「リサイクル原料から作り、使い終わったら土に還る」 ポーラテック社が語った、アウトドアウェアの未来
『ポーラテック(Polartec)』といえば、フリースや中綿入りパーカなどの防寒ジャケットはじめ、ベースレイヤーから防水通気ジャケットまで、過酷な環境で安全・快適に過ごすための高機能アウトドアウェアに欠かせない合成繊維素材を幅広く展開する世界的生地メーカー。多少なりともアウトドアに触れた人ならば、この名前を知らない人はいないでしょう。
そのポーラテックから2019年1月30日、衝撃的な声明が発表されました。それはPolartecが今後全製品ラインにわたって、リサイクルされ、さらに生分解性の原料を使用していくことを進めていくという「Eco-Engineering™ initiative」に関する宣言です。
今回はその取り組みと、それが示す意味、それによって変わるアウトドアギアの未来について探るべく、同社のEU・アジア地域セールスマネージャーのエリック氏と、製品開発担当のトーマス氏に直接話を伺うことができました。
目次
「リサイクル&生分解可能繊維」という衝撃
声明によって発表されたのは、地球環境の保全にとって重要な2つの性質を合わせもった画期的な素材。それは持続可能なテキスタイルの新しいスタンダードといえます。
トーマス:今回発表された取り組みは、多くの先駆的な技術力をもった企業とのコラボレーションによって生まれました。まず2006年から共同開発をはじめたUnifi社の協力によって、優れたリサイクル繊維(糸)を生み出すことに成功しました。そこにIntrinsic Advanced Materials社による画期的なCiCLOテクノロジー(ポリエステルを生分解可能にする技術)を組み合わせることで、我々は「生分解可能なリサイクル合成繊維」を実現したのです。この「リサイクル&生分解可能繊維」によるはじめてのフリース製品は2020年までには投入予定です。
フリースのリサイクルから始まった、30年続く持続可能性への挑戦
ポーラテックの環境への取り組みは、何も今、突然に始まったことではありません。それは1993年の、リサイクルポリエステルによるフリース製品の開発にさかのぼることができます。
エリック:ポーラテックが環境に優しい技術の開発を始めた具体的な日というのは一概に決めることは難しいですが、最終製品という点でいうと、そのスタートは93年パタゴニアとの共同で、ペットボトルから製造されたリサイクル・ポリエステルのフリース製品まで遡ることができます。その後2010年にはUnifi社と共同で100%リサイクルされたポリエステル、Repreve® を開発するなど、現在にいたるまで、生地の品質と持続可能性については一歩一歩着実に進化が続いています。
ポーラテックが環境と社会に責任をもつ企業として行っている取り組み全体は、「Eco-Engineering™」という枠組みにまとめられている。
エリック:たとえ製品が人や環境に優しいとしても、それを生産する工場や設備が人に害をもたらしているとしたら、それは人や地球環境に対して責任を果たしているとはいえません。我々は、持続可能なサプライチェーンを経た製品に付与される「Bluesign認証」と、人と地球に優しい繊維製品の証である「Oeko-tex認証」、その他多くのグローバルな環境基準を満たした工場による生産を開始し、人と環境に対して安全で持続可能な生産への取り組みをあらゆる面で進めています。ポーラテックでは、こうした製品そのものだけではなく、生産設備をはじめありとあらゆる工程で高品質と持続可能性を両立させる枠組み全体を総称して「Eco-Engineering™」と呼んでいます。
2019年1月の声明は、こうしたポーラテックが30年以上にわたって取り組んできた地球環境に対する責任を果たす行動の一つの集大成であり、将来に向けた大きな通過点であるといえます。
ポーラテックが目指すテキスタイルの最終地点
世界初の完全リサイクル&生分解性のフリース、アウター、その他のジャケットの開発は「夢ではない」。
トーマス:リサイクル&生分解性繊維の取り組みは、まずポリエステル製品からはじまります。それは当社が最も多く生産し、最も多くの人々が使用しているということが大きな理由です。そして順次、ナイロンやポリウレタンといった他の繊維のリサイクル&生分解素材化に取り組んでいく予定です。
