比較レビュー:この冬注目のインサレーションウェア(防寒着)を着比べてみた
目次
- スペックだけでは分らない、インサレーションの最前線が知りたい
- 今回比較したインサレーションウェアについて
- 実地テストによる詳細評価
- 保温性・・・Arc’teryx Cerium LT
- 快適さ・・・Arc’teryx Cerium LT、Patagonia Nano Air Hoody
- 重量・・・mont-bell EXライトダウンジャケット
- 圧縮性・・・mont-bell EXライトダウンジャケット
- 透湿性・・・MONTANE FIREBALL JACKET
- 耐水性・・・化繊の独壇場
- 耐風性・・・Arc’teryx Cerium LT
- 扱い易さ・・・(予想通り)化繊製品の圧勝
- 耐久性・・・保留
- デザイン・・・Arc’teryx Cerium LT、MONTANE FIREBALL JACKET
- 価格・・・mont-bell U.L.サーマラップ パーカ
- ベスト・アイテム
- まとめ
スペックだけでは分らない、インサレーションの最前線が知りたい
冬のアウトドアを快適に過ごすために最も重要なアイテムのひとつは、何といっても防寒(保温)ウェアです。レイヤリング(重ね着)を基本とするアウトドア・ウェアの着こなし方では、ベースレイヤーとアウターの間に着込む「インサレーション」と呼ばれる、保温(断熱)性能に特化したウェアの選択が特に重要です。ここではとにかく日進月歩でさまざまな新素材・新技術が投入され、その結果、毎年とんでもない数の新製品が発売されています。それはそれで嬉しいのですが、その割に情報が少ないのも事実で、選ぶのも難しくなっていますよね。そこで今回は編集部が独自の基準で選出した注目のインサレーションウェアをさまざまな条件で着比べ、素材だけでなく形や使用感含めた、インサレーションウェアのおすすめを決めてみましたので、早速いってみたいと思います!
※ミドルレイヤーの選び方についてはこちらの記事を参照してください。
※インサレーション(ダウン・化繊)の選び方はこちらの記事を参照してください。
今回比較したインサレーションウェアについて
今回のテストアイテムは以下の6着。これらを選ぶにあたって前提とした条件や、求める性能・機能については以下のように検討しています。
- 日本(本州)の気候で春~冬オールラウンドで使える。つまり真冬しか使えないような分厚い防寒具ではなく、軽量コンパクト高機能モデル。
- 厳冬期アルプスなどのハードな雪・岩までは想定しないが、スキーやスノーハイク、雪山縦走などまでは使えることが前提。
- 防寒性能も考えて、基本的にはフード付きを選ぶ。
- アウターにはしないので防風や防水は必須ではないが、あればより望ましい。
- 日本から個人輸入しないと購入できない、または価格が5万円以上のアイテムは除く(価格対性能も評価対象)。
- ダウンと化繊、ハイブリッドを万遍なく選出する。
比較テストアイテム
- Mountain Hardwear Hooded Ghost Whisperer(参考価格:39,960円)
- Arc’teryx Cerium LT(参考価格:48,600円)
- mont-bell EXライトダウンジャケット(参考価格:20,304円)
- Patagonia Nano Air Hoody(参考価格:36,720円)
- MONTANE FIREBALL JACKET(参考価格:22,680円)
- mont-bell U.L.サーマラップ パーカ(参考価格:11,664円)
※価格は2014年12月時点での各オンラインストア価格から
テスト環境
基本的には12~1月にかけて、各アイテムを実際の山行で使用し、比較。その他、耐風性能をテストするためにサイクリングで着たり、耐水性能のチェックのために雨状態の中に晒されたり、基本的に家の中から街なかまで、テストであることを忘れるくらいとっかえひっかえ着まくっていました。もちろん、指定された方法で洗濯しその使い勝手も検証しています。
実地テストによる詳細評価
総合順位 | 1位 | 3位 | 5位 | 5位 | 1位 | 4位 |
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アイテム | MONTANE FIREBALL JACKET | Mountain Hardwear Hooded Ghost Whisperer | Patagonia Nano Air Hoody | mont-bell U.L.サーマラップ パーカ | Arc’teryx Cerium LT | mont-bell EXライトダウンジャケット |
ここが◎ |
