【忖度なしの自腹レビュー】PAAGOWORKS RUSH 30:想像を超えた背負い心地の良さでもう離れられない。ファストパッキング向け「走れる」バックパックがアップデート
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山道具のレビューを書くという仕事柄、日々発売される新製品を背負う機会が多く、ずっと同じバックパックで歩くということがなくなってから長く経ちます。そんな自分にも、友人とのプライベート山行やハードなコースに挑むときなど、いろんな意味でここぞというときに持ち出すような「これだけは外せないレギュラーアイテム」がいくつかあります。
その一つが今回レビューするPAAGOWORKS RUSH 30です。日帰りから(夏ならば)泊りまでの、ランニングを織り交ぜた登山、いわゆるファストパッキングには欠かせない相棒です。
忘れもしない秋の谷川岳馬蹄形、日の出から日没まで歩き通しのハードな行程も何のその。はじめて背負ったその日にいきなりガツンとやられました。それからというもの個人的に不動のレギュラーとして定着し、細かな進化のたびにますます愛着を深めながら、そうして5年近く前から現在に至るまでお世話になってきました。
そんなPAAGOWORKS RUSH 30が今年めでたくアップデートし、もちろんすぐに購入しました。満を持してこの春からたっぷり背負って歩いてみたレビューをお届けします。
目次
PAAGOWORKS RUSH 30の主な特徴
ランニングなどの激しい動きでも快適な背負い心地をキープする独自の背面構造とミニマルでスマートな収納を備えたファストパッキング向けバックパック。独自の背面構造によって抜群の快適性とブレにくい安定した背負い心地を提供。開閉しやすいメイン収納、メイン収納に直接アクセス可能なサイドジッパー、ショルダーハーネスやサイドパネルなどに取り付けられた豊富なストレッチメッシュのポケットをなど十分なポケット類を装備。無駄を省いた軽さは少ない荷物でアクティブに行動するファストパッキングなどのスタイルに最適です。
お気に入りポイント
- 独自のトップスタビライザーによる荷重安定性
- 包み込むような高いフィット感のショルダーハーネス
- メインコンパーメントにアクセス可能なサイドジッパー
- 出し入れしやすい大型のショルダーメッシュポケット
- 開閉しやすいメイン収納
- 通気性が良くお手入れもしやすい着脱式背面メッシュパッド
気になるポイント
- 特に不満ということはないが、あえて挙げるならば収納性。バンジーコードのみのフロントやウェスト周りの収納性はやや物足りない。
主なスペックと評価
アイテム名 | PAAGOWORKS RUSH 30 |
---|---|
容量 | 31L(ポケット含む) |
実測重量 | 695g(ウェストベルト・背面パッド含む) |
素材 |
|
女性向けモデル | なし |
サイズ | 600×240×270mm |
背面パネル |
|
ハイドレーションスリーブ | ◯ |
メインアクセス |
|
レインカバー | × |
ポケット・アタッチメント |
|
Outdoor Gearzine 評価 | |
快適性 | ★★★★★ |
安定性 | ★★★★★ |
収納性 | ★★★☆☆ |
機能性(使いやすさ) | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★★☆ |
重量 | ★★★★☆ |
ファストパッキング満足度 | ★★★★★ |
詳細レビュー
快適性・安定性:一度背負えば誰でも分かる、極上の背負い心地
製品を評するのに「唯一無二」なんて大それた言葉、そう簡単に使ってよい分けないことは重々承知している自分ですら、このバックパックの背負い心地の良さに関しては使わずにはいられない。それくらいにこのパックをはじめて背負ったときから今でも変わらずお気に入りなのが、他では決して味わえなかった極上の安定した背負い心地の良さです。
その秘密は独自にデザインされた「高重心設計のフォルムと荷重安定性を高める肩口のトップスタビライザー」、そして「フィット感抜群のショルダーハーネス」の三位一体の背面構造にあります。
