比較レビュー:超軽量3シーズン用スリーピングバッグ ~軽さと温かさを極めた、逸品ぞろいの頂上決戦~

前ページでは比較したモデルのランキングと、評価・スペックの一覧、そしてそれに基づくおすすめを紹介しました。ここからはその評価について、どのような基準で評価したのか、なぜそのような評価になったのかについて解説していきます。

各項目詳細レビュー

保温性

シュラフを選ぶ際に重要となってくるのが保温性ですが、その保温性を測る要素として対応温度表記、構造、ダウンのFP(フィルパワー)・封入量があります。

対応温度表記

シュラフを選ぶ際に欠かせない指標となるのがEU諸国で統一された保温力表示規格EN13537です。スリーピングバッグメーカーの多くがこの表示規格を採用しており、異なるメーカーのアイテム同士でも容易に比較することが可能になりました。それまで独自基準で温度測定・表示していたmont-bellも2014年からEN13537に則った表示へと変更を行っています。今回レビューした4アイテムの中ではパタゴニアを除いた(※)3メーカーでENS13537による表示を採用しています。ENS13537はEU諸国の欧米人を基準としているため、体格・体感温度の異なる日本人にそのまま適用できるのかといった疑問も生じますが、購入に際し最も参考にしやすい指標になることは間違いありません。パタゴニアのハイブリッド・スリーピング・バッグについては、半身用シュラフで対応温度が上半身のレイヤリングによって変化するためこの点の評価は未知数としておきます。また、ENS13537を採用しているナンガですが、なぜかこのミニマリスムシリーズだけは独自基準で想定使用温度を0℃としています。あくまでも個人的な推測ですが、ナンガ独自基準の想定使用温度0℃をENS13537におけるコンフォート温度として考えた場合、対応温度という数字の面からはミニマリスム 180が最も重量比で温かい、つまり保温性に優れていることになると思います。※パタゴニアの温度表示規格・基準については公表されておりません

構造

続いて、シュラフの構造から保温性を見ていきたいと思います。シュラフの構造は大きく分けてシングルキルト構造、ボックスキルト構造の2つに分けられます。ダウンの詰まった円柱状のチャンバー同士を点で縫い合わせるシンプルな構造のシングルキルト構造に対し、ボックスキルト構造はボックス状のチャンバー同士が面で接するためコールドスポットができず冷気が伝わりにくいといった特徴があります。

光に透かすとコールドスポットが確認できる

また、シングルキルト構造は軽量でコンパクトに収納できる利点もあります。今回テストした4アイテムの中でシングルキルト構造なのはミニマリスム 180のみとなっており、ハイブリッド・スリーピング・バッグダウンハガー900#3はボックスキルト構造となっています。スパークSpⅡは上半身がボックスキルト構造、下半身はシングルキルト構造というようなハイブリッドです。個人的な推測ですが、私がスパークSpⅡを使用して感じた足先の冷えはこのシングルキルト構造によるものだったのかもしれません。

スパークSpⅡ。シングルキルト構造(赤丸)はその縫い目から裏地(黄色)が透けて見え、そこがコールドスポットになりやすい。ボックスキルト構造(青丸)は裏地が透けることがなくコールドスポットになりにくい

シングルキルト構造=冷える(寒い)となれば、気になるのがミニマリスム 180ですが、このモデルの場合、身体にフィットさせることでシュラフ内の温度を高め、結果として冷えを感じさせないようにしているのではないでしょうか。いずれにしろ、シュラフの構造が温度表記の裏付けとなっていることは間違いなさそうです。

