Review:ファイントラック ポリゴンネスト ~化繊スリーピングバッグの新しい可能性~
「山に持って行くシュラフ(スリーピングバッグ)」と聞いてどういったものを思い浮かべるでしょうか?
きっと多くの方が羽毛(ダウン)を使用したモデルを思い浮かべる事だと思います。軽い、コンパクト、保温性の三拍子揃ったそれは、現代の登山やハイキングには、もはや無くてはならないものとして位置づけられています。
一方化繊を使用したシュラフにはメンテナンスが楽で価格を抑えられるメリットはあるものの、保温性を出すためには多くの質量が必要で、結果的に重く、かさばってしまうため、「山に持って行く」という選択肢からは外れてしまう場合が多かったと思います。
しかし、革新的なギアを開発し続ける国産メーカー「ファイントラック」が新しい保温素材「ファインポリゴン」を開発、それを使用したシュラフ、「ポリゴンネスト」シリーズによってこれまでの化繊シュラフの常識を超えた、全く新しいカタチを打ち出しました。今回はそのファインポリゴンを使ったシュラフを徹底解剖します。
詳細レビュー
finetrack ポリゴンネスト(4×3)
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価(主に4×3モデル) |
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素材 |
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カラー |
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対応温度 |
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重量 |
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サイズ |
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バリエーション |
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特徴 |
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保温性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★★ |
快適性 | ★★★☆☆ |
携帯性 | ★★★★★ |
機能性 | ★★★★★ |
総合点 | ★★★★☆ |
※★での採点は比較テストを行うまでのインプレッション評価ですので、あくまでも参考までに。
ここがスゴイ
重量・携帯性
まずはこちら、奥のモデルは従来の化繊シュラフのスタンダードな大きさ。
一目で大きさの違いが判ります。使用適正温度域はこの二つともほぼ同一の物になりますが、大きさが倍近く違いますね。
メーカーデータの抜粋ですが重さやスペックは以下の通り。
【ポリゴンネスト4×3】
- 重量:450g
- 使用可能下限温度:7℃
- 身長:185cmまで
- 収納サイズ:Φ13cm×26cm
【ポリゴンネスト4×3ショート】
- 重量:410g
- 使用可能下限温度:7℃
- 身長:165cmまで(女性向け)
- 収納サイズ:Φ12cm×24cm
適応温度が同じくらいの一般的な化繊シュラフで1kg近くありますから、こう見ると従来と比べ重さが約40%軽く、収納サイズもコンパクトです。
なぜこういった軽量化が可能なのかと言えば、保温素材と構造に大きな違いがあります。従来の化繊は主に綿のような素材をダウンのように詰めて使っているのに対し、ポリゴンネストはファインポリゴン言われる凹凸構造の特殊な1枚のシートを重ねることによって空気の層を作り保温構造を作り出している為、必要最低限の重量で出来あがっている訳です。
理屈を知るとなるほど、と思いますが触ってみると分かるのですがシート自体は薄く出来ていてそんな事が可能なのか?と思う位です。だからこそ革新的なのですね。
保温性
では実際使ってみるとどうなのか?とはいっても実は発売当初から個人保有していた一つ上のモデルを3年ほど使い続けているので、データの蓄積はバッチリだったりします。ちょっと大きく見えますが6×4(下限温度0℃)。これでも重量は600gほどです。
今回は5月の標高1,000mの山中で4×3を使用。朝の気温は10℃を切っていました。
結論からいうと、乾燥した状態での断熱性は同重量のダウンに比べてやや劣るものの、個人的にはそこまで顕著とは思われず。これまでの使用では想定外に寒くて寝られないといった経験もありませんでした。対応温度別のラインナップ展開も細かいため、低山用から厳冬期用まであるのでシーズンや自分の体質に合ったものを用意できます。
機能性・快適性・携帯性
次に水に対する強さ、寝心地、収納のしやすさの3点にフォーカスしていきます。
水に対する強さ
沢など水に関わるアクティビティをされる方には重要な点です。登山用シュラフのスタンダードであるダウンのシュラフには水に弱いという弱点があり、濡れると中の羽毛のロフト(膨らみ)が潰れてしまい保温性能が発揮できなくなってしまいます。このためそうしたリスクを補うために羽毛自体に撥水加工を施したり、表の布地をレインウェアと同等の物を使用したり、シュラフカバーを使用したりと様々な工夫を凝らして濡れをカバーする必要があります。
一方で一般的に、従来の化繊シュラフはダウンに比べて水に強く保温性が落ちにくいという大きなメリットがあります。このポリゴンネストもシート構造によって水を保水しにくくなっているため、保温性能が落ちにくく、乾燥も速いというのも特徴の一つです。