重心を身体近くに引き寄せる高重心設計&トップスタビライザー
まず公式サイトでも謳われているこのバックパックの形状について。一般的にバックパックの重心は理想的には肩の高さでできる限り身体の近くにあるのが良いといわれいます(下写真)。
RUSH 30は底面積よりも上部の面積の方が広く、上に向かって多くの荷物が入るような「V字型」のフォルムになっていることから、何も考えず荷物を詰め込んでも自然に重心が肩付近の高さ(=理想的な重心位置)にくるような構造になっています。
これだけでも十分魅力的ですが、これで「唯一無二の背負い心地」と言うにはまだ早い。RUSH 30の真価はここからです。
理想的なバックパックの重心位置は高さだけでなく、身体との距離という要素もあります。つまりいかにパックの重心が身体に近づけているか。
RUSH 30ではその点に関しても、他のバックパックにはないコロンブスの卵的な発想で実現します。それが肩口に取り付けられた雨蓋兼用のトップスタビライザーバックルです(下写真)。
一般的な登山向けバックパックに搭載され、パックの揺れを抑えて身体に引き寄せる機能をもつ「スタビライザー(ショルダースタビライザー)」にあたる部分が、このパックでは雨蓋の先端に「トップスタビライザー」として配置されています。これによって、パックの重心(上部)が常に肩口(=身体)近くに固定され、移動中の揺れも最小限に抑えられます。
こうして縦・横それぞれでの重心位置がこれ以上なく理想に近づけられることで、どんなにパッキングのコツが分からない人であっても普通に荷物を詰めるだけで重心の位置をある程度理想的な場所に置いておくことができるわけです。見事過ぎですよ、パーゴワークス。
背負った人にしかわからない、優しく包み込むようなショルダーハーネス
この画期的な背面構造だけでも十分素晴らしいのですが、さらに特筆したいのはショルダーハーネス(ショルダーベルト)。ここも実はまったくフツーじゃない。
RUSH 30のショルダーハーネスは、適度なクッション性と普通以上に”コシ”の強さが感じられるウレタンパッドが「肩だけでなくハーネス全体」にまで内蔵されています(肌に触れる表面部分は通気性を確保するための立体メッシュ生地)。
これが背負った瞬間、胸全体を包み込むように優しくフィット。それは誇張ではなく、まるでしっとり柔らかな手のひらが胸全体を包み込むかのようです。このショルダーハーネスと背面パネルの両面を広くソフトな圧力で挟み込んでくれる極上の感触は実際に背負ってみなければ分からない、これぞ唯一無二といえる心地よさです。ちなみにそのフィット感とスタビリティは起点を2箇所にした脇下のベルトによってもさらに補強されています(下写真)。
背面内部には取り外し可能なウレタンフォーム(約10グラム)が内蔵されており、これがフラットな背面をキープすることで荷物をパンパンに入れても背中が丸くなってしまうようなこともありません。
また背面の背中に触れる部分には通気性とクッション性を備えた立体メッシュパッドが配置されており、心地よい感触を提供しています。実はこれも取り外し可能で、毎回この部分だけ洗って使えるため衛生面でも嬉しい(下写真)。
ランを意識したバックパックといっても、このモデルは決して安易にランニング向けのベスト型パックを大きくしたというような単純なものではありません。一眼レフのカメラも入った十分な荷物を背負って今夏の那須岳を歩いた時も、歩きはもちろん、走ってその長い稜線をトラバースしたときも、パックのブレにくさ、背中や肩、胸のクッション・通気とどの面をとっても欠点らしい欠点は見当たらず、(相変わらず)非常に快適に行動することができました。
収納性・機能性:ベーシックな収納に加えて+αの利便性で及第点
メイン収納の開口部は一般的な登山向けと同様の巾着式(コンプレッションバックル付き)ですが、真上ではなく身体側に大きく開く構造や、コードロックが(袋の両端をつまんで)ワンアクションで開けるようになっているなど、使いやすさが一工夫されています(下写真)。
