比較レビュー:冬山やバックカントリーでの心強い味方。行動中着っぱなしでOKのアクティブ化繊インサレーションジャケットを着比べてみた
冬山登山に欠かせない存在であるミドルレイヤーの代表格、化繊インサレーション。なかでも近年新たに開発された、通気性や速乾性の高い中綿を採用した「動ける防寒着」アクティブインサレーションジャケットは、今では冬山登山はもちろん、脱ぎ着がしずらいバックカントリー等では欠かせないといえるほど便利なアイテムです。
このサイトでも複数回特集されていますが、最近では各メーカー独自の中綿などもどんどん出てきており、さらには表地素材との組み合わせや、中綿の厚み、重量など様々な要素によって通気性能、保温性能、耐候性などが変わってくるため、とにかくその広がりはとどまることを知りません。
今回はそんな最新のアクティブ化繊インサレーションのなかから、筆者が気になっていた5モデルをピックアップし比較テストしてみました。
今回比較したアクティブ化繊インサレーションについて
今回の比較のテーマは「冬の行動中に着っぱなしでも快適でいられる防寒着」です。止まってよし、動いてよしの保温性と通気速乾性を両立していることが求められます。ピックアップの基準としては、通気・速乾・保温性能の高い化繊中綿素材を採用している化繊インサレーションジャケットとなります。化繊100%(ダウンとのハイブリッドモデルは選定外)、さらに冬の中間着として防寒と汗処理機能を両立するコンセプトをもったアイテムを選んでみました。
- Arc’teryx プロトン LT フーディ(中綿:コアロフト™ コンパクト )
- Montane Hydrogen Direct Jacket(中綿:POLARTEC®Alpha®Direct)
- mont-bell U.L.サーマラップ パーカ(中綿:ストレッチエクセロフト)
- Mountain Hardwear コアストラータフーデッドジャケット(中綿:PrimaLoft Gold Active)
- Patagonia ナノエア・フーディ(中綿:フルレンジ・ポリエステル100%)
テスト環境と評価基準
2019年12月~2020年1月にかけて北海道の冬山でバックカントリー(スノーボード)時に着用。その他、日常使い、早朝ランニングなどでも使用。ちなみに筆者はかなりの汗っかき。服装はベースレイヤーの上に化繊インサレーションを着用。強風時にはハードシェルを着用しましたが、基本的にはベースレイヤーと化繊インサレーションの2層。
- 保温性・・・そもそもこのカテゴリでの保温能力は、従来の化繊中綿に比べれば少し控えめ。ただその中でも動きやすさ、蒸れにくさ、軽さを確保しながらいかに保温があるかどうかを評価。
- 快適性・・・肌触り、シルエットやカッティングによる着用ストレスの少なさ、袖や裾、フードのフィットなど。いくら保温性が高かったとしても、着心地が悪ければ毎日着たいとは思えません。
- 動きやすさ・・・単純な防寒着としてならいざ知らず、行動着としての役割も想定し、動きの中でも快適性の高さを評価しています。
- 蒸れにくさ・・・行動中での着用を想定した場合、汗をかいたときでもいかにムレや不快感を少なくし、そしてすぐに乾いてくれるかどうかは重要です。できることなら止まっているときも、動いているときも、はたまた濡れているときも、あらゆるシチュエーションで常に衣服内を適温に調節してくれることがベストです。
- 耐候性・・・外気温や環境に対して、どれだけプロテクションがあるかどうか。主に耐風性や撥水性などにあたります。もちろんこれらは通気性とトレードオフの関係にあることが多く、あえてその機能を捨てているモデルもあるため、これがないからダメとは一概に言えないのも事実。
- 重量・・・厳しい登山では当然軽さは正義。最近の化繊中綿はどんどん軽くなっています。
- 機能性・・・フードの形・調整し易さやポケットの数・位置・大きさといた機能・使いやすさに関わる部分は、それが想定するアクティビティに特化していたり、汎用的なつくりになっていたりと、各モデルのコンセプトや個性が出てくる大事な要素でもあります。単純に機能の数が多ければ良いわけではありませんが、あまりに少なすぎても使い勝手は悪くなります。
テスト結果&スペック比較表
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各モデルのインプレッション
