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化繊を制する者は冬山を制す。最新インサレーションジャケットの選び方と注目アイテム

保温性・通気性・エコ素材……化繊中綿はまさに戦国時代

なんだかんだで毎年注目せずにはいられないので、今年も例によってチェックしてみました。山の防寒着・行動着として欠かせないミドルレイヤー(中間着)である、化繊綿のインサレーションジャケット、今シーズンの注目モデル紹介です。今年も欲しがりながら、いくつかは実際に試している最中です。

いつの時代もそうだったかもしれませんが、今年も化繊インサレーションの覇権争いは落ち着くどころか、ますます激化の一途をたどっている気がします。毎年のように繰り広げられる、世界を見据えて研究開発にまい進する素材メーカーと、他社を出し抜いて、いち早く画期的なプロダクトによって市場を席巻したいアウトドアメーカーの駆け引き合戦は、いつ見てもエキサイティングです。

各ブランドでラインナップ充実の2018-19秋冬シーズン

出そろった各ブランドのラインナップを眺めてみると、今年は確かに新しい視点をもった画期的な素材・アイテムが現れたというわけではないかもしれません。ただその分、各ブランドともに多様なアクティビティに合わせてバリエーション豊かなラインナップをそろえはじめ、同じ素材でも質・量を変えて微妙な違いのモデルが増えてきたといえる気がします。

そんなわけでますます複雑になってきている冬の防寒着(ミドルレイヤー)選びですが、今回はそのなかでも今年登場の見逃せない注目作をいくつかピックアップしてみました。ちなみに昨年注目したモデルは今シーズンもほぼ健在で、それどころか案の定ガッツリと主力モデルへと成長しているようですので、今年こそ使ってみようか、あるいは買い替えようなんて考えている方は、以下の昨年特集記事もあわせてチェックしてみてください。

目次

化繊インサレーションジャケットを吟味するにあたって注目すべき3つのタイプ

2013~4年ころからはじまった、パタゴニアのNano-Air HoodyやPolartec® Alpha®に代表される「通気して汗抜けの良いストレッチ保温中綿」の流れは未だ衰えず、もはや冬の中間着の定番として定着しつつあります。

一方でここ数年で盛り上がりつつあるのが、PrimaLoft® Black Insulation ThermoPlume®やPatagonia プルマフィルといった「軽量でダウンに迫る保温性をもった中綿」など。

このように化繊インサレーションと一言でいっても機能の尖り具合は多彩。ここ最近では求める役割によって適切な機能を選択することが、インサレーションジャケットを賢く選ぶコツといえるでしょう。

自分が今、どんなのを選べばいいかと聞かれて答えるとすれば、まず用途によって3つくらいのタイプで分けて考えてみることをおすすめします。

保温重視タイプ

本来、中綿の役割は保温なわけで、その意味では現在の一般的な化繊中綿はすべてこのタイプといってもよいと思います。ただここ数年で新たに開発された、ダウンの性質にググっと迫った新開発素材のジャケットには特に注目です。これらは軽量で保温性が高く、さらに化繊の特徴である濡れても保温性を損なわず、また手軽に洗濯できるといった特徴を備えています。なおこのタイプは確かに温かいですが、激しく動いたりして汗をかけばやはり脱ぎたくなります。

例:PrimaLoft® Black Insulation ThermoPlume®、Patagonia プルマフィル、Polartec® Power Fill™など。

アクティブ重視タイプ

このタイプは重量当たりの保温性では上のタイプに及ばないものの、汗を大量にかいても瞬時に拡散させる速乾性を備え、常に衣服内を一定の状態に保ち続けるような性質をもっており、ダウンとはまったく別の方向性を指向しています。さらにストレッチ性を備えてよりアクティブシーンに対応しているモデルも多く、低音下で汗をかきながら激しく行動しても驚くほど快適なため、行動中でもずっと着続けていられます。

例:東レ 3DeFX+、Patagonia フルレンジ、Polartec® Alpha®、THE NORTH FACE Ventrix™、Primaloft® Gold Activeなど多数

