Review:モンベル ダウンハガー800 ハーフレングス ムダを省いたユニークな軽量スリーピングバッグには、モンベルならではの小技がきいていた
行動中は多少寒くても動けばなんとかなるかもしれませんが、就寝時に人体はほとんど熱を作らないので、シュラフの選択は非常に重要です。特に冬期は一歩間違えれば大変なことになります。睡眠が満足にとれないと翌日にも響くので、寝れない→疲れが取れない…の悪循環が起き、その山行自体が辛いものになりかねません。
そんなことは分かり切っていることですが、やはりストイックに荷物の重量や容量を減らしたいと言うのが人というもの。そんな欲望を叶えるべく、各メーカ様々な工夫をこらし、保温性を維持しつつ軽量なシュラフを日々開発しています。
今回紹介するモンベルのダウンハガー800ハーフレングス#3は、少し独特な角度から軽量化が図られています。決して新しいアイデアではありませんが、品質の高さに定評のあるモンベルスリーピングバッグ・ラインナップの選択肢をさらに広げることができるモデルです。モンベルならではの細やかな小技もアリで楽しめました。さっそく詳しくご紹介していきます。
目次
ダウンハガー800 ハーフレングス (#3)の大まかな特徴
モンベルのダウンハガー800 ハーフレングス (#3)は、従来のダウンハガー800 #3のダウン量を、下半身のみ(みぞおちあたりまで)にしたスリーピングバッグ。その分従来モデルよりも軽量・コンパクト化され、荷物容量・重量がシビアに影響するアルパインクライミングやウルトラライト ハイク、ファストパッキングなどのアクティビティで活躍するモデルです。快適睡眠温度域は3℃~、使用可能限界温度は-2℃と3シーズン対応ですが、温まるのは下半身のみなので、上半身は季節によって衣服で調整する必要があります。他にも中綿量がより多く4シーズン使える#1、中綿を減らしより軽量化した#5の3モデルがラインナップされています。
おすすめポイント
- 軽量・コンパクト
- 脚が出せる
- 使用・応用の幅が広い
気になったポイント
- ドローコードがゴム製なら…
- ファスナーがない
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
サイズ | ダウン部分130cm + シェル部分40cm |
収納サイズ | 12×24cm(2.4L) |
公式重量(収納袋含) | 411g(439g) |
実測重量(収納袋含) | 412g(433g) |
ダウン品質 | 800FP/EXダウン(ダウン90%・フェザー10%) |
メーカー記載温度域(℃) |
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表地 | 10D バリスティック エアライト |
付属品 |
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保温性 | ★★★☆☆ |
重量 | ★★★★★ |
携帯性 | ★★★★★ |
快適性 | ★★★★☆ |
機能性 | ★★★★☆ |
汎用性 | ★★☆☆☆ |
総合評価 | ★★★★☆(目的とシーンを適切に選んだ前提で) |
詳細レビュー
筒状のダウンに下半身を通すだけのストイックな設計
基本的なコンセプトは、フリースやダウンジャケットなど上半身を保温する衣服はどちらにせよ持っていくのだから、シュラフの上半身部分はそれら衣服に任せ、その分軽量に・よりコンパクトにしてしまおう!というものです。通常のマミー型山岳シュラフと比較すると、中綿はみぞおち辺りまでしか封入されていないので、上半身は薄手の生地をかぶるのみです。
軽量かつ薄手の表裏生地に最高級クラスのダウンを封入
本体の生地はモンベル独自生地のバリスティック エアライトで、10デニールのバリスティックナイロン糸で編み上げることで軽量かつ薄く作られています。その表地には撥水加工が施してあるため、中綿の濡れによる保温性の低下を防ぎ、重量増を最小限に抑えています。みぞおちまで(身長にもよりますが、173cmだとみぞおち程度です)封入されている中綿には、800フィルパワーのEXダウンを採用。EXダウンは寒暖差の激しい自然環境で育った水鳥のダウンのみを使用しているため、通常のダウンよりも優れた保温性を発揮します。