ダウンのFP(フィルパワー)・封入量

FP(フィルパワー)とはダウンのかさ高性を現す単位で、1oz(約28.3g)のダウンをシリンダーに入れ、ある一定の荷重を掛けた時の膨らみ度合いを立法インチで示したものです。仮に600フィルパワーであれば、1oz(約28.3g)の羽毛が600立方インチの体積に膨らんでいることを表し、数値が大きいほど良質なダウンとなります。この体積が大きいほど、ダウンが空気を含んだ状態(デッドエア)になり保温性が増すということです。今回テストした4アイテムはどれも800FPを超えた良質なダウンを使用しているようです。中でもミニマリスム 180については4アイテム中で最も高品質な930FPグースダウンを使用しています。ミニマリスム 180スパークSpⅡについてはダウン使用量までスペックに表示されていますが、使用量が100gも少ないミニマリスム 180の方が暖かく感じたのにはサイズの件を抜きにしても驚きました。ハイブリッド・スリーピング・バッグ(850FP)とダウンハガー900#3(900FP)の2つは使用量をともに公表していないようなのですが、少し気になったことが1点。個別レビューにおいて、ダウンハガー900#3と800#3の差について触れましたが、800よりも良質なダウンを使用している900が対応温度表示で800と同じ数値となっているのは何故なんだろう・・・と。いろいろと調べ回っているうちにmont-bellの海外サイトであればダウン使用量が記載されていることに辿り着きました。残念ながら海外展開アイテムの中で800と900の両方に共通した#3モデルはなく、代わりに#5での比較になりますが800#5のダウン使用量230gに対し900#5は200gとなっており、ダウンの品質(フィルパワー)を上げた分、使用量を抑えることで軽量化を図り、同じ数値の対応温度表示を実現させているというところでしょうか。それまで「ダウン使用量(g)は800も900も同じで、900の方がFP(フィルパワー)の高い分パンパンに膨らむシュラフ」といった認識をもっていましたが、どうやらその認識は誤っていたようです。

軽量性(重量)

装備が軽ければ身体への負担も減りますので他の登山用品同様、シュラフも軽いに越したことはありません。シュラフを使用するシーンはテント場であり、緊急時を除き歩行中に出番が訪れるようなことは皆無ですから、なおさら軽量性が求められてきます。

アイテムごとの実測重量

今回は選定段階で500g程度としていますので、4アイテムすべて軽いシュラフと言えるわけですが、その中で唯一300g台のアイテムがミニマリスム 180です。他と比べ100g以上も軽量というこのアドバンテージは非常に大きく、UL(ウルトラライト)志向の登山者のみならず注目すべきアイテムです。次いで軽いのはスパークSpⅡですが、これは構造でも触れたように下半身をシングルキルト構造にしたことで軽量化に繋がったものだと思います。軽量性という観点からすれば、シングルキルト構造は使用する生地が少ないため軽量性に優れ、ボックスキルト構造はボックス内でダウンの偏りを防ぐ隔壁を設けている分、軽量性に欠けると言えます。4アイテム中、最重量だったハイブリッド・スリーピング・バッグについては、そもそもアルパインクライミングにおけるビバークまでを想定しているアイテムですので、圧倒的不利な立場であったことを付け加えておきます。

快適性

シュラフに求められる快適性は、寝心地(寝やすさ)に尽きると思いますが、シュラフ内壁の素材についてはメーカーごとに異なるものの、そこまで大きな差を感じることはなく、4アイテムそれぞれさらりと肌触りの良い印象です。サイズ面から見ていくと分が悪くなってしまうのはミニマリスム 180です。体格にもよりますがシュラフ内部でほとんど身動きが取れず足を拡げることもできないため快適性については低いと言えるでしょう。たった3cmの差ですが対応身長が4アイテム中で最も低いのも納得ができます。それに対しダウンハガー900#3は伸縮性に富んだ作りとなっておりシュラフ内部で自由に身体を動かすことができ、足も肩幅程度まで容易に拡げることができます。ハイブリッド・スリーピング・バッグスパークSpⅡは海外メーカーということもあり実際に測ったサイズ以上のゆとりを感じます。唯一、半身用シュラフのハイブリッド・スリーピング・バッグは保温力を閉じ込める役割でウェストにドローコードが付属していますが、このドローコードを締めることによってインサレーションとシュラフのズレを防ぎ、結果として快適性を高めることになる点にも注目です。

携帯性(収納性)

シュラフを必要とするテント泊登山では装備も多く、パッキングするのもなかなかの労力が必要です。軽量性同様、テント場でしか出番のないシュラフがザック内部で存在感を強めてしまうことは極力避けたいものです。シュラフ以外の装備全般に共通することですが、コンパクトになればザックの容量は小さくなり、結果として軽量化にも繋がることになります。登山用シュラフですから当然ですが、4アイテムすべてに収納袋が付属しておりそれぞれに不満はありません。ただし、注目したいのはスパークSpⅡ。このスパークSpⅡの収納袋にはコンプレッション機能が備わっており、圧縮することで収納サイズをさらに小さくすることができます。圧縮前は4アイテムの中で最も大きいと思われるボリュームですが、圧縮後は最小サイズにまで変化します。