真冬の寒さでどれだけ激しく動いても驚くほど不快知らず
Montane Hydrogen Direct Jacket
ここが◎
- 抜群の通気性能
- 着た瞬間から得られる暖かさ
- フリースに迫る着心地
ここが△
- 400g越えの重さ
- 耐候性
イギリスが誇るfast & lightブランド、MONTAINE。ここ数年で一気に人気が高まっているようですが、まだまだ知る人ぞ知るブランドですがその実力はホンモノ。今回の5アイテムで総合評価が最も高かったです。
まず驚かされたのが、汗抜けの良さ。5モデル中トップクラスで、ハイクアップやラッセル時にも蒸れによる不快感を感じることはありませんでした。中綿素材であるPOLARTEC Alpha Directについては以前から評判が良いと耳にしており、気になる存在ではありましたが、あまりにも評判が良いため半信半疑でフィールドテストに望んだところ、まんまとやられてしまいました。かなりの汗っかき筆者ですが、行動中に汗が溜まってから抜けるのではなく、ダイレクトに抜けていく感覚は2度と手離したくないと思わされるほど病みつきになりました。中綿素材POLARTEC Alpha Directと表地素材PERTEX QUANTUM AIRの最強タッグから生まれる通気しつつ適度な耐風性というバランスの良さはオーバーヒートと無縁といっても過言ではないと思います。
さらには内側を見ると剥き出しの中綿素材がフリースのような柔らかい肌触りで、頬をスリスリしたくなるような極上の着心地を提供してくれ、着用した瞬間から暖かさを感じることができました。身体へのフィット感も素晴らしくデッドスペースが最小限に抑えられているため、発汗すると待ってましたと言わんばかりに蒸れを外へ逃してくれます。この仕組みによって、常に温かさは維持されつつも、動いても温まりすぎないという、なんとも贅沢な状態を維持してくれます。
また、グローブを履いたままでも操作しやすいジッパーや裾のドローコード、保温性能を高めるためにしっかりとフィットしてくれる袖周り、メインジッパー裏に配置されており風の侵入を防ぐ仕様など、細かな部分にも抜け目がなく機能面もかなり充実しています。総じて、行動中も止まっている時もシーンによって着脱することなく終始着用することができるアイテムと自信をもっていえます。
一方で、重量部門では5アイテム中唯一の400gオーバー。中綿量が120g/㎡もあり保温性能を高めているため仕方ないことでもありますが、1gでも軽量化したい方には別のアイテムを選択する余地がまだまだありそうです。収納性についても良いとはいえません。パッカブル仕様でもなければ付属の収納袋もなく、もしザック内に入れておくとすればかなりスペースを取られると思います。まあ、収納することがないぐらい終始着用していられるアイテムですので、収納性はそこまで懸念する必要がないかなと筆者は感じています。
細かく計算された保温性と速乾性。アウターとしても優秀
Arc’teryx Proton LT Hoody
ここが◎
- 耐候性
- 保温性
- 表地の耐久性能
- スタイリッシュ
ここが△
- 操作しにくいジッパー
- 価格
アークテリクス独自開発のCoreloft™ Compact。通気性が高く、保温性にも優れており行動中も止まっている時も終始快適に過ごすことができました。中綿量を軽量インサレーションジャケットが基準としている60g/㎡よりも20g増やし、ボディに80g/㎡、フードに60g/㎡と量を変えることで、効率よく保温性を獲得し無駄のない設計に仕上がっています。表地には耐久性の非常に高いFortius™Air 20フェイスファブリックが使用され、軽量インサレーションジャケットが通気性と引き換えに犠牲にしてきた耐久性能も見事に獲得しています。
表地を触ると頑丈な生地であるとすぐにわかります。5モデル中最も防風性能に優れていましたが、それでも風の強い日には防ぎ切ることはできていませんでした。また、降雪時にはDWR仕上げ(耐久撥水加工)の能力が見事に発揮されており、驚くほどバンバン水を弾いていました。中綿素材が注目されがちなインサレーションジャケットですが、プロトンLTフーディに関して言えば表地素材の優秀さに驚きを隠せずにはいられませんでした。
細かな部分に注目すると、片手で操作可能なフード部分のドローコードは急な天候変化にも素早く対応することができます。さらには固定力抜群の裾部分の調節ドローコードは激しい運動をしても全く緩む気配すらなく、ザックと擦れてずり上がってくるなんてこともありませんでした。