モンベルのシュラフの対応気温は、EXP、#0〜#7で表示され、数字が大きくなるほど対応気温も高くなります。#3はおおよそ氷点下付近での使用に対応したモデルです。ダウンハガー800 ハーフレングス #3は、欧米で使われるスリーピングバッグの対応温度域の規格EN13537(ヨーロッパ規格)では、コンフォート気温3℃、リミット気温−2℃、エクストリーム気温−19℃となっています。しかしこれはダウンが封入してある腹部までの話なので、その気温帯で使用する際は上半身の衣服もそれに対応した保温性を確保できるものが必要となります。
通常のシュラフとは違い全長は170cmと短く、頭まですっぽり入ることはできません。頭部は衣服のフードに頼ることになります。ファスナーはないので、寝る時は上部開口部から入り込み、シェル部分を肩までかけるようにします。
もちろん、軽くてコンパクト
当然ですが通常のシュラフと比べ長さが短いので中綿も少ないので重量は非常に軽量(実測値412g)。スタッフバッグを入れた重量でも433gです。通常のダウンハガー#3の重量は575g、スタッフバッグを含めると600gとなっています。フルレングスより30%もシェイプアップしています。
収納もコンパクトです。収納サイズはおおよそ12cm×24cm。容量にして2.4Lほどです。シューズのインソール(27.0cm)と比較しても高さは小さめです。通常のダウンハガー#3の容量は3.4Lなので、1Lもの容量を減らすことができます。
フルレングスで同スペックのダウンハガー800#3と比べ、重量・容量共に約30%の軽量化・コンパクト化がなされています(フルレングス575g・3.4L:ハーフレングス411g・2.4L)。
長期保管時用に、コットン製のストレージバッグが付属しています。もちろんスタッフバッグに入れて保管しておけば場所も取らないので便利ではありますが、圧縮した状態で保管していると、ダウンのロフトが潰れたり、通気性が悪いため場合によってはカビたり匂いがこもったりします。長期間使用しない時は、通気性の高いこのバッグに入れておけば、次に使うときに性能をフルに発揮できます。
暖気の逃げを防ぐ開口部
開口部・ダウンとシェルの切替部分には、ずれ防止と保温性を高めるためのドローコードがついています。このドローコードはゴム製ではなく、平紐製なので、伸縮性はありません。
形状は上部になるにつれ広くなり、台形のような形をしています。開口部の長さは84cmです。
脚が出せる!(温度調節、あぐらをかいたり、歩いたり)
底部にはファスナーがあり、開閉することで温度調整が可能です。また平置きで全長35cmあるので、全開にすれば足首くらいまで出すことも可能で、立ち上がって移動することもできます。
モンベルの寝袋では当たり前の機能になってはいますが、スーパースパイラルストレッチシステムを採用しているため、保温性を保ったままストレッチ性を高めているので、シュラフを着たまま胡坐をかいたり、就寝中のポジションの変更も容易です。
実際に使ってみたインプレッション
どのシュラフでもメーカーによって使用可能な温度域の設定がされており、今回のモンベルでいえば、極寒地用の「EXP.」から、#1〜7までの8種類の使用温度域があります。通常であれば、使用する環境とメーカーの設定している温度域のシュラフをえ選べば、そのシュラフ単体で使用することができます。しかしこのハーフレングスは、その設定が生きるのは中綿がある部分のみとなります。
モンベルの#3でいえば、快適に過ごせるコンフォート温度は3℃前後、なんとか使えるよ!というリミット温度は-2℃と設定されています。フルレングスの#3では、そのシュラフさえあればその温度下では使用可能ですが、同様の温度域を持つハーフレングスとなるとそれが違ってきます。中綿が封入あれているみぞおち辺りまでに限って言えばその温度下で問題はないけど、そこ以上は自分でなんとかして下さい。ということになります。
そもそものコンセプトが、寒い場所に来ているのでそれなりの装備は持っているはず。衣服もダウンやフリースがあるから、上半身はそれに頼って、その分シュラフは軽量化して装備を減らしてしまおう。というものなので、理にかなったシュラフなわけです。
