First Look:ULTIMATE DIRECTION Fastpack 30 ランもハイクも捗る超軽量バックパック
Ultimate Direction(アルティメイト・ディレクション、以下UD)というブランドを知ったのはごく最近のことです。30年以上も前から続くブランドにずっとめぐり会わなかったのはある意味、無理もないこと。「すべてのアスリートたちに究極のハイドレーションを提供する」ことを企業のミッションとして掲げる同社はベスト型の「ハイドレーションパック」の草分け的存在であり、長らくウルトラマラソンやアドベンチャーレースをはじめとした長距離レースのためのギア・メーカーとして活動していました。
そんな多くの山屋にとって馴染みのないメーカーだったUDがランナーやウルトラライト・ハイカーのために開発した、軽量で機能的なだけでなくスタイリッシュなライトウェイト・バックパックは、低い知名度にもかかわらず売り切れ続出、現在では入手困難な状況が続いています。その人気は果たして実力なのかどうなのか?確かめてみたいということで、今回はライトウェイトバックパックのなかでもさらにニッチなターゲットを狙った異端児、Fastpack 30 を海外通販を駆使して入手しましたので、早速取り上げてみたいと思います。
速報レビュー
アイテム名
ULTIMATE DIRECTION(アルティメイト・ディレクション)Fastpack(ファストパック)30
ULTIMATE DIRECTIONについて
アルティメイト・ディレクションは、1985年に“ハイドレーションパック”という新しいカテゴリーを発明しました。それから27年、3人の世界最高のウルトラランナーたちとともに開発した「シグネチャー・シリーズ」が完成。そして2014年には、初の女性専用シリーズが登場します。このように私たちの製品は、スポーツシーンに革命をもたらしながら、同じ場所にとどまることなく今も進化を続けています。
「アスリートにとって最高の製品を生み出せるのは、アスリート自身である」。10年前、私自身がユーザーとして実際に使用しながら初期の製品を進化させたように、アルティメイト・ディレクションの原点は、いつもここにあります。
主なスペック
項目 | FASTPACK 30 |
---|---|
ここが◎ | 軽量性、動きやすさ、機能的なポケット類 |
ここが△ | 重荷への対応、耐久性 |
おすすめアクティビティ | スピードハイク、ファストパッキング、トレイルラン |
Fabric |
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size | 適応胴囲 S/M : 60~102cm M/L : 81~116cm |
容量 | 20~30L |
重量 | 約703g(S/M) |
重量/容量 | 23.4g/L |
アタッチメント |
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ポケット |
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ハイドレーション対応 | ◯ |
付属レインカバー | × |
バリエーション |
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ここがスゴイ
ランや早歩きに快適なベスト型ハーネス構造
このパックの一番の特徴は、何といってもベスト型の機能的なハーネス構造にあります。これまでもウェストベルトを省略するというアイデアは、ウルトラライト・ハイキング(UL)系のバックパックではよく見られるパターンでした。ただその場合、軽量化と引き換えにショルダー部分の快適性は諦めなければならないケースが残念ですが多かった。
ところがこのバックパックはそんな心配はまったく無用。幅広のショルダーベルトと適度な硬さをもった背面パネルは荷重を分散し、快適なクッション性を実現。さらに2本の調整可能なスターナム(胸骨)ストラップと脇下のサイドストラップが胸をはさんで圧迫することによって高いフィット感と安定性を生み出し、歩きはもちろん、走っている時でもブレにくい、絶妙な背負い心地を提供してくれます(後述しますが、あくまでもトレイルランやファストパッキングなど、このパックの想定するアクティビティでの常識的な重量を詰めた場合の話)。
ウェストベルトがないということはある面では弱点ですが、一方で大きな足上げが必要な急坂や階段状のトレイルで自然な動きやすさを与えてくれるというメリットもあります。
利便性と荷重バランスを向上させるショルダーベルトの収納
パックを下ろしての休息時間を惜しむファストパッキングでは、なるべくパックを背負った状態で各種ギアにアクセスしやすい仕組みが求められます。その意味で、ハイキングにも使えるバックパックで、ここまで大胆にショルダーベルトを便利にしてしまったのは Fastpack が初めてではないでしょうか。
