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【2023年版】テント泊ファストパッキングのための最重要ピース。軽量テント・シェルターのベストモデルと、後悔しない選び方のポイント

軽量シェルターを知れば、アクティビティの可能性はぐんと広がる

くたくたになるまで歩いたブーツを脱ぎ、やっとのことで潜り込んだテントの中では、できる限り安心・快適でいたいと思うのが人というもの。このため広々と快適、どんな悪天にもびくともしない頑丈なテントは厳しいフィールドの中で何よりも頼もしい存在です。

でもちょっと待った。テント泊をそこそこ経験して、ある程度のハプニングも笑ってやり過ごせるほどに経験を積んだあなたなら、ここでいったん立ち止まってあらためて考えてみてはいかがでしょう。その山行、本当にそこまで充実した住まいが必要だろうかと。

十分な対候性と快適性を備えたテントは確かに安心ですが、その頑丈さに応じて重くかさばってくることもまた事実。その「行き過ぎた安心感」は、ともすれば楽しく歩くことまでも犠牲にしてしまってはいないでしょうか。

テントは数ある装備の中でも最も重量のあるギアのひとつであり、ウルトラライトやファストパッキングといったスタイルを完成させるための最重要ピース。もし仮にテントの重さが今よりグッと削減さてくれれば、今までたどり着けなかった、より深くウィルダネスの奇跡へとたどり着くことができるかもしれません。しっかりとした準備や安定した天候などの条件さえ整えれば、山歩きの可能性をもっと広げてくれる、魅力的な幕営アイテムが軽量シェルターなのです。

軽量シェルターとは一言でいうと、一般的な山岳テントのもっている悪天候への強さや耐久性を必要最低限まで削る代わりに、羽のような軽さと快適さを手に入れたテントです。実際のところ「一般的な山岳テント」と「軽量シェルター」を分ける明確な境界線はありませんので、さしあたってのイメージとしては「500mlペットボトル並みのめちゃくちゃ軽いテント」くらいにとらえておけばよいでしょう。それだけの軽さを備えつつ、フラットなタープやハンモックに比べればより雨風に強くプライバシーの保たれた空間を提供してくれるため、言ってみれば従来の山岳テントとタープ・ハンモックとの中間的な存在という位置づけです。

こうした軽量テントはここ数年でにわかに人気が高まり、高機能で魅力的なモデルも増え、今では誰もが気軽にテントの軽量化に取り組みやすい状況となってきました。そこで今回はそんな軽量シェルターをここ数年にわたって試してきたなかで「これは」と思うベストモデルたちを選んでみました。後半にはいつものようにこれまでの経験を踏まえて、これから超軽量シェルターを選んでみようというときにチェックしておくと後悔しないポイントについてもまとめています。購入前になかなか試しにくいこのアイテムを、なるべく失敗せずに選ぶための手助けになれば幸いです。

【部門別】今シーズンおすすめの軽量テント・シェルター

ベスト・ハイキング(総合)部門:Zpacks Plex Solo Tent / Gossamer Gear The One

Zpacks Plex Solo Tent(2人用はDuplex Tent)

お気に入りポイント
  • 超軽量
  • 広々とした居住空間
  • DCF生地による非常に高い防水性と耐候性・耐久性

軽さと居住快適性のバランスのよいトレッキングポールシェルターの中でも特に軽量でなおかつ十分な耐久性を備えた、スキのない完成度の高い作りで堂々の総合力ナンバーワンがこのZpacks Plex Solo Tent(2人用はDuplex Tent)です。防水性・強度・超軽量性の高さに加え、濡れてもたるまないDCF生地を全面的に使用(このため価格もプレミアム価格)し、急勾配の壁は強い風や雪を逃がし、対候性も十分(このためトレッキングポールは130cmの長さが必要)。そのうえ深いバスタブ状のフロアや防虫・通気メッシュ、前室付きの出入り口、室内の収納ポケットなど、従来のテントの快適さをすべて備えています。

DCF生地だからフットプリントがなくてもある程度の地面ならば問題なし。トレッキングポールが長いのと、DCF生地は軽いけどコンパクトになりにくい、そして価格の高さという点を除けば、ほぼ完ぺき。さすが北米のスルーハイカー達の間で長くトップクラスの人気を維持してきただけあります。スピードハイクや沢登りなど、ファスト&ライトなアドベンチャーを好む自分にとってもこれまで出会った中で「最適解」なお気に入りです。

好みによってはソロであっても2人用のDuplex Tentでラグジュアリーにいってもまだまだ軽く、十分ありな選択でしょう(レビューはこちら)。

Gossamer Gear The One(2人用はTwo)

お気に入りポイント
  • 超軽量でコンパクト
  • 広々快適な頭上空間
  • 前室も十分な広さ

The Oneはバックパックで絶大な信頼を誇るガレージメーカーGossamer Gearが満を持して開発した超軽量非自立型トレッキングポールシェルター。またたく間にULハイカーや専門家たちの心をつかみ、ここ数年のアワードでの受賞も多数獲得しています。

