【専門家に聞いてみた】心拍数の計測できるPRO TREK Smart WSD-F21HRを使った疲れない、持久力を高める歩き方とは?
心拍数が人々の体調管理や、アスリートのトレーニングに役立つといわれているのはご存じの方も多いだろう。簡単に説明すると、心拍数とは1分間に心臓が拍動する回数。一般成人の安静時の心拍数は、1分間に約60~80回とされている。当然、どのくらいの運動なのかで、心拍数の上がり方は異なる。
今回は、心拍数が計測できるCASIOのアウトドアスマートウォッチ PRO TREK Smart WSD-F21HR(以下、F21HR)を使って「疲れない登山」や「身体能力を向上させる登山」は可能なのか、またそれを実践するにはどうしたらいいか、トレーニング科学のスペシャリストである国際武道大学体育学科 前河洋一 教授にお話を伺ってみた。その後、実際にF21HRを使用して、心拍数をコントロールしながら登山をして、自分が思うような目的での登山がどうすればできるか、試してみたので早速レポートする。
目次
目次
- 心拍数が上がると、なぜ疲れるのか?
- 運動強度を表す「心拍ゾーン」で運動の中身が変わる
- 疲れない登山のカギは「脂肪を燃焼させて歩いているかどうか」
- 登山では急坂などでの心拍数の上下変動に要注意
- 持久力を高めるなら心拍ゾーン3~4で登る
- 疲れにくい体には最大酸素摂取量もポイント
- 疲れをためない登山、持久力をつける登山を意識して、実際に心拍数登山をしてみた
- まとめ
心拍数が上がると、なぜ疲れるのか?
例えば、平地の舗装路5kmがあるとします。この距離を同じ人が全速力で走ったとしても、時間かけてゆっくり歩いたとしても、移動した距離は一緒なので、消費エネルギーはほとんど同じです。
ですが、走った後の疲労感はどちらにあるかというと、全速力で頑張った方。なぜ同じ消費カロリーなのに疲れ方に違いが出てくるのでしょう?違いは、一方は20分で250キロカロリー消費した。もう片方は1時間かけて250キロカロリーを消費したという部分です。ここに心拍数が関係してくる。
前者は心拍数がかなり高い状態で走っています。一方後者はあまり上げずに歩いています。そして両者の疲れた方の決定的な違いは「使われたエネルギー源が違う」のです。全速力の前者の方はグリコーゲンがエネルギーとして消費されているけれども、後者はエネルギーとして脂肪が主に活用されています。グリコーゲンを消費し続けると疲労困憊で動けなくなります。脂肪が燃焼している限りは運動を続けることができます。つまり運動時の心拍数の高さは使われるエネルギー源の違いであり、それによって疲れ方や運動による効果が大きく違ってくるのです。
ちなみに、体脂肪を燃やすにはどちらがいいかというと、実はあまり変りません。というのは、歩いた方は有酸素運動なので脂肪が歩いている最中に使われていますが、全速力で走った方は、走っている最中こそ脂肪は使われにくいのですが、走った後の疲労回復過程で脂肪燃焼が起こります。運動後に脂肪燃焼する「アフターバーニング」という作用です。脂肪の燃焼に関していえば、疲れ方は違うのに、結果としての効果は変わらないということです。
運動強度を表す「心拍ゾーン」で運動の中身が変わる
心拍数の高さ(低さ)というのは、絶対的な数字ではなく、人それぞれの相対的な高さです。心拍数を使って狙った運動をするためには、まず最大心拍数の何%での心拍数で行った運動なのかを知ることが重要です。個人差はあるものの、自分の最大心拍数(bpm)は220から実年齢を差し引いた数値を目安とします。このため心拍数の上限は一般的には加齢とともに下がってきます。
健康づくり程度であれば、息を切らさず、動き続ける程度で十分です。脂肪を燃やそうとするならば、もうちょっと上のレベルで運動しないといけません。それ以上になると、ここからはトレーニングの領域です。持久力を向上させるなどの目的であれば、もっと頑張るゾーンまで引き上げないといけません。ただ、心拍数を100%に近づければいいということではありません。最大心拍数90%以上となると、有酸素ではなく無酸素的な持久力を向上させるのに効果的な運動になってしまいます。
- ゾーン5:90~100%・・・無酸素性持久力向上
- ゾーン4:80~90%・・・スピードの持久力向上
- ゾーン3:70~80%・・・有酸素性持久力向上
- ゾーン2:60~70%・・・脂肪燃焼
- ゾーン1:50~60%・・・ウォームアップ、クールダウン、ウォーキング
*心拍ゾーンについてはPRO TREK Smart ウェブサイトも参照。%は最大心拍数に対する割合
