
比較レビュー:気になるメリノウールのベースレイヤー(アンダーウェア)を着比べてみた
メリノウールのベースレイヤーがブームなわけだが
【お知らせ】最新メリノウールベースレイヤーの比較レポートを公開しました(2015/11/23)
⇒比較テスト:メリノウールのベースレイヤーを20着以上着比べてみて分ったこと
最近5年くらい着古したノースフェイスのアンダーウェアがさすがにヨレヨレになったので、そろそろ新しいヤツに替えてやろうと思いまして、ちょこちょことネットで最新事情を調べてみたわけです。
するとなにやら、ここ最近ではどこのお店に行っても「メリノウール」のベースレイヤーがガンガンPUSHされている。ぼくにとってはウールの下着って、新しいというよりむしろ時代と共に高機能な化学繊維に取って代わられたはずなんだけど、それなのになぜ今ウール?というのが最初の感想でした。ただ、どうやら事情は違ってるらしい。最近のウールはより高品質とされるメリノウールを、現在の最新縫製技術によってウール本来のメリットをそのままに弱点を克服した、スーパーな素材として生まれ変わっているとか。メーカーや登山用品店のうたい文句では、どこも大体メリノウールの特徴として、
- 冬暖かく、夏涼しい
- 汗冷えしない
- 匂いにくい
なんて書いてあり、登山にはこれが最適みたいな押し出され方してます。でもそうなると、ここで天邪鬼なぼくだけじゃなくても「じゃあ今まで出していた化学繊維のハイテク下着はダメなのかよ?」という疑問が湧いてきますよね。メーカーは新製品を、小売店は在庫を売りたいのは分りますが、本当に、最適なベースレイヤーとは何なのかが分りにくくなっているのが現状なのではないでしょうか。
そこで今回の比較テストのテーマは、「メリノウール VS. 化学繊維 ベースレイヤー対決」。アウトドアで利用する際に気になるさまざまな角度から比較して、ぼくとわたしにとって最適なベースレイヤーを見つけてみたいと思います。
ベースレイヤーの選び方はこちらに詳しくまとめました
今回比較したベースレイヤーとテスト方法
今回比較テストでピックアップしたアイテムは以下の7点(メリノウール5点、化学繊維2点)※。選んだ基準ですが、基本的にどうしてもまずカッコイイものにまず目がいってしまいます。ぼくの経験上、いくら価格が安くても、いくら性能がよくても、そこに何かしらの愛着がもてないと結局そのギアとは長く付き合えないものです。その反面、アウトドアの雰囲気を借りただけのようなカッコだけの似非アウトドアギアは大嫌いですが。その他、いろいろ海外の製品も興味深いのが無くはないのですが、より参考になると言う意味で比較的入手しやすいものを選んでみました。
- SmartWool NTSマイクロ150クルー(参考価格:8,000円)
- icebreaker オアシス ロングスリーブ クルー(参考価格:10,500円)
- ibex ウーリーズ150 クルー ストライプ(参考価格:9,300円)
- Waipoua UF メリノ ライト アンダートップス(参考価格:7,875円)
- Patagonia キャプリーン2 ライトウェイトクルー(参考価格:4,800円)
- THE NORTH FACE L/S HYBRID PLUS CREW(石井スポーツ+ザ ノースフェイス共同開発品 参考価格:6,976円)
- mont-bell スーパーメリノウール L.W.ラウンドネックシャツ(参考価格:4731円)
※後日、mont-bell スーパーメリノウール L.W.ラウンドネックシャツを追記して合計7点になっています。
テスト方法
これらの比較テスト方法ですが、まずとある猛暑の山行にてすべてのアイテムを1ピッチ毎に着替えることで、同環境でどれくらい性能に差があるのかという比較評価を行ないました。さらに各アイテムを1つの山行(丸1日)着続けたり、街や家の中などで長時間にわたって着続けることで、さまざまな角度から総合的な評価を行いました。加えて各アイテムを水に浸けてから着、肌寒くなった秋の夜風に晒されるなどある程度極限状況で横並びの性能比較を行いました。また、1週間洗わずに着続ける等して臭いの出にくさなどに差が出るかどうかをチェックしました。しかしどのアイテムもまだ購入後2ヵ月程度なので、今後は継続的に長期間さまざまな環境で使ってみて、耐久性をはじめとした追加情報を継続的にレポートしていく予定です。
実地テストによる評価詳細
総合順位 | 1位 | 2位 | 2位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アイテム | SmartWool NTSマイクロ150クルー | THE NORTH FACE L/S HYBRID PLUS CREW | icebreaker オアシス ロングスリーブ クルー | mont-bell スーパーメリノウール L.W.ラウンドネックシャツ | Patagonia キャプリーン2 ライトウェイトクルー | ibex ウーリーズ150 クルー ストライプ | Waipoua UF メリノ ライト アンダートップス |
