Review:finetrack カミナドーム2 安定のフォルムの裏に、最新素材と確かな技術の数々を備えた新しいスタンダード
『遊び手が創り手』を標榜し、メイドインジャパンにこだわりを持つ神戸発のアウトドアメーカー、ファイントラック。後発ながらも先進的かつ革新的な技術・製品はアウトドア業界で常に注目を浴びており、その源泉となるのはスタッフ自らがフィールドに足を運び、アクティビティを通じて積み重ねた経験・アイデアを基にした商品開発。『本当のアウトドアウェアとギアを創れるのは、本気で遊べる者だけ。』メーカーという立場でありながら、ユーザー目線でのモノ創りを進める同社は革新的な5レイヤリングシステムを提唱し、様々なアクティビティに対応する機能性ウェアを開発し続けています。また、かねてからツェルトにも定評があったファイントラックは一昨年、ついに山岳用テント「カミナドーム」を発売し、多くの登山者から注目を集めました。スタッフ自らが本当に欲しいものを素材から開発し、モノ創りを行なうファイントラックが創る山岳用テントとは如何ほどのものか・・・。購入から1年半、実際に使用した感想と今後の可能性についてレビューします。
目次
finetrack カミナドーム2の大まかな特徴
極細繊維を使用した生地による軽量化を図り、その軽量性と本来トレードオフの関係となる強度・耐久性を同時に実現し、さらに広く快適な居住空間を兼ね備えコンパクト性も追及した、妥協のないフルスペック仕様。「日本の山岳環境で思う存分に使い倒せるテントが欲しい」という思いをカタチにし、豊富なオプションアイテムを組み合わせることで冬期での使用も可能にした4シーズン対応テントです。2人用のカミナドーム2のほか、カミナドーム1(1人用)、カミナドーム4(4人用)がラインナップされています。
ここがすごい
- 自立式ダブルウォール型としては異例の軽さ
- 豊富なオプションで冬期も使用可能
- パッキングしやすい収納形状
- 修繕パーツの手に入れやすさ
ここが気になる
- 出入りしづらい中央配置の出入口
- 価格
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
就寝人数 | 2名 |
カラー | オレンジ/グレー |
公式重量 | 1,280g(ガイライン・ペグ・収納袋含めて1,430g) |
実測重量 | 1,279g(ガイライン・ペグ・収納袋含めて1,438g) |
フライ素材 | 15デニール ナイロン66 リップストップ |
インナー素材 | 7デニール ナイロン66 リップストップ |
インナーボトム素材 | 30デニール ナイロン66 リップストップ |
ポール素材 | アルミ合金(超々ジュラルミン) |
サイズ | 間口212×奥行130×高さ105cm |
収納サイズ | 本体:8×17×27cm、ポール39cm |
フロア面積 | 2.76㎡ |
前室面積 | 0.64㎡ |
耐水圧 | ・アウター:1,600mm(初期値) ・インナー:1,800mm(初期値) |
付属品 |
|
オプション |
|
居住快適性 | ★★★★☆ |
設営・撤収の容易さ | ★★★★☆ |
耐候性 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ |
重量 | ★★★★★ |
携帯性 | ★★★★☆ |
汎用性 | ★★★☆☆※オプション品との組み合わせ次第 |
総合評価 | ★★★★☆ |
詳細レビュー
収納サイズ
収納はテントとポールの2つに分かれます。この他にペグ・補修用スリーブの入った小さい収納袋もありますが、ポール収納袋にまとめて収納することが可能です。また、テントの収納袋は若干ゆとりを持たせてあり、私はオプションであるフットプリント(グラウンドシート)、オプショナルロフトもまとめて収納しています。このゆとりのあるサイズのおかげで荒天時など撤収を短時間で済ませたいシーンでも畳まず無造作に押し込むだけで収納することが可能です。テントの収納形状は円筒形ではなく直方体で、ザック内にデッドスペースができにくい省スペース設計となっているところにも好感が持てます。
重量
山岳テントを選ぶ上で重要な要素となる重量。カミナドームは最高レベルの軽量性と謳っていますが、他社の同クラス(ダブルウォール・2人用)製品と重量を比較してみました。※数字は公式重量
本体重量(テント・ポール・フライ) | 総重量(本体+ペグ・張り綱・収納袋) | |
---|---|---|
fintrack カミナドーム | 1,280g | 1,430g |
mont-bell ステラリッジ2 | 1,410g | 1,610g |
