【忖度なしの自腹比較レビュー】クローズドセルタイプのスリーピングパッド・マットレスで片っ端から寝比べてみた
スリーピングパッド(マットレス)は、硬く凸凹の地面や、凍えるような雪面の上で寝るためになくてはならない道具。寝袋の性能をフルに引き出すためにも不可欠であり、快眠のためには軽視できない道具であることは意外と知られていないかもしれません。
そのマットレスにはさまざまな種類・タイプがあることはこのサイトでも以前から説明してきましたが、なかでも「安価」「膨らませる必要がない」「パンクの心配がない」などその手軽さで入門として、また基本の1点としておすすめなのが「クローズドセル」タイプのマットレスです。
先ほど挙げた特徴以外にも、ちょっとした座布団に使えたり、自分の好みのサイズに切ることができたりしてバックパックの背面パッドに兼用できたりと、シンプルな道具だけにいろいろな工夫が可能なことも魅力の一つです。
確かに断熱性や携帯性は他のタイプと比べるとイマイチですが、使い方やケースによっては十分な性能を備え、何よりも手軽で汎用性の高いこのクローズドセルタイプのスリーピングパッドについて、今回は日本で流通している人気・新作モデルを9モデル自腹で入手し、同じ条件でさまざまな角度から比較してみました。それぞれ個性ある魅力的なモデルがそろっており、どれが一番ということではなく、用途や目的・趣向等によってそれぞれにおすすめのモデルをお伝えしていきたいと思います。
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目次
今回比較したスリーピングパッドについて
今回比較したクローズドセルタイプのスリーピングパッドは、国内外の信頼のおけるアウトドアブランドの定番・人気モデルや新作モデルを中心に以下の9モデルをピックアップしました。
- NEMO スイッチバック レギュラー
- THERM-A-REST Zライトソル
- THERM-A-REST リッジレスト ソーライト
- BigAgnes ツイスターケイン バイオフォーム レギュラー
- エバニュー FPmat125
- エバニュー Trail mat 180
- mont-bell フォームパッド180
- 山と道 UL Pad 15+
- 山と道 Minimalist Pad
目的・タイプ別おすすめスリーピングパッド(クローズドセル)
快適さとバランス(汎用性)No.1:NEMO スイッチバック または THERM-A-REST Zライトソル
断熱性・寝心地・使い勝手と、どれもが一番ではないけれど、全体としてさまざまなフィールドにフィットしやすい汎用性の高さでおすすめなのは、NEMO スイッチバックとTHERM-A-REST Zライトソルです。
どちらも折り畳み簡単なアコーディオン式による収納性の高さと使いやすさ、凹凸のある架橋ポリエチレンフォームと片面アルミ蒸着フィルムによって高い断熱性とクッション性・耐久性を両立しているところは共通していて、今回のなかで唯一「暖かさ・寝心地・収納性・使い勝手」の四拍子を揃えています。
基本的な構造は似ていますが、NEMO スイッチバックの方は後発モデルだけに、若干の工夫が施されています。まず各凹凸はすべて六角形をしています。この形状のおかげで凸部分がつぶれにくくなり、その高さを高くする(Zライトソルが2.0cmに対してスイッチバックは2.3cm)ことによってクッション性を高めながらデッドエアスペースを増やし、断熱性も高めています。
とはいえ理論上はそのようですが、実際のところ両モデルの快適・暖かさの差はほとんど体感できるほどはなく、どちらも優れている印象(R値も同じ2.0)。下の写真はキャンプなどで使う保冷剤の上にスイッチバックを敷き、5分ほど座ってみた後に撮影したサーモグラフィー写真ですが、地面の冷気(凹んだ19.4℃の部分)を空気層がワンクッション挟むことで、身体に触れる部分は地面の冷たさを感じにくくしてくれている(23.0℃の部分)ことが分かるかと思います。逆に言うと、この凸凹が潰れるほど荷重をかけてしまうと、思ったほど暖かさが感じられなくなってしまうのはこの凸凹形状の弱点でもありますので注意が必要です。
それよりもNEMO スイッチバックの「収納時の薄さ」の方が顕著に感じられたお気に入りポイントです(下写真左)。微妙にですが、スイッチバックの方がコンパクトにたためます。※ちなみに下写真右のモンベル フォームパッドは一見コンパクトで良いものの、ちょっと断熱性と快適性に難があり、やはりバランスという意味ではこの2モデルにはかないませんでした。
