Sea to Summit スパーク / スパークプロ -1C スリーピングバッグレビュー:最高水準の軽さと快適性をシンプルなフォルムに凝縮。その上コスパも最強な隠れた優等生シュラフ
前々から個人的に密かなお気に入りであった登山・ハイキング向けスリーピングバッグの「Sea To Summit スパーク」シリーズが2024シーズン、待望のアップデート。
山でのテント泊に不可欠な装備である寝袋で快適な睡眠を得るためには、暖かさはもちろん、軽さ、快適さ、利便性、価格など多くの要素が求められるものですが、多くの場合、暖かく快適になれば重くなるし、軽くすれば寒々しく窮屈で寝心地悪くなってしまうものです。そんなジレンマの隙間をかいくぐり、それぞれの要素を高いレベルでバランスよく保つためには、最先端のテクノロジーだけでなく、何をそぎ落として何をどこまで残すかといった「センス」も必要。
長らくいろいろな寝袋を見てきたなかでのぼくの見立てでは、その難しいバランスを最も上手にまとめ上げ、結果として最も実用性の高い製品に仕上げられたであろう寝袋がこのSea To Summitのスパークシリーズだったのです。そのスパークが数年ぶりのメジャーアップデートとあって、これは期待せずにはいられません。
今回はこの一段と進化した最新の「スパーク -1C」と、新しく登場した「スパークプロ -1C」を試してみることができましたので、早速テント泊登山で試用してみたレビューをお伝えしていきます。
目次
Sea to Summit スパーク/スパークプロ -1C の主な特徴
Sea to SummitのSpark(スパーク)シリーズ はクラシックなマミー型ながら細部まで無駄を省いて同クラスでのトップクラスの軽量コンパクトを実現したスリーピングバッグ。850+FP(プロは950+FP)の高品質に加えて、撥水加工を施したダウン中綿を採用。コールドスポットが極力生じないよう上半身と下半身で異なる構造を組み合わせたバッフル構造や、ジッパー周りのドラフトチューブなどによって、効率的な高い保温性を実現しています。10デニールの極薄ナイロン生地に短めジッパーなど軽量化にも余念がなく、氷点下まで耐えられる断熱性を備えながら公式重量で500グラムを切る軽さを実現(プロは619g)。今シーズン新たに登場した「スパークプロ」はサブジッパーの導入により柔軟な温度調節が可能。幅広い温度下で快適な寝心地を提供します。ミニマルな作りで最高級の快適さと保温性を提供するスパークは、春から秋にかけて重量とパフォーマンスを重視するハイカーの夜を暖かく保ちます。
お気に入りポイント
- フルレングス・フルサイズのマミー型としては驚くほど軽量コンパクト
- 850FP(プロは950FP)の非常に高品質でなおかつ撥水加工済みの濡れに強いダウン
- 極薄表生地の軽くてしなやかな極上の肌触り
- テント内でダウンが濡れにくいフードおよびフットボックスの防水透湿素材
- コールド スポットを生みにくい巧みなバッフル構造とドラフトチューブ
- (プロのみ)暑いときには足と手が出せるジッパーによって幅広い温度調節が可能
- (プロのみ)全開できるジッパーは2つのシュラフを合体して2人用にもアレンジ可能
- 欠点が少なく多用途
- 同クラスの高品質・高機能シュラフの中では手にとりやすい価格
気になるポイント
- 短めのジッパーはやはり暑くて蒸れる時の温度調節がしにくい(ノーマル)
- 多数のジッパーは便利な反面、操作が煩雑になったり、重さや柔軟性に対するマイナス面も無視できない(プロ)
主なスペックと評価
アイテム名 | Sea to Summit スパーク -1C(レギュラー) | Sea to Summit スパークプロ -1C(レギュラー) |
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適応身長 | 185cm※ウィメンズモデルもあり | 185cm |
収納サイズ | 13.5 × 19.5 × 34cm | 13.5 × 19.5 × 34cm |
生地素材 |
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断熱素材 | 850+プレミアムグースウルトラドライダウン(RDS認証) | 950+プレミアムグースウルトラドライダウン(RDS認証) |
公式重量 | 493g | 619g |
ダウン重量 | 265g | 310g |
公式下限温度 | -1 ℃ (ISO23537) | -1 ℃ (ISO23537) |
寸法 | 上から155 / 135 / 102cm | 上から155 / 135 / 102cm |
付属品 |
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Outdoor Gearzine評価 | ||
快適性 | ★★★★★ | ★★★★★ |
断熱性 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
収納性 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
使い勝手 | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
耐久性 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
多用途性 | ★★★★☆ | ★★★★★ |
詳細レビュー
フルレングス・フルサイズのマミー型としては驚くほど軽量コンパクト
スパークシリーズの形状は登山用の寝袋としてはオーソドックスな「マミー型」。中綿は背中部分や頭部周りも含めて全体に封入されています。長さもレギュラーサイズで身長185cmまでとかなり余裕をもった長さで、平均的な日本人で狭さを感じることは少ないはず。背が高い・低い人に合わせてロングサイズ(~198cm)・ウィメンズモデル(プロは無し、~170cm)も用意されています。