ランニング向けタイプ

ランニング時に快適であるように作られたこのタイプは上の二つとは視点が若干異なり、中綿の質というよりも絶対的な量の少なさ、タイトなシルエット、動きやすさ(ストレッチ性)、風を受ける前面の防風、発汗部分の通気性アップといった特徴を備えています。寒い冬でのランニングで邪魔にならないような配慮がある作りであればたいていの場合このタイプです。

2018-2019シーズン注目のインサレーションジャケット

いつものように前置きが長くなってしまいましたが、以上のような前置きを踏まえて、今年発売したなかで注目の5着をザックリと試してみました。例によって★評価はあくまでもスペックと数回の試着でのインプレッションです。

MILLET K ビレイ フーディー

保温性★★★ 快適性&機動性★★☆ 通気性★☆☆ 防風性★★★ 重量★★☆

今年の冬の素材では最も大きなニュースといっていい、POLARTEC社の最新中綿Power Fill®を盛り込んだジャケットがこちら。

この素材、発表当初は「100%リサイクル素材」というエコ要素が前面に出ていたためか、一体何がすごいのか、その実態はいまいち理解できなかったのです。ただよくよく調べてみたり、実際に着てみると、なるほどこれは色々な意味で画期的な次世代中綿素材であることが分かってしまいました。

まず独自に制御されたプロセスによって極細ポリエステル中空糸を溶着し、何千もの微細なエアポケットを形成した中綿は、これまで触ってきた(いわゆるシート状の)中綿にはなかった、目に見えて”ふわっと”柔らかい感触と嵩の高さがあります。ビレイ用のジャケットというだけあって保温性もかなりあります。これでいて、見た目以上に、軽い。

「次世代型」を感じさせたのは、そのような高い保温性能を備えながら、汗をかいても蒸れにくい、さらに100%リサイクル素材を使用した環境へのインパクトも考えられた素材であるなど、現代的なニーズをしっかりと取り入れてきているところなんです。総合力という意味ではここ数年で最高のインサレーションではないでしょうか。

Mountain Hardwear コアストラータジャケット

断熱性★★☆ 快適性&機動性★★★ 通気性★★☆ 防風性★★☆ 重量★☆☆

化繊インサレーションの王道として、ベンチマークとして君臨している中綿界のドンといえば、プリマロフト(ゴールド・シルバー)でしょう。新しいPrimaloft® Gold Insulation Activeはやや劣勢であったアクティブインサレーション領域で巻き返しを図るには十分な実力を備えた曲者のにおいがプンプンします。この最新素材を、新素材使いの巧みなMountain Hardwearが美味しく料理したというのが、コアストラータジャケット。

手に取った際にやや重量感はありました。ただ袖を通してみると、身体のラインに沿うように密着する立体裁断のアルパインフィットはストレスも少なく、重さはそれほど感じられません。それでいて4方向への高いストレッチ性を実現した中綿とそれを支える表生地によって、正直かなり動きやすい。

プリマロフトの中でもゴールドという安心の高性能断熱材がベースなので、しっかりとした防寒性を感じつつ、濡れもまったく気にならない安定した保温性は相変わらず。さらにActiveというだけあって、適度な通気性によって身体を過熱から防いでくれます。個人的にはフード無しで厳冬期にベースレイヤーとシェルの間に着るのがいいと思いましたが、秋や春先のアウターとしてフード付きをチョイスしてもいい感じ。

THE NORTH FACE レッドポイントベリーライトフーディ

断熱性★★☆ 快適性&機動性★★☆ 通気性★☆☆ 防風性★★★ 重量★★★

ニュースを見る限り色々と絶好調のノースフェイスは、素材競争でも潤沢な研究開発力でもって独自開発路線を突き進んでいます。昨年のVentrixも各所で話題となりましたが、今年はこのレッドポイントベリーライトフーディが個人的にざわつかせてくれました。

プリマロフト社との共同開発で生まれたという化繊中綿「サーモボール™」は、軽量・嵩高・濡れても保温性を維持するというダウンの保温性と化繊の利便性の両立を狙った微細な球体の素材。その最新バージョンであるこの「サーモボール™プロ」は、熱伝導性が低いエアロゲルを練り込むことで、少ない中綿でも保温性を高めているとか。

