Rab Ionosphere 5 レビュー:マットレス界に黒船襲来。Rab 初のエアーマットは今シーズン最も「買い」な秀作だった
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ハイキングや登山用のスリーピングパッド(マットレス)というと、寝袋に比べてどうしても軽視されがち。ただ実際のところマットレスの良し悪しが寝袋に負けず劣らず快適な寝心地に大きく影響してくることは、ペラペラの銀マットから20年以上をマットの進化とともに歩んできた自分の経験が教えてくれています。ましてや決して条件の揃った快適なテントサイトばかりではない日本の登山であればなおさらです。
そんなスリーピングパッド界に、今シーズン新たな風が吹き込まれました。このサイト開設当初から常に好きを公言してきた数少ないブランドのひとつ、Rab がなんと今シーズンついにスリーピングパッドに参入。世界的に定評のある高品質ダウンシュラフ開発からスタートしたこのブランドは、これでついにシュラフとマットレスの寝具セットをワンストップで提供するブランドへと成長したことになります。
元々Rabといえば、清々しいほど品質に妥協しない姿勢を貫いたハイクオリティな製品群によって欧州のハイエンドな山道具市場をリードし、多くの愛好家が厚い信頼を寄せてきました。ブランドの熱心なファンとして、この新しい挑戦も中途半端な覚悟であるはずがないと確信しています。
今回の初参入では目的や季節に合わせて複数のラインナップが用意され、幸運にもその中のひとつ、Ionosphere 5を当サイトに提供してもらえることになりました。すでにこの春テントで数泊試してみることができましたので、さっそくその実力と、何がすごいのか(まだまだなのか)についてレビューを書いていきます。
目次
Rab Ionosphere 5の主な特徴
Rab Ionosphere 5 は高い断熱性と軽さを優先したい本格山岳アクティビティ向けのオールシーズン対応・エアー注入式スリーピングパッド。熱反射を利用した高断熱構造のTILTテクノロジーと化繊中綿との組み合わせにより軽量・コンパクトながら4.8という高いR値(保温性能)を実現。極限まで重量を切り詰めたマミー形状ながら、十分な厚み(8cm)と盛り上がった両サイドのバッフル、全体に散りばめられた滑り止めプリント等によって、地面の凸凹や不安定さを感じることなく包み込むような快適な寝心地を提供します。薄型の2ウェイバルブは付属のポンプサックを使用して短時間・簡単に空気の注入が可能。すべてにおいてトップクラスのパフォーマンスと使い勝手を実現しながら、財布に優しい価格設定も魅力。
お気に入りポイント
- 積雪期までカバーする高い断熱性
- 十分な厚みに、高めの外側バッフルによるマットから落ちにくい設計
- 音が静か
- 表地に寝袋や枕が滑りにくいグリッププリント
- 便利な2WAYバルブシステムと専用ポンプサック
- 全体的なパフォーマンスの高さにしては驚くほど低価格
気になるポイント
- 他社フラッグシップ製品と比べるとやや重い
- 垂直バッフル間の溝がやや深い(理想はもっとフラットな表面)
- やや空気が入りにくい
主なスペックと評価
アイテム名 | Rab Ionosphere 5 |
---|---|
サイズ | 183×51cm |
収納サイズ | 23×11cm |
厚み | 8.0cm |
表面素材 | 20D リサイクルポリエステル(TPUコーティング / DWR耐久撥水加工 + グリッププリント仕上げ) |
断熱素材 | Stratus™ R 100% リサイクルポリエステル断熱材 160gsm、TILT 付き |
公式重量(本体のみ) | 550g |
R値 | 4.8 |
対応季節(参考) | 4シーズン |
付属品 |
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評価 | |
快適性 | ★★★★☆ |
断熱性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★☆☆ |
収納性 | ★★★★☆ |
使い勝手 | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
コストパフォーマンス | ★★★★★ |
詳細レビュー
断熱性:「暖かさ対重量比」に優れた独自の断熱構造