メイン収納へのアクセスはこの巾着口からの出し入れの他、サイドに配置された止水ジッパーからも可能です(下写真)。軽量・小容量のバックパックでは省略されてしまうことが多いこのジッパー、個人的にはこれをつけてくれるだけでそのメーカーを「好き」に分類するくらいにお気に入りです。
またベスト型のバックパックでは最も気になる収納部のひとつであるショルダーハーネス周辺ですが、幅広の面積を活用して非常にゆとりのあるポケット周りになっています(下写真)。左右対称でソフトフラスクや500mlペットボトル、ジェルやタブレット、スマホなどが収納できるストレッチメッシュポケットが6 (3×2) 個配置されています(下写真)。前モデルからの変更点は、さらに小さなタブレット用メッシュポケットが追加され、細かいながらこれまでよりもさらに便利になったということ。なおボトルが入る最深のメッシュポケット(下写真②)にサロモンやBDなどの縦長のソフトフラスクは入りきらないので若干注意。
折り畳み式のトレッキングポールは試してみたところ3パターンの方法で収納可能でした。ひとつは左右側面のドローコード両側に付いているホルダーに通して固定する方法(下写真右)。あるいはショルダーハーネスに付属しているコードロックとメッシュポケットを利用してしまう方法(下写真左)。こちらは非公式ですが、パックを下ろさず歩きながらさっと収納できるというメリットがあります。
あるいは素直にサイドのメッシュポケットに収納する方法(下写真)。これらは収納類自体がクセが少なく、使い方次第で汎用的に使えることで可能になっていると考えると、基本の作りの確かさが重要であることがよく分かります。
その他にも重量を抑えつつ利便性を失わないスマートな収納が盛だくさんに搭載されています。トップのジッパーポケットはキークリップ付き、幅広で物も探しやすくて好きです(下写真左上)。素材が前モデルまでのメッシュから布帛に変更されましたが、それによってたるみにくくなり耐候性・耐久性が高まりました。
内部にも小物入れのジッパーポケット。こちらは以前耐水性のあるポケットでしたが、こちらは逆に通常のナイロン生地に変更されています。もちろんハイドレーション用のスリーブも内蔵されています(下写真右上・右下)。
サイドメッシュポケットも、口が斜めに縫い付けられており、ここに収納したボトルは立ったままアクセスできます(下写真左下)。
コンプレッションも兼ねたフロントのドローコード
フロント全体に張り巡らされた伸縮のドローコードは、物を固定するだけでなくパックをコンプレッションする役割を兼用しています。これは収納性とパックの安定性(ブレ防止)、そして重量を抑えるという意味では非常に効果的といえます。
ただ、これは異論もあるかもしれませんが、少しこのフロント部分はもったいない気がします。ファストパッキング向けのバックパックであれば外側の収納性は最大限使いたいもので、ここに(ドローコードはそのままで)さらに大きなポケットがあってもよかった。それでさらに荷物の収納と素早いアクセスが可能になるはず。
ブレを抑えるウエストベルトを一工夫してみたら「ぼくのさいきょうのバックパック」になった
これはちょっと余談ですが、このパックはランニング用パックをベースのコンセプトとしていることから、ウェストベルトもシンプルなストラップのバックルになっています。これ自体特に不満はないのですが、あまりにもお気に入りのザックなのでとことん自分好みにしてしまいたいという欲が抑えきれず、あれこれ試行錯誤した挙句、クッションとポケットのついたもう少し贅沢なウェストベルトに取り換えてみました(下写真)。
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ウェストベルトはブレを抑えるだけだから細い「紐」で十分という人が多いのですが、自分の経験上、胸で支えるタイプのバックパックであったとしても、30リットルを超える大きさであれば、多少でも腰で支えらるサポートがあった方が背負い心地も(ブレを抑えるだけでなく)より快適になります。ウェストベルトもできる限り幅広でしっかりとした作りである方がより快適で、さらにここにポケットがあれば、便利な収納をさらに増やすことができる。
