【約50万円のカメラ+望遠レンズよりも見やすい?】最新の防振双眼鏡 「VCスマート 10×30 Cellarto WP」とナキウサギを見に行ってきた
ライブでの推し活やアウトドアでの動物観察などで、話題の手ぶれ補正機構付き双眼鏡=防振双眼鏡。筆者も使っていますが、その効果は絶大で手放せません。そんな防振双眼鏡の最新モデル「VCスマート 10×30 Cellarto WP」が発売されたので、その実力をフィールドで試してきました。
目次
2機種発売された最新のケンコー防振双眼鏡「Cellarto(セラート)」とは
自動で最適な防振モードを選択する「Cellarto(セラート)」シリーズ
2024年7月26日にケンコー・トキナーからケンコー「VCスマート 10×30 Cellarto WP」と「VCスマート 14×30 Cellarto」という2機種の手ぶれ補正付き、いわゆる防振双眼鏡の新製品が発売されました。実勢価格は「VCスマート 10×30 Cellarto WP」が実勢価格110,000円前後、「VCスマート 14×30 Cellarto」が99,000円前後、ともに税込、8月独自調べです。
当然、仕様の異なる2機種なのですが、共通する最大の注目ポイントは「防振モード自動選択機能」が搭載されたこと。まったくなにを言っているのか、なにがすごいのかわからないというのが普通でしょう。双眼鏡をのぞいているときのぶれ(揺れ)には対象を追いかけて大きくパンニングしたときや船の上で揺れているときといった「大きな揺れ」や静止している対象を観察しているときに発生する「微細な揺れ」といった揺れ方の違いがあり、それにあった最適な防振モードが存在するといいます。
これに対して、これまでの防振双眼鏡は防振モードが1つ、または複数搭載されていてもモードを手動で切り替える必要がありました。しかし、ラテン語の「Celeritas(セラリタス)」=「迅速に選択し切り替える」を元にした「Cellarto(セラート)」シリーズは、双眼鏡本体のぶれ(揺れ)を双眼鏡本体が感知し、自動で迅速に最適なモードに切り替え、鑑賞時間・観測時間をより高精細で、より快適にしてくれるそうです。これが「防振モード自動選択機能」。
筆者は前回の本サイトの記事「【双眼鏡嫌いが試す!】防振双眼鏡 「ケンコー VCスマート10×30WP」防水機能付きで初春の北海道の森を歩いてみた結果」で防振双眼鏡の効果に驚いたのですが、その防振双眼鏡に最新最強の新たなラインアップが加わったという感じです。
なお「VCスマート 10×30 Cellarto WP」は倍率10倍で完全防水のアウトドア向けモデル、これに対して「VCスマート 14×30 Cellarto」は倍率14倍でさらなる軽量コンパクト化を行ったコンサートユース向けのモデルになっています。当然、筆者はアウトドア向けの「ケンコー VCスマート14×30WP」を選択、その手ぶれ補正機構の力が実感できるのかを試しに、北海道の東ヌプカウシヌプリに登って、半日ほどナキウサギを観察してきました。
おすすめのポイント
- はじめてカメラのファインダーよりもきれいに感じた
- 安定して長時間気持ちよく対象を観察できる
- 突然の雨にも安心な完全防水
- 従来機の約3倍、単3形アルカリ乾電池1本で連続約28時間駆動
- アウトドア気分を盛り上げるサンドグリーンのカラーリング
- なにかと安心なメイドインジャパン
気になったポイント
- アウトドアで紛失しそうなねじ込み式電池フタ
- ほとんど気分の問題だが500gを切ってほしい
主なスペックと評価
項目 | ケンコー VCスマート 10×30 Cellarto WP |
---|---|
倍率 | 10倍 |
対物レンズ有効径 | 30mm |
コーティング | フルマルチコート、フェイズコート、高反射コート |
実視界 | 5.2° |
ひとみ径 | 3.0mm |
明るさ | 9 |
1000m先の視野 | 90.8m |
アイレリーフ | 15.0mm |
眼幅 | 54~74mm |
最短合焦距離 | 3.5m |
サイズ(眼幅最大時) | 147×51×124mm |
質量 | 533g |
材質 | 本体ボディ:ポリカーボネイト樹脂/本体カバー:ABS樹脂/目当てラバー:NBR/転輪ラバー:ABS樹脂 |
生産国 | 日本 |
Outdoor Gearzine評価 | |
デザイン | ★★★★☆ |
見やすさ | ★★★★★ |
使いやすさ | ★★★★☆ |
携帯性 | ★★★★☆ |
コストパフォーマンス | ★★★☆☆ |
満足度 | ★★★★★ |
詳細レビュー
はじめてカメラのファインダーよりもキレイで見やすいと感じた