左右のショルダーベルトにはボトルや地図、携帯電話など頻繁に使うアイテムを収納可能なポケットが合計4つついています。ボトルホルダーの生地は伸縮性があり、見た目以上に大容量のウォーターボトルや補給食をセットできます(下の写真では20ozのボトルと800mlのステンレスボトルを配置)。もちろんメインコンパートメント内にはハイドレーションを格納しておくためのサブバッグとチューブを通す穴もついており、当然ですがハイドレーションに関しては万全です。
前方に重量のあるボトルを配置できるということは、利便性だけでないメリットも。これまで背面に集中していた重量を前に分散させることによって重心のバランスがとりやすくなり、ランニング時の機動力アップにつながります。
フロント右側と左下にあるジッパーポケットは大小合わせて厚み・深さともにちょうどよいサイズ。ここには例えばスマートフォン、マップ、デジタル・カメラ、軽食、ヘッドライト、手袋、日焼け止め、リップクリーム、コンパスといった頻繁に使われるアイテムを好みに応じて心おきなく入れておくことができます。ちなみにパックの右側面にも小物が入る比較的大きめのジッパーポケットがついています。
フロントとサイドのストレッチメッシュポケット
ロールトップ型の入口は、1度口を閉めるとにかく出し入れが面倒。このため軽量バックパックにとってパックの外側ポケットの使い勝手はそのままバックパックの評価にも繋がりかねない重要部分ですが、アクセスの良いフロントと両サイドに配置されたメッシュポケットは、びっくりするほど伸縮し、なおかつ強度もあるので、これまで考えられなかったような色々なものを入れておくことができます。
下の写真のように、左右のポケットにはナルゲンボトルの1000mlや1人用のクッカーセットを、フロントの大きなポケットにはレインウェアや防寒着、行動食がそのまま入れておけるので、やり方によっては行動中にメインコンパートメントを開けないで乗り切るということも可能。おまけにフロント左右にはポールやアックスのアタッチメント、下部のループにストラップ(別途用意)を通せば寝袋やテント、マットなども取り付け可能。登山にどっぷり浸かっている人間からすると、外側収納をここまで最大限活用するという発想は正直ありませんでした。
ここがイマイチ
重荷への対応(汎用性)
トレイルランやファストパッキングのような、軽量な荷物でスピーディに駆け抜けるスタイルのアクティビティにはっきりとターゲットを絞ったこのパックは、その代償としてどんな状況にも耐えられるような汎用性の高さは持ち合わせていません。
より軽く、動きやすくするためにウェストベルトを省いた構造は、すべての荷重が肩周りにかかるため、重荷での行動にはまったく適していません。通常30Lも入るようなバックパックであれば15kg弱までは適正重量ですが、このパックに関しては、試した限り総重量が10kg近くなると、肩に掛かる負担が無視できなくなってくる感じがしました。
耐久性
やはりバックパック専門メーカーのそれと比べると、耐久性に関しては様々な部分で懸念があります。パック全体やストラップ使用されているナイロン生地は薄く軽量な反面、柔らかく撚れやすい素材です。また多くの機能を支えるバックルなどのプラスチック素材も薄く、小さい作りのため脆さを内包しています。
まとめ:どんな人におすすめ?
多くの歴戦アスリートやハイカーのフィードバックによって磨かれたFastpack 30 はアクティブな旅行や日帰りハイキングから、ウルトラライトのテント泊、トレイルランなどの軽快なアクティビティに最適な機能と十分な容量を備えたベストタイプのバックパックです。あなたがもし山を垂直への挑戦ではなく、自然の中でのフィットネスとして考えるならば、このパックへの第一関門はくぐり抜けているといえます。どちらかというと「万能、堅実、頑丈」よりも「軽快、スマート、スタイリッシュ」を志向するようであればさらによし。
登山のバックパックには珍しくブランドロゴが映える素敵なデザイン、30L(工夫次第でもっと入る)というちょうどよい容量、素早く移動するためによくまとまった機能など、眺めているだけで自然とコイツを背負って山道を駆けてみたくなるから不思議です。とことん軽量のギアを詰め込んで真夏になだらかな草原が続くトレイルをテント泊縦走などやってみたら楽しいだろうなぁ、といった妄想が捗ります。
ただし、これを初めてのバックパックとして最適かといわれると、疑問符が沸くのは仕方がないのかもしれません。大きな懸念はやはりウェストベルトがないという部分で、総重量が10kg以上になるような場合には、ウェストベルトでしっかりと荷重を分散させられるパックの方がより快適。初心者で背負い方や歩き方が確立していない人、パッキング重量と疲労感の感覚がつかめていない人は、思わぬ苦戦を強いられる可能性を覚悟しておく必要がります。
ともあれ、現状でこのパックに目立った競合は存在していないという意味でハマる人にはハマるパックであることは確か。いったんベスト型ハーネスの快適さに惚れ込んでしまったハイカーに躊躇する理由はありません。比較的長距離まで対応するスピードハイク向けライトウェイト・バックパックとしておすすめです!