疲れない登山のカギは「脂肪を燃焼させて歩いているかどうか」
最大心拍数の80%以下(ゾーン3以下)であれば、基本的に酸素が十分足りている状態なので、体内の脂肪をエネルギーに変えられています。60%〜70%(ゾーン2)なら、間違いなく脂肪の燃焼が起きているでしょう。脂肪をエネルギーとしている状態であれば、疲労が蓄積されることにはなりません。ただし、普段ほとんど運動していない人だと、その領域でも乳酸が出てしまう(筋肉疲労が起こる)こともあると思います。また、脂肪が(エネルギーとして)使えるか、使えないかで、乳酸の出方は違います。
登山では急坂などでの心拍数の上下変動に要注意
マラソンの終盤などにダッシュをすれば乳酸は一時的に出ますが、マラソンでもペースを抑えて一定ペース走れば、基本的に乳酸が蓄積されることはありません。ですが、登山となると自身の体を持ち上げようとするため、ぐっと踏ん張って筋肉を使うことがありますよね。筋肉へのダメージを与えるので乳酸は出る可能性はあります。乳酸が出ているということは、心拍数は上昇している。つまり、酸素不足の状態です。運動強度に対し、酸素が足りてないわけです。心拍数は上がり、必要量の酸素を供給できていなければ、乳酸は溜まり、疲労が蓄積してしまいます。
その他にも、緩やかな上り坂を歩いている程度ならば心拍数が急に上ることはあまりないでしょう。ただ登山ではそうもいきません。坂の緩急、岩場の乗越し、上り下りの変化など、多様な地形が当然マラソン以上に出てくるため、心拍数が変動しやすいといえます。心拍数が急に上下に変動しすぎるのも、疲労という点ではマイナス要因です。
疲れない登り方をしたいのであれば、時間をかけて心拍数を極力上げ下げしないように歩いた方が、楽に登れるはず。心拍数が上がりっぱなしだと体はもたないので、一瞬上がっても、また落として、定常状態に戻す。定常状態の時間を長く保っていられれば、あまり苦しまずに、登れるのではないかと思います。心拍数の上げ下げをできるだけ抑えた方が、最終的には疲労感は少ないものです。そういう意味では、今、息苦しいなと思った時に心拍数を確認し、高ければ少し登るペースを落としたり、休憩を入れたりする。そのような対応をすれば、誰でも無理なく、前進できると思います。
持久力を高めるなら心拍ゾーン3~4で登る
例えば、マラソンの初心者が完走を目的とするのであれば、頑張るトレーニングは一切必要ありません。ゆっくり、心拍数を上げずに走る距離を伸ばすように指導します。ですが、完走タイムを縮めたいとなると、より速いペースで走ることに慣らさないといけません。そうなると心拍数をあげ、持久力を高めるトレーニングが必要となるわけです。持久力をつけるとなると、最大心拍の70~90%、心拍ゾーンは3もしくは4あたりの範囲で運動するのが効果的です。重要なのはギリギリまできつく動いたからといってより持久力がつくというわけではないことです。
トレーニングを続けていけば、同じ負荷の運動でも、心拍数が上がりにくくなっていきます。よりスピードを上げられるわけです。またトレーニングしている人は心拍数を急激に上げても、1分ほど休めばストンと落ちますが、運動してない方はずっと息を切らし、心拍数はなかなか下がらない状態が続きます。
疲れにくい体には最大酸素摂取量もポイント
持久力のもう一つの指標として、アップダウンが激しい山登りでも速く歩ける方は、最大酸素摂取量(VO2 max(Vはドットつき))が大きいと思います。最大酸素摂取量とは身体が取り込むことのできる最大の酸素量のこと。最大酸素摂取量が増えると体内の酸素不足が起こりにくくなる=疲れにくくなり、強い運動に対してもゆとりが出てきます。同じ運動であれば、体力は長持ちしますし、同じ距離であればスピードは上がります。最大酸素摂取量を向上させるのには、心拍数を意識して上げたり下げたりするのが効果的です。一定負荷を与え続けるよりも頑張る部分と休む部分を繰り返した方が、酸素摂取量を刺激してくれます。これがいわゆる「インターバルトレーニング」です。
レベル以上の山を一気に登れと言ってもムリな話ですよね。段階を踏んで、酸素を全身に届けられるようにしなくてはなりません。だから、心臓や肺といった心肺機能が大事になってきます。長くゆっくり山を登るなどして、酸素を身体の末端まで送り届けるようにしたほうがいいでしょう。特に標高が高い山に行けば行くほど、最大酸素摂取量の関わりは色濃く出ます。酸素が薄い中で、何%の酸素を活用できるか。高所登山になればなるほど、重要性は高まりますね。