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Fenix HM65R-T レビュー:とんでもなく明るくて、しかも長持ち。新鋭ブランドが放つパワフルで機能的なアウトドア用ヘッドランプ

「アウトドア文化はもはや欧米や日本人だけの楽しみではない」ということは、このサイトでも以前から中国のアウトドア展示会の活況レポートなどを通じて伝えてきたところです。今やアウトドアは各国から新しいプレーヤーが次々と参入してくる世界的な成長産業であり、それらが従来のメーカーにはなかった画期的なアイデアでぼくたちを驚かせてくれるという光景はもはや珍しいことではなくなりました。

そんな成長著しい各国のアウトドアメーカーの中から、今回は2000年代前半に中国は深センで創設された総合ライティングメーカー、Fenixのトレイルランニング向けヘッドランプ「HM65R-T」をレビューしてみます。

実はこのブランド、数年前から欧米での展示会では眼にして気にはなっていたもののなかなか実際に使う機会が得られず。今回たまたま好きな点・気になる点を正直に語ってよしの条件で製品レビューの話をいただいたのを機に、これは渡りに船とばかりにありがたく使わせてもらうことになった次第です。さっそくラボでの照射テスト、山でのテント泊、ランニングで使用してみたレビューをお伝えします。

Fenix HM65R-Tの大まかな特徴

HM65R-Tは、トレイルランニングやハイキングなどのアウトドア用にデザインされたヘッドランプ。優れた耐衝撃性能とIP68の防塵・防水性能を備えた堅牢なボディに、最大1500ルーメン(最大照射距離は170m)のスポット照射と手元を見やすくするワイド照射、高照度を長時間維持できる優れたを照度コントロールを実現。また通気性に優れ、ダイヤル式で簡単な調整と心地よいフィットを可能にしたヘッドバンドも魅力。電池はType-C充電ポートを備えて素早い充電が可能な専用バッテリーの他、市販のCR123Aリチウム電池でも代用可能。高い照射性能と耐久性、そして快適性と利便性を兼ね備え、過酷な夜間のアウトドアで優れた視認性と実用性を提供します。

お気に入りポイント

  • 強い明るさを4時間以上キープするパワフルさ
  • 通気性と快適さを備え、簡単な操作で心地よいフィット感を提供するダイヤル式ヘッドバンド
  • 耐衝撃・防塵・防水と三拍子そろった堅牢性
  • Type-C充電ポートでスピード充電と大容量が可能になったバッテリー構造
  • シンプルなボタン操作

気になるポイント

  • 額に重さを感じ、走っているときにブレないようバンドをキツめにしていると、締め付け過ぎて痛くなる
  • 光のエッジ(縁)部分の明暗差がややはっきりし過ぎている
  • 高出力で点灯し続けているとボディにかなりの熱が出る

主なスペックと評価

項目Fenix HM65R-T
光量(lm)(最大/最小)1500/5
公式照射距離(m)(最大/最小)170/6
公式照射時間(h)(最小/最大)4/300
実測重量(g)(本体+バッテリー)143
専用バッテリーリチウムイオン電池 (3400mAh)
乾電池CR123A リチウム電池
防水防塵性能IP68
対応温度-35℃~45℃
ライト種類スポット(弱・中・強)、ワイド(弱・中・強)、スポット+ワイド
遠距離照射★★★★★
近距離照射★★★★☆
バッテリー寿命★★★★★
使いやすさ★★★☆☆
重量(体感重量)★★☆☆☆
防水性★★★★★
耐久性★★★★★

詳細レビュー

ビーム性能:カタログスペックは伊達じゃない。遠距離・近距離ともにとにかくパワフルかつ長持ち

ここ数年のヘッドランプ市場を俯瞰してみると、日進月歩の技術革新によって「高照度化・長時間化」のアップデートが毎年のように行われている印象。例えばつい5年ほど前にペツルのフラッグシップモデルであった「リアクティックプラス」の最大光量は300lm(ルーメン)でしたが、2023年現在、同じ位置づけにあたるモデル「スイフト RL」の最大光量はその約3倍の900ルーメンにまで向上しています。他のモデルやメーカーを見渡しても、今では300ルーメンなんてエントリーモデルですら当たり前のようにクリアしている状況で、トレイルランニングといった夜間のスピーディなアクティビティ向けであればMAXパワーが1,000ルーメン以上であることも珍しくないのが現状です。

そんなご時世でありながら、このFenix HM65R-Tはさすがトレイルランニング向けとして設計されただけあって、最大光量は「1,500ルーメン」。この数値はスペックだけならば並みいるアウトドア用ヘッドランプ市場の中でも一、二を争う明るさです。