まずマットレスにとって何よりも大切な断熱性(暖かさ)について。このマットの断熱性能(マットがどれだけ熱を損失しにくいか)は、客観的な世界標準規格である「ASTM R-Value」で4.8という数値をもっています。
これはざっくり言うと、本州の山岳であれば積雪期を含めて1年を通して使用できるような高いスペック。一般的にここまで高い断熱性能を実現しようとすると、どうしても内部に中綿などの詰め物を多く封入したりして重量がかさんでしまうものですが、Ionosphere 5ではそれを本体550gという軽さに抑えることに成功しています。この優れた「暖かさ対重量比」の秘密は内部に搭載された独自開発の断熱システムにあります。
上の写真のように、マットレスの内部には、独自の「TILT (Thermo Ionic Lining Technology) テクノロジー」を使用した熱反射フィルムと化繊中綿「Stratus™ Rインサレーション」が一体化して充填されています。このうち熱反射フィルムは自分の身体が発する熱をパッド内部で反射させて輻射熱の損失を極限まで減らす役割を担い、一方Stratus™ Rインサレーションは地面からの冷たい空気が内部で対流するのを抑制することで、温度の低下を防ぎます。この2つの協力プレイによって重量をできる限り抑えながら保温性を最大化するというのが、Ionosphere 5の基本的な仕組みです(下図)。
実際にこのマットレスで一夜を過ごしてみたところ、(ここ最近に普及したR値はかなり信憑性の高い指標ですのでそこまで心配していませんでしたが)はたしてその看板に偽りなし。まだ厳冬期の冬山で寝たわけではありませんが、春の低山ハイキングなんかでは直に乗っていても地面の冷えを感じることは一切ありません。夏場ならアルプスなどの高山ではちょうどよく、それ以外の低山では直寝でも汗をかくほどに高い断熱性を発揮してくれるでしょう。
快適性:「横向き寝」派にもうれしい厚みと、細部まで配慮された安定して快適な寝心地
本格登山向けマットという位置づけのため、当然形状は軽量化を意識したマミー型で、顔や肩回り付近はカーブし、足元に向かってもやや幅が狭くなっています(下写真)。
空気の入る小部屋(バッフル)の構造は垂直(縦)型。一般的に垂直バッフルは(個人の好みに左右されることも多いとはいえ)水平(横)型バッフルやボックス型バッフルに比べるとサポート力が弱く(荷重による凹みの影響範囲が大きく)、快適性に欠けるといわれる傾向があります。しかしこのモデルは垂直型バッフルであるにも関わらずその弱点を補い、心地よい眠りを妨げないような工夫がいくつも多くみられます。
例えばベースの厚みが「8cm」と同レベルのエアーマットの中でも厚めに作られています。このため実際に使用した限りでは横になりながら肘をついても、あるいは横向きで寝ても身体が地面に触れるといったことはなく、十分なクッションによってフカフカな寝心地を提供してくれました。
また両サイドのバッフルは側面へのズレを少しでも防ぐため、9cmほどにさらに盛り上がっています(下写真)。ベースの厚みもさることながら、これによって包み込まれるような快適な寝心地を高いレベルで実現してくれます。
さらに表面全体に規則的に施された模様は、スリップ防止効果があるグリッププリントで、寝袋やピローがズレるのを極力防いでくれます(下写真)。いつもテン場に一番乗りして快適な寝床を確保できればよいですが、世の中そう上手くいくことばかりではありません。場所によっては斜めに傾斜しているテントサイトは珍しくなく、テントの生地も滑りやすいため、その場合滑り止めがないとポジショニングに非常に苦労することになります。なのでこうした仕様は意外と重要。なかなか寝付けないなど、睡眠時間に大きく影響してきてしまいます。
加えて感心したのは、金属系フィルムを使用しているマットレスに多い「動くとカサカサとフィルム同士が擦れ合うノイズ」がこのモデルには全くなく、音の静かさ的にも非常に優秀です。
収納性・使い勝手:使いやすさと耐久性を考慮した丁寧な作りが光る
現在ではほぼ当たり前になりつつありますが、このモデルには収納袋の他に専用のポンプサックが付属し、口で注入するよりもはるかに簡単・スピーディにマットを膨らませることができます。
Ionosphereの空気注入口は「注入用・排出用」のキャップが二重になった2WAYバルブシステムを採用(下写真)。出っ張りが比較的少なくマット面に対してフラットなので、寝るときにも収納時にも邪魔にならない作り。壊れにくくもあり安心です。