今回は「VCスマート 10×30 Cellarto WP」を持って、北海道のなかでもナキウサギの観察できることで有名なガレ場のある東ヌプカウシヌプリに行ってきました。ただし「双眼鏡を持って行ってきました」だけでは味気ないので、筆者のいつもの機材セット(カメラと超望遠レンズ)も持っていき、ナキウサギの様子なども撮影してきたわけです。
そして、いきなり結論のような展開なのですが、筆者は「VCスマート 10×30 Cellarto WP」でナキウサギを観察していて「はじめて、カメラ+超望遠レンズのファインダーよりも双眼鏡のほうがキレイで見やすい」と感じたのです。これにはかなりびっくりしました。
当たり前ですが、筆者のカメラ+超望遠レンズは、それなりのお値段のセットです。カメラ本体と超望遠レンズでだいたい40〜50万円とお安いとは言えません。しかも、超望遠レンズには、いまどき当たり前ですが、しっかりとした手ぶれ補正機構も搭載されています。さらに筆者が超望遠レンズ+カメラのほうがのぞき慣れていることも含めて、いままで双眼鏡のほうがキレイで見やすいと感じることはなかったのです。
ですが「VCスマート 10×30 Cellarto WP」にはびっくり。手ぶれ補正機構を搭載した防振双眼鏡を使うと、それまで防振なしの双眼鏡を使っていた方の多くがなにか薄い膜のようなものがなくなったように鮮明に高精細に見えるというのですが、「VCスマート 10×30 Cellarto WP」の場合、これがさらに強化され細部までよく見える印象。
岩くずが積み重なったガレ場の隙間から現れるナキウサギを観察していると、とてもクリアに、表情はもちろん、鳴き声を出す前のタメの呼吸の様子やヒゲの動きまでがよくみえるのです。静止状態のナキウサギを観察している際の微細な揺れが最適なモードでしっかりと補正されているのでしょう。手ぶれ補正機構をオンにしておけば、すべてを双眼鏡本体が行ってくれるので、筆者が行うことはなにもないのですが……。
なお、筆者の場合、ミラーレス一眼カメラを使っておりファインダー内の画像は約370万ドットの電子式ビューファインダーに表示されているのですが、「VCスマート 10×30 Cellarto WP」で観察している画像と比べると、どうも粗く感じてしまったのです。これは完全にはじめての経験でした。それくらい「VCスマート 10×30 Cellarto WP」での見え具合は安定していて、繊細でクリアに感じるのです。
10倍か? 14倍か? について
前モデルでは「VCスマート14×30WP」と「VCスマート10×30WP」からウォータープルーフ(防水)モデルが選択できたのですが、最新モデルの「Cellarto(セラート)」シリーズでは10倍の「VCスマート 10×30 Cellarto WP」のみが完全防水モデルで、14倍の「VCスマート 14×30 Cellarto」は防水性能がない代わりに軽量コンパクト化された屋内のコンサートやライブ向けのモデルとなりました。
アウトドア向けのモデルについて筆者は倍率は10倍で十分かと思っています。よく10倍の双眼鏡は本当は100m先にあるものが10m先にあるように見えるといわれますが、筆者には、これがちょっとイメージしにくい。そのため普段からカメラを扱い慣れている筆者には、厳密かどうかを別にして10倍だと500mm相当の望遠レンズ、14倍だと700mm相当の望遠レンズといった説明のほうがイメージしやすく、感覚的にもなじめます。
そして、普段撮影で使用する超望遠レンズが500mm前後ということもありますが、500mmくらいまでは慣れるとかなり素早く対象を視野の中に入れることができるのです。しかし、500mmを大きく超えてくると、対象を視野の中に入れるのに多少手こずる傾向にあるので、10倍くらいのほうが使いやすく感じます。
また、対象を視野の中に入れるためにパンニングしても、大きな揺れがしっかり補正されるのは、なかなか気持ちがいいです。ただし、場合によっては補正が効きすぎて、画面がちょっといきすぎて戻ってくるような、揺り戻しが発生することが時折ありました。
対物レンズの有効径が「VCスマート 10×30 Cellarto WP」も「VCスマート 14×30 Cellarto」も同じ30mmなので、倍率の高い「VCスマート 14×30 Cellarto」の明るさが4.4に対して「VCスマート 10×30 Cellarto WP」の明るさが9です。結果、薄暗い場所での野生動物の観察などについては「VCスマート 10×30 Cellarto WP」のほうが優位な結果になっています。
突然の雨にも安心な完全防水である点なども考慮するなら、アウトドアでの使用は素直に「VCスマート10×30WP」がおすすめとなるでしょう。ちなみに「VCスマート 10×30 Cellarto WP」は日本製であることも、なにか信用できるように感じてしまうのは筆者だけではないでしょう。
電池持ちは従来モデルの約3倍、オートパワーオフは好みの問題?