実際に過去に結露で濡れてしまった状況で羽毛シュラフを使い、接地面が冷たく感じて眠れなかったことがありましたが、同じ状況でポリゴンネストを使用した際には、冷たさは感じたものの睡眠に影響が出るレベルでは無い感じで、湿潤した時の保温力も流石の性能でした。
メーカーでは濡れた場合も従来の化繊綿の半分程度の早さで使用に問題ないレベルまで乾燥しきるとデータがありますが、これも実際に結露などで大きく濡らしてしまった時にテントの上や、ロープに吊り下げるなどして陽にあてて乾かすようにして、さして時間がかからずに使用に耐えられる程度に乾燥していて驚いたのを覚えています。
また、どんな物でも使い続ければ汚れるもの。寝具が汚れていては性能も落ち、良い睡眠は得られません。そんなときダウンシュラフの洗濯はデリケートでやや手間がかってしまうため、そう毎回毎回洗濯するというわけにはいきません。対して化繊シュラフは元々が化学繊維で作られているため洗濯がしやすいという特徴があり、この水に強いという点は使用以外にも役立つポイントだったりします。
なお、下の写真のようにハンギングループが作られており、カラビナなどを使用し現地で吊り下げて乾燥をしやすい作りになっています。
収納袋に洗濯や取り扱いの注意書きも丁寧に記載されています。こうしたちょっとした気遣いも嬉しいですね。
寝心地
次に気になるのは寝心地です。保温性は分かったとして、では使うと実際にどんな感じなのか?という点です。足元のボトムが広く取られている作りになっていて手足を動かすのも非常に楽です。突っ張る様な感じはしません。
またファスナーのフラップ部分はマグネットになっており開け閉めが非常に楽です。
唯一気になった点としては、素材の特徴でしょうか、独特の質感を感じます。動くと少しサラサラと音がする様な感覚です。寝返りを打つとそういった感覚が少し顕著になってきますね、私は気にならないのですがその辺りは個人差に寄るところかと思います。
収納について
個人的には気にしたいポイントNO.1だったりします。備え付けのスタッフバックへの収納についてスムーズに行くか検証します。一般的な化繊型シュラフの特徴として、保温材の質感が堅いため折り畳む様に入れないと納められないといったことが起こります。これが少し面倒なのです・・(シュラフの収納という点に関しては別売りのスタッフバックに入れ替えてという方法もスタンダードですが、それにも色々な種類、選び方がありまして、また別の機会にと思います。)
そのあたり、ポリゴンネストはどうでしょうか?足の方から適当に押し込んでも全く問題なしです。羽毛シュラフと同じような感覚で、化繊シュラフでコレが出来るというのは衝撃的でした。手間の部分が大きく省けて素晴らしい点だと思います。
価格面
従来の化繊シュラフだと1万円台の価格帯が多いわけですから、化繊にしては高めの価格設定であることは確かで、羽毛に近い価格帯です。ただ従来の化繊では実現できなかった性能を備えてこの価格であればコスパは悪くないといえるでしょう。
おすすめのポイントまとめ
- 水に強い、軽い、保温性も◎、速乾性や携帯性に優れており、水にぬれるウォータスポーツから登山、軽量を意識したハイキングやクライミングに至るまであらゆるアクティビティにマッチしてくるオールラウンド性能
- 洗濯などメンテナンスも羽毛に比べて楽
- 収納の手間も羽毛シュラフと同じように簡単
ここが気になる
- 中に入った際の独特な質感や音は好き嫌いが出そうな感じです。睡眠にこだわりのある方や羽毛シュラフと同じ感覚を求める方にはマッチしないかもしれません。
- コスト(価格)は化繊にしては高めで、安いものを求めている方には少々厳しいかも。ただ機能面を総合的に考慮するとコスパは良いです。その点をどう判断されるかだと思います。
まとめ:どんな活動におすすめ?
まずは使用に機能とタフさを求められるような、長期間縦走で山に入ったりする本格登山から長距離移動のロングトレイルハイキングには心強い相棒になってくれる事でしょう。また軽量・コンパクトという観点から荷物をより軽量化したい、例えば泊まりがけのクライミングやULハイキング、自転車旅行などの活動にもいいですし、あとは速乾性と濡れても保温性が落ちにくいので、沢登りといった水とよく遊び、よく濡れてしまう様な活動にもうってつけでしょう。ここまでいくとシュラフに対して強いこだわりがなければ、ほぼどんな事にもマッチしてきそうですね。
また、羽毛シュラフとは違った良さがある為、すでに沢山のシュラフをお持ちの方が季節やアクティビティに合わせた使い分けの1つに持っているのもいいかと思います。さらに使い勝手の良さから初心者がまず最初の一つの選択肢に入れてもいいんじゃないかと思います。
羽毛と化繊のいいところだけを取り出して掛けあわせたこのモデル。人の知恵と情熱が作り出すこうした化繊インサレーション素材はまだまだ多くの可能性に満ちていて非常に面白いジャンルです。そんな中で革新的な性能をもって出てきた新世代シュラフであるこのポリゴンネスト。あらゆるアクティブに対応し、上級者から初心者まで幅広くカバーする魅力を持ったおススメのギアです!
入澤 隆史
群馬県生まれ。高校山岳部から本格的な登山を始めてキャリア20年。冬山からクライミング全般、トレランまで下手の横好きを実践。海外遠征やクライミング、国内アイスクライミングエリアの開拓など経験している。
山小屋支配人とショップスタッフの経歴があり、登山ガイドの資格も持っているため、広く山の世界に精通している。これまで多くのギアを取り扱い、相談にのってきた実績がある。無類の(特にマニアックな)ギアオタク。
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