このモデル魅力は何といっても居住快適性の高さです。まず肩から頭上までの空間の広さ。2本のポールを使用することによってソロシェルターでは不足しがちな肩のスペースも十分に確保され、この超軽量にもかかわらず「普通の快適テント」な感覚には思わず歓喜の声をあげてしまいたくなります。さらに前室もかなり贅沢な広さで、要所に当てられたメッシュ生地によって通気性も確保され、天気にかかわらずとっても快適に過ごせます。

素材は基本的には軽量なリップストップナイロンですが、ここ数年で増えてきている「SIL/PUコーティング加工」が施された生地を採用。これは端的に言うとシルナイロンのように薄くて丈夫でありながら、裏地はPUコーティングのようにシームテープ処理を施すことができる(自分でシームシーリングする手間が要らない)という、まさにシリコン加工とポリウレタンコーティングの良いとこどり。しかも価格もそこまでバカ高くないといいことずくめです。ただそれでもやはり耐久性的にはDCFに比べると劣るため、フットプリントは必須と考えた方がいいです。しかも雨天時にはたるみやすいため、激しい悪天には弱い。実はメーカーは同じ構造でありながらDCF生地を使用した「DCF One」も作っていますので、せっかくならぜひこっちが欲しいと思うのですが、人気がありすぎて常に本国でも品切れ状態が続いています。

いずれにせよ、軽さ、居住快適性を備えた作りの良さ、ガイライン・ペグなども付属していながら抑えられた価格と、軽量シェルターのメインストリームになり得る特徴をすべて備えた完成度の高い軽量シェルターは、これから軽量テント泊を始める人が末長く使うことができる良モデルです。

ベスト・ビギナー部門:Six Moon Designs Lunar Solo

お気に入りポイント
  • フロア・前室ともにソロモデルとしてはゆとりのある広さ
  • 優れた通気性(換気性)
  • コストパフォーマンスの高さ

創業者は2度のスルーハイカー(アパラチアン・トレイルとパシフィック・クレスト・トレイル)であり、ウルトラライトのテントを作り続けて20年近くという、ウルトラライト・カルチャーのど真ん中を歩き続けてきた、アメリカUL界の中心的ブランドのひとつがSix Moon Designs。その代表的モデルがこのルナソロです。

トレッキングポール一本とペグを打つだけで設営できるという設営の簡便さもさることながら、軽量かつ贅沢なフロア面積の広さもこのテントの絶妙な魅力の一つ(1人用ですが寝るだけならギリギリ2人までいける程度)。またシェルターの課題である結露に対しては、フロアを360°メッシュ地で囲み、暖気を流す換気孔も頂点に配置されているため、常時全方位から効率的な換気がなされているため結露しにくいと、ここも絶妙な作り。

もうひとつの魅力は、2020年バージョンから採用された20デニールのシリコンコーティングポリエステル生地(通称シルポリ)。これまでのシルナイロンと違って水を含んでも伸びないので、一度きっちりと張れば夜の結露や雨で濡れてもたるまず高い対候性と居住性を確保してくれます。フロアは40Dの厚い生地になっているのでフットプリントがギリギリなくても耐えられる可能性が高いし(安心ではないけど)。

重量的にはやや重めの部類に入るのですが、それでも広さ、重さ、耐久性のバランスがよく、最も初心者に優しいテントといえるでしょう。

ベスト・ニュータイプ部門:DURSTON X-Mid 1

お気に入りポイント
  • 簡単なセットアップ
  • 頭上空間の広さや前室も含めた快適な居住性
  • インナーを取り外せば広々フロアレスシェルターにもなる
  • 軽くて丈夫、たるみにくくて使いやすく、価格も抑えたSil/PUポリエステルを採用

ハイカー歴20年以上、アメリカ最大級のソーシャル掲示板やウルトラライト専門のオンラインコミュニティ等で何千もの記事を投稿してきたという、まさに筋金入りのスルーハイカーでありULヲタである創業者がその有り余る情熱をギア開発に注ぎこむべく生まれたのが、新興ガレージブランドDURSTON(ダーストン)社です。新興といっても、まだ誰もDCF素材に見向きもしていなかった2009年にDCFを採用したテントを独自に制作していたというのだから、その知識と技術力の確かさは専門メーカーと比べても何ら遜色ありません。

さてそんなダーストンが2019年に発売したところ、うるさ型のULハイカーたちから絶賛の嵐が巻き起こり、今まさに人気街道を驀進中の軽量シェルターがこのX-Midです。ミニマルなデザインに高品質素材、軽量性、高機能、高対候性を詰め込み、さらにうれしいことに手ごろな価格(現地価格で)に抑えたというこの革新的なシェルターは、まだ日本では代理店がないことから本国サイトから直接購入する必要がありますが、最先端の山道具好きなら見逃せないモデルであることは間違いありません。

このシェルターの革新的な部分は山ほどありますが、主なポイントだけ取り上げると、まずトレッキングポールシェルターにもかかわらず、インナーテントとフライのダブルウォール構造に加えて雪を含めた悪天に強い急こう配の壁面構造によって対候性は十分であること。今まで見たことのない見事に計算された幾何学的フォルムはなんとも道具好きのココロがくすぐられます。

もうひとつ、このテントで採用されているSil/PUポリエステル生地も興味深い。たるみの少ないポリエステル素材にシリコンコーティングとPUコーティングの両方のメリットを活かした加工を施した生地は、現在シルナイロンから流行が移りつつあるシルポリの、さらに先を行く最先端素材です。

