Review:Black Diamond ディスタンスFLZ・ディスタンスプラスFLZ・ディスタンスカーボンZ ~今、他人におすすめするトレッキングポールといえば~
ここ数年の間に登山に欠かせない存在となったトレッキングポール。
所有していなくても登山は可能ですが、所有することでその恩恵を大いに受けることができるアイテムです。その役割は足腰への負担軽減、バランス補助、リズミカルな歩行のアシスト、転倒やケガの防止と多岐に渡ります。
さて、そんなトレッキングポール、日本では世界トップクラスのシェアを誇るLEKIをはじめ、国産ポールメーカーのSHINANO、コストパフォーマンスに優れたmont-bellあたりがメジャーどころとして挙げられますが、忘れてはならないのがBlack Diamondのトレッキングポールです。
クライミング用品中心のメーカーであり、トレッキングポールについては後発ながらもリーズナブル且つ機能性の高い製品が評判で独自の伸縮調節機構であるフリックロック、アバランチプローブのジョイント構造を応用したZポールシステム搭載モデルがラインナップの中心になっています。
今回は特に3シーズン対応モデルとしてリリースされている「ディスタンス」シリーズの中から、2018シーズンに全面的にアップデートしたディスタンスFLZ、ディスタンスプラスFLZ、ディスタンスカーボンZの3つをピックアップしました。それぞれの特徴を挙げ、シーン自分に適したアイテムがどのモデルなのか、購入時の参考にしていただけると幸いです。
目次
そもそもZポールとは?
ポール収納時、折りたたんだ際に現れる写真のような「Z」の形からとられたであろう「Zポール」シリーズは、それまでテレスコピーング(伸縮式)構造が主流となっていたトレッキングポールに、折りたたみ式構造を取り入れることで、コンパクト性と軽量化を実現しました。
他社アイテムでも三つ折りタイプはラインナップされていますが、ブラックダイヤモンドのZポールは接続部のケブラーコードを樹脂で覆うことで、コードの保護と同時に、ワイヤーの保護と同時にスムーズ且つスピーディな組み立てを実現させているのが特徴です。
組み立ては極めて簡単で、グリップとグリップ直下のポールを手にして先端に向けて引き伸ばす1アクションのみ。分解もロックを解除し三つ折り状に畳むだけといったシンプル且つストレスフリーな仕様です(※)。
※フリックロック(FL)搭載モデルは組み立て・収納時に長さ調整を行う必要があります。
主なスペックと評価比較表
※1 Zポールスノーバスケット(別売)が装着可能
※2 Zポールティッププロテクター(別売)が装着可能
各モデル詳細レビュー
1. ディスタンスFLZ
オススメポイント
- 導入しやすい価格設定
- 細径シャフトながら高い剛性
気になったポイント
- Zポールスノーバスケット(別売)装着時の実用性
- 手がはみ出してしまうエクステンショングリップ
Zポールのアルミシャフト採用モデルで2011年に販売開始されて以来、2度のモデルチェンジを経て現在に至っても根強い人気があるアイテムです。フリックロックとZポールが採用されたFLZモデルの中で、最も低コストのアイテムであり、導入しやすいアイテムとも言えるでしょう。448g(ペア)という重量はアルミシャフトモデルとしては平均的な数値といったところでしょうか。
シャフト径はφ14-φ10mmでアルミシャフトのトレッキングポールの中では細い部類に入るかと思いますが、地面を突いた感触は硬く、剛性は高い印象。これは連結した3本のポールが先端に向かうにつれて徐々に細くなっていくのではなく、先端側のポールにだけテーパーをつけていることが高い剛性を実現させているように思います(下写真)。
購入時はラバーティップが装着されていますが、金属製のカーバイドティップも付属しており、登山道を傷つけたくない時はラバーティップ、グリップ力が欲しい時はカーバイドティップというような使い分けが可能です。(※植生保護、登山道の崩落防止のため、ラバーキャップを装着していないトレッキングポールの使用禁止、またはラバーキャップ使用を推奨する山域があります)
ただ、使い分けと言っても交換には工具が必要になるため山中での交換は現実的ではありません。せっかくカーバイドティップが付属していても山中での使い分けができないのであれば実用性が低いと感じていたところですが、ありましたよ!「Zポールティッププロテクター」なる代物が(下写真)。別売りのオプションではありますが、カーバイドティップを装着した先端に装着することで山中での使い分けが可能になりました。
同じくオプションである「Zポールスノーバスケット」を装着することでスノーハイクにも対応可能となっていますが、実際に雪山で使用してみたところバスケットの径が小さいため十分な浮力が得られずやや実用性に欠けます(下写真)。
