
比較レビュー:夏用スリーピングバッグ モンベルの最新ハイテク寝袋の実力は?国内人気モデルと比較してみた
数ある山道具の中でも、スリーピングバッグ(あるいはシュラフ)選びに苦労した経験がある人は少なくないのではないでしょうか。対応温度域や素材の質、重量、携行性、使い勝手など、実際に使ってみないと良さが分からない部分が多く、最適な1本を選ぶのははなかなか難しいかと思います。
夏山登山は地上と山頂の気温差が激しく、山の中では想像以上に冷え込むことも少なくないため、快適に眠れないどころか最悪の場合、低体温症のリスクさえあるといいます。高価でなおかつ重要な道具でもあるだけに、シュラフ選びに関しては妥協せずにしっかりと情報収集したいものです。
また、何といっても今シーズンは、mont-bellから革新的な新製品が発表されました。当サイトでも早速そのうちのハイエンドモデル「シームレスドライダウンハガー900」をレビューし、その驚きの進化と実力を垣間見ることになりました。
そこで今回は、そんなモンベルの革新的技術を搭載した新モデルを含めて、夏用シュラフの人気モデルを比べてみたいと思います。長年の信頼と実績で安定した人気を誇る2大国産ブランドのイスカとナンガと比べて、ぶっちゃけどうなったのか?非常に気になる人も多いと思います。実際問題、対応温度域などがぴったりと合うわけではないので完璧な比較評価は難しい部分がありますが、それらを含めて、どのような違いがあるか、選ぶときのポイントなどを丁寧にレポートしてみたいと思います。
目次
今回比較したスリーピングバッグについて
今回比較したスリーピングバッグは、夏山の定番モデル。主に本州の真夏(7月~8月中旬)を中心に前後1カ月程度を使用するのに適した、いわゆる夏用シュラフです。メーカーによって若干の差はありますが、限界対応温度がおおよそ5℃~0℃あたりに位置づけられたモデルを想定しています。一般的に登山で用いられるシュラフはマミー型と呼ばれるタイプで中綿(保温材)は重量あたりの保温力が高いダウンに限定しました。ただ、このカテゴリは比較的軽量に作ることができるため、ダウンではなく化繊の中綿にも十分使えることがあるのも事実で、より安価な化繊シュラフも実際には選択肢に入ってくるかもしれません。こうして選定された今回の比較モデルは以下の3つ。
- mont-bell シームレスダウンハガー900 #5
- ISUKA エア280x
- NANGA オーロラライト 350 DX
テスト環境
テスト期間は2020年6月~7月までのおよそ2ヶ月間。北海道内の登山時、キャンプ場、車中泊、および普段の就寝で使用しました。就寝時の最低気温は8℃~15℃くらいでした。
またテスト時の服装ですが、上半身はベースレイヤーと薄手のフリース、下半身はベースレイヤーとトレッキングパンツを着用しています。
評価項目については、下記の通り6つの指標を設定。当然のことながら評価・採点はテスターの判断による主観的で相対的なものです。
- 保温性・・・どれだけ低温下でも暖かく寝られるか
- 重量・・・どれだけ軽いか
- 快適性・・・どれだけ寝心地がいいか(肌触りよく、動きやすいか)
- 収納性・・・どれだけコンパクトに収納できるか
- 水・湿気・濡れへの強さ・・・どれだけ水濡れや湿気がつきにくいか、乾きやすいか
- 使い勝手のよさ・・・どれだけストレスなく使えるか
- 手入れのしやすさ・・・いつまでも長く使いやすいか
テスト結果&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちら
総合評価 | AAA | AAA | AA |
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アイテム | ![]() | ![]() | ![]() |
参考価格 | ¥37,000+税 | ¥29,000+税 | ¥34,000+税 |
ここが◎ |
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ここが△ |
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保温性 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
重量 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
快適性 | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ |
収納性 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ |
水に対する強さ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
使い勝手 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