設営はたった4本のペグと外側からセットできる2本のポールで想像以上に簡単。しかもインナーテントとフライは連結することができるため、一緒に立てることも、フライだけで設営することもできるという親切設計。さらに2本のポールによって上部空間も幅広くとられ、1人用でも長辺の左右両側に前室と入口が設けられており、必要最低限の広さにもかかわらず見た目にも実際にも広々とした使い方ができるなど居住性に関してもまったく妥協がみられません。ただひとつだけ考慮したいとすれば、軽量シェルターとしては決して軽い部類とはいえない重量でしょうか。

とはいえ軽量シェルターの軽さを備えながら、従来のテントと比べてもそん色ない快適性と利便性、機能性を備えたこのテントは、多くのハイカーが驚きと称賛をもって受け入れる理由がよく分かる、革新的な1張であることは確かです。

※下の公式紹介動画は第1世代で、現在は若干チューニングされた第2世代が発売中です。

ベスト・自立型部門:Heritage クロスオーバードーム<2G> / アライテント SLドーム

Heritage クロスオーバードーム<2G>

お気に入りポイント
  • 場所を選ばず設営できる自立型
  • 自立型シェルターにしては驚きの軽量コンパクトさ
  • シングルウォールながら、防水透湿&通気性の高い素材を採用して結露対策も頑張ってる

高度成長期から日本の登山ブームを背負ってきたエスパースブランドを引きついだ、日本を代表するテントブランド。近年では軽量シェルターも意欲的に展開しており、その中でも攻めた軽さに居住性、対候性を兼ね備えたモデルがこのクロスオーバードームシリーズです。

何より地面が固い岩場でも、立木のない稜線でも、スペースの狭いテント場でも、何も考えずに2本のポールをスリーブに差し込むだけで立ち上げる設営のシンプルさが魅力。差込口の一方は縫い留めてあるので一人で簡単に設営でき、日本人ならばなじみ深いかまぼこ型フォルムに安心感を感じてしまうのはぼくだけでしょうか。前室やガイライン(張綱)は別売りで用意されているので、好みに合わせてチューニングも可能です。

極限まで薄くて軽い10Dの日本製ナイロンリップ素材は耐水圧1,230mm、透湿性367g/平方m/hと通気性まで持たせたハイスペック構造。フロアも同じ生地なのでさすがにフットプリントは欲しいところですが、それでも自立型シェルターとしてはよくぞここまでという驚きの軽さ(ソロ用で540g)といえるでしょう。

ただ気密性が高く対候性にも優れている分、居住空間の窮屈さは否めないし、結露もしやすい。このためどこまでも軽さを追求する人を除けば、個人的に入口が短辺側にあって軽量化を極めた「f」モデルよりも長辺側にあるノーマルモデルの方がおすすめです。

これまで紹介してきたテントはどちらかというと標高の高くない、比較的穏やかで長いトレイルを歩くハイキングに向いていましたが、このシェルターはそうしたトレイルだけでなく、日本アルプスのような急峻で岩場の稜線が多いルートなどでも安心して携行することができるという意味では、日本中の山々をファスト&ライトする人にとってもってこいのモデルといえそうです。

アライテント SLドーム

お気に入りポイント
  • 2人用では驚きの軽量コンパクトさ
  • 軽量ながら十分なタフネスさ
  • 従来モデルと変わらぬ使いやすさ

※厳密にいうとこのモデルはダブルウォール構造のため「軽量テント」の部類に入りますが、シェルターに匹敵する軽さを備えた優秀な自立型モデルということであえて。

手に取ってみると、素材レベルで徹底的な見直しの末に実現したという(本体・フライ・ポール合わせて)1kgを切る軽さに思わず笑みがこぼれます。おまけに畳むと驚くほどコンパクトで、これならばやり方次第で30Lバックパックでのテント泊も難しくないでしょう。今作は標準付属の専用アンダーシートの使用が推奨されています。賛否はあれど、状況に合わせて取捨選択できるという自由さは、少なくとも自分にとっては高評価です。またここまでの軽さを実現しながら、生地の耐水性をはじめ素材の耐久性など、山岳用テントに求められるパフォーマンス水準を高いレベルでクリアしているのはさすが。気になる結露についてもチェックしましたが、一夜明けてもうっすらとフライシート上部に水滴が付着した程度で、インナーはサラっと平気な顔をしていました。

メーカー曰く、この高品質な国産生地にたどり着くまでに長い年月を要し、試行錯誤を幾度も重ねたといいます。一方で従来の山岳テントと比較しても使い勝手を犠牲にすることなく、最低限の快適性と使いやすさをしっかりキープし、決して初心者を拒んでいない姿勢も見逃せません。たとえ軽さを最優先しても、使いやすさや品質は犠牲にしないというモノづくりへの確固たるフィロソフィーは健在。軽量コンパクトさだけでなく、国産の信頼性やきめ細かい使いやすさへのこだわりを兼ね備えたSLドームの登場は、ファスト&ライトな登山から長期の沢登りといった、タフさと軽さを両立したい多くのアウトドア愛好家にとって朗報となるに違いありません。

