比較レビュー:超軽量3シーズン用スリーピングバッグ ~軽さと温かさを極めた、逸品ぞろいの頂上決戦~

テント泊登山の必需品であるスリーピングバッグ(寝袋、あるいはシュラフ)。登山で蓄積された疲労の回復、翌日の行程に向けた活力、さらに危険回避に繋がるものとして快適な睡眠の確保は私の中で最重要事項であると考えています。テントやスリーピングマットと並び、重要な役割をもつシュラフですが、購入時に非常に悩まされるアイテムでもあります。

気になるのはやはり保温・快適性と重量・大きさ・価格のバランス。シュラフは同レベルの対応温度でも、ダウンや化繊といった断熱素材の違いによって重量・体積・性質などが大きく違います。当然軽くて小さい方がいいのですが、現実的にはそれによって失われてしまうものがあることも確か。保温性や快適性などが犠牲になっていないか、安い買い物ではないだけに、気になります。ちなみにあのモンベルでは登山に対応したシュラフだけでも60種類を超えるモデルが展開されているとか。その中から自分に合ったシュラフを選ぶことはかなりのエネルギーが必要です。

そこで今回は、そんな登山用スリーピングバッグの中でも特に重量当たりの保温力に最大限重点を置いた、驚くほど軽量でコンパクトに収納できる、ウルトラライトな3シーズン用ダウンシュラフについて、最強候補4アイテムを比較レビューします。

目次

今回比較したスリーピングバッグについて

おそらく多くの人が初めて購入するだろうアイテムは、春~秋の3シーズンに対応したモデル。今回のターゲットもそこです。メーカーによって若干の差はありますが、対応温度はおおよそ0℃~‐5℃あたりが3シーズン用シュラフとして位置づけられています。一般的に登山で用いられるシュラフはマミー型と呼ばれるタイプで中綿(保温材)は重量あたりの保温力が高いダウンが多く選ばれている傾向です。レビューするにあたり、アイテムの選定基準を下記の通りまとめてみました。

  •  3シーズンモデル(対応温度がだいたい5℃~-5℃)
  •  中綿(保温材)にダウン素材が使用されている
  •  重量は約500g以下
  •  日本の正規店舗・WEBストアで購入可能であること

選定基準がハッキリとしたところで次は具体的なメーカー・モデル選定に移ります。国内外から集められた珠玉の超軽量シュラフは以下の4モデル。

テスト環境

テスト期間は2018年9月~11月初旬までのおよそ2ヶ月間。テストは奥秩父、中央アルプス、北アルプスのテント泊山行(1泊2日~4泊5日)で実施しました。1泊1アイテムを基本とし、縦走など2泊以上の山行の場合は泊数に応じて2つ以上のアイテムを試し比較しています。山というテスト環境の都合上、天候や気温、風など同一条件下では行えていませんが、就寝時のウェアについては同一アイテム(上半身:ベースレイヤー+薄手フリース、下半身:トレッキングパンツ)を着用し、状況(寒さを感じる)に応じてインサレーション(ダウンジャケット、ダウンパンツ)を追加することにしました。また、テストはシュラフ単体で実施するものとし、インナーライナーやシュラフカバーといった保温性や肌触りに影響を及ぼすことが考えられるアイテムの使用はありません。シュラフはすべてテント内に設置したマット(エアタイプ、またはクローズドセルいずれも180cm)、およびエアピローの上で使用しています。そのほか詳細なテスト条件については各項目の詳細レビューにて補足しています。

評価項目については、下記の通り6つの指標を設定。当然のことながら評価はテスターの判断による相対的なものです。

  1.  ダウンの使用量・FP(フィルパワー)をはじめ形状や表面素材による「保温性」
  2.  行動時の身体への負担を左右する「軽量性(重量)」
  3.  寝心地、動きやすさに影響を与える「快適性」
  4.  装備全体のボリュームにとって重要な「携帯性(収納性)」
  5.  扱いやすさや便利に使える工夫といった「機能性」
  6.  幅広い使い方ができるかどうかの「汎用性」