もともと3シーズン用トレッキングポールという触れ込みであったため、オプションアイテムを以てしても雪山には不向きであると言わざるを得ません。グリップはカッティングの入ったEVAフォームで握りやすく、メッシュ素材のストラップとの組み合わせも3シーズンにおける使用を前提としているように感じます。ブラックダイヤモンドのトレッキングポールには急斜面に差しかかり一時的に短く持ちたい時に対応できるエクステンション(拡張)グリップが備わっていますが、ディスタンスFLZに関してはなぜか拡張範囲が狭い”ミニ”エクステンショングリップ仕様で私の手では小指1本分がはみ出てしまいます。まぁ、あくまでも一時的な持ち替えということなのでそこまで気にすることではないかもしれませんが、個人的には小指部分の段差がどうも気になってしまう。。。
収納時のサイズは37cm(105-125モデル)とかなりコンパクト。バックパックのサイドポケットにマッチしたサイズ・ボリューム感で、登山中に木の枝などに干渉することもありません。ティップのバスケットには切込みが入っており、これがシャフトキャッチャーとして収納時の嵩張りを抑える役割を持っているためバックパックからの出し入れにもストレスを感じさせない工夫には好感を持ちました。
2. ディスタンスプラスFLZ
オススメポイント
- 4シーズンに向けてアップデートされた各パーツ
- 付属品が多く、コストパフォーマンスに優れている
気になったポイント
- 重量
ディスタンスFLZのティップ一体型バスケットをフレックスティップに変更することで大径スノーバスケット装着を可能にし、オールシーズン対応となったアルミシャフト製Zポール。ベースはディスタンスFLZということで基本性能はそのままにフレックスティップへ仕様変更が施されました。ティップとバスケットが分離することで、トレッキング用バスケットとスノーハイク用バスケットの交換が可能になりました(下写真)。
バスケット交換の手間を考えればティップ一体型でワンアクションによる装着が可能なディスタンスFLZ、ディスタンスカーボンZに軍配が上がりますが、そもそもあまり山行中に交換するアイテムではないこと、バスケットの消耗・損傷が著しい場合はパーツ単体で購入・交換することが可能というメリットもありフレックスティップの方がメンテナンスのしやすさでは優れていると感じました。
グリップについてはディスタンスFLZで気になる点として挙げたエクステンショングリップがHP上で同じ”ミニ”エクステンショングリップであるにもかかわらず拡張範囲が長い設定。いったい何をもって”ミニ”としているのか、長くなることで使い勝手は良くなりましたが余計に気になってしまったポイントです(笑)。ストラップは通気性を持たせたメッシュ素材(ディスタンスFLZ)から耐久性のある素材に変更されており冬用の厚手グローブとの相性も良好です。
また、グリップについて感心したポイントが1つ。ディスタンスFLZはグリップ全体がEVAフォームで覆われています。ディスタンスプラスFLZはグリップエンドに硬質ゴムが使われています。これがデザイン的なものかと思ったら大きな間違いだったようで、テストを進める中でスノーシューやスキービンディングのヒールリフター操作に対応しているものだとわかりました(下写真)。
ちょうどスノーシューで遊ぶ機会があったので試してみましたが、わざわざ屈みこむ必要もなく上げ下げの動作がとてもやりやすく感じます。大径スノーバスケット装着可能ということだけでオールシーズン対応と考えてしまっていた自分の浅はかさを思い知らされた冬になりました(笑)。さて、ディスタンスFLZがアップデートされオールシーズン対応となったディスタンスプラスFLZですが、唯一の難点は500gオーバー(ペア)の重量(下写真)。
手に取っただけではそこまで重さを感じることはありませんが、ポールを前に振り出した時のスイングウェイトはズシッと腕に掛かってきます。先述のディスタンスFLZと比べ、たかだか50g程度の差ですが長時間の山行においては疲労度合に大きな差を感じました。そうは言っても購入時に装着されているカーバイドティップ、ストッパーバスケット(トレッキング用)のほか、ラバーティップ、雪山用コンパクターバスケット、Zポールティッププロテクターといった付属品も豊富、年間を通して使用可能という点を考えればコストパフォーマンスに秀でたアイテムと言えるでしょう。
3. ディスタンスカーボンZ
オススメポイント
- とにかく軽い
- 衝撃吸収の役割を担うカーボン特有のしなり
- 長さ調整の煩わしさからの解放(組み立ててすぐに使用可能)
気になったポイント
- Zポールスノーバスケット(別売)装着時の実用性
- 軽さが仇となった?グリップのガタつき
軽量性を徹底追及し、長さ調節機構を省いたZポール最軽量モデル。余計な機能を省いたことでカーボン素材の軽さを実感できるアイテムとなっています。他に類を見ない300g(ペア)を切るその軽さは、トレッキングをはじめファストパッキングやトレイルランニングといったシーンにおいても大きなアドバンテージとなります。