4アイテムのサイズ比較。上:スパークSpⅡコンプレッション前。下:スパークSpⅡコンプレッション後。

今回のテストは1泊1アイテム使用ということで進めましたが、2泊以上の日程で複数アイテムをパッキングできたのも、このコンプレッション機能があったからこそとも言えます。もちろん別にコンプレッションバッグを用意することで他3アイテムもさらにコンパクトにすることは可能ですが、付属品としてコンプレッション機能付きの収納袋があることはコストの面でも大きいと感じますし、純正ですからサイズが合わないということもあり得ません。

機能性

ここでは使いやすさについて見ていきます。まずはファスナーについて。ダウンハガー900#3ミニマリスム 180は、1つの引手で表裏両方かから開閉可能なリバーシブルスライダーが採用されています。好みもあると思いますが、個人的にはこのタイプが使いやすいと感じています。どのアイテムも生地の噛み込みを防止するよう工夫されていますが、スパークSpⅡについてはファスナー上部に開口部に折り返し処理(ハードシェル等にあるチンガードと同様の形状)がされており、身体にスライダーが接触することを防ぐための細かい工夫に好感がもてます。

折り返し処理によってスライダーが身体に接触しないよう工夫されている

また、ファスナーの長さはミニマリスム 180を除いた3アイテムで全長の1/3程度の仕様となっていますが、不便を感じるほどではありませんでした。下半身側からも開閉可能な逆開ファスナーであればシュラフ内温度の調整が可能ですが、軽量性や保温性のことを考慮すれば必要とは言い切れないのが正直な感想です。続いて撥水性ですが、スパークSpⅡは撥水ダウンを採用、ハイブリッド・スリーピング・バッグは表面素材に撥水加工が施されています。他2アイテムについてはダウン・表面素材共に撥水加工は施されてなさそうです。結露程度の水滴であれば問題はなさそうですが、できることなら撥水加工をしてから使用することをオススメします。最後にフードの使い勝手についてですが、ミニマリスム 180以外の3アイテムはドローコードが付いていますので頭部の寒さ対策として有効に使いたいところです。ミニマリスム 180はドローコードこそありませんが、フード自体もタイトに作られているため露出する範囲は狭くそこまで影響を与えることはないと感じました。

汎用性

決して安くない買い物であるシュラフ。せっかく買うのならシーズン中、長い期間使用し続けたいと思う人が多いと思います。今回のレビューは3シーズン用シュラフとして活躍が期待できるアイテムを揃えているため、それだけですでに汎用性の高いモデルであると言えると思いますが、その中でもハイブリッド・スリーピング・バッグは、レイヤリングによって3シーズン用シュラフにもなり、本来のコンセプトであるアルパインクライミングにも対応するという点で幅広い可能性を感じます。スパークSpⅡは対応温度が高いため他のアイテムと比べると使用シーン・時期が限られてしまいますが、同じスパークシリーズのSpⅠはライナーとして使用することも考えられており、厳冬期のライナーとして活用することもできます。実際に、私の知人もスノーキャンプのシュラフとしてスパークSpⅡを他社製品と組み合わせ、”ニコイチ”で使用していると聞きました。登山以上に荷物が多いキャンプシーンでもスパークSpⅡの携帯性が重宝されているようです。一方ミニマリスム 180は構造的に温度調節が難しく、特に暑い環境で使用する場合には快適な睡眠環境を作るのがやや難しい印象でした。

帯性に優れているためシュラフ2個使いも可能

まとめ

快適な睡眠を確保するという目的は共通しているものの、ユーザーそれぞれのスタイル、暑がり・寒がりといった個々の体質、マットなどもっている装備も異なりますので一概にこのシュラフが最適と言い切れないところがシュラフ選びの難しさでもあります。店舗で実際に入って試すことも重要ですが、使用する山の環境とは大きく掛け離れてしまっていることも難しくさせている要因として挙げられます。まずは自分の中で妥協したくないポイント、妥協できるポイントなど優先順位をしっかりと意識することが最適なシュラフ選びの近道だと感じます。私個人による目線ではありますが、参考にしていただけると幸いです。

齋藤 ヒロアキ

埼玉県在住。黒部峡谷下ノ廊下に魅せられ、30歳を過ぎてから登山にのめり込み未だ開発途上中。持ち前の好奇心・探求心を前面に、経験値の少なさをカバーするため時間があれば山に入るようにしています。物欲旺盛で後先考えない衝動買いで一喜一憂の日々。そんなトライアル&エラーを交えながらギアの魅力を伝えていきます。

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