ガスストーブの発売前検査が想像以上にガチだった。~日本ガス機器検査協会 東京検査所見学~

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Yasushi Hisatomi

written by Yasushi Hisatomi

突然ですが、ガス機器の「適合性検査」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

通称「ガス検」なんて呼ばれることも多く、ぼくはこっちの言葉で知っていたものの、正直何が行われているものかなんて考えたこともありませんでした。

普段何気なく使用している「ガスこんろ」や「ガスストーブ」は、火という危険物をあつかう道具であることから、日本国内で販売するためには、法律に基づき、その安全性について第三者機関の検査・認証が必要です。適合性検査とは、私たちがフィールドでいつも安心して製品を使用できるように、国に登録された検査機関が行う検査のことをいいます。

一説によると、日本のガス検は通過基準は世界一厳しいなんてことも言われているこの適合性検査、実際のところどんなことをしているのか。先日、日本ガス石油機器工業会の協力のもと、その検査を実際に見せてもらえる機会に恵まれました。

工場というと縫製工場や組み立て工場など、メーカー側の施設を見たことはありますが、その性能を「試験する側」の施設を覗けるなんていう機会はめったにありません。今回は検査の見学を通して、ガス機器の安全性と、検査の重要性について考えてみたいと思います。

目次

日本ガス機器検査協会 東京検査所へ

ということで、出かけたのが日本に3カ所ある検査所のひとつ(ガスストーブの検査所としては日本で唯一)、東京の赤羽駅からバスで10分ほど、板橋区の閑静な住宅街のなかにひっそりとたたずむ「日本ガス機器検査協会 東京検査所」です。

検査所でぼくたちを迎えてくれたのは、所長の森下さんと、実際に検査を行っている検査グループの浦添さんと齋藤さん。

ここでまずこの協会と検査についての大まかな話を教えていただきました。

左から検査グループ齋藤さん、所長森下さん、検査グループマネージャー浦添さん

世界一厳しい!?ガスストーブの適合性検査

アウトドアで使用するガスストーブだけでなく、日常使うガスコンロやガス給湯器など、幅広いガス機器について行われる適合性検査には、二段階の検査があります。

1次検査では、新製品や改良品など、完成品段階で検査機関に提出し検査するもの。そして次の2次検査では、それらが工場で量産された段階で、検査員が実際にメーカーの工場に出向き、その場でランダムに抜き取られた製品を検査するもの。つまり設計段階から、工場で生産された実物まで、ユーザーの手元に届くまで複数回、厳密なテストを通過しなければなりません。まさにガチ、品質に対するここまでの要求水準の高さと不良品を出さないための検査の厳格さには肝を抜かれました。日本のガス検をクリアしたガスストーブが世界のアウトドア業界的にも高い評価を得ている理由のひとつがここにある気がします。

どんなガスストーブであっても、検査される項目は多岐にわたる。

想像以上にガチ。これが日本の適合性検査!

座学が終わったところでさっそく検査所へ。エレベーターと入り組んだ通路をくぐり抜けてたどり着いたのは、むき出しの装置やパーツが所狭しと置かれ、雑然とした”工場”感の充満した一室。どれもが何かしらを検査・測定する機械です。スペックフェチにはたまらない場所でしょう。

今回は短時間で実演していただける適合性検査の一部を見せてもらえました。ストーブの検査といってまず思い浮かぶのは、もちろん火をつけた時にちゃんと安全に燃えるかどうかですよね。

孔のたくさん空いた筒をリング状にした、燃焼時の排ガス量を測る道具。どうやって使うかというと……。

こんな風に検査用の鍋に被せ、燃焼時に上昇してくる気体を採取。測定器でガスの成分量を測定して、有害なガスが多く発生していないかどうかチェック。

燃焼時の温度上昇検査(写真の下にストーブがある)。一見何の変哲もない壁に囲まれた場所ですが……。

裏側には無数にセンサーが取り付けられており、時間経過とともに各部位の温度がどれだけ上昇したかすべて計測されます。もちろん器具自体が過度に熱をもたないかもチェック。