シャフト径がφ13-10mmと細く、メーカーHPにもカーボン素材の特徴と注意事項が記載されていることから耐久性(耐衝撃性)が気になるところです。一般的に「カーボンシャフト=折れやすい」と言われていることと私自身、過去に数本のトレッキングポールを犠牲にしてきたことを考えると丁寧に扱うことに越したことはありません。ただ、そうは言ってもことがうまく運ばないのが登山。強い衝撃を与えるような使用は避けていたつもりですが、実際にテストで訪れた山中では岩にぶつけてしまったり、バランスを崩し不意に体重を掛けてしまったりとヒヤッとした場面に遭遇。『折れた!』と思ったことも何度かありましたが、幸いにも破損しませんでした。アイテム自体が耐久性に優れているのか、たまたま運が良く折れなかったのか、その判断・評価が難しいところですが、個人的には今のところ耐久性に不安は感じていません。
ちなみに、カーボンシャフトには弾性があるため多少の”しなり”が生じます。このシャフトの”しなり”が地面を突いた際の衝撃を吸収してくれる、言わばアンチショック機能の役割を果たしており軽さも相まって長時間使用していても疲労を感じることはありません。アンチショック機能搭載モデルからの買い替えを検討している方、手首や腕に伝わる衝撃をできるだけ抑えたいという方にはオススメです。
さて、ディスタンスカーボンZにはブラックダイヤモンド社の特許技術であるフリックロック(長さ調節機構)が搭載されていません。その分サイズは豊富で100-130cm(10cm刻み)のレングスから選択することが可能です。エクステンショングリップもあり一時的な持ち替えにも対応するため、思っていたよりも不便は感じません。むしろ自分の身長に合わせた長さを選択することで組み立て・分解は言葉どおりのワンアクション、長さ調節機構が搭載されたトレッキングポール特有の左右の長さを揃えるという動作も省略することができます。『長さ調節できない=使いづらい』といったマイナスイメージが先行しまうアイテムかもしれませんが、個人的には自分の体格にあったサイズであればデメリットよりもメリットの方が多いと感じています。
ただし、実際に使用して気になったポイントは2つ。まず1つ目はディスタンスFLZ同様、ティップ一体型バスケットが採用されているため、オプションであるスノーバスケットの実用性について釈然としません(下写真)。これはもう雪山(スノーハイク)での使用は避け、3シーズン用と割り切ったほうが賢明かもしれません。
2つ目はZポールシリーズ全般に共通することですが、グリップとシャフトのジョイント部分に若干のガタつきを感じる点です。今回取り上げた3アイテムの中でもとくにディスタンスカーボンZは使用中にガタつきが気になることが多く、その原因はこのアイテム最大のメリットである軽さにあるのではないかと個人的に思っています。ディスタンスFLZ、ディスタンスプラスFLZについては、前方に振り出した際にガタつきよりもスイングウェイトのほうが強く、ディスタンスカーボンZは軽量であるが故に僅かなガタつきであってもそれが手・腕に伝わり違和感を覚え、最終的にストレスとして感じてきます。トレイルランニングのように速いテンポでポールを突くのであればそれほど気になることではないのかもしれませんが、一般的なトレッキングで使うとなるとどうしても気になってしまうことがありました。
まとめ:こんな人におすすめ
同じシリーズのアイテムながら3アイテムそれぞれに特徴があることがテストを通じてわかりました。
ディスタンスカーボンZの軽さは、私が知る限り、国内で販売されているトレッキングポールの中でも最軽量と言えるかと思います。その軽さによるメリットは多く、3シーズンのトレッキングをはじめ近年のUL(ウルトラライト)志向、そしてトレイルランニングに最適で汎用性の高いアイテムと言えます。
ディスタンスプラスFLZは重量がネックになりますが、雪山・スノーハイクにおける実用性の高さもあり、こちらもディスタンスカーボンとは異なる部分で汎用性が高いと感じました。
オーソドックスなアイテムであるディスタンスFLZは先述の2アイテムと比べ、これといった特徴もなく見劣りする感は否めませんが、低コストであることからトレッキングポールのエントリーモデルとして最適であると感じました。
また、2019春夏モデルでは、同ブランドのエントリーモデルである「トレイル」シリーズもアップデート。こちらはリーズナブルな入門モデル、トレイルや、オーソドックスな伸縮式ながらよりスピーディーな収納を可能にする「スマッシュロック」機構を搭載したトレイルプロなど、また愉しみなモデルとなっているようです。近々またレビューしたいと思います。
他のギア同様、トレッキングポールもまた選択肢が多く悩ましいアイテムですが、自分の目的・嗜好を考え選択することが大切です。今後、トレッキングポールはさらに軽量化されるのか、それとも汎用性を高めるのか、はたまた新たな切り口によって今までにない進化を遂げるのか、期待を高めつつ注目していきたいと思います。