前モデルも含めてケンコーの防振双眼鏡VCスマートシリーズの大きな特徴として、国内はもちろん、海外遠征の際にもコンビニなどで簡単に入手できる単3形アルカリ乾電池で防振機能が動作できることがあります。これは専門的な電気店などが近くにないことの多いアウトドアフィールドでは非常に優位。コンサートユース向けの「VCスマート 14×30 Cellarto」においても、コンサートホール近くのコンビニで簡単に電池が入手できるわけです。
しかも、今回の「Cellarto(セラート)」シリーズでは、前モデルが単3形アルカリ乾電池1本で10時間防振機能が駆動したのに対して、なんと約3倍の28時間駆動を達成しています。「防振モード自動選択機能」が搭載され、機能が大幅アップしているのに、駆動時間が3倍近くなっているのはちょっと驚きともいえる進歩です。
駆動時間が3倍近く伸び、丸1日を超えたためか、前モデルでは防振機能が10分で自動的にオフになるオートパワーオフが搭載されていたのですが、最新の「Cellarto(セラート)」シリーズでは、この機能が廃止されました。単3形アルカリ乾電池1本で24時間以上駆動するので、長時間の連続観察中に自動で防振機能が停止するオートパワーオフはメリットよりもデメリットが大きいと判断したのでしょう。
確かに、特定の日に、今回のナキウサギのようにアウトドアフィールドや推しのコンサートなどに出かけるユーザーにとっては、出かける前に新しい電池に入れ替えれば、丸1日以上、もし電源をオンしたまま忘れても、電源切れの心配はないので、このメリットは大きいといえます。逆に毎日お散歩のように近くの公園などに出かけて、短時間の野鳥観察などをする人にとっては、電源オフを忘れても電池の消耗を抑えてくれるオートパワーオフのほうがメリットがあるかもしれません。このあたりは、好みの問題も大きいでしょう。
個人的に気になったのは、この単3形アルカリ乾電池の電池ケースのフタです。防水構造のため仕方のない部分もあるのでしょうが、ねじ込み式の小さなフタが双眼鏡本体から外れる設計。今回のようにナキウサギを観察しているガレ場などで電池交換の際に落としたら、岩の隙間に転がり込んで、紛失してしまうでしょう。アウトドアフィールドでの使用を前提にするなら、この電池のフタは改善の余地があるように感じました。
サンドグリーンのカラーリングもよく、メガネでも見やすい
東ヌプカウシヌプリのガレ場に9時過ぎに到着して、そこから15時過ぎまで約6時間、「VCスマート 10×30 Cellarto WP」でナキウサギを観察しつつ、写真を撮影をしました。気温の問題なのか、なにかの演習の騒音のせいなのか、この日はナキウサギの出が悪く、姿を確認できたのは1時間に1回程度の割合で6〜7回ほどでした。
その間に「VCスマート 10×30 Cellarto WP」を眺めたり、手にとってみたりとしていたのですが、思った以上に気に入ったのがグリーンのボディカラー。メーカーによるとサンドグリーンのカラーリングです。高級モデルほど、ほぼブラック一択の双眼鏡のなかでアウトドア向けとしてはアースカラーのグリーンはしっくりきます。同じアースカラーのカーキなどが選択肢としてあってもいいかもしれません。
前モデルといえる「VCスマート 10×30WP」はサイズ147×51×124mm、重量535gだったのに対して「VCスマート 10×30 Cellarto WP」は147×51×124mmとサイズはまったく同じですが重量は533gとなぜか2gほど軽くなっています。せっかくならあと30gほど削って500gを切ったらいいのにと筆者は勝手なことを思いました。
ちなみに500gを超える「VCスマート 10×30 Cellarto WP」ですが、双眼鏡を構えたときに前側が重くならない構造のためか、ある程度の長い時間眺めていても、さほど重くは感じません。また、筆者は成人男性としては手は小さめなのですが、電池ボックスをサイドに配置することで厚みを5cm程度に抑えた設計のためか、大きくて持ちづらいと感じることもありません。このあたりの設計はシリーズを重ねて洗練されていると感じます。