というわけで、#3の温度域内の低温で寝るためには当たり前のように防寒具を上半身に着なければなりません。しかしこのハーフレングスは、そこがかなりの長所になっています。もちろん軽量になるのは言うまでもありませんが、調整がきいて幅広く使用できるということです。 #3の温度域で寝る時は防寒着をきて、中綿のはいっていないシェル部分を肩まであげて使います。シェル部分は防風性もあるので熱気が逃げにくく、保温力の向上が望めます。
暑く感じる時は防寒着を来たままシェル部分を下げて使えば、換気にもなり快適に過ごせます。温かい気温のときでも薄着でシェルをかぶらなければ十分快適に使用できます。
そしてここも面白いポイントで、底のファスナーを開けることで、換気を促し温度調整ができます。熱気が溜まった時はファスナーを開けて換気する。気温が高いときには足を出してしまう。そんな使い方もできます。
通常のシュラフであれば縦に長くファスナーがあり、それを開閉して出入りしますが、軽量化のためかハーフレングスにはファスナーがありません。これが意外に不便で、入るときも出るときも脱ぎ着しないといけません。全体をファスナーで留める仕様だと、外せばキルトにもなって使用の幅がもっと広がると思いました。重量は結構増えることになりますが…
ファスナーが無いせいで出入りが不便なのに対し、底の部分にファスナーがあり、そこから足が出せるので、実はそのまま立ち上がって歩くこともできます。開く範囲はそこまで広くなく、出せても足首くらいまでなので歩く時はヒヨコみたいにぴょこぴょこ歩くことになります。しかしこれが意外に便利で、寒くてシュラフから出たくない、でもちょっと移動したいという時にはかなり重宝します。男性的には、腰のあたりにもファスナーがあるとそのままトイレにも行けるのに…とも思いましたがそれは流石に贅沢ってもんでしょうか。
ドローコードが「入り口」と「中綿とシェルの切替部分」の2箇所にあります。肩まで入る時は入り口のドローコードを絞れば、就寝時にシュラフがずれるのを塞いでくれるのと、熱気の逃げ・冷気の侵入を防ぎ保温性をあげてくれます。シェル部分をかぶらない時は、もう一方を絞ればズレを防いでくれます。しかし下のドローコードを絞ると、腕を外に出すのか、中に入れるのか、ちょっと動きが制限されストレスを感じました。このドローコードがゴム製であれば、就寝中の自由度ももう少し高かったのかもしれません。自分で変えてみるのも手ではあるかもしれませんが、全体的にやや大きめな作りなので就寝中にずれないようにするためにもこのドローコードは必須です。
重量・容量に関しては、思っていたよりは軽くない。ハーフなんて名前がついているので、重量も容量も半分!と勝手に思ってしまいがちですが、そこは注意してください。とはいえ収納袋を含めた実測値で433gと、通常のダウンハガー#3と比べて約30%軽く、容量も同様に約30%少ないので、少しでも重量・容量を減らしたい人には非常に大きいはずです。
まとめ:こんな人におすすめ
とにかく独特な商品です。ダウンハガー#3で使用温度域は同じなのに軽くて容積も小さいならいい事ずくし!と特性を理解していないまま、購入してしまうと、なんだこれ?使えない!とタンスの肥やしにもなりかねません。それならまだしもテストもせず今の時期山に持っていってしまうと、危険でさえあります。そこはしっかりとどういう商品なのかを理解できる人、ぱっと見で良さが分かる人には言わずとも利点が見えてくるシュラフでしょう。
今回の#3に関していえば、冬の低山から夏の縦走までかなり幅広く使えます。少しでも軽量化・容積を減らしたい。という方にはうってつけではありますが、使用温度域下限辺りで使用するときには、しっかりとした計画・シュミレーションが必要になります。
これまでのシュラフにのありかたに疑問をいだいていた人や、軽量化に行き詰まっているウルトラライトハイカー、とにかく数グラムでも軽量化したいアルパインクライマーなどには、癖が強いものだけあって、バッチリハマると手放せない一品になるかもしれません。裏技的な仕様方法かもしれませんが、背の低い子供や女性には、フルレングスに近い状態で使用するということもできそうです。