特徴 | 着心地・保温力が最高 | 機能性・価格共に隙がない | 性能優秀、デザイン最高 | 圧倒的なコストパフォーマンス | コストパフォーマンス | こなれたデザインとピッタリしたフィット感 | 価格の手ごろなメリノウール |
フィット感 (10点) |
9 | 8 | 9 | 8 | 7 | 8 | 6 |
肌触り・快適性 (10点) |
8 | 8 | 9 | 8 | 5 | 6 | 4 |
機動性 (10点) |
8 | 9 | 7 | 8 | 6 | 8 | 6 |
温度調節性能 (20点) |
20 | 17 | 18 | 16 | 12 | 16 | 16 |
速乾性 (20点) |
14 | 18 | 14 | 14 | 18 | 12 | 14 |
耐久性 (10点) |
8 | 8 | 8 | 6 | 8 | 6 | 3 |
フォルム・デザイン (10点) |
8 | 4 | 9 | 5 | 6 | 7 | 4 |
価格 (10点) |
5 | 7 | 5 | 9 | 9 | 5 | 7 |
総合点(100点満点) | 80 | 79 | 79 | 74 | 71 | 68 | 60 |
フィット感・肌触り・快適性・・・ウールの柔らかさと普段着のような着心地が◎
SmartWool = icebreaker > THE NORTH FACE = mont-bell > ibex > Patagonia > Waipoua
いわゆる着心地については素材感、サイズ感、伸縮性、フォルムなどさまざまな要素が関係していますが、それらを総合的に考えると最も着ていて快適かつ楽だったのがノースフェイス SmartWool と icebreaker のメリノウール勢。ただ、メリノウールは総合的に肌触りが滑らかで細かい起毛が心地よいという特性はあるものの、ノースフェイスも化学繊維ながら全然滑らかさで負けていません。フィット感については ibex や Waipoua のような身体にぴったりとフィットするタイプは、個人的にはちょっと窮屈な感じが否めません(そのくせ Waipoua の生地は1回着ただけでのびのびになってしまいました)。
ちなみに半年ほど万遍なく使用している限りでは、臭いについてはメリノウール製品は汗をかいても洗濯してもまったく気になりませんでしたが、唯一パタゴニアだけは何度か使ったり洗ったりいるうちにほんの少しですが化学繊維独特の臭いが出てきてしまっていました。
機動性・・・好みが分かれるもののノースフェイスがバランス良し
THE NORTH FACE > ibex = SmartWool = mont-bell > icebreaker > Patagonia = Waipoua
今回の6アイテムの中で、最も動きやすさを実感できたのはノースフェイス。スマートウールとアイスブレーカーは普段着のカットソーのような自然なフォルムは一見かなり好印象ですが、ノースフェイスは腕部分が少しぴったりとフィットしつつ胴回りは若干ゆったり動きやすいというにくい作りに最終的には軍配を上げたくなりました。ibex と Waipoua はどちらも身体にぴったりとフィットし、なおかつ伸縮性のある生地で動きを妨げない作りなので、こちらも動きやすさでは非常に優秀だと思いますが、最終的にはぼくの好みもあってノースに。
温度調節性能・・・さすがのウールだが、ノースフェイスも大健闘
SmartWool > THE NORTH FACE > icebreaker > ibex = Waipoua = mont-bell > Patagonia
この項目では、さまざまな状況下でベースレイヤーが暑すぎず、寒すぎずという状態をどれだけ保ってくれるかどうかという性能を評価しました。テストした環境は、通常の夏・秋登山利用の他、極端な状況、例えば真夏の山の中で汗を十分に含んだ状態で休憩をとる、あるいは冬の夜、ベランダの外で水をひたひたに含ませてから着て風に晒されてみるなどです。ここで分ったのは、一般的にウールは保温性能が高いとはいえ、だからといってすべてのウール製品の温度調節性能が高いわけではないという事実でした。例えばウールの中では SmartWool や Waipoua が思ったよりも全然暖かく、体表の体感温度を一定に保ってくれていましたが、それ以外は思ったほどの保温力は感じられず、一方ノースフェイスはメリノウールに勝るとも劣らない保温力を発揮していました。
「メリノウールは汗冷えしない」は本当か?
