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一度使うと病みつきになる「+13cm」の魔力。Therm-a-Rest「RW」サイズのスリーピングパッドが予想外に快適だった

たった13センチ変わるだけで、ここまで心地良くなるものか。

テントでの快眠グッズのなかで、スリーピングバッグ(寝袋)と並んで最も重要なアイテムといえるのが、寝袋の下に敷くスリーピングパッド(マットレス)。マットレスは整地されていない地面の凸凹を緩和するだけでなく、地面からの冷気を遮断し、シュラフの保温効果を最大限に引き出してくれる、山での快眠にとってなくてはならないギアです。自分にぴったりのマットを選ぶことは、安全で快適な登山のためには不可欠になってきます。

このサイトでは過去にも正しい選び方から人気モデルの実践的な比較やレビューなどを通じて「良いマットレス」について何度か語ってきましたが、スリーピングパッドを考えるうえで多くの人たちが悩んでいるのはきっと「断熱性」や「厚さ」といった、分かりやすく寝心地に直結する部分だったのではないでしょうか。

しかし、寝心地を考える上で、実は見落とされがちだけど重要なポイントがもうひとつあります。今回はアウトドア用マットレスのトップブランドのひとつ、Therm-a-Rest(サーマレスト)の登山・アルパイン向け軽量マットレス、ネオエアーシリーズに新たに追加された「ワイドモデル」を他のサイズと比較しながら、いかに快眠にとって「マットの幅」が重要であったかについて、自分があらためて思い知らされた経験を共有したいと思います。

肩幅ギリギリのトレッキング向けマットレス、実はこんなことあったよね?

これまで登山やクライミング向けとして市販されているマットレス(レギュラーサイズ)の多くは、横幅20インチ程度(約50~55cm)。サーマレストのレギュラーモデルは横幅51cmです。

なぜこの幅なのかということを考えたとき、快適さという面から見ればもちろん幅は広いに越したことはないのですが、シビアなアウトドアアクティビティで使う場合にはできる限り荷物はコンパクトに軽くしたいのもまた事実。こうした相反する2つのニーズがせめぎ合った結果、一般的な男性の肩幅を下回らない程度に、できる限り切り詰められた横幅、それが「横幅20インチ」ということなのでしょう。

仰向け寝のとき、腕が地面に落ちてない?

身長176センチ・肩幅約45センチ程度の自分がレギュラーサイズのマットレスに仰向けで横になると上の写真のような感じ。脇の下あたりには若干余裕があるものの、肩周りと腰回りはギリギリで、結構意識しないとすぐに腕が地面にこぼれ落ちてしまいます。寝袋に腕まですっぽりと入っていれば一応腕が落ちることはなく、決して寝られないということはありませんが、それはそれで宙に浮いた感じは心地よいとは言い切れません。それくらい、山での携帯性を考慮した必要最低限のサイズといえます。

ただこの場合、不意にマットからはみ出た部分は直接冷たい地面に触れてしまい、その地面はマットと違い体温によって温められることはないため、体温がそこからどんどん奪われていきます。暖かい季節ならばちょっと気になる程度の話かもしれませんが、寒い季節なら腕をシュラフの中に入れていても寒さが伝わってきたりして、無視できない問題となることも。下の写真は明け方の地面にマットレスを敷いて、身体をマットレスの上に、腕だけを地面に置いた直後に、スマホのサーモグラフィーアプリで温度を測定したものです。マットの上は自分の熱で温められた空気によって地面からの冷気をシャットアウトしてくれますが、冷たい地面はダイレクトに体の熱を奪っていきます。

横向き寝のとき、膝や足先が飛び出て大変じゃない?

また普段横向きスタイルで寝ることが多いサイドスリーパーにとっても、肩幅ギリギリサイズのマットレスはやはり十分な余裕があるとはいえません。実際このサイズで横向き寝すると、膝や肘部分がどうしてもマットの外にはみ出てしまう人がほとんどではないでしょうか(下写真)。決して眠れないほど狭いというわけではないものの、個人的には特にはみ出た腕や肘の置き場所が難しく、何度か試行錯誤した後にかろうじて得られた姿勢でしか快適な横向き寝ができないのが現実です。

寝返り、打ちづらくない?

当然ですが、横幅の狭いマットレスでは寝返りをうつのにも一苦労。なるべく身体が落ちないように気にしながら、ちょっとずつ身体をずらしていかないといけません。

Therm-a-Restの追加された「ワイドモデル」とは?

忍耐力の強かった昔の山屋やシビアなアルピニストならば、肩が収まってさえいてくれれば十分だったかもしれません。ただ価値観が多様化し、実力も目的もさまざまなハイカーやキャンパーが多くいる昨今では、ここまで切り詰めなくてもいい、もう少し快適さに重きを置いた選択肢があってもいいのではないか、そんな声も当然聞こえてくるはずです。

そこで生まれたのが今回の幅広サイズモデル「RW(レギュラーワイド)」。具体的にこのモデルが追加されたのは、ネオエアーウーバーライトネオエアーXライトネオエアーXサーモマックス、トレイルプロの4モデルで、これらは縦幅こそレギュラーサイズと同じですが、横幅が13センチ拡張し、64センチとなっています(下写真。左からSサイズ、Rサイズ、RWサイズ、Lサイズ)。

ワイドモデルでは何がどれだけ変わったのか?