テスト結果&スペック比較表

総合評価 AAA AAA AA AA
アイテム ナンガ(NANGA) ミニマリズム180 MIN180NANGA MINIMARHYTHM 180 mont-bell ダウンハガー900 #3mont-bell ダウンハガー900 #3 patagonia ハイブリッド・スリーピング・バッグpatagonia ハイブリッド・スリーピング・バッグ SEA TO SUMMIT シートゥサミット スパーク Sp2
SEA TO SUMMIT スパーク SpII
参考価格 50,220円 51,840円 40,500円 45,360円
ここが◎
  • 軽量、コンパクト
  • 保温性
  • 高い伸縮性により身体に密着、シュラフ内で動きやすい
  • 上半身のレイヤリングによって対応温度の調整が可能
  • インサレーションの重複が解消し、軽量化が可能
  • 撥水機能をもったダウン
  • 付属コンプレッションバッグでの携帯性
ここが△
  • ファスナー可動範囲が狭く、操作しにくい
  • やや窮屈
  • 価格
  • 重量
  • 重量、携帯性
  • 上半身のレイヤリングによっては寒くなる可能性
  • 保温性はやや物足りない
  • 足先が冷えやすい
保温性 ★★★★★ ★★★★☆ ★★★★★~★★☆☆☆
※上半身のレイヤリング次第
★★★☆☆
重量 ★★★★★ ★★★☆☆ ★★☆☆☆ ★★★☆☆
携帯性 ★★★★☆ ★★★★☆ ★★★☆☆ ★★★★★
快適性 ★★★☆☆ ★★★★★ ★★★☆☆ ★★★★☆
機能性 ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★★
汎用性 ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★★★ ★★★☆☆
スペック
アイテム NANGA MINIMARHYTHM 180 mont-bell ダウンハガー900 #3 patagonia ハイブリッド・スリーピング・バッグ SEA TO SUMMIT スパーク SpII
メーカー記載温度域(℃) 想定使用温度:0℃※NANGA独自基準
  • コンフォート:3℃
  • リミット: -2℃
  • エクストリーム:-18℃
特に記載なし(レイヤリングによって変動)
  • コンフォート:7℃
  • リミット:2℃
  • エクストリーム:-12℃
サイズ(cm) 身長180まで対応(最大長:210 × 最大肩幅:80) 183まで対応(最大長200×肩幅80※実測値) 183まで対応(最大長217×肩幅73※実測値) 183まで対応(最大長200×肩幅75※実測値)
実測重量(収納袋含) 316g(330g) 503g(526g) 525g(541g) 482g(517g)
収納サイズ(cm) φ13×20 φ13×26(2.8リットル) φ14×27※実測値 コンプレッション前:φ13×30
コンプレッション後:φ13×21
※実測値
ダウン品質 930FP シルバーグースダウン 900FP/EXダウン 850FP/アドバンスト・グローバル・トレーサブル・ダウン 850+FP 90/10 ULTRA-DRYプレミアムグースダウン
ダウン量 180g 非公表 非公表 280g
ファスナー仕様 胸元中央(23cm) 右側(60cm) 中央(50cm) 左側(56cm)

各モデルのインプレッション

NANGA ミニマリスム 180

ヒマラヤ8,000メートル級の高峰”ナンガバルバット”を社名の由来とするナンガ。そんな社名ながらも実は創業74年の国産「羽毛商品」メーカー。”永久保証”というユーザーの立場に寄り添った信頼のおけるメーカーです。私自身も厳冬期用シュラフとしてオーロラライト600を所有していますが、真冬の低山ではオーバースペックと言っても過言ではないくらいの保温性を備えているシュラフです。そのナンガからリリースされているミニマリスム 180。近年のUL(ウルトラライト)志向を追求したモデルと見受けられますが、公式HPによれば約325gと驚きの軽さ。まさに「軽さは正義」といわんばかりですが、この軽さを実現しているのは、厳選された素材使いと、ギリギリまで削ぎ落されたミニマルさによるところが大きい。まず素材ですが、表地に7×5デニール(※)、裏地は10×7デニールと極薄のナイロンリップストップ生地が使われており、その薄さは封入されているダウンが透けて見えるほどです。※ 7×5デニール・・・7デニールと5デニールの太さ(質量)の異なる糸(繊維)で織った生地。この薄くて軽い生地のおかげでダウンのロフト(膨らみ)復元を妨げず、収納袋から出した直後でもすぐにシュラフはフカフカ、パンパンな状態になってくれます。

次に徹底的に削ぎ落されたミニマルさについて、まずはファスナー開閉部がわずか23cmしかない点が挙げられます。ファスナー開閉部を長くすればその分重量が増すということで軽さを追求した結果だと思いますが、それにしても開口部は狭い!小柄ですが細身ではない私が入るのにも、身体の部位ごとに入る順番を考えながらとひと苦労です。薄く繊細な生地ということも相まって、裂けないよう慎重に入る(出る)必要があります。実際に入ってみてもゆとりが無く、まるで拘束されているかのよう(笑)。 ただし、そのゆとりの無さが余計な空間を作らず冷気の侵入を防ぎ保温性に貢献していることも事実です。

