GORE-TEX® アウターウェアについての疑問を洗いざらい中の人に聞いてきた

過酷な登山から穏やかな休息まで、安全・快適なアウトドアを楽しむために必要不可欠なのが雨を防ぐと同時に衣服内も蒸れにくい「防水透湿素材」のアウターウェア。今や多くの素材メーカーが防水透湿素材を開発するなか「GORE-TEX® プロダクト」はそのパイオニアとして、登山をはじめとしたアウトドアの世界ではおそらく日本で最もよく知られた素材といえます。

GORE-TEX® プロダクトは誕生から半世紀近くに渡って進化をし続け、近年ではアクティビティの多様化などに伴いさまざまなバリエーションが存在しています。ただでさえ多くのメーカーによる競合製品で溢れかえっているという防水透湿素材市場では、自分にとってピッタリの一着を見つけることが年々難しくなっていると感じているのはぼくだけはないはず。

そんななか6月某日、GORE-TEX® テクノロジーを扱うゴア社の人に直接話が聞けるというまたとない機会が訪れました。普段から筆者は「厚さ40D(デニール)のGORE-TEX® Proと、厚さ75DのGORE-TEX® PACLITE®、いったいどちらの方が強いのか?」なんておよそ普通の人にはドン引きされてしまうような疑問を抱えていただけに、この機会を逃すはずはありません。

答えていただいたのは、日本ゴア株式会社でマーケティングを担当する市塚夏子さん。知っているようで知らなかった製品の秘密から、初心者の方でも簡単にGORE-TEX® アウターウェアを選ぶためのポイント、分かりやすいお手入れ・保管方法など、面倒な質問にも嫌な顔ひとつせず幅広く答えていただきました。それでは早速、少し長いですが気楽にお付き合いください!

 

 

目次

“膜”と”生地”、GORE-TEX® のもつ2つの顔

―個人的にGORE-TEX® プロダクトとは20年も付き合っているのに、未だによく分かっていない部分がどうしてもあります。用語や製品の一つ一つは理解できるものの、それぞれの関係性が分からずモヤモヤするというか。だから今日はあらためてGORE-TEX® プロダクトについて丁寧に話しを聞いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

こちらこそ!では基本的なことから紐解いていきましょうか。まずは「GORE-TEX®」 ってそもそも何だと思います?

―それは、、メン、ブ、レン?

さすが、その通りです。「GORE-TEX®」 って何?となったときまず言えるのは”膜”であるということ。この膜は鉱石である「蛍石」を原料にした「ePTFE」と呼ばれるフッ素系の樹脂のフィルムで、まさしくこれがGORE-TEX® プロダクトの肝となる素材です。我々はこれを英語でメンブレンと呼んでいますが、「ゴアテックス~」と書いてある製品には靴であれグローブであれ、すべてこの膜が入っています。

―この話はさすがに20年登山していますから、一度は聞いたことがあります。この膜がいわゆる「水滴を通さず、水蒸気は通す」という、例のアレですね。

この膜には1平方センチメートルあたり14億個以上の微細な孔(あな)が空いており、この孔のサイズは水滴の大きさの2万分の1である一方、水蒸気分子の約700倍の大きさにあたるため「水(雨)や風は通さないが水蒸気(ムレ)は通す」ことができます。

―このGORE-TEX® メンブレン自体で既に防水・透湿・防風なんですね。極端なはなし、これだけでできた服があれば最軽量ですね。

ある意味おっしゃる通りです。これだけでも防水・防風・透湿で、柔らかくて、軽くて。ただ実際にはこのGORE-TEX® メンブレンだけでは非常に薄くて繊細で破れやすいため、このまま洋服にするのは現実的ではありません。そこでこの膜の表面や、表裏両面に布を貼り合わせて実用性のある生地(GORE-TEX® ファブリクス)にするわけです。

―複数の生地を組み合わせることではじめて実用性のある素材として活きてくる訳ですね。

そうです。実はこの部分は意外と知られていないのですが、GORE-TEX® ファブリクスを使った多彩な製品バリエーションはこのメンブレンの表裏に貼り合わせる生地の質、厚さ、織り方、貼り方など、用途や目的に合わせたさまざまな技術・構造によって生まれているんです。

―簡単な例でいうと、耐久性を高めるために貼り合わせる生地の厚み(=デニール数)を大きくするとか?

簡単に言うとそうです。ただ実際はさらにもっと複雑に絡み合った多くの要素を検討しています。例えば強度をどうするかといった場合、デニール数はあくまでも糸の太さであり、強度を決める一要素でしかありません。例えば同じデニール数でも密に織られている生地ほど強度は高くなります。ただ一方で密に織られた生地はその分重量が重くなりますし、厳密には透湿性も低下してしまいます。

GORE-TEX® プロダクトが耐水圧・透湿性の測定値を公表しない理由

―ちょっと待ってください、ということは単純にデニール数だけで耐久性の良し悪しは決まらないだけでなく、同じGORE-TEX® ファブリクスでも生地の厚みや織り方などで透湿性も微妙に異なるわけですか……。
ということはですよ、GORE-TEX® プロダクトが他社の防水透湿素材と違って耐水圧や透湿性能の数値を公表しない理由って、その辺りが関係しているんでしょうか?