一方、Therm-a-Rest Zライトソルは微差ながらも耐久性に関して軍配が上がります。両モデルとも片側アルミ蒸着フィルムの折り畳み式ですが、折り畳んだ際、Zライトソルはアルミフィルムが外側に、スイッチバックはアルミが内側に来るような構造になっています。スイッチバックの方がデザイン的には落ち着いていい感じなものの、アルミでない方の表面はひっかきに弱いため、ザックの外側につけているといつの間にかスイッチバックの方は表面に毛羽立ちが生じてきてしまいます。Zライトソルの方はアルミ面が外側のためそうした心配が少なく、何年使っても損傷していません。これまでも多くの人が何年も使い続けていることでしょう。このようにごくごく小さな差ですが、長年にわたって証明されたこの完成度の高さ、何よりも長い実績という安心感は代えがたいものがあります。
唯一難点といえるとしたら、他のモデルに比べて若干重量感があるということですが、大きな問題になる程ではありません。スイッチバックとZライトソル、どちらも優れた快適さと使いやすさを備え甲乙つけがたい優秀モデルですので、どちらを選んだとしても後悔はしないでしょう。ただもし用途やこだわりポイントがはっきりしている場合は、収納性と耐久性、その2点に着目して選んでみることをおすすめします。
断熱性・耐久性No.1 :THERM-A-REST リッジレスト ソーライト
クローズドセルマットの中でもかなり昔から存在している、伝統的なマットレスですが、その実力は長い歴史が証明しています。すべてのモデルで寝てみてその断熱性の高さは頭一つ抜けていました。今回最も断熱性の高かった平板なマットレスである山と道 UL Pad15+との保冷剤着座テスト(下写真)で示す通り、素材自体の十分な厚みと凸凹構造の合わせ技によって肌に触る部分の断熱性はどのモデルよりも高く、冷気は最も感じにくかったです。
同じ凸凹構造のZライトソルと比べてみても、リッジレストは「素材が分厚く」「潰れにくい」ため、凹んだ部分の温度自体も高く冷気も感じにくい構造になっていました(下写真)。
厚みのある架橋ポリエチレンフォームは適度な弾力を備え、横になった時のクッション性は心地よいものがあります。またこのモデルは横幅63cmのLサイズがラインナップにあって、より快適な幅広マットが選べることも大きい。耐久性も十分で、無雪期のキャンプや登山から冬の下敷きとしても十分期待できます。
難点はやはりそのゴツさゆえの収納しにくさと重量でしょう。自分は思い切って1mチョイの長さで切断してしまいました。積雪期でない限り通常の使用なら腰より下はザックで代用できます。何よりこれでザックにも取り付けられたり、十分な快適さが得られるのであれば満足です(下写真)。
重さと嵩張りで敬遠してしまいがちなリッジレスト ソーライトですが、その優れた断熱性・快適性・耐久性の高さは捨てがたいのも確か。昔ながらの質実剛健な性能と定番ならではの信頼性は健在です。ちょっとした工夫でかなり頼りになるマットとなってくれるでしょう。
軽量モデルでおすすめを選ぶなら①(軽くて快適No.1):山と道 UL Pad 15+
今では日本のウルトラライト系アウトドアブランドの旗手としてその地位を確立している山と道が、初めて製品化した記念すべきプロダクトはこのスリーピングパッドであったといいます。この原点であるスリーピングパッドは、いくつかの進化を経ながら着実に愛用者を獲得してきました。その最新世代がUL Pad 15+です。
このマットが他と比べて何よりも優れているのは、十分な厚み(1.3cm)による十分な断熱性とクッション性を備えていながら単位当たりの重量でもトップクラスに軽いという、軽さと寝心地のいいところ取りをしたような絶妙なコンセプトです。1.3cmという厚みは凸凹構造のマットレスに比べれば小さいものの、同じような板状のモデルの中ではかなり分厚い部類。にもかかわらずその重量は125cmしかないエバニュー FPmat 125よりも軽い198グラムと驚きの軽さ。
しかもこのモデルでは表面にシボ加工と呼ばれる処理を施すことで、耐久性とクッション性・断熱性能がさらに推し進められています。表面を爪でひっかいてみても、シンプルなポリエチレンフォームの表面にくらべて簡単には毛羽立ちにくくなっていることが分かります。
とはいえ、やはり凹凸なしで1.3cmという分厚さは収納時には厄介なサイズにならざるを得ず、Lサイズをそのままの長さで使うにはある程度の嵩張りを我慢しなければなりません。また耐久性に関しても、強くなったとはいえ相対的には見劣りしますし、引き裂きに対する弱さは発砲フォーム製モデル共通の弱点といえます。
とはいえ、地道な改善と進化を続けることで、ただ軽いだけでなく十分な快適さと断熱性を実現しているUL Pad 15+は、ウルトラライト志向でなくても満足できるバランスの良さを備えた軽量スリーピングパッドといえるでしょう。なおこのモデルも、長めのサイズを購入して適当な長さで切断して、日帰り用の座布団にしたり、バックパックの背面パッドにしたりとカスタマイズを楽しめるモデルでもあります。