メーカー基準で0℃という対応温度、これはダウンの封入量から考えると驚異的です。私がテストで訪れた山の早朝気温がまさにその0℃でしたが、窮屈さにストレスを感じながらも寒さを感じることはありませんでした。実際にはもっと低い温度帯でも問題なく使用できそうです。使い勝手に関しては、先にも触れましたがファスナーに難ありです。あと15cm、いや10cm長かったらどれほど入りやすいことか。また、そのファスナー、上からでも下からでも可動するダブルジップ(逆開ファスナー)仕様となっていますが、そもそもダブルジップである必要性があるのか疑問を抱きます。入る際は開口部を大きく開ける必要があるためファスナーを全開にしますが、入った後にファスナーを閉じるとなると動きを制限された状態で閉じることがなかなか難しく、苛立ちを感じたことが何度か(笑)。シュラフから出る際も内側からのファスナーを開ける操作がしづらいと感じました。そしてもう一つ残念に思ったのが軽量化のためとはいえ他のナンガ製シュラフに搭載されている機能まで削られてしまっている点です。生地の噛み込み軽減だけではなく操作性に優れたファスナーパーツ、ショルダーウォーマーやドラフトチューブといった機能が搭載されていればまた変わった印象になるのかなと思います。おそらく開発された方もいろいろなことを割り切った上で製品化したのだと思いますが、極限まで軽さを追求したことで、ユーザーの体格・体型を選ぶ、なかなか尖った個性をもったシュラフといった印象です。

mont-bell ダウンハガー900#3

言わずと知れた国産ブランドモンベル。品質の良さとコストパフォーマンスの高さによって初心者からエキスパートまで老若男女問わず高い支持を得ています。同社シュラフの中でフラッグシップモデルとされているのが900FP・EXダウンを使用したダウンハガー900シリーズ。最大の特徴としては「伸びる」といった点。ステッチに糸ゴムを採用した独自のスーパースパイラルストレッチシステムによって、タテ・ヨコ・ナナメに伸縮(伸縮率135%)し、窮屈さを感じさせないシュラフです。また、その伸縮性に加え”かさ高性”に優れた900FP・EXダウンを使用することで、身体とシュラフ内壁が隙間なくフィット、冷気の侵入を抑えること保温性を高めています。就寝中、シュラフの中で足を拡げたり寝返りを打ったりしてもシュラフが妨げになることは無く、寝相の悪い私にとってはありがたい、まさにストレスフリーなシュラフ。私同様、寝相の悪い人にもオススメできます。このスーパースパイラルストレッチシステムの効果を測る方法として、シュラフに入ったまま胡坐(あぐら)をかくというのがあるらしいですが、実際にやってみたところシュラフに腰まで入った状態から難なく胡坐姿勢をとることができ、早朝・日没後にテント内で過ごす際の防寒着としての役割にも期待できます。

ユーザーによってはダウンパンツ、テントシューズなどインサレーションウェアを削減することも可能になり軽量化にも繋がるのではないでしょうか。さらに、私の妻に使用させたところシュラフに入ったまま着替えが可能になるといった意見がありました。女性ならではの発想・意見ですが、体温の低下を最小限に抑えるという点で考えると有効な活用方法であると言えます。もちろん、私自身(小柄)も試してみましたが難なくシュラフ内で着替えを済ませることができました。まぁ、だからといって今後、私がシュラフの中で着替えるかっていうと間違いなくそんなことは無いと思うので、あくまでも女性を対象とした活用方法ということで。。。

さて、そんなダウンハガー900#3ですが、唯一気になる点を挙げると下位モデルのダウンハガー800#3との差です。公式HPの情報を見る限り、対応温度は同じ(コンフォート:3℃、リミット:-2℃)、重量は800に比べ約14%(81g)軽量、収納サイズ(体積)は800に比べ約18%(0.6?)コンパクトとなっているようですが、個人的にその差は微々たるものとしか感じません。ところが価格の面では800#3が27,500円(税抜)に対し、900#3は48,000円(税抜)と約75%(20,000円)も割高というあまりにも大きな差が生じています。対応温度や重量、収納サイズにもっと歴然とした差が生じていれば差別化が図れ、その価格設定にも納得がいくのですが・・・。この数字を見る限り、個人的には800#3の方がオススメということになりそうです。

patagonia ハイブリッド・スリーピング・バッグ

私にとっては初めて手にする半身用シュラフですが、山岳マラソンやアルパインクライミングの世界では装備の軽量化のため珍しくないタイプだそうです。とは言え、見た目からキワモノ感満載のシュラフ。ただ、その存在意義としては非常に理に適っており、ビレイパーカーなど暖かいインサレーションウェアを着込んでこのシュラフに潜り込めば、全身用シュラフと変わらぬ暖かさが得られるというもの。