山の中で着てみた実感でいうと、メリノウールは汗冷えしないと謳ってはいますが、それはかく汗の量と、衣服のレイヤリングの仕方によると思われます。夏はベースレイヤー1枚で登ることもしばしばありますが、そういう場合は、汗をたっぷり含んだメリノウールは小休憩くらいなら身体に張り付いたまま、風を受けるとかなり冷やっとしますので、あまり汗冷えしないという実感を持ったことはありません。むしろ化繊の方が速乾性に優れていますので、汗だくになってもすぐにさらっとしてきます。一方で冬であれば、大汗をかいた場合でも、ほぼ常にミドルレイヤー・アウターと重ね着した状況ですので、ベースレイヤーが直に風を受ける訳でもなく、メリノウールの温度調節性能がフルに活かされ、いわゆる「汗冷え」という感覚は減ります。こうやって考えると、現在のところぼくのなかでは、より暖かさが重要な冬ではメリノウールを、夏1枚で着ることも考えると高機能化繊というチョイスが良いのではないかと思ったりしています。
速乾性・・・化学繊維の圧勝
THE NORTH FACE = Patagonia > Waipoua = SmartWool = icebreaker = mont-bell > ibex
正直、汗で濡れたウールがここまで乾きにくいとは思いませんでした。下の写真を見ても分るとおり、メリノウールの繊維は保水力が非常にありますので、濡れた部分はしっかりと水分を含み、なかなか外に拡散・蒸発されにくいです。一方で化繊素材は水を含みにくいので、汗はすぐに蒸発するため乾きやすく、肌は常にドライな感じを保持します。
耐久性・・・化学繊維かウールかよりも製品毎の差が大きい
THE NORTH FACE = Patagonia = SmartWool = icebreaker > ibex = mont-bell > Waipoua
この項目は実際に1年以上使い回してみないと、最終的な評価はできないかもしれませんが、ノースフェイスの生地の丈夫さ、洗濯などでの劣化の少なさは今のところ最高です。一方スマートウールとアイスブレイカーはウールの割に非常に丈夫な生地で、洗ってもまったく劣化しないところが素晴らしい。Waipoua は着始めからかなり緩い伸縮で、数回洗うともう繊維が伸び伸び、毛玉がちになってしまいました。
フォルム・デザイン・・・新製品が目白押しのウールはデザイン性もこなれていて◎
icebreaker > SmartWool > ibex > Patagonia > mont-bell > THE NORTH FACE = Waipoua
デザインや汎用性(アウトドアだけでなく多目的に使えるかどうか)については、多分に主観が入ってしまうのはしょうがないとは思いますが、ぼくの中ではアイスブレイカーがお気に入りです。普通にセレクトショップにおいてあっても不思議ではないカットソーのようなフォルムとボーダーのデザイン・色・柄のセンスと普段着を着ているようなフィット感。それだけで街に山にとヘビロテしてしまいそうです。
まとめ
まだまだ耐久性の比較などは不完全と言えるものの、メリノウールは最強なのかということについて、自分なりに納得のいく評価にはたどり着いたかなと。今後も新たな情報やアイテムなどができれば追加していきまたいと思いますので、これからベースレイヤーを選ぼうという方の参考になれば嬉しいです。
山用としても高性能、日常でも大活躍なスマートウールとアイスブレーカーは鉄板でおすすめ
日常着の延長としてコストパフォーマンスの高いメリノウールならモンベルがおすすめ
春~秋の山用アンダーウェアとしてだけ考えれば高性能・低価格なノースフェイス
ベースレイヤーに最適な素材は季節によっても若干違います。夏は速乾性の高い化学繊維、冬は保温力の高いウールがおすすめ。
1着目は迷ったら一番薄いモデルを選ぶとよいです。万が一寒ければ重ね着や防寒着を厚くするなど工夫で乗り切れますが、厚手を買うと真夏に使いづらいので。
