時の快適さは格別だ。全体的に柔軟で足に吸い付くような密着感が得られ、それでいてALTRAらしくトゥーボックスは広々、肌当たりもしなやか。アッパー(親指あたり)の高さにゆとりがあり、さらに素材もストレッチして自由度が高い。ただ人(足?)によってはフィット感が足りないという印象をもつかもしれない。ヒールカップも薄くて柔軟な割にしっかりと固定してくれる感覚がある。柔らかな感触で衝撃吸収性も高いフッドベッドは、標準オプションでストーンガードというプレートが付属しており、必要に応じて地面からの突き上げ防止に挟んで使用することができる。
ロードやトレイルを実際に走ってみると、ミッドソールの弾力が強く、着地時に足裏が適度に沈みこむような印象。新モデルから取り入れた新素材「QUANTI」の影響によるものだろうか。ソールの厚みはつま先・かかと共に21mmと、今回の中では厚い方だがアウトソールはラグが浅めで、着地時の衝撃を抑えながら、路面の凹凸は適度に足裏に伝わってくる、裸足感覚はそこそこに味わうことができる。
ただ、グリップに地面をとらえるような粘り気を備えた「MAXTRAC」グリップを組み合わせたアウトソールは、残念ながら今回の比較では最も滑りやすく、相対的なグリップ力は低かった。とはいえロードからトレイルまで幅広く対応する汎用性の広さは見逃せない。ミニマリストシューズ初心者で、ロードとトレイル両方楽しみたい、ショート~ミドル向けランナーに最適なトレイルランシューズといえよう。
Vibram FiveFingers V-Trail 2.0
ここが◎
- 絶妙なフィット感
- 繊細な裸足感覚
- 濡れた路面でも食いつくアウトソール
ここが△
- 衝撃吸収力
- プロテクション
五本指シューズで知られるVibram FiveFingersからは、トレイルやオフロード向けシューズV-Trail 2.0をピックアップ(前作V-Trailの進化モデル。実のところ、前々作のSpyridonから愛用中)。足を入れた感触は、当然だが他の3足とはまったく違うものだ。他の3足は、極論すれば基本的にひもを締めた場所が締まる感触だが、Vibramのそれは紐を締めた時に足指から甲・踵周り全体にいたるまでまんべんなく締まる感じ。言葉で伝えるのは難しいが、とにかく別次元のフィット感を味わることができる。
予想通り、地面からの突き上げや衝撃は半端なく強く受けやすい。これが本当のベアフットかと思わせるのに十分だ。ロードと違って傾斜や岩などで危険な突起物が多いトレイルでは、足の置き方次第ではダメージがどんどん溜まっていってしまうため、足運びには慣れが必要だろう。乗りこなすのにかなりの経験が求めらえるのは確かだ。つま先部分のプロテクションは前作よりも強化されたとはいえ、根っこや岩場などにぶつけた際の衝撃はまだ安全というほどでもない。
ただ、そのハードルを越えたランナーにとって、ある意味楽しく履きがいのあるシューズもないのではないか。それは唯一無二の裸足感覚による繊細なステップのしやすさ、そしてアウトソールの「Vibramメガグリップ」による、抜群のブレーキングとトラクションがあるからだ。アウトソールは浅くソフトなラグにもかかわらず、濡れた岩や土の上などの滑りやすい路面でも食いつきが抜群にいい。指の間まで含めたフィッティングの重要性は言うまでもなく、サイズ選びは入念に行う必要がある。下りなどの着地時、基本的にはフォアフット着地を想定されているが、万が一のためにも、かかと部分のアウトソールにも補強はあってもいいのではないかと思う。
総じて、裸足感覚のナチュラルな感覚良くも悪くもビビッドに得られる、ベアフットランニングを実践するのにこれ以上ない個性を備えたトレイルランニングシューズだ。ロードでもトレイルでも変わらず至高の裸足感覚を楽しむことができる。ただその分、脚力と慣れがそこそこ問われるのが五本指のVibram FiveFingers。まずは普段履きで慣らしてから、ロードランやトレイルランに取り組む方がいいだろう。
ニューバランス MT10 GD
ここが◎
- 裸足感覚でありながら最低限のクッション・プロテクション
ここが△
- ベアフット系の中での中途半端感
日本でもお馴染みのスニーカーブランド、ニューバランスからは2012年に登場したトレイルランシューズの再デビューMT10 GDを選んでみた。MTとはMinimus Trailの意味。名前の通り、トレイルランニングシューズにもかかわらず機能を最小限にそぎ落とすというコンセプトが込められている。さすがはNB、面構えとカラーリングは今回の中でもずぬけてカッコいい。評価とは関係ないが、普段履いていてもまったく違和感がない。
実測重量は208g(27cm片足)と、さすがに軽量だ。アッパーには伸縮性があるメッシュ素材が使用されており、通気性は良い。全体的には柔軟なのだが、指の付け根部分の甲を横切るように張られたベルト状の生地が前足部を締める役割をしており、そこが若干窮屈に感じられる。ひもを少しでもきつく締めるとその部分にかなりの圧迫感がダイレクトに地肌に伝わってくる。そもそもメーカーも若干大きめを選ぶことを謳っているが、サイズ選び・靴のフィッティングは慎重行う必要がある。
実際に走ってみた感じは、極力切り詰められたアッパーとソールが素足で走っている感覚を確かに感じさせてくれると同時に、Vibramよりは適度なクッション感も感じられるため、まさに快適な裸足で走っている感覚。実は上できつく感じられるといっていたバンドを含めて、自然とフォアフットしやすいよう計算されたデザインで、走り自体は心地よい。Vibramアウトソール全体に配置された丸いラグは、ロード、トレイルのどちらにも対応できる汎用的なグリップ力で足運びはとてもスムーズにできるが、ウェットなコンディションは不安が残る。ソールの厚さは1cm設計ではあるが、ダウンヒルなどの地面からの反発力が強いトレイルではグリップ力はやや心許なく、足への負担は大きかった。
まとめ
過剰なクッション性やプロテクションをなくした、トレラン系ミニマリストシューズ。
確かに一般的なランナーにとって、しっかりとしたクッションと安定性・グリップを備えたソールの方が走りやすいことは間違いない。また、ドロップが少ない(あるいはゼロ)ということは、踵からつま先にかけてローリングするような前への蹴り出し感覚が得られにくいこともあり、ミニマリストシューズは万人に安易に勧めていいものではない気もする。
とはいえ、山の中で裸足感覚を味わいながら、より自然に近づきたいというの思いは、野山を走ることを突き詰めれば誰もが一度は考えることでもあり、その好奇心と情熱を押し殺してしまうのはあまりにも惜しい。
今回のレビューで示したように、幸いにも今の時代はミニマルな走りを楽しむにも多様な入口が用意されている。裸足感覚に走れる面は残しつつも、快適性や機能性が充実しているTerraventure 2や、SUPERIOR 4からはじめてもよいし、スピードや距離を抑えながら、いきなりMT10 GDやFiveFingers V-Trail 2.0にチャレンジするもよし。それぞれの目的やレベルに応じて、このレビューを参考に選んでみて欲しい。