ひとつはそういうことですね。GORE-TEX® メンブレンを使用しているすべての生地は厳密にいうとパフォーマンスが異なります。表地の厚みしかり、織密度しかり。密に織れば織るほど生地は強くなりますが、バリッとした着心地になり、透湿性も落ちてしまう。一方甘く織れば柔らかくなり透湿性も上がりますが強度は高まらない。GORE-TEX® ファブリクスも、それこそ何千もの種類があり、理論的にはそれぞれ透湿性等が違うということになります。アウトドア用のアウターウェアはこのようなさまざまな特性を、最も目的に合うように総合的にバランスを見極めながら設計するのが実際です。

―なるほど……。

それだけではありません。透湿性に関しては、生地の状態と完成品(ウェア)の状態とでも性能が変わってくるのです。例えば防水のため縫い目の裏に貼り付けるシームテープ部分には透湿性がありません。つまりウェアにたくさんシームテープが付いていると、全体としての透湿性はその分落ちてしまうのです。もうひとつはポケット。1つしかないものよりも2つあるものの方が確実に透湿性は落ちます。ポケットがたくさん付いているウェアはいくら高透湿の生地を使っていても、実際のウェアとしての透湿性はそれよりも低くなってしまうのです。このように実際にはさまざまな要素が関わって最終的にウェアの性能が決まってくるため、そこを加味せずに生地だけの性能を表示するというのはあまり本質的ではないのです。

―知りませんでした……もはや公表されているスペックは果たして信用できるのかくらいに思えてきてしまいました。

もちろん参考値として有用であることは確かなので、数値を公表するということ自体がすべて間違いだとはいいません。ただゴア社としては、それを公表することが果たして本当にユーザーさんのメリットになるのだろうか?ということは常にあります。どこまで厳密に測定したとしても、実際の利用シーンはさまざまなはずで、スペック値はあくまでも参考でしかありません。にもかかわらず数値を出してしまうことによってそれが性能の良し悪しとして過大に評価されてしまう可能性があります。我々にとってそれはあまり本意ではありません。

―確かに数字が表示されていると、それで分かった気になってしまいますよね。それに馴らされていつの間にか数字だけでウェアの性能を比べてしまっている自分がいました。

ですので、GORE-TEX® プロダクトでは細かい数値は公表せず、したとしても「◯◯以上」といった最低限の数値を公表するに留めています。一方で我々としては、ポケットやプリント部分など透湿しない部分の面積を設計段階で制限するなど、ウェアとして十分なパフォーマンスが担保されるように細部にわたってチェックをしています。

他社には真似できないGORE-TEX® プロダクトの徹底した品質管理

―ちょうどいい感じの流れなので、GORE-TEX® プロダクトで行われているその細かいチェックについて、もう少し教えてください。

まず、そもそも高度な技術と高い品質を必要とするGORE-TEX® プロダクトは、我々が期待する水準の技術力と設備を備えた指定の工場でしか作ることができません。そしてそこで作られた製品化前のプロトタイプを基に性能をテストするのですが、これも生地の状態でテストするメーカーはあれど、完成品状態で素材メーカーがテストするという仕組み自体はおそらくGORE-TEX® プロダクトだけでしょう。

―この時点でかなり隙がないですね。実際のテストはどのような内容なのでしょう?

例えばウェアの場合、マネキンに着せた状態で物理的に雨にさらすなど、さまざまな条件をシミュレートし、防水性や透湿性等が基準通りかを試験しています。このときは表生地の表面に通常施されている撥水加工すらも落として、純粋な生地の状態で行います。撥水が効いていると、実際には水がたまって濡れてしまう場所であったとしても撥水剤のせいでポロポロとこぼれてしまうなどのケースがあり得るからです。ウェアとしての防水性をここまで担保するというのがGORE-TEX® プロダクトのポリシーです。

防水と撥水。それぞれ違って、それぞれ大事

―もうひとつ、あまりどこにも書いていないのでこの際聞きたかったのがウェアの撥水性についてです。時々「コーヒーやワインを弾く」なんて触れ込みの高撥水Tシャツなんかを見かけますが、あの話が本当だとすると、今後は撥水性を極限まで高めた表生地であれば、防水なんて要らないんじゃないかとかふと思ったんですが。

そうしたものは確かに存在はしていますが、実際のところはそれほどに強力な撥水加工で、実用に足る程度に効果の持続するものは存在していないのが現状です。

―確かにアウトドアという特別な環境に耐えうるものとなると、そう簡単にはいかないですよね。

そもそも防水と撥水は違います。撥水性能とは、分子レベルで生地の表面に施された撥水加工の上に乗っかった水を弾いているだけなので、押す力(圧力)には弱い。どこまで撥水が強力になったとしても、防水の代わりにはなりません。

ここで防水と撥水の違いが一目で分かる実験をしてみましょう(下写真)。

これは表面に撥水加工を施しただけのナイロン生地です。下からポンプで水を送っていくと、ある程度の圧力のところで耐水圧が限界に来て、水が下から上に抜けてきてしまいます。ただ、このとき撥水加工は効いているので、抜けた後の水は表面で弾かれて(撥水して)いることも同時に分かります。つまりいくら撥水していても、水の圧力が高ければ浸水は防げないということがこのことからも分かりますね。

―撥水性はあくまでもGORE-TEX® ファブリクスにとっては補助的な機能でしかないのでしょうか。

確かに撥水性は防水・透湿・防風の3大機能ではないため保証対象外ではあるのですが、ゴア社にとって研究開発対象外であるというわけではありません。というのも、撥水性がなくなってたっぷり水を吸ってしまった表生地では本来の透湿性を発揮できませんし、ウェアも重くなり不快ですよね。撥水性の良し悪しがウェアの快適性において重要な要素であることは確かです。ただ生地によって加工のしやすさが違ったりとさまざまな要素が絡む複雑な機能でもあります。我々としては生地によって調合を変えたり、それこそ素材自体に撥水力を持たせた「GORE-TEX® SHAKEDRY™ プロダクト」などを開発するなど、なるべくいいものになるように努力しています。

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