当サイトのレビュー記事はアフィリエイトリンクを通して製品を購入いただくことで少額の収益を得ています。

Garmin inReach® Mini のすすめ ~山に入るすべての人が知っておくべき革新的衛星通信デバイス~

電源をON にしてすぐ現れるデフォルト画面が写真16-a。そこで本体左のアップダウンのスクロール・キーを操作した時のメニューは次の順で現れる。

写真16-a

  • Messages:受信したメッセージの確認や、新たなメッセージを作成する。
  • Mail Check:意図的にメール・チェックする場合である。通常、メールは自動的に受信され、受信音がなる。
  • Tracking :トラッキングを開始する時に選択する。
  • Location :現在地の緯度・経度を確認する。
  • 移動速度や方向を表示する。
  • Bluetooth :Bluetooth のメニュー。
  • Weather :現在地の天気予報を取得する。

電源ON としてから本体右のOK ボタンを押した時に現れるメニューを示す。Send Preset が最初に現れる(写真16-b)。

写真16-b

  • Send Preset :プリセットした三つのメッセージが選べる。通常はこのプリセット・メッセージで事足りる。
  • Start Tracking :トラッキングを開始する。Stop Tracking のメニューが現れる
  • New Message :新規のメッセージを書く。まずSelect Contacts でメッセージの送り先を選ぶ。ここにはFacebookやTwitter もある。ただ、現在、Facebookのタイムラインには投稿できない。次にWrite Message、Pick Quick Text のメニューがある
  • Mark Waypoint:ウェイポイントをマークする
  • Navigate :ナビゲーション開始
  • Utilities :Test、Contacts、Data Use
  • Setup :Dispaly、Tracking、Bluetooth などの設定

どちらからスタートしても良いが、プリセット・メッセージを多用する場合は、電源ON、OK ボタンでのメニューだろう。

天気予報

インリーチは天気予報のサービスを始めた。予報は視覚的なアイコン、気温、降水確率が表示される。アウトドアでは便利である。ただし、結果は本体でのみ表示され、スマートフォンには転送されない。問い合わせた結果を写真17 に示す。応答時間は非常に速く、およそ一分後に受信した。

写真17: 現在地点での天気予報。ベーシック版で、1 メッセージとカウントされる。

inReach Mini のベーシック版の天気予報では二日間の天気、気温、降水確率が表示された。この時、初期設定を行っていなかったので、気温は華氏表示のままであった。プレミアム版は七日間、数時間間隔の天気、気温、降水確率が表示される。そして、自動的に1 ドルが課金される。

SOS送信

SOS ボタンは本体右下のカバーを開けると現れる。アメリカのハイカーが何度も誤ってSOS ボタンを押した経緯があり、その度にヘリコプターが出動した。それで簡単に押せないようになっている。

SOS 送信を行うには、このボタンを押し続けると、inReach Mini が緊急信号を発する。GEOS という国際的に救助活動を行っている組織が受信し、そこから確認のメールが送られる。その時に、本当に緊急事態であると返事する。

救助活動が行われるまで、inReach Mini はGPS 情報を送り続ける。SOS モードの時、本体の電源を切ることはできない。SOS 送信が必要でなくなった時、SOSをキャンセルするにはボタンを押し続け、Yes を選ぶ。すると、キャンセリングのメッセージが出力され、inReach Mini は通常モードに戻る。

SOSは最後の手段

SOS ボタンは最後の手段なので、絶体絶命の場合を除いて、押してはいけない。ヘリコプターによる救助は多額の費用がかかる。アメリカでは、簡単な事故でSOSボタンを押した例があり、その時には非難が集中した。筆者の記憶にある例を挙げておこう。

  • 今年、アメリカのマウント・ウィットニーの近くの出来事である。トレイルを見失って夜になったが、日帰り装備で、食料も持っていなかった。途方に暮れてSOS 送信した。しかし、夜が明けて落ち着いて周囲を調べ、元のトレイルに戻ることができた。膝をケガしていたが、さほどの重傷ではなかったので、ヘリコプターでの搬送を断った。このことを知った他のアメリカ人ハイカーから、激しく非難されることとなった。トレイルを見失っても一日程度では生死に関わらない。一日経ってからSOS 送信しても遅くはない。ヘリコプターの出動には危険を伴うし、多額の費用もかかる。
  • これも今年、山の雑誌に載っていた日本での山岳事故の例である。谷に滑り落ちて、脚を怪我して歩けなくなった。崖を登って元のトレイルに戻るのは不可能、一方、川沿いに下りようとしても滝があり、動けなかった。この例ではinReach などのSOS 送信装置を持っていなかったので、救出まで一週間ほどかかった。このような場合はinReach でSOS 送信を行うべきである。inReach を持っていれば、救出まで一日ほどしかかからないだろう。