ベスト・フロアレス部門:LITE WAY PYRAOMM SOLO

お気に入りポイント
  • 重量わずか360gという軽さ
  • 快適性と立てやすさを兼ね備えた使いやすい構造
  • タープとしてもシェルターとしても使用できる汎用性の高さ
  • 耐久性とたるみの少ない高機能素材

2019年にウクライナで創業された新しいガレージブランドであるLITE WAYはすべての製品をハンドメイドで丁寧に作られている点もさることながら、その何とも言えない色気の秘密は自身もスルーハイカーである創設者が試行錯誤の末行きついたという、軽量かつシンプルながら無駄のないスマートな使いやすさを追求した高い機能美にあります。

このシンプルなピラミッド型シェルターは、極限まで無駄を省いたフロアレスデザインによって、3.3平方メートルという広い底面積ながら360グラムという軽さを実現し、広さあたりの重量はずば抜けて軽いモデルとなっています。もっとも縁部分は相当壁が低くなっているため実際に活動できるスペースはそこまでだだっ広くはないのですが、それでも1人で過ごすには十分すぎるほどの広さです。

ベースモデルは素材に20Dのリップストップシルポリを採用しており、薄くて丈夫、しかも撥水性と濡れてもたるまない張の強さを備えています(さらに軽量高耐久なダイニーマモデルも選べます)。トレッキングポール1本を中心にして建てれば最低4本のペグだけでいったん立ち上げることができるという無駄のない建てやすい作りも秀逸(しっかりと建てるためには追加で4~6本程度必要)。さらにより居住空間を快適にしたければ長めのポールをA型に広げて建ててもよく、状況に応じて快適さと建てやすさを選べるスマートな仕様になっています。地面との隙間も調節できるので、風通しを良くすれば結露はほとんど気にならなかったり、逆に地面にピッタリくっつけて密封性の高いテントにもすることができます。なおバスタブフロアとバグネットによるメッシュインナーがオプションで備えることができるため、これも合わせれば床・メッシュ付きの快適軽量テントが完成するというスグレモノ。

ミニマルな超軽量スタイルを楽しむこともオプションを駆使して快適な空間をセットアップすることも自由自在というスマートさに加え、シンプルで使えば使うほど愛着のわく美しいデザインを兼ね備えた非常に洗練されたシェルターは、春の陽気から秋口までのファストパッキングや低山ハイクに最適。一度この軽快さに慣れてしまうと、もう元に戻ることは難しいかもしれません。

    選び方:軽量シェルターを賢く選ぶ5つのポイント

    はじめに

    素材や構造などがバラエティに富み、個性の強い軽量シェルターでも、アウトドア向けテントとしての基本的な考え方は一般的な山岳テントと変わりません。これから書くことはそうしたテントの一般知識を踏まえたうえで、軽量シェルターで特に知っておきたい内容に絞り込んでいます。テント全般に関する基本的な知識と選び方については、以前登山向けテントについて書いた記事にまとめてありますので、必要に応じてそちらの記事も一緒に参照ください。

    ポイント1:構造 ~軽量シェルターの種類を知る~

    自分に合った一張に出会うための道は、まず軽量シェルターの「型(タイプ)」を知ることからはじまります。軽量テントやシェルターは何もただテントの素材を軽くしているというだけのものではありません。目的やアクティビティ、使用するフィールドによってどこの重量が削れるかをあれこれと検討し、構造そのものから見直すことで多様な方法で軽さを実現しています。まずはそうした結果生まれた軽量シェルターの多様なタイプについて、それぞれの強みと弱み、適したシーンを検討してみましょう。

    非自立型・シングルウォールタイプ

    まずは昨今の軽量シェルターのなかでも特にバランスのとれた、従来の山岳テントからの移行もしやすい(扱いやすい)タイプから紹介します。

    非自立型・シングルウォールタイプは1層の壁と床、および支柱によって構成された天幕の周りにペグダウンして、テンションをかけることで支柱を支え壁を立ち上げ立体化するタイプのシェルターです。

    これらのシェルターは壁を1層で済ますことで、フライとインナーに壁の分かれたダブルウォールテントに比べて重量をはるかに軽くすることができ、さらに多くの場合、テントの支柱を長さ調節可能なトレッキングポールで代用するため、結果として劇的な荷物の軽量・コンパクト化が可能となります。

    そのうえ、軽くても耐久性の高い高機能素材を使用することで、また基本的な構造は従来の山岳テントに近く対候性もそこそこあり、床も敷いてあることからある程度のプロテクションと快適性は確保されています。

    ただ、換気と結露が大きな問題になる可能性があるため、湿気の多い環境や寒い季節では注意が必要であり、このタイプを選択するのであればなるべく換気の対策がきちんとしているモデルを検討する必要があるでしょう。

    自立型・シングルウォールタイプ

    日本人にとってはこちらも馴染みやすいであろうもうひとつのタイプが、自立型シングルウォールタイプです。こちらも1層の軽量かつ高機能素材を使用し、床も備わっている点では上のタイプと同じですが、違うのは専用の支柱を用いてテントを自立させている点です。つまり立てるだけならばペグダウンすらも不要というわけ。とはいえそれでは万が一風で飛ばされても文句も言えないため、最低限のペグダウンは必須ですが。