双眼鏡の見やすさの部分ですが、筆者は結構視力が悪く、カメラでの撮影の際も視度をメガネありで合わせるか、メガネなしで合わせるか、よく悩みます。しかし、ナキウサギの観察撮影では、メガネを掛けた状態で姿を確認、双眼鏡で観察もしくはカメラで撮影なので、メガネありで視度を調整しておく必要があります。そんな際にもツイストアップ見口が採用されているので、簡単にアイポイントの調整が可能です。また、視野全体を見渡すことのできる限界ポイントであるアイレリーフも15mmと従来モデルよりも1mm伸びており、約15mmからをハイアイポイントと呼ぶのであれば、ハイアイポイントモデルとしてのスペックも確保しています。おかげでメガネを掛けたままでもかなり見やすいのです。
なお、東ヌプカウシヌプリのガレ場は山頂からさらに奥に進む必要があるのですが、この小道の入口がかなり見つけづらくなっていたので注意してください。
まとめ:本気で買うなら、手ぶれ補正付きの「防振双眼鏡」はいまや必須
揺れの性質に合わせ補正する「防振モード自動選択機能」はすごくいい
前世紀、20世紀からデジタルカメラにハマっていた筆者としては、500mm相当を超える光学製品に手ぶれ補正が付いていないことのほうがある意味疑問です。カメラ関連では、ここ四半世紀ほどで交換レンズでの手ぶれ補正、さらにカメラ本体の撮像素子などでの手ぶれ補正、これらが統合的に進化した交換レンズ+カメラ本体による手ぶれ補正が当たり前になっています。
そして、今回の「Cellarto(セラート)」シリーズに搭載された防振モード自動選択機能」で対応可能になった複数の種類の揺れ(ぶれ)問題は、カメラの世界でも問題になり、解決されてきた手ぶれ補正問題です。これらが解決された結果、筆者が総計50万円近いカメラ+レンズの電子ビューファインダー表示よりも「VCスマート 10×30 Cellarto WP」のほうが高精細で見やすいと感じた原因になっているのでしょう。ただし、カメラの電子ビューファインダー表示のドット数の限界もあるように感じています。
いまやデジタルカメラに望遠レンズを装着して、手ぶれ補正=防振機能が機能しないことはほとんどないといってもいいでしょう。20年前には付いている方が少数派で、搭載すると画質が落ちるなどともいわれていたのですが、いまやあって当然。自動車でいうならパワステやABSなどと同じ扱いまで普及しているといえます。
おそらく双眼鏡の手ぶれ補正=防振機能も、今後必須の機能になっていくと確信できるほど、圧倒的な効果を発揮します。なかでも双眼鏡で対象を観察する際の大きな揺れにも、小さな揺れにも自動で対応する「Cellarto(セラート)」シリーズは今後のスタンダードともいえるポジションになっていくでしょう。まだ、一般的な双眼鏡の価格に比べると高価であることは事実ですが、趣味のための双眼鏡の購入を本気で考えるなら、最新モデルの防振双眼鏡「Cellarto(セラート)」シリーズは絶対に試していただきたい。
ちなみにケンコー・トキナーのWEBサイトでは、購入前に防振双眼鏡などをレンタルで試すことのできるオンラインサービスも行っているので、こちらでまず「VCスマート 10×30 Cellarto WP」などの防振双眼鏡を試すことからはじめてみるのもありでしょう。
ケンコー「VCスマート 10×30 Cellarto WP」の詳細と購入について
製品の詳細についてはケンコー・トキナーの公式サイトをご覧ください。
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齋藤千歳(サイトウ チトセ・Saito Titoce)
元月間カメラ誌編集者。北海道の絶景や野生動物の姿を追い求めているうちに、キャンピングカー・車中泊でのアウトドアライフにどっぷりハマっていました。現在2歳の息子、そして妻と全道を巡っているうちにカメラ・レンズはもちろん、アウトドア・キャンプ、子育て、PCガジェット、料理に、ダイエットまで経験したすべてを撮影し、執筆するフォトグラファーライター。OUTDOOR GEARZINEではキャンプ及びキャンピングカーでの生活クオリティを上げる「QOCL(Quality of camping life)向上委員会」を中心にさまざまな記事を執筆していく予定です。