アライテント エアライズ2 | 1,360g | 1,580g |
比較対象としたのはモンベルのステラリッジ、アライテントのエアライズ。おそらくこの2つがカミナドームを購入する際に引き合いに出されることが多いのではないかと思いますが、本体重量、そしてペグや張り綱も含めた総重量においてもカミナドームが最も軽いという結果に。付属ペグの本数がカミナドーム8本に対し、ステラリッジ、エアライズがともに12本という条件ではありますが、カミナドームの総重量にペグ4本分(4本×11g)を足したとしても結果は変わりません。それにしても1,500gを切るこの軽さには驚かされます。実際の重量は、本体重量は公表値よりわずかに軽く1,279g。ペグやガイライン(張り綱)、収納袋を含めた総重量は1,438gでした。(付属品の補修用スリーブ11gを含めると1,449g)公表値よりも若干重い結果になりましたが、この程度の僅かな誤差であれば許容範囲であると言えるでしょう。
設営
設営は一般的な自立式の山岳テントと変わらず、2本のポールをインナーテントのスリーブにクロス状に通し立ち上げ、フライシートを被せてからガイライン(張り綱)を設置するというスタンダードなもの。
山岳テントの代名詞とも言われるモンベルのステラリッジ、アライテントのエアライズは片側のスリーブ末端が袋状になっていることで、設営を簡素化し設営時間の短縮にも繋げていますが、カミナドームは両側ともグロメットにポールを差し込み固定する仕様となっています。このスリーブ形状と設営方法は個人の好みによって分かれるところだと思いますが、カミナドーム購入当初はポールがグロメットから外れ反対側に回ってまた固定し直すといった煩わしさを感じたことも何度かあったような……個人的な推測ですが、構造をシンプルにすることでパーツ同士の摩耗や劣化を防ぎ、修繕もしやすくしているのではないかと考えています。
フライシートは四隅に配置されたグロメットとポールによって接続。ちなみにオプションのフットプリント(グラウンドシート)も同様の接続方法となっています。ガイライン(張り綱)はフライシート側ではなくインナーテントのポールスリーブに取り付けられており、フライシートの通し穴に通してペグダウンします。
フライシートにはアジャスター機能が付いているためフライシートのテンション(張り具合)を調整することが可能です。テントをキレイに(見栄えよく)張りたい私にとってはこういった微調整が可能な工夫に好感が持てます。
本体
初めてこのテントを手にした人はその生地の薄さに驚くかもしれません。インナーテントは7デニール(ボトム部分は30デニール)、フライシートは15デニールと極めて薄い生地が採用されています。とくにインナーテントに関しては天気が良ければテント内部がうっすら透けてしまうほど(笑)。この極薄生地は軽量化を実現させているだけではなく、しなやかで畳みやすく収納性にも貢献しているように感じます。
さて、極薄生地採用となると気になるのがその耐久性です。インナーテント、フライシートともに補強糸(インナー:30デニール、フライ:40デニール)でリップストップ加工されており、破れや引き裂きに対する耐久性を向上させています。また、ポールのしなりによって負荷(張力)が掛かる部分には内側からダイニーマテープによる補強を施し、構造的な強度を高めているようです。ガイラインもフライシートではなくポールスリーブに取り付けられているため、耐風性も気になりません。
ベンチレーションはメッシュの付いた二重構造。メッシュによって厄介な虫の侵入を防ぐことができますが、紐を絞って結んで固定するシンプルな造りのため、私は自前のコードロックでワンタッチ式に改良して使用しています。
また、このベンチレーションはフライシート側のベンチレーションとスナップボタンで連結することができ、形状を保持させることで効果的な通気・喚起を可能にしています。
出入口は長辺側中央にあり使い勝手の良いダブルスライドファスナー仕様で、開け閉め用ファスナーとは別のファスナーを操作することでメッシュに切り替えることが可能です。風通しが良くなり夏場でも快適に過ごすことができ、換気をする際にも重宝します。
フライシートのファスナーは凍結に強いビスロンファスナーが使われており、こちらもダブルファスナー仕様。出入りの際は下側スライダーを上方にスライドさせて使用しますが、上側スライダーを下方にスライドさせることによって前室で調理する際の換気をはじめ、ファスナーを全開にせずちょこっと頭を出してテント外の様子を確認することもできます。