    日本の山岳ではペグの刺さらない固い岩場やガイラインも張れないような狭いテン場といった設営しづらい環境も多々ありますので、セッティングの容易な自立型タイプは非自立型タイプにはない安心感があります。

    ただ軽量化という点でみると、どうしても支柱が省略できないため、思い切った軽さや、広い居住空間などは望めないのが玉に瑕です。

    フロアレスタイプ(ピラミッドシェルター)

    この辺から普通のテントに慣れている人にとっては信じがたい領域に入っていきますが、上記の2タイプからさらに軽量化を推し進めたのがこのタイプ。イメージとしては非自立型・シングルウォールタイプの床を省略したタイプと考えればよいでしょう。ここまでくるとテントというよりも「タープ」や「屋根」に近い。

    仕組みは同じように 1 層の防水生地の頂点にトレッキング ポールを立て、ペグダウンしてテンションをかけることで支柱を支えます。察しの通り軽量化の先鋭度合いとしては最も高く、圧縮すれば握りこぶし程度にもなる布切れ1枚で住居が手に入るというものです。このタイプは2人が寝られる程度に広くしたところで増える重量も気になるほどではないため、結果的には軽量化と広い居住性を同時に手に入れることができるのもこのタイプのメリットです。テントに入るために靴の脱ぎ履きも必要ないなど、慣れれば快適という人も多くいます。また積雪期には床の雪を掘り出してキッチンや椅子などを作ったりして快適なベースキャンプを設営することも不可能ではありません。

    ただ反面、地面の状態次第で快適さが大きく違ってきてしまうことは覚悟しなければなりません。凸凹が激しかったり、雨でぬかるんだ地面や、たまった雨水の通り道になってしまう場合などは寝ている場合ではなくなってしまいます。また地面と幕の隙間から吹き抜ける風や、地面から伝わる冷気を防ぐことはできないため、一段と防寒に気をつけておく必要もあります。

    なおこれらのシェルターには防虫用のメッシュや床などをオプションによって追加できる「モジュラー 式」になっていることが多く、そうしたカスタマイズ性があるのはありがたいことです。

    ツェルトタイプ

    ツェルトとは本来英語の「テント」のドイツ語である「ツェルトザック」(Zeltsack)の略ですが、日本では登山で起こる万が一のアクシデントに備えて作られた、日本独特の緊急用シェルターとして歴史があります。

    その特徴は、あくまでも緊急用として携行するアイテムであるため極めて「小型軽量」であること。ウルトラライトのハイキングスタイルではこの特徴を積極的に捉え直し、軽さを活かして工夫することで快適なシェルターとして活用しています。例えば両端をトレッキングポールで立ち上げたり、両側にあるベンチレーターにロープを通して立木などに結んで張る、あるいは横倒しにして口の空いたタープとして使う、雪洞の出入口を覆うシートとして使う、さらにはただ被って包まれるだけなど、さまざまな緊急時に柔軟な対応ができるようきわめて汎用性の高い作りになっています。

    ただやはり、その目的からして、いくらしっかりとセッティングしたとしても快適性や堅牢性には限界があります。

    (参考)タープ

    キャンプでよく見るフラットなタープも、シンプルかつ工夫次第で必要な対候性も確保できるため経験豊富なハイカーにとっては好ましい選択肢のひとつです。中には一年中タープでいくという達人もいます。

    種類ツェルトタイプフロアレスタイプ自立型・シングルウォールタイプ非自立型・シングルウォールタイプダブルウォールタイプ(一般的な山岳テント)
    重量★★★★★★★★★★★★★★
    対候性★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
    防寒性★★★★★★★★★★★★★★★★★★
    居住快適性★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
    設営しやすさ★★★★★★★★★★★★★★★★★
    結露への強さ★★★★★★★★★★★★★★★★
    長所
    • 最も軽量で最もコンパクト
    • 他のシェルターと比較して非常に安価
    • 状況に合わせて様々な形状にセット可能
    • 練習すれば、緊急時を含めたあらゆる場面で風や雨から身を得ることができる
    • 広々とした居住スペース
    • かなり軽量でコンパクト
    • セットアップは比較的簡単
    • 雨、雪からの保護性は高い
    • (地面との隙間を空ければ)程よい通気性で結露の影響を受けにくい
    • 防虫メッシュやフロアなどをオプションで追加可能
    • 場所を選ばず簡単に設営可能
    • しっかりとペグで固定できればかなりの雨風にも耐えられる
    • 気密性が高く室内が暖まりやすい
    • 広々とした居住スペース
    • 一般的なテントと変わらない居住快適性
    • セットアップは比較的簡単
    • モデルによっては前室や防虫メッシュなどを搭載でき快適
    • 全体的に欠点が少なくバランスが良い
    • 大部分のテントがこのタイプ。それ故選択肢が多い
    • 場所を選ばず設営できる
    • 雨、風、雪など悪天に対する保護性能が高い
    • ダブルウォール構造のため結露の影響を受けにくい
    • レインフライによる前室があるので、ブーツやパックを置いたりできて便利。総じて居住性が高い
    短所
    • 設営には知識と慣れが必要
    • 緊急用のため一時的な雨風を防ぐ程度の弱い対候性
    • 自立しない
    • 地面むき出しの床(要グラウンドシート)
    • 室内が広々のため温度が高くなりにくい
    • 自立せず、設営の場所を選ぶ
    • 通気性が低く、結露しやすい
    • 基本的に居住空間が狭い
    • 専用のポールを必要とするためそこまで軽くならない
    • 雨の多い時期・エリアでは快適性が低い
    • 通気性が高いとはいえず、結露の影響を受けやすい
    • 自立せず、設営の場所を選ぶ
    • どうしても重くなりがち
    適したシーンやスタイル
    • 沢登りや温暖期の低山テント泊
    • 緊急ビバーク用として常備
    • 相応の経験を積んだハイカーなら積雪期にも
    • 沢登りや温暖期の低山テント泊
    • 相応の経験を積んだハイカーなら積雪期にも
    • 沢登りや温暖期の低山テント泊
    • ファスト&ライトスタイルのあらゆるアクティビティ(相応の知識・経験が必須)
    • 沢登りや温暖期の低山テント泊
    • ファスト&ライトスタイルのハイキング
    • あらゆるスタイル、標高の山岳でのテント泊