このモデルを手に取ってみたら、そんな桁違いの出力を何よりもまず検証してみたいと思うのが人間というもの。そこでまずは真夜中の農道で明るさMAXに設定して実際に照らしてみました。すると果たして、「まるで昼間」は言い過ぎかもしれませんが、近場はまぶしく感じるくらいの強い明るさで前方と周囲が満たされ、非常にクリアな視界を提供してくれました(下写真)。

この遠くも近場も広範囲に明るく照らしてくれるビームは、前面に搭載された「スポット(Spot)」と「ワイド(Flood)」独立した2つのLEDの組み合わせによってつくられています。

向かって左のLEDライトが「スポット」、右のライトが「ワイド」ライト。

スポットビームは照射範囲こそ狭いながら、170mの遠くまで届く最大1300ルーメンのビームを照らすことができるLED(配光パターンは下写真を参照)。光の色は白。大きく深いリフレクターとレンズの機能によって光が中心部に集中しており、フラットな配光というよりは遠くに光を飛ばすことをより意識しています。また縁部分はわりとはっきり明暗が分かれています。

一方でワイドビームの方は、最大54mと遠くまでは届かない代わりに目の前の近場の視界を広範囲に照らしてくれる光を提供します。こちらの光は若干眼に優しさを考慮してやや温かみのある昼白色が採用されているところなどはよく考えられている感心ポイント。下は「スポット」と「ワイド」それぞれを照射して比較してみた写真です。光の広がり方、光の色、縁の様子などが分かるかと思います。最初に見た最大1,500ルーメンの遠く・広くまで届くビームは、この2つのビームが同時に照射されることで実現していたというわけです。

トップクラスの明るさが驚くほど持続

ここで賢明なアウトドア愛好家ならば、残念なヘッドランプあるある「満充電から数十秒は最大に近い照度で照らしてくれるのに、1分も経たないうちに期待を遥かに下回る明るさまで照度が落ちてしまう」という、いわゆるスペック詐欺的なモデルなのではないかということがきっと気になるのではないでしょうか。もちろんその点についてもしっかりチェックしています。

その結果、この突出した明るさは実用レベルで長時間衰えないということが判明。もちろん最大の1,500ルーメンが続くという分けではありませんが、それでも過去に他メーカーの様々なモデルをテストしたのとほぼ同じ条件で比べてみてもトップクラスに高い明るさで、実にほぼ4時間(カタログスペック通り)持ったのには驚かされました。

ちなみにこれはあくまでも明るさを「MAX」にしたときの持続グラフ。夜明け前に危険な崖を通過しなければならないならばいざ知らず、通常のナイトランやハイクであれば実際ここまで明るくしなくても(中程度で)十分見えます。そこまで出力を落とせばその分持続時間が増えます(スペック通りであれば「中(400lm)」で12時間、「低(130lm)」で24時間)ので、その意味ではエグいほどのスタミナといえます。

約1メートル離れた場所から満充電・最大照度でセンサーに5時間照らした明るさを計測したグラフ。最大照度からいったん明るさは落ち着くが、それでも高い照度が4時間ちょっと続いたのには驚き。

上のグラフを他モデルと比較してみたい場合は、下記↓のヘッドランプ特集記事を参照ください。

快適性:絶妙な心地よさを提供するヘッドバンドとダイヤル式クロージャーシステム

このランプの構造自体、見た目はシンプルな平ゴムのヘッドバンド式ですが、よく見てみると思わずうなるような細かなギミックが詰まっています。まずバンドは一般的なヘッドバンドよりも少しだけ幅広になっているため肌当たりがまろやか。さらに生地にはドット状のメッシュが空いているため、汗ぬけがよく高い通気性を備えています(下写真)。

さらに後頭部にはダイヤル式のクロージャ―システム(独自に特許取得済み)が搭載されており、ここを回すだけで微妙なフィット具合を簡単に調整可能です。頭にセットしてから自分がいいと思うところまで締めていけばいいだけなので、フィッティングが想像以上に簡単かつ確実(下写真)に行うことができます。

防水性・耐久性・使いやすさ:十分すぎるプロテクションと使い勝手の良さ

アウトドアでの使用を考えたときに、もうひとつ気になるのはやはりそのタフネスさ。その点に関しても、Fenix HM65R-Tは十分すぎるほどの性能を備えています。例えばボディは軽量かつ強靭なマグネシウム製で、2mの高さから落としても問題ないという耐衝撃性を実現。工作精度も高く、作りも非常に丁寧です。そしてIP68のハイレベルな防塵・防水性能を備えており、バッテリー収納部はOリングもついてしっかり密閉できます。雨が降ろうが川に落とそうがまったく心配はいりません(下写真)。