この取り替えたウェストベルト、実はGossamer Gear Fast kumo 36 に付属しているもの(下写真)だったのですが、たまたまちょうどピッタリだったというだけで、取り付け部分の作り自体はそれなりに汎用的なので、他のパーツや自作でも代用可能です。
これに変更してみたところ、どうでしょう。思った通り飛び抜けた背負い心地の良さがさらに快適になっただけでなく、両腰に小さなポケットが追加されたことによってさらに収納性と利便性も向上。まさに私だけの最強ファストパッキングバックパックに……ますます替えの効かない相棒が誕生してしまいました。
まとめ:背負い心地の快適さと軽さ・利便性・拡張性を兼ね備えた、理想のファストパッキング向けバックパック筆頭
日本人の体型に合わせて作られたというRUSHシリーズの長男坊として、背面フレームがないにもかかわらず合理的で心地よい背面構造を提供し、必要十分な収納と工夫の余地を残した拡張性が整ったPAAGOWORKS RUSH 30 は、はっきり言ってすべての日本人におすすめできる理想のファストパッキング向けバックパックの第一候補です。
もちろんこれで素材がダイニーマやエコパック、ウルトラファブリックといった”ギアおたく”好みの素材を使えばさらにハイパフォーマンスを実現できたでしょう。メーカーもきっとそれは検討したはずですが、その場合間違いなくこの価格では無理であっただろうし、そのRUSH 30は、デザイナーの斎藤氏がいう「みんなのRUSH」ではないでしょうから、それを指摘するのは野暮というもの。ただ、自分は過去モデルで以前限定発売されたX-PAC製の「RUSH 28」をお気に入りとして今だに所有しており、今回もその方向での限定モデル発売を期待していないわけではありませんw
いずれにせよランニングパックの機動性を維持しながら、テント泊も可能な30リットルサイズ以上の容量で軽さと快適さとスマートさをバランスよく両立できているのは、このバックパックをおいて他に思い浮かびません。最後に競合として考えられるモデルとの違いにも言及しておきましょう。
例えば同じ今シーズン登場したGossamer Gear Fast kumo 36 と比べると、元々がハイキング用のバックパックであったKumoがベースであることから、軽さでは負けるものの走りやすさや安定感でこちらの方がまだ高いといえます。
次にこちらも今シーズンの新モデル、UltrAspire エピック XT 3.0 と比べた場合はどうでしょう。確かに背面の快適・安定性もよく考えられており、収納性はともするとあちらの方がやや優れているかもしれません。ただいかんせん堅牢な背面パネルや収納などのかさんだパーツ分で軽さ・走りやすさにおいてはこちらの方に大きなアドバンテージがありました。ただ個人的には甲乙つけがたい面もあるため、今のところ荷物の量によってこれをチョイスすることもなくはありません。
最後にファストパッキング向けバックパックの老舗であるULTIMATE DIRECTION FASTPACK 30 との比較です。収納性に関してはややどっこいどっこいといえるかもしれませんが、背負い心地の安定感ではやはり確実にこちらの方が上。それは両方背負って走ってみれば歴然です。
このように、ほぼほぼバランスの高さにおいて多くの競合よりも優れていると思われるRUSH 30 ですが、あと一歩進化の余地があるとすればそれはやはり収納についてで、そこには今後のバージョンアップでさらなる進化を期待したいところでした。とはいえ現状でも各所にあるループ等を駆使すればある程度自分で拡張することも可能ですので、正直そこまで気になっているわけではありませんが。
とにかく、もしこのバックパックの存在を知らなかったとしたら、オーバーナイトのファストパッキングから、何なら日帰りハイキング用にぜひ購入の検討に入れてみてください。背負ってみれば、これまでのバックパックの常識を覆す背負い心地に、きっと新しい世界が広がってくるはず。