マイナス面をみると、メインジッパーにはNo Slip Zip™が採用されていますが、これがどうも滑りが悪く、開閉時にはストレスを感じてしまいました。これは好みが分かれるところでしょうが。
保温性能と耐久性能が高い分、犠牲になっているのは重量で、実測値は394g と若干重め。まあ、これだけの性能を確保できているのなら仕方ないかなと筆者は気になりませんでした。ある意味で最新の技術でもここのバランスはもう限界にきているのかもしれません。
保温・通気・快適の三拍子そろった良バランス
Mountain Hardwear コアストラータフーデッドジャケット
ここが◎
- 保温性
- 無駄なスペースのないフィット感
- パッカブル仕様の収納性
ここが△
- 風をビュービュー通す耐候性
- タイトすぎる首周りの設計
愛用している人がかなり多いとみられるコアストラータジャケット。それも納得。動きやすく、通気性と保温性に優れ、収納性も兼ね揃えているところに注目するとかなりの優秀アイテム。中綿素材に使用されているPrimaloft Gold Activeは通気性を確保しながらも保温性能に長けており、POLARTEC Alpha directほど汗の抜けるスピード感はないものの、ハイクアップなど大量の汗をかくシーンにおいても不快に感じることはありませんでした。中綿量が60g/㎡とMONTANE の半分の量でこのクラスの保温性を確保できるとは、いかにこの素材の保温性が優れているかが分かります。中綿量の割に、全体的なボリューム感が大きい印象です。
表地には前述したMONTANE と同じPERTEX QUANTAM AIRが使用されているため、通気+適度な防風というバランスの良さもかなりケアされています。とはいえ強風ともなればビュービュー通しますので、厳冬期であれば基本的にハードシェルを着用し中間着のみとして使用することをおすすめします。
シルエットには立体裁断が施されており、激しい運動をしても動きが制限されることはなく、ハイクアップ時にストレスを感じることはありませんでした。全体的にタイトな作りとなっており、裾や袖から熱が逃げることもなく身体へのフィット感も素晴らしいのですが、首回りがタイトすぎるため顎先が襟の中に隠すことができず、剥き出しの状態になってしまうところがマイナスポイントです。
機能面をみると、裾の締めつけは、裾右側のドローコードを引っ張るだけで調節可能で非常に楽でした。その他、胸ポケットに収納可能なパッカブル仕様は、ボリューム感があるだけにありがたく高評価ポイント。
軽くて暖かく動きやすい、独自の中綿を採用
mont-bell U.L. サーマラップ パーカ
ここが◎
- 良心的な価格設定
- ストレッチ性抜群の動きやすさ
ここが△
- 厳寒期には厳しい保温性
- ツルツルした肌触り
- フィット感
- 乏しい機能面
今回唯一の国産ブランド、我らが誇るモンベル。同ブランドで化繊インサレーションジャケットと言えばU・Lサーマラップシリーズ。価格とスペックのバランスに注目すると5モデル中、最もコストパフォーマンスに優れています。それ故、既に所有している読者の方々も多いのではないでしょうか。
まず注目すべきは実測値268gという軽さ。他のモデルでは400g越えもある中この軽さを維持できていることは外国勢に自慢したくなります。その軽さは行動中に着用していることを忘れてしまうほどストレスフリーでした。さらに中綿素材にはモンベル独自で開発された保温性とストレッチ性に長けているストレッチエクセロフトが使用されています。中綿素材自体に伸縮性があり、表地のシェル素材もストレッチ性に富んでいるのだから、動きにくい訳がありません。腕を上げたり、大きな動作でも終始動きが制限されることはありませんでした。
保温性能については、正直に言うと並でした。寒すぎることもなく、格別に暖かいということもありませんでしたが、中綿素材の薄さから考えると、エクセロフトのスペックが他の4モデルに負けていないことを証明できていると思います。
続いて通気性能。ハイクアップなどある程度の運動量では蒸れることなく快適でしたが、ラッセル時などで運動量が一気に増えてくるようなシーンになると通気が追いつかず飽和状態になり、ダイレクトに抜けていくというよりは籠った蒸気が徐々に抜けていくような気がしました。熱すぎてフロントジッパーを開放する場面も。おそらく通気性能については中綿素材の優秀さというよりは中綿の薄さ故に維持できている部分が少なからずあると目論んでおります。そのしわ寄せが保温性能に。