軽量モデルでおすすめを選ぶなら②(収納性と使い勝手No.1):エバニュー Fpmat 125
厚さ5mmの超軽量な折りたたみスリーピングパッドです。5mm厚と今回比較したマットレスの中では最薄でありながら、適度な硬度・反発性があり、肘をついたり膝立ちしない限り底付きはありません。しかしスリーピングパッドといえども、厚みは5mmしか寝心地に関しては地面に直接寝るよりマシ、という程度。しかし実測重量200g以下と超軽量で、場所を気にせず寝床にできるというのは、他のスリーピングパッドに対して、かなりのアドバンテージです。
しかしこのFpmatの特筆すべき特徴はそれだけではなく、この薄さ、軽さのおかげでかなり幅広い汎用性にあります。折りたたんでも2.5cm厚なのでバックパックの背面パッド代わりに、水を吸わないので降雨・降雪時の座布団・荷物置きに、穴が空きやすいエアマットの下敷きにといった、さまざまな使い道が考えられるのは、この材質、この薄さ、この収納スタイルが合わさってなせる業です。
ただ、お察しの通りこの薄さなので、断熱性はほとんど期待できません。あっという間に地面の冷気がマット全体を通り抜けてきてしまいます(下写真)。
寝心地もお世辞にも良いとはいえず、やや向上させるという程度なので、単体での使用は相当ストイックなウルトラライトハイカーくらいに絞られてしまうかもしれません。しかし超軽量で汎用性・耐久性も高く、使い勝手もよし、価格もお手頃なので、例えば軽量な空気注入式のエアマットの下敷きに使うなど、併用前提のサブマットとして考えれば、全体としての重量やボリュームを減らしながら、効果的な寝床を作ることが可能な、その意味で個人的に見逃せないスリーピングパッドでした。
その他のモデルについて
今回残念ながら部門賞に取り上げられなかったその他のモデルについて、それぞれ気に入った点・気になった点について触れておきます。
BigAgnes ツイスターケイン バイオフォームは60%以上がサトウキビ由来の原料を使用した、次世代型マットレス。素材のEVAフォームは一般的にはポリエチレンフォームよりも弾力性が高いといわれており、裏面の緩やかな凸凹が相まって厚みの割にはクッション性も高く快適でした。ただそれ以上で飛び抜けた特徴が乏しく、パッキングしずらい程の滑りにくさと表面のけば立ちやすさがやや気になりました。
mont-bell フォームパッド180はアコーディオン式のマットレスというカテゴリでいえば、他と比べて小さく畳めるコンパクトさが魅力。収納袋も付いていてお得感もある。ただ素材が薄いという点とアルミ蒸着フィルムが無い分、クッション性・断熱性・耐久性でやや物足りなさを感じてしまいました。それを考慮したうえで、薄さ・軽さをとるのであれば十分アリです。
エバニュー Trail mat 180は今シーズンの新製品。基本的には山と道 UL Pad 15+と同様、ポリエチレンフォームを切り出した素朴な構造でこちらの方が若干薄く柔軟性があります。その分携帯性に関しては悪くありません。ただそれ以外の部分でどうしても低く評価せざるを得ず、総合的には目立つことができませんでした。ただし、何よりもコストパフォーマンスの高さは特筆すべき。総合的な点数としては高く出なかったものの、現実的には購入の選択肢として十分価値アリです。
山と道 Minimalist Padはその極端すぎる特徴からどうしても積み上げ式では評価しにくい部分がありましたが、ある種の割り切りが可能であれば活躍の場は十分あるマットです。とにかく軽さと携帯性にかけては右に出るものはありません。一方で断熱性やクッション性、耐久性に関してはマットレスとしては地べたに寝るよりまし程度の極々最低限のレベル。ただマット以外にシュラフの中に入れたり、身体に巻いたりといったトリッキーな使い方が可能なのは面白い。元から併用することを考えていたり、とにかく最低限のクッションさえあって極力軽くてコンパクトなマットが欲しいという場合に限りおすすめ。
評価まとめ&スペック比較表
総合評価 | AAA | AAA | AAA | AAA | AAA | AA | AA | AA | AA |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アイテム | THERM-A-REST | Nemo スイッチバック | THERM-A-REST Zライトソル | 山と道 UL Pad 15+ | エバニュー Fpmat 125 | BigAgnes ツイスターケイン バイオフォーム レギュラー | mont-bell フォームパッド180 | エバニュー Trail mat 180 | 山と道 Minimalist Pad |
ここが◎ |
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ここが△ |