    ポイント2:サイズ ~ソロでも2人用を使うメリット~

    2人用サイズに1人で住めば、Lサイズのマットレスを敷いてもまだゆとりのあるスペースを確保できる。

    軽量シェルターの世界では、ソロのハイカーが2人用のシェルターを使用するケースはまったく不自然なことではありません。

    その理由のひとつには、幅広いユーザーに向けて作られた大手ブランドの山岳テントと違ってユニークでクセの強いメーカーによる多彩なモデルがひしめき合う軽量シェルターの世界では、メーカーやモデルによってテントのサイズにはかなりバラつきがあるという実態があります。

    もうひとつの理由としては、軽量シェルターの場合構成要素が「生地」だけだったりするため、1人から2人にサイズアップしたところで増える重量は数十グラム、その代わり寝床スペースが格段に広がり、出入口が2つになったりと利便性もアップするとなれば、2人用にするメリットが重量増のデメリットを上回るからです。

    もちろんどこまでも最軽量を追い求める場合や、1人用でも十分な広さを持っているモデルもあり、そんな場合は1人用テントで十分です。同じように、2人で使用するという想定でも3人用のシェルターを使うことも十分選択肢としてアリだということを留意しておくと、買ってから「こんなに窮屈なのか!?」と後悔することがなくなります。

    ポイント3:重量 ~広さあたりの重量で考える~

    このレビューのために現在発売されているテント(ソロ~2人用サイズ)を200モデルあまりを調査してみたところによると、ソロ~2人用の軽量テント・シェルターの重量はおおよそ100グラム~1キログラム程度の範囲で、その中央値は500グラム前後です。一般的な山岳テントの場合で1~2.5キログラムあたりであること考えると、軽量シェルターがいかに軽いかが想像できると思います。

    ただ、それら軽量シェルターの各モデルが、本当の意味で「軽い」のかどうかを検討するには注意が必要です。スペック上でどれだけ軽かったとしても、それが思った以上に窮屈だったり、プロテクションが足りなかったりすれば、自分にとって意味のある軽さとはいえません。そのためには単にそのテントの重量を比べるのではなく「単位面積あたりの重量」で見てみることが有効です。そのシェルターが1平方メートルの広さを確保するのにどれだけの重量を必要としたのかを比べることで、広さや素材の異なるテント同士の重さを比較的フェアに比べることができます。

    例えば今回調査した中ではフロアレスの非自立型シェルター(LOCUS GEAR Hapi DCF-B)の単位面積あたり重量は71.4(g/m2)、一方で最重量クラスは自立型のダブルウォールテントの中でも特に堅牢なテント(HILLEBERG ソウロ)で1,200(g/m2)となっていました。テントによっておよそ16倍もの差があります。もちろんそれによって広さだけでなく素材の耐久性といった品質も変わりますので、一概にこの値が小さいことがすべてではありません。ただ自分の必要とする耐久性を持っているモデル同士であれば、この値を比較することでそのテントの実質的な重量を比べることができるので、覚えておくことをおすすめします。

    ポイント4:テントに最適な素材・生地

    軽量シェルターは軽さと強度を両立するため、高価ですが「薄くて強い」高機能生地を使用しているモデルがほとんどです。さらには、「水にぬれても生地がたるみにくい」「経年劣化が少ない」といったテント特有で求められる要素もあります。現在こうした要求に応え、多くの軽量シェルターに採用されている主要な生地・素材を4つ紹介します。

    ポリウレタンコーティングされたリップストップナイロン

    伝統的にテントの素材として長く採用されてきた、最も安価な素材がこのリップストップナイロン生地です。そこそこの耐水性と耐久性を備え、一般的には優れた強度を有しています。ただ、後述するDCFやシルナイロン、シルポリなど最先端の生地と比較すると強度重量比で高いとはいえず、相対的には”重い”素材です。また雨などで保水すると生地が伸びたりたるんだりしてしまったり、紫外線によるダメージを受けやすく、経年劣化によって加水分解しやすいなどの弱点があります。