手入れのしやすさ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
スペック | |||
適応身長 | 183cmまで | 208(全長)cm | 178cmまで(レギュラー) |
実測重量(収納袋含) | 420g | 608g | 757g |
収納サイズ(cm) | φ12 × 24 | φ14 × 24 | φ13 × 25 |
ダウン品質 | 900フィルパワー・EXダウン | 90/10 800フィルパワ- | スパニッシュダックダウン90-10% 760FP |
ダウン量 | 非公表 | 280g | 350g |
内部構造 | スパイダーバッフルシステム スーパースパイラルストレッチシステム | 胸側はボックス構造 背中側はシングル構造 | シングルキルト構造 |
リミット温度 | 4℃ | 2℃ | 0℃ |
ファスナー仕様 | 右側(ジッパー長150cm) | 右側 | 右側 |
各モデルのインプレッション
mont-bell シームレスダウンハガー900 #5
軽量化と保温力アップを同時に実現した画期的なバッフル構造
モンベルの新技術「スパイダーバッフルシステム」を採用した話題のスリーピングバッグ(その防水モデルの詳細レビューはこちらを参考に)。ダウンが偏らないように細かく分けていた隔壁が取り払われ、代わりにダウンを巧みに絡ませたスパイダーヤーンという糸をシュラフ内部に張り巡らすことによってシュラフ全体に均一に中綿が敷き詰められるという仕組み。下の写真にあるように光を透かしてみると、確かに偏ることなくシュラフ全体にダウンが分布されており、今までのシュラフではどうしても防ぐことができなかった縫い目付近のコールドスポットがなくなっていることがわかります。これが、どれほどすごいことか、アウトドア歴の長い玄人であればなおさら実感することだと思います。
病みつきになる寝心地のよさ
900FPという最高級クラスのダウンが隔壁のない空間に満遍なく配置されているということは、膨らみを制限する障害がなくなったということです。収納袋からシュラフを出した際、待ってましたと言わんばかりに膨らむ様には驚かされました。ふわふわの寝心地という表現が一番ふさわしいでしょうか。7デニールという極薄の生地も、極上の肌触りを提供してくれ、とにかくシュラフ全体に優しく包まれるような快適な寝心地は病みつきになりそうです。#5でこのふわふわ感なのだから#1だとどうなってしまうのか。
メーカーではダウンの量を公表していませんが、おそらく900FPのダウン性能を十分に活かし、ダウン量はギリギリまで削っているのではないかと思われます。保温性ですが、6月下旬の最低気温8℃のフィールドにおいて、寒さで起きることもなく朝まで快眠することができました。表地に縫い目がないため空気が逃げることがなく気密性が非常に高かったです。そのせいか15℃の環境下で使用した時には暑くてシュラフのジッパーを解放していました。まあコンフォート温度が8℃なので当たり前か。
窮屈感を軽減するおなじみのストレッチシステムも◎
シュラフ自体は細身のシルエットですが、スーパースパイラルストレッチシステムのおかげで窮屈感は全くありませんでした(下写真)。むしろ、しっかりと体にフィットしてくれるためデッドスペースがなくなり保温性の向上に貢献してくれています。シュラフの保温性能は、重量、サイズとのバランスが非常に懸念されてるところですが、このモデルについては軽量・コンパクト・暖かいと自信を持って言えるアイテムだと思います。
濡れにくさは期待できず
同じくスパイダーバッフルシステム搭載のシームレスドライダウンハガー900(#3 #5)の表地にはGORE-TEXが採用され、防水透湿性能を有していますが、シームレスダウンハガーの表地はバリスティックエアライトナイロン素材で透湿性能は有していません。後述しますが、撥水性能については残念ながら期待外れでした。また噛み込み軽減仕様のジッパーも他と比べると思ったほどスムーズではなく、ここも若干マイナスポイント。
総じてスパイダーバッフルシステムと継承され続けているスーパースパイラルストレッチシステムが相まって、軽量・コンパクト・快適さにかけては文句なしに満足のいく仕上がりになっているシュラフと言えます。とはいえ、現実的に考えると、同メーカーのアルパインダウンハガー800#5と比較したとき、価格差の割に対応温度や重量・収納サイズにそこまで差がないというのが正直悩ましいところ。個人的にはぶっちゃけこれを選ぶくらいならば、あと1枚諭吉を足して、前述のGORE-TEX採用のシームレスドライダウンハガー900#5を購入した方が幸せになれると思います。
ISUKA エア280x
高品質ダウンと独自の3D構造で軽量ながら最大限の保温性を確保
長年、日本の登山界をリードし続けてきた老舗シュラフブランド「ISUKA(イスカ)」。その丁寧な作りと徹底的に検証を繰り返し開発してきた商品作りは多くの登山家から信頼を得ています。