機能部分に注目すると、裾の調節は左右のポケット内部に配置されているドローコードを引っ張るだけという構造で非常に使い勝手が良かったです。袖は締めつけているタイプではないのでずり上がったり、ずり落ちたりするのでマイナスポイント。全体的なフィット感もイマイチ。また着心地についても、生地がツルツルしておりあまり良いとはいえません。価格を考慮すると、さすがのモンベルでもそこまで贅沢することはできなかったのかもしれませんが、機能性についてはもうちょっと頑張って欲しかった。
収納はパッカブル仕様ではないですが、スタッフバッグが付属しているのでコンパクトに収納することができます。ザック内でスペースも取らないので予備として携行していくのも全然ありでしょう。
各項目から改めて考えてみても、コスパが良すぎるアイテム。冬には中間着として、春・秋にはアウターとして、夏にも急な天候変化に対応するためザックに忍ばせておくなど、年間を通して活躍してくれること間違いないアイテムでしょう。
アクティブインサレーションの先駆けは相変わらず着心地抜群
Patagonia ナノエア・フーディ
ここが◎
- 抜群の通気性とストレッチ性
- 着心地
- パッカブル仕様の収納性
ここが△
- 冬期にはおすすめできない保温性
- 耐候性
- ポケットの配置箇所
- 価格
Patagoniaが提供する化繊インサレーションジャケットには複数のモデルがありますが、その中でも、かなりアクティブに使うことが想定されているジャケットがこのナノエアフーディ。確かに、動きやすくて伸縮性に富んでおり、軽量で、通気性が半端じゃなかったです。このまま声を大にして、「動きに関するストレスは皆無」と言いたいところでしたが、残念ながら腕を上げたり大きな動作となると肩から脇にかけて動きが制限されるように感じました。生地自体はモチっとした肌触りと4方向への伸縮性に富んでおり非常に優秀であることが伺えますが、裁断パターンにまだまだ改善の余地があるのかもしれません。
さらには軽量化目的でしょうが、ドローコードがないため裾周りのフィッティングができないことにストレスを感じました。裾に伸縮性を備えていることはわかりますが、やはりドローコードがないタイプは不便に感じます。ずり上がってきて、手で戻すなんてこともしばしば。
また、左胸ポケットが他の4モデルと比較すると上部に配置されているためザックの胸ベルトと干渉してしまうところもマイナスポイントでした。毎回、胸ベルトを離脱してからポケットのジッパーを開放するとなると、ストレスを感じます。
通気性に関しては前述のPOLARTEC Alpha Directに引けを取らないぐらいのスペックを有していますが、保温性能とのバランスをみるとPOLARTEC Alpha Directに軍配を上げてしまいます。あくまでも比較した際の見解で、このアイテム単体でみた時の通気性については素晴らしいものがあります。その代償として保温性能はかなり犠牲にしていると感じました。そもそも保温性重視のアイテムではないので厳寒期の冬山登山にはお勧めすることはできません。とにかく寒かったです。保温性を確保したいのであれば、同ブランドから出されていますマイクロパフフーディやマクロパフフーディを選択することをお勧めします。5アイテム中最も高価格ですが、価格の割にはスペックがイマイチかなと感じてしまいました。
マイナスポイントをいくつか上げましたが、春・秋のハードなアクティビティには遺憾無く能力を発揮してくれこと間違い無いでしょう。
まとめ
5アイテムをテストしてみてアクティブ化繊インサレーションの性能を左右する最も大きな要素は中綿素材にあるとあらためて実感しました。今回のテストによって各中綿素材の強みと弱みが浮き彫りになったことだと思います。通気性能、動きやすさ、軽量性を獲得することは当たり前になってきていますが、保温性、耐候性については各モデルでばらつきが見られました。今回はMontane Hydrogen Direct Jacketが総合力では一番でしたが、自分の使用用途や季節によっては、他のモデルにも最適なものがあるかもしれません。今回の比較テストが皆さんのアイテム選びの参考になれば幸いです。