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ここが△ |
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保温性 (20点) | 16 | 18 | 16 | 12 | 19 | 17 |
快適さ (20点) | 17 | 18 | 19 | 15 | 19 | 16 |
重量 (20点) | 15 | 17 | 13 | 16 | 16 | 18 |
圧縮性 (10点) | 7 | 8 | 5 | 8 | 7 | 9 |
透湿性 (5点) | 5 | 1 | 4 | 4 | 3 | 2 |
耐水性 (5点) | 4 | 2 | 4 | 4 | 3 | 2 |
耐風性 (5点) | 3 | 4 | 2 | 3 | 5 | 3 |
扱い易さ (5点) | 5 | 2 | 5 | 5 | 2 | 2 |
耐久性 (5点) | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 |
デザイン (5点) | 4 | 4 | 4 | 2 | 5 | 2 |
価格 (5点) | 4 | 2 | 2 | 5 | 1 | 4 |
総合点(100点満点) | 83 | 79 | 77 | 77 | 83 | 78 |
スペック | ||||||
重量 | 328g | 219g | 385g | 283g | 275g | 149g |
インサレーション | PRIMALOFTR SILVER ECO | Qシールドダウン800フィル | ポリエステル100%の60グラム・フルレンジ・ストレッチ・インサレーション | エクセロフトR[ポリエステル]脇:ストレッチ クリマプラスR[ポリエステル] | 850 ホワイトグースダウンCoreloft 80 g/m2 | 900フィルパワー・EXグースダウン |
表面生地 | PERTEXR Quantum Rip-stop | ウィスパラー10D×7Dリップストップ(ナイロン100%) | メカニカル・ストレッチ織りの1.3オンス・20デニール・リップストップ・ナイロン100% | 12デニール・バリスティックRエアライト ナイロン・リップストップ[ポルカテックスR加工] | Airetica 100% ナイロン、34 g/m2きつく編んだ丈夫な 20×10 デニールのリップストップナイロン | 7デニール・バリスティックR エアライトナイロン・リップストップ[超耐久撥水加工] |
ポケット | ジッパー付きポケット2個(ハンド2) | ジッパー付きポケット2個(ハンド2) | ジッパー付きポケット4個(ハンド2、胸2) | ジッパー付きポケット3個(ハンド2、左胸1) | ジッパー付きポケット2個(ハンド2) | ポケット4個(コンシールRジッパー付き〈ハンド2〉、ジッパーなし〈内2〉) |
フード | あり | あり | あり | あり | あり | なし |
収納 | 右ポケットに収納可 | 右ポケットに収納可 | なし | スタッフバッグ付 | スタッフバッグ付 | スタッフバッグ付 |
保温性・・・Arc’teryx Cerium LT
Cerium LT>Ghost Whisperer>EXライトダウン>FIREBALL=Nano Air>サーマラップ
これはある程度ダウンの力が目立つという予想が当たってしまいましたが、そのなかでも?Cerium LT が強かった!これにはいろいろな要因があります。その解説の前にまず暖かさを決める基本的なロジックについておさらいしますと、インサレーションの暖かさは中綿の質だけでは決まりません。例えばダウンの場合、ダウンの原料(ダックとか、グースとか)や品質(フィルパワー)、分量、バッフル(仕切り)の構造など、各要素がかけ算となって総合的に暖かさが決まります。このため極端な話、単純にフィルパワーが高いだけの薄いダウンよりも、低品質でも大量に中綿が詰まった(重たい)ダウンの方が暖かい場合があり得るのです。
このため単純にスペックだけ見ても実際の暖かさは分らない場合が多いのですが、実際に着てみた結果、やはりビジュアル的にモコモコ感がハンパない Cerium LT の保温力は頭ひとつ抜け出ていました。ただ一方で?Ghost Whisperer の保温力は、あの重量とコンパクトさを考えると、防寒具としての総合的な強さという意味では見逃せません。
快適さ・・・Arc’teryx Cerium LT、Patagonia Nano Air Hoody
Cerium LT=Nano Air>Ghost Whisperer>FIREBALL>EXライトダウン>サーマラップ