今回使用したモデルはAIR 280X。人気のエアシリーズの中でも夏用として位置付けられるモデルです。中綿には最高品質の800FPホワイトグースダウンを280g使用。一見シンプルな構造に見えますが、よくよく調べると独自の3D構造によってダウンの量をエリアごとに効率良く配置、さらには胸側はボックス構造、体重のかかる背部はシングル構造と変えており保温効率と軽量性が高められるなど、非常に高度な技術が採用されています。
使用限界温度は2℃。ただ最低気温8℃の環境下で使用した時には、若干寒くて重ね着してしまいましたが、最低気温12℃で使用した時には朝まで快眠することができました。イスカのHPを見ると公表しているのはあくまでも使用限界温度のみ。しかもモンベルやナンガと違って独自基準のため、快適使用温度を考える場合には使用限界温度から約5~10℃プラスして考えると良いとのこと。人によって寒さの感じ方は異なるでしょうが、筆者としてはプラス5℃では事足りないためプラス10℃で考えていいと思います。
使い勝手や濡れに対する対応などもそつなくこなす優等生
表地素材には超撥水加工のナイロン66を採用。撥水性のテストではシャワーを当て続け見事な撥水性能を発揮。しかし10分後から徐々にダウンへの水の侵入も確認。撥水力は継続していたため、表地素材からの浸透というよりかは、縫い目とジッパー部分からの浸透とみて間違いないと思います。まあ、土砂降りの中使用するわけではないのである程度の結露や濡れには十分対応できるスペックを有しています。
総じて無駄なものを省きながら、全ての項目においてバランスの均衡がとれているアイテムだと言えます。
NANGA オーロラライト 350 DX
こだわりの高品質と永久保証による安心
熟練された職人による製造と自社工場で生産することで得た独自のノウハウを活かしたなんとも嬉しい永久保証。さらにはそのスタイリッシュなデザインから近年愛用者が絶えない国産シュラフブランド、NANGA。今回は同ブランドの人気モデル、オーロラライト350DXを選定。オーロラシリーズといえば、表地素材にオーロラテックスという防水素材を採用し、シュラフカバーがなくてもある程度の浸水を防ぐとされている、同ブランドのなかでも人気フラッグシップモデル。
また、ダウンの品質にもこだわりがあるナンガですが、従来ハンガリー産、フランス産、スペイン産をミックスしてヨーロッパ産ホワイトダックダウンと称して使用していたものを、すべてスペイン産のダウンで統一。理由として、スペインは水鳥の飼育環境、設備、体制などがかなり整備されており、良質な羽毛を入手することができ、結果ヘタリが少なく、長期間使用していてもロフトが保たれる羽毛を使用することが可能になるからとのこと。オーロラライト350DXには760FPのスペイン産スパニッシュダックダウンを350g使用。高品質ダウンだけあってリミット温度は0℃と夏用シュラフとしてはやや暑すぎるかなと思いますが、急な冷え込みにも対応できるので、安心感があります。暑い時にはジッパーを開放して熱を逃してあげることができます。
心地よい肌触りと快適な寝心地
使用してみてまず実感したのが、表地に比べて内側の生地が柔らかく、肌触りが非常に気持ちいいということ。表地のオーロラテックスは期待どおり水をかけてもバンバン弾いてくれます。結露でダウンがベチャベチャになることもないため安心です。ただ、固めの生地なので動くと多少パリパリ音が発生します。眠れないほどではないですが、寝返り時の音に敏感な人だと気になるレベルだと思います。
深めのフードと、ジッパーに沿って配置されているドラフトチューブにより熱を確保する仕様も保温効率を上げ安心感があります。シルエットをみると、胴体部分が幅広となっており窮屈感がありません。がっしり体型の方にはちょうどよいかもしれませんが痩せ型の人だと少々デッドスペースが増えてしまうかもしれません。足側は細身で足元はゆったり構造でダウンが多めに封入されているため、特に冷えるということもありませんでした。
使い勝手を考えた細部まで納得のパーツ
チャックは噛み込み軽減仕様と暗闇でもすぐにわかる蓄光式。こうした細部に至るまで考え抜かれた仕様はさすがです。しかしながら、噛み込みがまったくないわけではなく、慎重に操作しないと噛み込むことが何度かありました。
保温性と耐水性とトレードオフの重量・携帯性
重量は750gと3モデルの中で最重量。収納サイズも大きめです。やはりオーロラテックス素材が使用されているため犠牲にしなければならない項目なのでしょうか。それでも軽量化を図るためシングルキルト構造を採用しています。今回の検証では感じませんでしたが、シングルキルト構造には縫い目部分のダウンが薄くなることが避けられない、いわゆるコールドスポットからの冷気が少々気になるところ(下写真)。
寝心地と防水性については優秀ですが、重量比と保温性能のバランスを見たときに、保温性能に重きを置いているためULパッキングには不向きかもしれません。しかしながら細部の作りの良さ、寝心地、永久保証制度のアフターサービスの充実からみても他にはない魅力的な1点だと言えます。