この取り組みが目指す最終目標は、世界で初めて、完全にリサイクルされ、なおかつ生分解性のフリース、防水通気ジャケット、その他の中綿ジャケットといったあらゆる製品の生産を可能にすること。将来的に我々が思い描く世界では、すべてがリサイクル原料から作られ、今よりも耐久性が高く人々が長く使え、最終的にはまたリサイクルすることが可能であったり、捨てても土に還ってゴミにならない、そんな世界が近い将来実現すると信じて取り組みを進めていきます。
「ハイパフォーマンス × サステナブル」を体現したポーラテックの最新素材
こうしたポーラテックの技術力と環境技術の高さがいかんなく発揮されているのが、昨年、今年と立て続けに発表された最新素材たちです。このそれぞれ2つの素材について、ポーラテック社が考える素材の魅力や優れた点について、あらためて聞いてみました。
Polartec Power Fill
トーマス:Power Fillは「独特の幾何学的形状で設計された、柔らかく柔軟なポリエステル繊維のマトリックス」です。この中綿素材の一番の特徴といえば、軽量で高い断熱性能を有しながら、同時に優れた耐久性と中綿パネルの偏りにくさ(consistency)が挙げられます。このため中綿をバッフルなどに小分けにする必要がなく、余計な縫い目を省くことができるため、クリーンな表面を保つことが可能になります。耐久性の高さと安定感は何度洗ってもその性能が落ちにくいという使い勝手の良さにも繋がります。そしてもちろん、100%リサイクル・ポリエステルから作られているということも、大きなアドバンテージです。
現時点では基本的なバージョンしかありませんが、将来的にはよりさまざまなバリエーションを検討しています。例えば通気性が高く、熱をため込み過ぎないような快適性を高めたバージョンや、ストレッチ性を追加した、より機動性の高いバージョンなども開発を進めています。もちろん並行して素材のリサイクル性と生分解性能についても高めていくことにはなります。
さらに、現在は防寒アウターの製品しか展開されていませんが、Power fillのような優れた汎用性をもったインサレーションは、当然衣服以外の用具への活用の可能性も当然検討されています。すでにグローブやフットウェアへの応用は始まっていて、近い将来製品のリリースがあるだろうと思います。
Polartec Power Air
トーマス:Power Airを開発するにあたって最も難しかったのは、いかにして起毛しない(=マイクロファイバーを出さない)防寒生地にするかということでした。
Power Airは、機械的に立毛され、剪断された糸に頼る従来のインサレーションとは異なり、小さなカプセル状のセルを敷き詰めることによって形成されたユニークなこの構造によって、絶縁された空気を文字通り閉じ込めることができるのです。
カプセルの中で吹き出すように封入された繊維は、暖かい空気を保持するスペースを作り、断熱効果を生み出します。しかもその中の繊維は部屋のなかに閉じ込められているため、その繊維から排出される微細なポリエステルが外に漏れだすことはなく、結果として通常のフリースの5倍もマイクロファイバーを抑えることが可能になったといいます。ストレッチ性も十分そなえ、フリースの進化系といわれるのはそのためでしょう。
こちらも現在は1年目ということもありベーシックなバージョンのみですが、今後はストレッチ性や肌触り・重量・厚さなどを調整しながら、ベースレイヤーをはじめさまざまなレイヤーへの応用されていくようになります。
まとめ:世界初の完全リサイクル&生分解性アウトドア・ウェアの開発はもう「夢ではない」
地球環境の危機について、決して敏感とはいえない日本に住んでいると、この問題の切実さには気づきにくいかもしれません。ただ化学繊維などアウトドア製品に使われる素材に関して、持続可能性の実現に対する期待や、それを取り巻くさまざまなプレーヤー間の競争は確実に、そして加速度的に高まり、激化していることは、彼らの言葉からひしひしと伝わってきます。
もちろん、こうした地球環境に対する私達の責任を果たす取り組みを活かすも殺すも、最終的にはユーザーであるぼくたち次第であることを肝に銘じつつ。これからも、そしてぼくたちの後の世代になっても、すべての人々が等しくアウトドアを楽しめる世界を守っていきたいものです。