ここでいう快適さとは、汗をかいたり風雨に打たれた時の快適さではなく(それは後述の項目に)、単純な着心地・動きやすさという意味です。最も着心地よく、動きやすいインサレーションは?Cerium LT となりました。まずふっくらとした中綿と滑らかなナイロンの肌触りがまるで常にシュラフに包まれているかのような心地よさ。そして身体に無理なくフィットし、なおかつ動いても余計な突っ張りや空間を無くしてくれる可動性の高さはさすがです。
もうひとつ、快適さで特筆したい製品は Nano Air の健闘ぶり。この着心地・感触は良い意味で本当に新しい。ダウンのようなというよりも、ものすごくきめ細やかでふわふわしたガーゼを着ているような不思議な気持ちよさです。伸縮性も抜群で、動きやすいことこの上なし。
重量・・・mont-bell EXライトダウンジャケット
EXライトダウン>Ghost Whisperer>Cerium LT=サーマラップ>FIREBALL>Nano Air
重量に関しては、軽ければ軽いほど良いに越したことはないですが、だからといって必要以上に機能がヘボければ本末転倒なことは言うまでもありません。そういった意味でこの項目のポイントは、「これだけ十分な品質を実現してながらなおかつこれだけ軽い」という相対的な評価が加味されてきます。その意味で(フードがないことのハンデはあるものの)EXライトダウンの軽さは異常。それでいてある程度十分な保温力があるだけに、冬のザックにいつも潜ませておいても何ら痛みがない。今後天候の読み違いで寒い思いをすることは無くなるでしょう。
圧縮性・・・mont-bell EXライトダウンジャケット
EXライトダウン>サーマラップ=Ghost Whisperer>FIREBALL=Cerium LT>Nano Air
畳んだときのコンパクトさは、着たときの性能ではないため優先度を下げる人もいるかもしれませんが、軽量コンパクト好きな個人的には特に注目してしまう要素です。そして結果は下の写真の通りで、機能性と価格に特化したモンベル2製品のコンパクトさが目立ちます。また、Ghost Whisperer と?FIREBALL は内ポケットのサイズ自体に余裕があるため、見た目よりも実際はさらに圧縮できます。逆に、Nano Air はこれ以上無いくらいにきつきつに圧縮していますので、見た目よりもかなり嵩張る印象です。
透湿性・・・MONTANE FIREBALL JACKET
FIREBALL>サーマラップ=Nano Air>Cerium LT>EXライトダウン>Ghost Whisperer
雑誌などの評価ではパタゴニアの?Nano Air の評価がかなり高く、テスト前にはかなりの期待をしていましたが、期待が高すぎたのか、結果は若干違ったものになりました。とにかく FIREBALL は汗の排出力が素晴らしいです。それでいて断熱性(耐風性)のバランスも良く、行動から休憩という一連の流れのなかでも汗冷えや不快感をまったく感じさせません。これに対し Nano Air の方は、僅かですが?FIREBALL に比べて蒸れを感じます。その原因について考えてみましたが、この表面だけに現れた現象として、汗を大量にかいた際に排出しきれなかった水分が表面に残ってしまうこと(下写真)が関係しているのではないかと思われます。
ちなみにダウン勢のなかでは、Cerium LT の?Down Composite Mapping 技術(湿気の溜まりやすい部分に化繊を配置して保温性を高める)が想像以上に効果的。化繊製品に肉薄した快適さを実現していることがかなりの驚きでした。
耐水性・・・化繊の独壇場
FIREBALL=Nano Air=サーマラップ>Cerium LT>Ghost Whisperer=EXライトダウン
この項目で求めている機能は2つあります。1つは水分を含んでしまったときにどれだけ保温力を保てるか。もう1つは水分を含む前の段階でどれだけはねのけられるか(撥水力)。前者について、従来のダウンでは濡れてしまったら終わり、一方化繊は濡れても保温力がほとんど落ちないというのが常識でした。その意味で今回 Ghost Whisperer に取り入れられた撥水ダウン「Qシールドダウン」がどれほどのものなのか楽しみでいたのですが、結果は・・・まだまだ化繊の域にはほど遠い感じがしました。後者については、すべての製品においてある程度の撥水力は認められました(下写真)が、Ghost Whisperer と?EXライトダウンの2つは、縫い目から容易に水がしみ込み易いのが若干気になりました。やはりダウンはデリケートですね。
耐風性・・・Arc’teryx Cerium LT
Cerium LT>Ghost Whisperer>FIREBALL=EXライトダウン=サーマラップ>Nano Air