ポールは軽量性と強度を兼ね備えたアルミ合金製(超々ジュラルミン)。世界的なポールメーカーであり、アウトドアチェアやコットを展開するヘリノックスの母体であるDAC社製。モンベル、アライテントをはじめ、ニーモやヒルバーグ、コールマンと国内外多くのメーカーで採用されていることから信頼性の高さが窺えます。
ペグもポールと同じDAC社製ですが、こちらはアルミ合金でもチタンや銅などを混合した「TH72M」素材のモノで1本あたりの重さは11g。軽さだけでなく強度も十分でポール同様、様々なメーカーで採用されています。
テント内部
内部は他社のテント同様、一般的な2人用サイズ。特別広いといったことはありません。剛性の異なるポールを使用することで壁が高い角度で立ち上がり、頭上付近の面積が一般的な山岳テントと比較して1.4倍の広さという触れ込みですが、正直なところそこまで実感はできていません。
テント内はウィンターライナー(オプション)装着用のループ、小物置きとなるオプショナルロフト(オプション)装着用のループが設置されています。
本来の使用方法ではありませんが、細引き(ガイロープ)をループに通すことでタオルやシェラカップを掛けることも可能になります。小物収納用のポケットも設置されており、スマートフォンや見失いやすい小物を入れておくのも良いかもしれません。
前室の広さについても、長辺側に出入口を持つ他社のテントと比較すると広くもなく狭くもなく平均的なサイズといったところでしょうか。2人分のトレッキングブーツは難なく置くことができ、バーナーやクッカーといった調理道具の置き場としても有効に活用することができます。
実際に使ってみたインプレッション
冬期以外の3シーズン、様々な条件下(山・天候)で使用してきました。購入当初は生地の薄さもあり細心の注意を払い使用していましたが、穴が開いたりすることもなく使い続けていくうちに強度と耐久性に対する不安が信頼へと徐々に変わってきたというのが正直な感想です。
強度に関してダイニーマテープが使われているからどうとか、ポールの材質がどうとか、そういったことはわかりませんが、設営したテントを上から手でグッと押し込んだ際の反発力と生地の強さは感じることができました。設営は先にも触れていますが、モンベルステラリッジなどと比較すれば手間を感じる部分はありますが、荒天時でなければ気になるほどでもなく、個人的にはパーツの劣化防止、修繕のしやすさを優先した結果と捉えているので納得のいく仕様です。
出入口については長辺側の中央ということで、短辺側に設置されているテントと比べれば出入りしやすいと言えますが、フライシート片側を開いた状態では出入口に対して斜め方向から出入りする必要があるのが難点です。ただし、中央に設置することで前室の左右のスペースに手が届きやすく、雨天でフライシートを閉め前室でバーナーを使う際のクリアランスを考えると中央にあった方が使いやすいと感じました。
革新的で驚くような機能はありませんが、軽量性、居住性、快適性、収納性、耐久性という山岳テントに求められる要素を一定以上の水準で満たすことで総合的に優れたテントであると感じます。
オプション・修繕用パーツも豊富でオンラインストアから容易に購入することができることもこのテントの魅力の一つだと思います。収納袋をはじめ、補修用スリーブ、ポール、エンドチップとこここまでラインナップしているメーカーはなかなか珍しいと思います。冬季オプションであるスノーフライ、ウィンターライナー(EXP)との組み合わせにより、オールシーズンテント泊に向けた可能性も期待できるところですが、私自身はまだ導入できていません。というのも冬期オプションを購入するとなると、ゆうにテント本体以上の金額が必要となるため、しがないサラリーマンにそんな勇気、そして財源がありません(笑)。いつになるかわかりませんが導入ができ次第、改めてレビューしたいところです。モンベルのステラリッジのような人気・定番のテントとは異なり、実際のテント場では1~2張程度なので、自分のテントを見失うことがない点も忘れずに評価しなくてはいけません(笑)。
まとめ:こんな人におすすめ
クセのないスタンダードなテントのため、これからテント泊に挑戦しようと考えている方からある程度テント泊の経験があり買い替えを検討している方まで幅広くオススメできるアイテムです。ただ、スタンダードゆえに革新的な機能はなく、過剰な期待は禁物だということも付け加えておきます。価格の面では、他社の同クラス(ダブルウォール・2人用)製品と比べると少々割高な設定になっており、限られた時期にしかテント泊をしないという方からすればネックとなるのかもしれません。豊富なオプションを組み合わせ、冬季テント泊にも挑戦したい、1つのテントを様々な季節で使いたいという方には最適なアイテムとなるのではないでしょうか。