正直たった13センチ幅が広くなっただけなんて、寝心地の差もそれなりなのでは?と、高を括っていました。

たかが13センチ、されど13センチ。びっくりするほど変わる寝心地の良さ

まず仰向け寝でその違いを確かめてみます。

上の写真はネオエアーウーバーライトで現在ラインナップされているサイズすべてを比べたもの。左の2つ(Sサイズ・Rサイズ)ではリラックスしようとすると腕が外に落ちてしまうのに対し、右から2番目のRWサイズでは腕をリラックスさせても身体全体がマットの上に乗っています。

単純な数字を比較しただけでは大した差ではないかもしれないのですが、この13センチで「リラックスしたときに腕がマットの上に収まるか、収まらないか」が分かれるとなると、その差は無視できません。両脇に広がる”崖”をどうしても意識してしまうレギュラーサイズと違い、その”崖”を意識せずあたかもシングルベッドの上にいるかのような気にさせてくれるRWサイズは、感覚的にはびっくりするほどの快適さ、安心感を与えてくれます。

※ちなみに、最左のLサイズは今回のRWサイズと同じ横幅64センチですが、縦の長さも196センチと、大柄な人のためのサイズ感であるため、足元には不要な余りが出てしまっています。

横向きでもすっぽり、寝返りもらくらく。サイドスリーパーもニッコリ

では横向き寝はどうでしょう(下写真)。

左の2モデル(Sサイズ・Rサイズ)では先程指摘した通り身体の一部分がギリギリか、少しはみ出てしまいますが、右から2番目のRWモデルでは特に収めようと意識しなくても身体全体がマットの上に収まります。寝返りの際も身体をずらす回数は1回程度で済みますので、思った以上にスムーズに寝返りもうてました。仰向けで寝ても、横向きで寝ても、幅広サイズなら就寝中に感じるストレスはかなり改善されます。

広がっても1人用テントに余裕で収まるサイズ感

ここまで書いてきて、「RWサイズにしたらいいことばかり」じゃん!と思うかもしれません。もしそうならば最初からこのサイズにしているわけですから、当然そんなうまい話ばかりではありません。ここからは幅広サイズにしたことによって心配される点について、チェックしていきます。

まず考えられるのは、幅広になったことで「テントに収まらなくなるのではないか?」ということ。いつも使用しているテントに収まらなければ、大前提としてハイキングに持っていくことはできません。ただ結論からいうと、これはあまり大きな心配はありません。

多くのメーカーから発売されている1人用のテントの場合、インナーテントの横幅はだいたい100センチ程度、狭くても70センチ前後です。このため多少ゆとりの差はありますが、1人用テントで使用する限りでは入らなくて困るということはまずないでしょう。

一方やや注意が必要なのは、2人用テントの場合です。一般的な2人用テントの居住スペースの横幅は130センチ前後のモデルが多く、この場合にはRWサイズを2枚同じ向きで並べることはできますので問題ありません。ただし中には容量を切り詰めて横幅120センチ程度かそれ以下のモデルもいくつか見られ、この場合にはRWサイズのマットを「同じ向きで」並べることができないケースも出てきます。そのときには頭の向きを互い違いにするなど、敷き方を工夫して対応しましょう。

重さ・収納サイズはどうなる?

もうひとつ、おそらく最も気になるであろう懸念点はやはり重量の問題でしょう。今回は参考としてネオエアー ウーバーライトの全ラインナップの重量と収納サイズを下の写真で比べてみました。

モデルSサイズRサイズRWサイズLサイズ
重量170g250g310g340g
収納サイズ(長さ×直径)15×8cm15×9cm19×10cm19×10cm

Rサイズに比べてRWサイズは重さ約60グラム、収納サイズではだいたい長さが4センチほど大きくなる程度です。若干の増量は否めませんが、上写真のように大きくなったとしてもペットボトルと比較してそこまでの大きさとはなっておらず、たたみ方次第で大きく変わることでもあるため、気になるほどではないようです。むしろこれまで幅広サイズを選ぼうとするとLサイズやスクウェアモデルなどしかなかったことを考えると、快適さを向上しつつ、負担はかなり抑えられていると言えなくもありません。

参考までに、ネオエアー Xライトの方はRサイズとRWサイズの比較写真も見てみましょう。

まとめ:忘れがたい快適さで病みつきになること必至。特にシビアに重量を切り詰めようとしなければ、幅広モデルが断然おすすめ

横幅がちょっと広がることでここまで快適さが向上するとは素直に驚きでした。これまで「登山なんてこんなもの」と、レギュラーサイズ(20インチ前後)の横幅に慣れてしまい思考停止していた昔の自分がいましたが、一度この広さを味わってしまうと、よくこんな狭いマットで満足していたものだと思えてきてしまうから不思議です。

もちろんワイドサイズになったことによって、これまでエアマットの大きなアドバンテージであった「軽量・コンパクトさ」は薄れてしまうことは確かであり、その意味では少しでも軽く・小さく行きたい人や比較的小柄な人にまでおすすめできるものではありません。

一方で、テント泊にまだ慣れていないビギナーや、体力にはある程度自信があってその分をより快適なテント生活に振り向けることができる人、あるいはそこまで荷物を切り詰める必要のないライトなテント泊などにはかなりおすすめ。これまでレギュラーサイズを使用しているという人はぜひ一度試してみて、その寝心地の違いにびっくりしてください。

季節や用途、目的に応じてさまざまなサイズが選べるということ自体は、ぼくたちユーザーにとっては間違いなく前進。どれが1番ということではなく、軽量化と快適さのバランスを考えながら、自分のこだわりを追求し、それぞれにとってベストなパッキングを考えてみることは、いつでも山登りの大きな楽しみのひとつですね。