もともとは『ハイ・アルパイン・キット』と名付けられたクライマー向けのレイヤリングシステムとして、ベースレイヤー、インサレーション、アウターレイヤーなどのアイテムと共に展開されていたカプセルコレクションアイテムの一つ。軽量かつ一体型のキットとして、アイテム単体で最高の機能を発揮することは当然ながら、他との組合せにより、過酷な状況下においても最大限の機能を発揮することを目的とするコンセプトのようです。

対応温度はレイヤリングによって変動するといったユニークな設定で、同じ『ハイ・アルパイン・キット』としてラインナップされていたグレード Ⅶダウンパーカー(お値段、衝撃の120,000円!)と組み合わせれば、厳冬期にも対応し、薄手のレイヤリングと組み合わせれば3シーズン用シュラフとして活用もできるマルチパーパスなシュラフと言えます。上半身は薄いウィンドシェル素材で一見頼りない印象を与える一方、下半身には850フィルパワーのダウンが冬用シュラフ並みのボリュームで封入されており、見た目のボリュームを裏切らず足先がまったく冷えない作りになっています。

10月初めにテストで訪れた標高約2,500mにあるテント場(最低気温5℃)では上半身にダウンジャケットを着用し使用しました。下半身の保温性はかなり高く、冷えるどころか若干汗ばむほどでした。正直、夏はよっぽど標高の高い山でもない限り入っていられないかもしれないというのが正直な感想です。また、上半身についてビレイパーカーなどを着用するのであれば大概フードが付いていますのでフードを被ってシュラフに入ることができますが、フードなしウェアの場合、頭部を覆うのは薄いウィンドシェル素材1枚だけとなるため、自分の持っているウェアとの相性によって保温性、快適性といった使い心地に影響を与えることになりそうです。

事実、10月末にテストで北アルプス(最低気温-1℃)を訪れた際は上半身に若干の冷えを感じることになりました。下半身はダウンとウィンドシェルの切り替え部分(腰部分)にあるドローコードを絞ることで冷気の侵入を喰い止めることができますが、上半身はダウンジャケットの外側にウィンドシェル1枚だけとなるため冷気が伝わりやすくなっていることが原因と考えられます。シュラフのフード部分にもドローコードは付いていますが、完全に絞ったとしても鼻先や口元が冷えやすいことには変わらないため、低温下では工夫が必要だと思います。また、インサレーションの重複を解消し軽量化を実現するというコンセプトですが、1,000gを超えるような厳冬期用シュラフと比較すれば確かにそうかもしれませんが、3シーズンに対応するシュラフとして半身で500gに迫る重量を考えると軽量性に欠けると言わざるを得ません。

SEA TO SUMMIT スパークSpⅡ

創業者がベンガル湾の海抜0m地点からエベレスト無酸素登頂を果たしたことが社名の由来となっているシートトゥサミット。細部にまでこだわりが光るギアを幅広く揃えるメーカーです。店舗では小物やアクセサリーをよく目にしますが、実際にはライトシェルターやハンモック、スリーピングバッグまでを手掛けるオーストラリア発の総合登山メーカーです。

同社のシュラフ、スパークシリーズは対応温度によってSpⅠ~SpⅢまでラインナップされており、SpⅠは主に夏用として、SpⅢは氷点下用となっており、今回レビューするSpⅡについては、その2つの中間に位置するモデルとなっています。大きな特徴として、撥水性をもたせ水を吸わないULTRA-DRYダウン(UDD)の使用と携行性の2つが挙げられます。今回レビューしたアイテムの中で唯一撥水加工を施したダウンを使用しています。通常ダウンよりも60%以上ロフトが高く、水分吸収を30%抑え、従来製品と比べ速乾性にも優れているようです。ただ、撥水加工が施されているのは中綿のダウンであり表面生地ではないため、過度の期待はしないほうが良さそうです。次に携行性ですが、コンプレッション機能の付いた収納袋が付いており、コンプレッションベルトを締めない状態ではφ13×30cm、そこからコンプレッションベルトを締めていくと形状は若干崩れるもののφ13×21までコンパクトになり、手のひらサイズ。さすがに重量が軽くなることはありませんが(笑)、ここまでコンパクトになればUL(ウルトラライト)スタイルにも十分対応できるアイテムです。

気になる保温性については、スペックを見る限り少し心許ない印象です。このアイテムはテストで3度山に持ち出しましたが、最低気温5℃程度までは寒さも気にせず眠ることができました。寒さを感じるようになったのは最低気温が5℃を下回った頃で、夜中に足先の冷えで目を覚ましダウンパンツを履いてシュラフに入り直すといったことがありました。スペック(対応温度)に偽りなしという点では好感をもてますが、インナーシュラフやシュラフカバーを使わない単体使用を考えると残雪期である早春や晩秋で使用するのには不安が残ります。

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