補足:ベースレイヤーの基礎知識
以下に、ベースレイヤーを選ぶにあたって押さえておきたい最低限の知識をまとめました。なお、選び方ついてはあらためてこちらに詳しく書きましたのでよかったらご参考ください。
綿は厳禁
詳細な比較に入る前に、ベースレイヤーまたはアンダーウェア(=アウトドアで肌の上に直に着るウェア)の目的と役割を知っておくことは重要です。ベースレイヤーを着るシーン(=アウトドア)では、常に突然厳しい自然環境におかれるリスクがあり、ちょっとでも体温を奪われることが即、命にかかわる可能性があります。また行動することによる多量の汗で身体が長時間濡れた状態になりがちです。そんなわけで、ベースレイヤーの最も重要な役割は「体表面の汗を吸い上げ、外に逃がす(蒸発させる)」こと※。このため、吸収した汗をたっぷり保持してしまい、逃しにくい(身体にぴったりくっつく)綿素材の下着やお気に入りのバンドのTシャツなどで山に登るのは厳禁ということがよく言われるわけです。
※山と渓谷社「山岳装備大全」より
主要な素材の特徴比較
次に、ベースレイヤーに使われている素材による一般的な違いを押さえておきます。もちろんこれはすべてのアイテムに言えることではなく、製品によっては独自の企業努力によって弱点を克服した製品を開発している場合もあるので、あくまでも一般論として読んでください。
素材 | 化学繊維 | メリノウール |
---|---|---|
機能 | ベースレイヤーに採用される化学繊維とは、主にポリエステル、もしくはそれに加え摩耗に対する強度を高めるためのポリウレタン等が混合されたものをいう。モンベル社の「ジオライン」やパタゴニア社の「キャプリーン」など各社それぞれ独自の加工を施したブランドを展開している。 | メリノウールは、従来のウールよりも繊維が格段に細く、弱点であった快適さと耐久性が強化された。 |
メリット |
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デメリット |
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厚さ・着心地・耐久性の違い
多くのメーカーのベースレイヤーには、同じブランドの同じシリーズでも厚さによって複数のモデルがあるはずです。これらは実際に着て活動したことがない場合、どの厚さを選んでよいか非常に悩ましいところでしょう。そんなときにおすすめしたいのはまず最も薄手のものを選ぶことです。薄手であれば夏でも着られるし、冬にも使うときにちょっと物足りないと思えば、重ね着ぎができますから。
次に、ベースレイヤーを実際に着比べると結構その着心地、フィット感の違いに気がつきます。全身タイツを着ているかのような、いかにも「肌着」なぴったりと身体にフィットして伸縮性の高いものから、カットソーのようなややゆったりした着心地優先のものまで、実際にはさまざまです。ベースレイヤーは肌に直接着るものであるからこそ結構その部分はおろそかにはできないもの。ただしそういうところに限って実際に自分で着て、活動してみないと最終的な判断はできないのが悩ましいところですが、今回はそこもできる限り具体的に比較・評価をしていきます。
その他忘れてはならないところでは、耐久性です。高価な買い物だからこそ、数回着てすぐに生地がくたくたになってしまったり、毛玉ができてしまったりするような製品は選びたくないものですが、こればかりは買ってからでないと分らないのが辛いところですが、今回は実際に着て生地の丈夫さ、そして何度も洗濯してからの消耗具合なども比較してみました。
2014/10/25 快適性について追記しました。
2015/1/5 評価項目を増やし、全体的に評価を更新しました。
2015/2/6 モンベルのスーパーメリノウール(ライトウェイト)を追加しました。
2015/8/23 新たに選び方の記事を更新したため、内容を一部改訂。