手に持った瞬間は心配になるくらいの軽さでしたが、これが着てみると思った以上に温かいことに気づかされます。この軽さで感じられる温かさとしてはこれまでの経験上間違いなくトップクラス。ただ薄手のためどうしても身体に密着させにくい。性能を十分発揮するにはサイズをしっかりと合わせて、隙間を作らないことがポイント。脇にはストレッチ生地をあしらうことによって動きやすさと通気性をカバーしており、寒い季節の中間着としてや、ポケットに収納可能なコンパクト性を活かしてチョイ足しの防寒着としての使い道が十分いけそうです。

ちなみにこれを着て床屋さん入ったところ、まんまとダウンジャケットにしか見えなかったらしいです。そんな見た目・デザイン性の高さも見逃せません。

Marmot WOOLWRAP Compact Jacket

断熱性★★☆ 汗処理能力★★☆ 通気性★★☆ 防風性★★☆ 重量★★☆(お店で試着したのみでのイメージです)

ここ数年のアウトドア業界では、世界的に急速な勢いで環境負荷の少ない素材への要求が高まっています。日本では最近プラスチックストローの廃止問題というニュースで少しだけ話題になり、世界との意識の差に驚いた方もいるかもしれません。特に欧州ではそのような配慮のない製品でないと、市場に立つことも許されない雰囲気すらあります。そんななか、リサイクル化繊と並んで注目されつつあるのが、このモデルに採用されているような「ウール」を加工した中綿素材です。

ダウンのような飛び抜けた保温力というわけではないものの、湿気を含んだ際に生まれる「吸着熱」による自然な発熱効果が期待できます。汗をかくシーンでも消臭効果もある。ベースレイヤーとしても優秀なウールは吸放湿性に優れるため、運動時でも不快さを軽減してくれます。今期は同じく吸放湿性と吸着熱特性を備えた再生繊維であるキュプラを加えて嵩高を維持しているというらしく、ウール混というにしては高い復元力を感じます。

クラシックなデザインが個人的には残念ですが、天然の調温・調湿性能は化繊にはない快適性が期待できます。今後のブラッシュアップも含めて注目していきたい一着です。

NORRONA lyngen Alpha90 Raw Jacket

断熱性★☆☆ 汗処理能力★★★ 通気性★★★ 防風性☆☆☆ 重量★★★

各ブランドがさまざまなアレンジによってラインナップを連ね、ここ数年にで一気にアクティブインサレーションのメインストリームに躍り出たPOLARTEC社のAlpha®はやはり毎年気になります。この素材の他にない面白さは、アウター目的で純粋に中綿として表地・裏地で挟み込んだり、裏地はむき出しにして表地だけ合わせたり、中間着向けに表裏も排してフリースっぽく仕上げたりと、利用目的やシーンに合わせて臨機応変に対応できてしまう点です。

このAlpha90 Raw Jacketで採用されているのは、表裏地を配したAlpha® Directと呼ばれる種類で、軽い・温かい・発汗時も快適と、個人的には冬の中間着として最も使いやすいと思います。昨年もRabのAlpha Flash Jacketを紹介しましたが、今回のはさらに薄手の素材を身頃・肩にあてて、それ以外の部分はフリースという、保温性よりも汗処理に最大限フォーカスしたモデル。

見ての通りアウターではなくミドルレイヤーとしての使い方が想定されており、活用シーンも秋・春、冬の低山やランニングといったところでしょう。適度な保温性と驚異的な通気・速乾性(汗処理能力)を備えているため、行動中の中間着としてこれでもかというくらいに活躍してくれます。先日も0℃前後の気温のなか、ベースレイヤーの上にこのジャケット・ハードシェルというスタイルでしたが、登りのきつい場面でも、ピークでも、脱ぎ着せずに1日を過ごすことができました。

POLARTEC® Alpha®は今シーズンも使い方、厚さなど各ブランドいろいろと工夫した製品が作られており、より取り見どり。いずれにしてもストップ&ゴーが頻繁なアウトドアで使う防寒着としては現状トップクラスに使い勝手のよい素材であることは間違いないので、今年こそぜひ一着検討してみてはいかがでしょうか。

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