    シルナイロン

    シルナイロンは、安価で軽量なリップストップ ナイロンにシリコンを含浸させ、耐水性と強度を向上させています。さまざまな厚さで作られており、超軽量のモデルともなると10デニールほどの薄手生地を採用していたりしますが、その場合かなり耐久性を犠牲にし、フットプリントなどは必須と考えなければならないため、一般的には20~40デニールほどで作られることが多いようです。この生地は後述するDCF ほどの強度はありませんが、プレーンな生地に比べれば優れた耐久性を備え、耐水性もあります。ただ生地が濡れると保水した生地がたるみがちなるため、テントの張り具合には気をつける必要があります。また紫外線に強い生地でもありません。とはいえコスト的には相対的にそこそこ安価なため、この生地を採用することでコストパフォーマンスの高いシェルターを作ることができます。

    シルポリ

    先ほどのシルナイロンはナイロン生地にシリコンを含侵させたものですが、ポリエステル生地にシリコンを含侵させるとそれは「シルポリ」になります。外観からはナイロンと見分けがつないほど同じで、特徴はほぼナイロンとポリエステルの違いと同じと考えてよく、シルポリを使ったテントも基本的に軽くて丈夫で、こちらはUV耐性があり、また疎水性があるため水を吸いにくく雨に濡れてもあまり伸びない、価格もそれほど高価でもないため、近年テントの素材として特に注目を集めてきています。

    なお、シルナイロン、シルポリともに、表側にシリコンコーティング、裏側にPUコーティングを施した「SIL/PUコーティング」生地を採用しているモデルがあります。この生地の魅力は両方のコーティングの長所をバランスをとり、表面はシリコンによって高い撥水性を発揮し、裏側はPUコーティングによって縫い目にシームテープが貼れることができるなど、より使いやすいテントになります。

    ダイニーマ・コンポジット・ファブリック(DCF、別名キューベンファイバー)

    超高分子量ポリエチレン繊維であるDynema®はスチール(鋼)の15倍ともいわれる強度を誇り、同時にナイロンとポリエステルよりも30%、  アラミドよりも45%も軽量。それをUV樹脂でラミネートしたフィルム状の生地がDCFで、「世界で最も強い布」とも呼ばれています。このため超軽量にもかかわらず耐摩耗性も強く、ナイロンのように水にぬれてもたるみにくい、UV耐性もある、さらにほぼ100%の防水性を持っているため、テントやタープの素材として優れた性能を発揮してくれます。ただ軽さの割には思ったほど圧縮できないので、コンパクトさはあまり期待できません。

     

    各メーカーの各モデルに実際に使用されている生地の品質はメーカーや仕様によって大きく異なるため、一概にどのモデルの生地が一番いいとはいえません。最近の傾向としては、人気の生地のトレンドはシルナイロンからシルポリに移行し始めているようです。

    ポイント5:軽量テント・シェルターで気をつけておきたい細かなポイント

    トレッキングポールを支柱にするときの注意点

    軽量シェルターは多くのタイプで支柱が省略されており、設営にあたっては適当な長さを持ったトレッキングポールを支柱として代用するように設計されています。運よくちょうどよい長さのポールを持っていれば問題ないのですが、経験上、テントによっては長さなど特定の条件を要求するものがあったりします。もし気づかずにテントサイトまで来てしまった場合は笑えない状況になってしまいますので、そこだけは注意が必要です。

    ちょうどよい長さにならない

    例えばレース用のポールなど、長さが固定されているモデルはそのシェルターにとってちょうどいい長さに調節ができません。軽量シェルターでポールを使用する想定であれば、必ず固定長ではなく調整可能なトレッキング ポールを用意してください。

    長さが足りない

    自分は主に125cmまでのサイズ調節が可能なポールを持っているのですが、ある時購入した海外製の軽量シェルターで「52インチ (132 cm) 」という長さのポールを要求するテントがありました。こんなケースはめったにないとは思いますが、ポールを支柱とするテントを選ぶ際には念のため使用するポールの最適長をチェックすることを忘れないようにしましょう。

    短さが足りない

    これもレアケースかもしれませんが、2本のポールのうち1本を125cmに、そしてもう一方を60cmにして支柱に使うテントがありました。この場合、60cmは大体テレスコープ(伸縮)式のポールをちょうど収納したときの長さとなり、折り畳み式のポールの場合は畳むと40cmほどなのでうまく60cmになりません。このように軽量シェルターはさまざまな工夫が凝らされた個性的なテントが多いため、確認の際には最長サイズだけでなく最短サイズも合っているかどうかチェックしておきましょう。

    ペグとガイライン

    軽量シェルターを安全に設営するためにペグやガイラインはほぼ必須といってよい装備ですが、軽量テント・シェルターには必ずしも十分な数のガイライン・ペグが付属しているとは限りません(場合によってはまったく別売りの場合も)。その時にはそれぞれを別途購入する必要がありますが、まずペグに関して、一部の激安モデルはその辺の芝生に設営するくらいしか想定されていなかったりして、バックカントリーの不整地では地面にうまく刺さらず、強く打ち込むとすぐ曲がってしまうといった残念なペグだったりします。