圧力をかけて空気を噴出しながら、ガス通路や接続部分の気密性をチェック。

こうした燃焼試験は当然のことながら多角的に念入りにチェックされるのは予想できましたが、驚きなのはそれ以外のさらに細かい検査項目。自分のようなレビュー屋にとっては、ただひたすら何万回もバルブを回し続けるだけの検査機械がいつでも使える、なんて羨ましい。

ある程度まで傾けても倒れたり部品の脱落がないか、ある程度まで落としても壊れないかなど、構造的に容易に破損しないかどうかまでチェック。

このほかにもガスカートリッジの内容分析機やら、圧力測定器やら、イグナイターをひたすら押し続ける装置など、決して広くはない検査室のなかにここにしかない測定装置で多彩な検査・測定が行われます。

2次検査では、実際に検査員がメーカーの生産工場まで出向き、同じレベルでの厳しい検査が行われる。写真は気密性検査。

厳しい検査を合格したものだけに与えられる称号「PSLPGマーク」とは?

こうした厳しい検査を2段階にわたって通過し、全ての項目が基準を満たすことが確認されてはじめて、晴れて合格の称号である「PSLPGマーク」を表示することができます。

ネット通販などで手軽に山道具を購入できるようになったここ最近、中には驚くほど低価格なガス機器が売られていたりすることがありますが、そうした製品は、日本国内での適合性検査を受けていない、つまり安全性がチェックされていないモデルである可能性があります。

その製品が検査を受けたかどうかを見分ける重要ポイント、それがこの適合性検査を合格した製品だけが表示を許される、安全な製品の証であるPSLPGマークなのです。みなさんのガスストーブにはきちんと付いているでしょうか?

ガスストーブは「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(液石法)」という法律によって、このPSLPGマークを製品に表示することが定められています。日本製であれ、輸入された海外製品であれ、PSLPGマークが付いていなければ日本国内で販売することはできません。

近年、急速にこのPSLPGマークを取得していない輸入品がインターネット上を中心に数多く出回ってしまっていることが大きな問題となっています。

ガスストーブ購入前にはPSLPGマークを取得しているかどうか確認すべし

PSLPGマークが取得されていない製品は、端的にいうと日本国内で使用するうえで必要とされる検査を通過していないということ。ガスストーブを購入する際には、PSLPGマークがきちんと取得されている製品なのかどうか、必ず確認するようにしましょう。

最近ではPSLPGマークを取得していることをHPや通販サイト上で明示しているメーカーや店舗も一般的になりつつあります。サイト上でPSLPGマークを取得している製品か分からない場合は、直接メーカーや店舗などに確認してみるとよいでしょう。

いくら製品が安全だとしても「一酸化炭素中毒」には要注意

ガス器具はガスという危険物を燃料とする以上、たとえPSLPGマーク取得品であったとしても取り扱い方法を誤れば人命を危機にさらすことは言うまでもありません。特に命に関わる危険として注意したいのが一酸化炭素中毒。ガスストーブを使用するすべての人は、必ずこの一酸化炭素中毒の危険性と対策を知っておく必要があります。

ふとした油断で大事故に。「一酸化炭素中毒」の危険とは?

テント内などの換気の悪い場所でガスストーブを使用すると、酸素不足による不完全燃焼が起き、一酸化炭素が発生します。それを知らずに吸い込んでしまうことによって引き起こされるのが一酸化炭素中毒です。

厄介なことに一酸化炭素は「無色無臭」であり、また一酸化炭素中毒の初期の自覚症状も「頭痛、吐き気、めまい、集中力の低下、嘔吐、眠気」など、一般的な風邪(インフルエンザ)の症状によく似ているため、発生したことに気づきにくいといわれています。

濃度にもよりますが、数分から数十分で中等度または重度にまで進行し、手足のしびれや意識障害によってそこからは自力で動くことができなくなり、手遅れとなってしまいます。

危険な一酸化炭素中毒を防ぐために必要なこと

危険な状況にあるかどうかや自覚症状に気がつきにくい、一酸化炭素中毒の危険から身を守るためには、まずそのような状況が発生しないように予防すること。それには何よりも換気が十分ではない場所では使用しないことが重要です。

換気が悪い場所での器具の使用は厳禁!