強風のなかで気になったのは、ダウン製品の耐風性能の高さ。中綿が厚い Cerium LT が強風でもびくともしないのは予想していたとはいえ、その他のダウン製品も同じように風に対する防御力が高いのには驚きです。一方化繊製品については(コンセプトの違いだと思うのですが)性能差が極端に現れる結果となり、FIREBALL の優秀さが目立つ結果となりました。
扱い易さ・・・(予想通り)化繊製品の圧勝
FIREBALL=サーマラップ=Nano Air>Cerium LT=Ghost Whisperer=EXライトダウン
基本的に化繊製品はすべて洗濯機で簡単に洗え、ダウンは押し洗い(なおかつダウン専用洗剤を推奨)という2択です。思った以上にダウンの洗濯が面倒で、あらためてダウンは汗をかきながら着るものでは無いと思いました。
耐久性・・・保留
基本的に現時点ではどれも劣化は見られませんが、正式な評価はもう少し着込んでから、後日追記したいと思います。
デザイン・・・Arc’teryx Cerium LT、MONTANE FIREBALL JACKET
Cerium LT>FIREBALL=Ghost Whisperer=Nano Air>サーマラップ=EXライトダウン
毎度この項目は主観的な部分が入りまくってしまうので申し訳ないと思いつつ、でもやはりデザインのなかに機能美としての価値が息づいていると考えている Gearzine としては、優れたスタイル、合理的なデザインを素直に評価したいと思っています。そのなかで特に評価したいのは、Cerium LT における機能とデザインを両立させたフォルムやバッフル(仕切り)構造と、FIREBALL のミニマルで可動性の高いフォルムです。
価格・・・mont-bell U.L.サーマラップ パーカ
サーマラップ>EXライトダウン=FIREBALL>Ghost Whisperer=Nano Air>Cerium LT
最安のサーマラップと最高の Cerium LT の価格差は実に約4万!正直まともに比較するのはモンベルに申し訳ない気がしています。それくらい、サーマラップと EXライトダウンのコストパフォーマンスの高さには驚かされます。
ベスト・アイテム
最高の着心地と保温力を備えるなら Arc’teryx Cerium LT
軽量コンパクトなインサレーションというジャンルで、この暖かさは反則。これだけふかふかにして、しかも要所要所に化繊を取り入れたりしたら、どうしてもコンパクト性や重量、その他の機能を犠牲にしなければならなくなるもんでしょう。しかしアークテリクスは違う。いつも「一番使えるもの」を作る。何かの機能を犠牲にするくらいなら価格を上げて全部実現する方向を選ぶ。いろいろな意味で、何というユーザー泣かせなメーカー!世の中にはいろいろな沼がありますが、アウトドアにもやはりありました、その名も「アーク沼」が。とにかく、ミドルウェイト以上でしか味わえない保温力と着心地を、これだけの軽量・コンパクトなサイズで実現できたのが?Cerium LT のスゴさ。透湿性や耐水性などは化繊に及ばないことは確かですが、それもいろいろな工夫によって納得できるラインまで持っていくところがニクい。
手軽に、軽快に安心してガンガン使える MONTANE FIREBALL JACKET
一言でいうとまさにお買い得なアイテム。文字通り「ベスト・バイ」な一着です。今回着比べてみた中では、確かに何かが最高なわけではないかもしれません。ただ一度これを山で試してみれば、その山で「使う」防寒具としての完成度の高さに、感嘆せずにはいられません。寒すぎず、暑すぎずオールシーズン使える保温力。低温下での行動時にも蒸れない透湿性(脱いだり着たりする必要なし)。万が一のための耐風性・耐水性。袋無しでコンパクトにパッキングできる携帯性。どれもアウトドア・ギアとして求められる特性ではありますが、それを同時に実現していることのすごさは、少しでも山に登る人であれば誰もが納得できるものなのではないでしょうか。間違いなくこの冬一番の相棒です。
※MONTANE FIREBALL JACKET についてはこちらに詳細レビューを書きました。
まとめ
今回は Gearzine が選ぶ注目のインサレーションウェアを、さまざまな条件で着比べてみて、多角的に比較して、自分なりのベストを検討してみました。
ここで補足したいのは、上に挙げた2つ以外のアイテムがイケてないわけでは決してなく、またダウンと化繊はまだどうしても素材の特性として得意・不得意の分野があるため、誰のどんな状況においても優れているとは一概に言えないということです。それだけに自分の使用するシチュエーション、重視したい機能、予算等を逢わせて比較表を参考にしてもらいながら、自分のベストアイテムを探してもらえると嬉しいです。