バッテリーのフタにはゴムによるOリングが付いており、防水性もほぼ完ぺき。

操作は「スポット・ワイド」それぞれを制御するための2つのボタンのみで行います。それぞれ長押しでON・OFF。ボタンを押すごとに弱→中→強の切り替え、3秒長押しでロック/ロック解除と、難しい機能は付いておらず、間違いようのないくらいにシンプル。しかもこのボタンは荷物の中で誤作動しないよう、仕舞うと上にカバーがかかるようになっています(下写真)。

バッテリーは、細かな明るさ制御とスピーディな充電を可能にするType-C端子のUSB充電式。この利便性に慣れてしまうともはや手放せない、必須の仕様といえます。3400mAhという大容量専用バッテリーが付属しています。ちなみにこの専用リチウムイオンバッテリー以外でも、市販のCR123A リチウム電池で代替できます。アウトドア利用に関してはあまり有難さは感じないかもしれませんが、防災備蓄用として考えると十分な価値があるかと。

ちなみに同梱品一覧は下の写真。ボディに専用バッテリー、Type-Cケーブル、そして取替用のOリングとなっています。

実際に使ってみて気になった点:性能的には文句無し!だけど…

額に集中する重さが気になる

ビーム性能、バンドのフィット感、そして操作性やバッテリー性能含めた使い勝手など、多くの点で驚くほどの高いパフォーマンスを見せてくれた一方で、実際に泊りの山行やトレイルランで使ってみるとどうしても「惜しい」と思わざるを得ない部分もいくつか見えてきました。

まずやはりこの「重さ」です。バッテリーを含めると実測143グラムという重さはどうしても気になってしまいます。本モデルのような一般的な「額にライトとバッテリーが集中している」構造のヘッドランプの場合、主要なメーカーの代表的なモデルを見て分かるように、重量はだいたい100グラムくらいまでがほとんどです。これ以上の重さになるとどうしても「額にぶら下がっている(ブレやすい)」感覚が強くなり安定性を保つことが難しくなります。それをカバーするべくバンドをより強く締めると、次第に窮屈さで不快感が出てきてしまいます。

HM65R-Tがいかにフィット感と快適性に優れたバンドであったとしても、それは避けられませんでした。正確にいうと、歩く程度ならば特に気になるほどではないものの、ランニングで激しく長時間動くと気にせずにいられなくなってきます。このモデルがトレイルランニング用に設計されたということを考えれば、この重さやブレやすさに対して、例えばバッテリーコンポーネントをライトから分離して後頭部や胸ポケットなどに配置するなど、もう少し厚く対応して欲しかったところです。

照射面のエッジ(縁)は柔らかい方がフィールドでは使いやすい

もうひとつ個人的に行動していて気になるのが、ビームのエッジ(縁)部分の「明暗差」の大きさ。ヘッドランプの作る「光の面」は、中心とその周辺部分が最も明るいのは当然ですが、中心から周辺に向かっての暗くなり方(減衰の仕方)はモデルによってかなり差があります。夜間にごちゃごちゃとした森の中を顔も頻繁に振りながら歩く場合、見えている部分と見えない部分との差がはっきりしすぎているのは意外にストレス。個人的には縁に向かって綺麗なグラデーションで徐々に減衰していくパターンの方が眼に優しくて気に入っています。その意味ではHM65R-Tの光はどちらかというとエッジのコントラストがはっきりしている方で、その点は非常に細かいとはいえ、他のアウトドア老舗ブランドのより丁寧な配光に比べると気になってしまいました。

まとめ:トレランというよりむしろ長期の登山で使いたいパワフル&タフネスランプ

今回あらためてじっくりテストしてみて、ビームパワーやバッテリー寿命、堅牢性といったライトの数値的なパフォーマンスに関して言えば、実用性含めて文句なしに高性能であることが分かりました。いわゆる物理でぶん殴る部分に関しては従来のアウトドアメーカーを脅かす存在といっても過言ではないほどだと思います(こんな自分でも正直舐めていたところがあったと反省)。

ただ一方で機動力や実際のフィールドでの見え方といった実践的な面に関しては、トレイルラン向きとするには気になる部分も目立ったと言わざるを得ません。やっぱり他アウトドアブランドのハイエンドなトレラン用ヘッドランプと比べると、走りやすさという点に関してははっきりとストレスを感じてしまうのが気になります。

結論としては自分ならば、トレイルランで使うよりもむしろ縦走やロングトレイルといった長い泊まりの山旅に持っていきたいランプといえそうです。数日にわたるテント泊山行ならば歩き主体なので重さも気になるほどではなく、逆にパワーと寿命、丈夫さといったこのモデルの特長が全部活かされてくれるはず。いずれにせよ基本的な品質の高さは確かなので、特徴を理解したうえで上手く使えばきっと頼もしい戦力になってくれるに違いありません。