ガスストーブは必ず屋外で使用し、外が寒いからといってテントやクルマ、その他屋内ではガス器具を絶対に使ってはいけません。雨や雪などでテントの外に出るのが難しい場合には、入り口とベンチレーションをなるべく大きく開けて、空気の通りをよくしたうえで前室で調理するようにします。

そして万が一ガスストーブを使用中、上にあるような症状がみられ「おかしい」と思ったら、すぐに使用を止め、新鮮な空気のある場所に移動しましょう。

安全に使い続けるために、使用前後にはチェックとメンテナンスを

最後に忘れてはならないのは、ガスストーブを使用する前の故障チェック、そして使用後のメンテナンスについてです。

正しく使っていてもいつかは交換必須の「Oリング」

ガスストーブのパーツのなかで、使っていてもいなくても、年月とともに必ず劣化していく部品が「Oリング」。ガスカートリッジとガスストーブの接続部分にある、ガス漏れを防ぐためのゴム製の環状パッキンです。

使用前、そして長く使用していなかったときは特に、点火する前にこのOリングに問題がないかどうか確認しましょう。ささくれていたり、切れていたり、縮んでいたり、ひび割れたりしているとガス漏れの原因になります。問題がなさそうであることを確認して、あらためてガスカートリッジとガスストーブを接続し、接続部分からガス漏れの音や異臭がしていないかチェックしましょう。

Oリングをよく見て、ささくれ、切れていたり、縮んでいたり、ひび割れたりしていないかチェック!

Oリングの寿命は5~7年程度といわれ、新しい部品との交換が推奨されています。交換作業は自己流でするのではなく、各メーカーや販売店の指示された方法で交換するようにします。

またメンテナンスを続けていても各部品の経年劣化は進みます。そのためガス器具は製造から10年、ガス缶は製造から7年を目安に買い替えを推奨しているメーカーも多いです。

ヘッドにこびりついた汚れは火力にも影響

ガスストーブのヘッド部に付いたスス汚れや細かいごみは、燃焼に影響してしまうことがあります。それを防ぐため、使用した後は汚れやホコリをブラシなどで優しく落とし、目詰まりを取ります。繊細な部分ですので、無理に擦らず、傷つけないように丁寧に作業しましょう。詳細なメンテナンス方法はメーカーにより異なることもありますので、詳しくは各販売店、もしくはメーカーに問い合わせるようにしましょう。

ヘッドの目詰まりはブラシなどで優しく除去

イグナイター(点火装置)も念のためチェック

点火装置(イグナイター)も、何かの拍子で内部が故障したり、錆びたりしてしまうかもしれません。外見からは問題なさそうであっても、スイッチを押してきちんと点火することを確認しておきましょう。

なお点火装置は高所などの環境によって使用できない(点火しない)ケースもあります。その時のために、念のためフリント式ライターなどを携帯しておくようにしましょう。現地で着火しなかったからといってすぐに故障と断定せず、戻ってからあらためて確認してみてください。

まとめ

月並みですが、何気なく使っているガスストーブが”当たり前”のように使えている陰には、こうした多岐にわたる厳しい試験を愚直に実施してくれているという現実をあらためて知ることができました。より間違いのない検査のために、現場の方々の細やかな工夫の数々を目の当たりにすると、そこには共感と尊敬の念がわいてきたことは間違いありません。さまざまな支えがあって僕たちユーザーもアウトドアを楽しめている。購入前のPSLPGマーク確認や、定期的な点検・メンテナンスなど、最低限のルールを守り、安全で楽しいアウトドアライフを送りたいものです。

監修:日本ガス石油機器工業会

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