セッティングの際には、このバルブの上キャップを開き、ポンプサックの口を挿入します。ポンプサックは容量も大きく、2回とちょっとでMAXまで注入できました。基本的には非常にスムーズに注入できましたが、口が小さめに作られているためか、やや空気の入り方は窮屈です。
ちなみに遊び心たっぷりのポンプサックデザイン(下写真)にも注目。
本体とポンプサックをまとめて収納すると、ナルゲンボトル大ほどにかなり小さくまとまります(下写真)。
コストパフォーマンス:価格も含めての総合的なパフォーマンスの高さ
これまで書いてきたように、Ionosphere 5 はどの面をみても素晴らしい性能を持ち合わせてはいますが、とはいえ市場にある他モデルと比較して決して最も軽量コンパクトであったり、最も暖かい、あるいは最も寝心地がいい、という分けではありません。
では何がこのマットレスの本当の魅力なのか、自分が考えるにそれは、価格も含めた全体的な総合力の高さであるといえます。分かりやすく伝えるために、いつもはあまりやらない競合製品同士の性能比較表を作ってみました。
下の表は、おそらくこのモデルを購入する際に比較検討するであろう同程度のR値をもつ代表的なスリーピングパッド3モデル(R値が4.5~5.0程度のマミー型エアーマット)を比較した表です。背景を金にしているのは比較して最も高い性能のモデル、水色背景が第2位のモデルです。
これを見ると、Ionosphere 5は確かに重量ではやや見劣りするものの、サーマレストに比べて高いR値を備え、マットサイズと収納性、耐久性はほぼ互角、静穏性や滑り止めなど細かい快適性では上回っている部分もあります。ニーモのテンサーアルパインシリーズもかなり捨てがたいのですが、「実際に今どちらを購入するか」となったとき、この価格差は決してスルーできるものではないでしょう(もちろん、それでも誰にとっても安い値段というわけではありませんが)。
オールシーズン対応マミー型エアーマットの主要モデル比較
アイテム名 | Rab Ionosphere 5 | (参考①) Therm-a-Rest ネオエアーXライトNXT | (参考②) EXPED ULTRA 5R M MUMMY | (参考③)Nemo テンサーアルパイン レギュラー マミー |
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サイズ | 183×51cm | 183×51cm | 183×52cm | 183×51cm |
収納サイズ | 23×11cm | 23×10cm | 23×12.5cm | 20×8cm |
厚み | 8.0cm | 7.6cm | 7.0cm | 8.0cm |
表面素材(耐久性) | 20D TPUコーティングポリエステル | 30D リップストップナイロン | 20D リップストップ ポリエステル | 20D PUコーティングポリエステル |
本体重量 | 550g | 354g | 445g | 475g |
R値 | 4.8 | 4.5 | 4.8 | 4.8 |
通常税込価格 | ¥18,700 | ¥39,600 | ¥29,700 | ¥28,600 |
静穏性 | ◯ | ◯ | ◯ | |
滑り止め加工 | ◯ | |||
バルブシステム | 2WAYバルブ | 2WAYバルブ | 1WAYバルブ×2 | 2WAYバルブ |
付属品 |
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まとめ:こんな人におすすめ
本文にも書きましたが、このマットレスは決して飛び抜けた性能や尖った機能性をもったモデルではないかもしれません。
ただ、積雪期まで対応する高い断熱性を備えながらスタッフサックを入れても500g台の重量を保ち、8.0cmという厚みをはじめとした寝心地の良さと簡便な使い勝手良さといった総合的な質の高さ(弱点のなさ)は確か。
こうした高い次元でのバランスの良さに加え、何より他モデルと比較して明らかに手に取りやすい価格を含めると、今シーズンRab Ionosphere 5以上に”買って損しない”モデルはないのではないか、という結論に至らざるを得ません。
特にここ最近のハイエンドな登山向けマットレスの価格高騰についていけないという自分のような人も多いのではないかと思う今日この頃、とにかくなるべく軽くて快適で、冬までカバーする汎用性の高いマットを、できる限り安く欲しいという人には願ってもない選択肢です。初めての登山用エアーマットとしても十分な満足が期待できるでしょう。従来からのRabファンも、Rab未体験の人も、新しく確かなクオリティを感じてみてください。