狭い渓谷ではGPS が機能しないこともある。そうすると、SOS を送信しても、位置情報がないので、救出まで時間がかかる。使用例に挙げたように、休憩の度に現在位置を送信しておきたい。そうすれば、捜索範囲がかなり狭まるので、GPS情報を送信できない場合でも救出される確率が大きくなる。

inReach MiniとExplorer(旧機種) との違い

写真18: スマートフォン、inReach MINI、inReach Explorer(旧機種)

inReach Mini と筆者所有のExplorer(旧機種) との大きな違いを説明する。現行のExplorer +(本体で地図表示可能) は知らないが、操作性は旧Explorer と類似していると思う。

  • Mini の重さは100g、旧Explorer の重さは190g である。Mini はおよそ半分の重さで、性能はほとんど変わらない。
  • Mini のGPS による位置の精度、ローケーションの速度は旧Explorer と遜色ない。同時に電源を入れて、メッセージ送信を行って確認した、共に非常に正確である。ただ、雲が厚い、林の中など、悪条件下ではMini のGPS の位置計算は収束速度が劣る。
  • Mini のメニューは単純化されているので、最初は戸惑うが、すぐに慣れる。特に、プリセット・メッセージのメニューがすぐに現れる点は良い。一方、旧Explorer では画面を横スクロールして選択するので分かりやすい。
  • Mini はメッセージを送信してもすぐに画面が変化しない。トップメニューに戻れば送信中の矢印が現れるが、この点は分かりにくい。旧Explorer は送信直後に送信中の記号が現れるので、分かりやすい。
  • Mini は電源ON だけでスタートする。簡便で良いが、操作した覚えがないのに、三度、電源がONになっていた。旧Explorer はONスイッチを押しても、カーソルを動かして電源ON を選択しないと、自動的にOFF になってしまう。不便ではあるが、電池消耗の点からは旧Explorer が安心である。

Mini は超小型ではあるが、操作性は一般的に良好である。性能は旧Explorer とほぼ同等である。表示画面が小さいので少し慣れが必要である。一方、旧Explorerはメニューが平面に展開されて分かりやすい。また、電源ON の後、確認を求めるなど、用心深い設計である。

アメリカのハイカーは

アメリカのハイカーを観察しても、半数の人は何らかの衛星通信装置を身に付けている(写真19)。山では携帯電話は通じない。ハイカーも少ない。脚を折るなど、身動きできくなると、位置情報付きでSOS 送信ができなければ命はない。

写真19: 2017 年にジョン・ミューア・トレイルで会ったアメリカ人ハイカー。ショルダー・ベルトにExplorer + を取り付けていた

2018 年の夏のジョン・ミューア・トレイルでは、ヨセミテ方面の大規模な山火事で、ヨセミテ国立公園が一時閉鎖に追い込まれた。筆者は北向きJMT をやっていて、ヴァーミリオン・ヴァレイ・ヴィリッジに滞在し、特別にWiFi を使わせてもらったので、Facebook を初め、火災状況のニュースを逐次入手した。

しかし、他のアメリカ人ハイカーは電話やWiFi が使えず、まったく状況がつかめなかった。それで、火災状況を他のアメリカ人に伝えたが、あるグループのリーダーはinReach を持っているので、情報は掴めているということだった。ヨセミテの閉鎖が続いていた。筆者を含め、このグループも相前後してヨセミテは目指さず、ダック・レイクを経て、マンモスに脱出した。

このように、inReach Mini やExplorer +をSOS 送信装置ではなく、双方向メール・システムとみなしたい。携帯電話の届かないどんな山奥にいてもメールの送受信ができるので、情報収集などに活用できる。そして、きちんと情報収集を行えば、結局、遭難などの緊急事態が回避できる。そう考えれば、Safety プラン(12ドル/月、年契約) はあまりにも安いと思う。

次ページ:奥多摩での使用例へ

前のページ 次のページ 1 2 3 4