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快適性 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ |
断熱性 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★☆☆☆☆ |
重量 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
携帯性 | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
使い勝手 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
耐久性 | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ |
スペック | |||||||||
サイズ(cm) | S:51×130 R:51×183 L:63×196 | R:51×183 | S:51×130 R:51×183 | S:50×100 L:50×175 XL:50×200 | 100:50×100 125:50×125 | 51×183 | 90:51×90 120:51×120 150:51×150 180:50×180 | 100:50×100 180:50×180 | 50×100 |
厚み(mm) | 15 | 23 | 20 | 13 | 5 | 13 | 16 | 9 | 5 |
公式重量(g) | S:260 R:400 L:540 | R:415 | S:290 R:410 | S:113 L:198 XL:226 | 100:160 125:200 | 397 | 90 :200 120:273 150:336 180:395 | 100:180 180:320 | 53 |
1cmあたり重量 | 2.19 | 2.27 | 2.24 | 1.13 | 1.60 | 2.17 | 2.18 | 1.78 | 0.53 |
素材 | 架橋ポリエチレン | ポリエチレン | 架橋ポリエチレン | XLPE(ポリエチレン)フォーム | ポリエチレン | 持続可能なサトウキビ樹脂を60%以上含むEVAフォーム | ポリエチレンフォーム | 発泡ポリエチレン | XLPE(ポリエチレン)フォーム |
※R値 | 2.1 | 2.0 | 2.0 | – | – | 1.7 | – | – | – |
※ASTM(米国試験材料協会) R-valueに基づいた値。
まとめ
クローズドセル型のスリーピングパッドは言ってみれば、シンプルな1枚のシートですが、素材や厚み、形状によってその性能は大きく違ってきます。またそうした特徴・個性の違いによって各モデルいろいろな工夫ができるので、使い方によって意外と奥が深いことも分かってもらえたかと思います。
シュラフの下に敷くだけでなくさまざまな使い方ができ、なおかつ壊れにくい(修繕しやすい)マットレスは、何だかんだ長い間付き合っていくことになるでしょう。ぜひとも今回のレビューを参考に、自分にピッタリの相棒に巡り合えることを願っています。
補足:テスト環境と評価方法
すべてのアイテムは独自に購入し、東京近郊の山や自宅の庭などで、2021年4~9月までの約半年の間に徐々にいろいろと寝比べていきました。
また、断熱評価については低温状況を再現するため、マットの下に保冷剤を敷き、その上にマットを敷いて座り、5分程度経過後の体感で冷たさを比較し、さらにサーモグラフィカメラで表面温度を撮影しました。※ただし条件を揃えることは困難なため、この温度や画像はあくまでも参考程度と捉えています。
今回の比較テストにおける評価指標は以下の6つ。なぜこの指標が大切かについてはこちらの「スリーピングパッドの選び方」を参照ください。また評価の★は今回の比較候補のなかでの相対評価です。
- 快適性:クッション性や肌当たりによる寝心地・座り心地の良さ、岩や枝の突き上げ等を防いでくれるかなど
- 断熱性:地面からの冷気をどれだけ遮断してくれるか。
- 重量:単位当たりの重さ
- 携帯性:畳んだときの大きさ。畳やすさ・嵩張りにくさ。
- 使い勝手:セッティングのしやすさや畳みやすさ、パッドの上で寝る以外の作業しやすさや、パッド自体を他の用途にも応用できるかなど
- 耐久性:単純な破れにくさもですが、使い物にならなくなるリスクがどれだけ少ないか
なお、テスト結果の評価数値はあくまでもテストを行った評価者の判断によるものです。できる限り納得性の高い、客観的な評価を目指してはいますが、それでも快適さ断熱性など主観による評価をゼロにすることは不可能であり、その点については考慮の上で参考にしてみてください。