    一方で高品質なテントペグといっても、さまざまな形状・サイズ・重量が存在していますが、これらのなかではチタン製などの軽くて丈夫なペグがグラム単位を気にするハイカーにとって人気ですが、アルミでも気にならないほど十分に軽くてしかも強度の高いモデルがあるため、一概にチタンだけが良いとは限りません。それよりも個人的には形が重要で、ペグはその形状によって得意な地面と不得意な地面があります。典型的なタイプごとの特徴を下記に挙げます。

    Y字(あるいは十字)型

    オールラウンドな地形で優れた保持力を発揮し、耐久性もあって曲がりにくいタイプ。その分最軽量にはなりにくい。

    V字型

    草地や砂地、雪など柔らかい地面で優れた保持力を発揮するタイプ。ただ固い地面や岩に強く打ち込むと簡単に曲がってしまうことがあるので注意。

    フック・釘型

    Y・V字型に比べて非常に軽量にできるタイプ。細いので岩まじりの固い地面で刺さりやすい。一方直径が細いと保持力が弱く曲がりやすい。

    上記の理想的には予定しているテントサイトの地面に合わせたものを持つことですが、それができない場合にはあらかじめメインのペグと別のタイプを混ぜて持っておくと、どんな地形でも柔軟に対応できやすいのでおすすめです。

    ペグのタイプの例。右からV字・Y字・釘・フック型。

    ガイラインはテントに付属している場合がありますが、最低限しかついていないことが多いため、より堅牢に建てるためには余分に自分で用意することが重要です。それらはペグが刺さらなかった場合などに長さを増やしてガイラインを岩に巻き付けたりするときにも役に立ちます。追加のガイラインはあらかじめ切って持っておいてもよいですが、10m程度の太さ2mmほどのナイロンかダイニーマの細引き、もしくはパラコードなどを持ち歩いて、万が一の際には必要な長さをその場で切って作るというオペレーションでもよいでしょう。

    フットプリント

    フットプリントとは、テントフロアと同じくらいの広さをもったシートで、テントの下に敷いて小石や水などからフロアを保護する役割を果たします(下写真)。一般的な山岳テントの場合は底面の素材が厚めに作られているためそこまで必要とはいえませんが、軽量シェルターの場合はフロアの生地も相当薄いため、個人的に要るか要らないかと言われれば必須といっていいパーツです。万が一フットプリントがない場合は、テントの底に穴を開けてしまったとしても言い訳はできません。

    なお軽量テントでは通常フットプリントは別売りで、自分で用意する必要があります。メーカーが純正オプションとして提供している場合もありますが、テントの数だけフットプリントもそろえているのはどうも効率が悪い。そんなに複雑な道具ではないので、せっかくだからここは自作してみるのもいいでしょう。より安価で軽量な選択肢としては、自前でソフトタイベックなどの生地や地方のホームセンターで売っている農ポリと呼ばれる養生シート、さらにはアメリカのUL界隈で人気のPolycryo(日本では入手困難 ?)などを購入すれば、自分で好きな大きさにカッティングして超軽量のグランドシートを作成することができます。作り方は日米で多くのハイカーたちがトライしてネット上に上げてくれているので迷うことはないでしょう。

    タイベックは建築資材や化学防護服などで一般的に使用されているため、比較的手軽に入手できる。それを自分でカッティングすればフットプリントを簡単に自作することができる。

    結露とベンチレーション

    ほとんどの軽量シェルターで悩ましいのが、この結露問題。

    結露とは、夜になって気温が下がることでテント内部が冷やされ、大気中に含まれていた水蒸気が飽和し、テントの内壁に水滴が付着する現象のことで、冬に部屋のガラス窓内側に付いた水滴や夏に冷えたビールグラスの外側に付いた水滴と同じです。

    結露を防ぐためにはできる限り通気性の高いテントを選んだり、風向きを考慮してできる限りテントを風が通り抜けるように設営することです。その意味ではタープやフロアレスシェルターは比較的結露が生まれにくい構造であり、密閉型のシングルウォールシェルターは最も結露が起きやすい構造と考えられます。ただ、いずれにせよ内外で気温・湿度差が生じやすい状況ではどうしても避けられないものです。

    一般的な山岳テントに多いダブルウォールテントの場合、結露がインナーテントではなくレインフライ側に発生するため害が及びにくいというメリットがありますが、対して軽量シェルターに多いシングルウォールの場合、結露した水滴がシュラフや頭の上に落ちてきて、ダイレクトに被害を受けやすくなります。

    結露が気になる場合はタオルを常備して、頻繁に内壁を拭き取るなど努力が必要ですが、ギアの軽量化のために払わなければならない代償だとあきらめても死ぬことはありません。

    まとめ

    軽量シェルターは価格もさることながら、失敗したときのインパクトを考えると、山道具の中でもなかなかハードルの高いアイテムのひとつだと思いますので、この記事が少しでも参考になれば幸いです。ただ仮に意を決して購入したとしても、初めから本番で使うのは当然大きな勇気がいるものです。そんな時はまず下界の暖かい天候の下で一晩でも試してみるのが一番。慣れてしまえば、これほど荷物を軽く小さくしてくれるものはないと、その大きな効果に満足するはず。その大きな一歩を踏み出せばその先は、既成の道具や歩き方にこだわらず、自分だけのスタイルで山を楽しむことができるようになる新しい山歩きの世界が待っているはずです。