と、ここまで特に軽量化に気を遣っているわけでもないはずなのに、競合の寝袋に比べても軽くコンパクトに仕上がっているのは、このシュラフの従来から引き続く大きな魅力です。重量はスパークで493gと、氷点下まで耐えられるスペックで500gを切る軽さはかなり競争力の高い重量といえます。※「プロ」モデルの方は後述するジッパーのためにスパークシリーズの割にはそこまで軽くはありません。
パッキングも付属の圧縮機能付き収納スタッフサックに入れると、スパークの方は500mlペットボトルとほぼ同じ高さくらいまで縮められることができます(下写真)。
オーソドックスな作りで、なおかつ3シーズン用として十分な暖かさのシュラフにもかかわらず、どうしてここまでの軽さが可能なのか。その秘密は細部にわたってパフォーマンスと軽さどちらにも妥協せず突き詰めた素材選びと作りにありました。次からそれを紐解いていきましょう。
軽量性と断熱性を兼ね備えたトップクラスの高品質ダウン(しかも撥水加工済み)
スパークシリーズが開発された当初の第一世代から魅力だった最高峰の高品質ダウンは、今回も健在です。
重量当たりの断熱性(品質)を示す「フィルパワー(FP、嵩の高さ)」でいうと、600以上で高品質、800以上あれば最高級といわれているダウン。スパークで使用されているダウンは、持続可能な方法で調達され(RDS 認定)、ロフトの高さも850+ FPを誇ります(プロに至っては950+ FP)。しかも羽毛の種類もより大きな羽根で高品質なグースダウン。広く市場を見渡してもトップクラスの軽さと断熱性を備えているといえます。
しかも、このダウンにはあらかじめ撥水加工が施され、通常よりも濡れにくく(湿気を吸いにくく)なっています。ダウンは濡れてしまうと保温性を著しく失ってしまうため、濡れに対する弱さは(化繊中綿に対して)ダウンの弱点ともいわれており、この撥水トリートメントによってダウンが大気中の水蒸気から守られることで、より過酷な環境でのテント泊にも十分に対応することができるようになります。
そんなトップクラスに軽く、暖かく、その上濡れにくいプレミアムグースウルトラドライダウンはまさに現時点での最強ダウンといっても過言ではありません。
さらにその優れた中綿を詰め込んでいるバッフル(隔壁)の構造・配置にも一工夫がなされています。
胸部は保温性を高めるための(より立体的で広い空間を作る)ボックス構造、それを寝返りなどでも羽毛が偏りにくいよう垂直に並べたバッフル構造になっています(上写真左)。
そして寝袋の下半分は保温性と同時に通気性・軽量性のバランスを重視した(表裏生地を貫通して縫い合わせる)つぶし縫いのソウンスルー構造を採用し、こちらは水平方向に配置されています(上写真右)。この部位に合わせたボディマッピング設計で、限られた量の中綿で最大限の暖かさと快適さを提供できるように配置するようになっています。
極薄で軽量、耐久性の高いナイロン生地の軽くてしなやかな極上の肌触り
本体の表・裏生地は10デニールという極薄のナイロン生地を採用。しっかりと密に織られてダウン抜けもせず、耐久撥水加工済み、耐久性を失なわずに極めて薄手軽量な作りになっています。
自分は肌に触れるライナー生地のシルクのように柔らかく滑らかな肌触りが特に気に入っており、この心地よさだけをもってしても、いつもの山行用の寝袋にしてしまいたくなるほどでした。
テント内でダウンが濡れにくいフードおよびフットボックスの防水透湿素材
足元は、足の形状に合わせて立体的に形作られ(このクラスの寝袋ならば驚きではないですが)余計なストレスを抑えつつ、そこに十分な中綿を詰めることで冷えも防いでくれる作りになっていました。さらにありがたいことには、この足元と頭周りの生地は防水透湿素材になっているため、ちょうどテントの側壁にくっつくことが多いこの部分の防水性をしっかりと高められています。
前作よりも横幅がやや広くなり、標準的な広さで寝心地UP
前モデルまでのスパークは、決してゆったりといえるほどの横幅は無かったのですが、今回は前モデルに比べて少しだけ幅広になってくれたため、よりシュラフの中でゆったりとくつろぐことができるようになっていました。最高級のぬくぬくとした羽毛が(締め付けることなく)ふわっと軽やかに優しく包み込んでくれます。
確かにこれによって重量は微妙に増えてはしまいましたが、過去に軽量化によって横幅がかなり狭く窮屈すぎる残念なシュラフを買ってしまった経験があった自分にとっては、この寝心地アップは歓迎したいところです。
噛み込みにくく改良されたジッパーは、軽量化を意識して最小限の長さ
左側に設けられたジッパーは、生地の噛み込みを抑えるためのガード付きジッパーに進化し、より使い勝手が向上(下写真)。
さらに上下双方から開閉可能なダブルジッパー方式になっているため、首元を閉めたまま左手だけを出したり、上半身を開けて換気調節ができるようになっています(下写真右)。
ただし極力無駄を省いた作りもあって、スパークのジッパー長さは腰辺りまでしかない短めのデザインを採用しています(下写真左)。これは軽量化という点では大きなメリットがあるものの、夏場など暑い時期には熱を逃しにくく不便なので、スパーク-1Cを真夏の低山に持っていこうとは間違っても思いません。
一方でプロの方は足元含めて全体を開放できるので、より気温が高いときでも柔軟な対応が可能(下写真右)。この辺幅広い温度域での快適性はプロの方が一枚上手です。
最高品質ダウンと通気性向上のためのジッパーでより幅広い温度帯に適応できる「プロ」モデル
先ほども少し触れましたが、スパークとスパークプロの違いは、主に950+のより軽くて暖かい最高級ダウンが使われていること、そしてもうひとつはシュラフのメインジッパーが長く、さらにサブジッパー(フリーフロージッパー)が追加されてより利便性と幅広い温度で体温調節がしやすくなっているということが挙げられます。
具体的にはジッパーがメインの左側の他、右側、そして足元にもついており、それらを開けることでシュラフから両手足を出して、末端を冷やしながら寝ることができるようになっているのです(下写真)。
さらに、すべてのジッパーを完全に開けば、1枚の毛布としても使えます(下写真)。
これらのジッパーによって、プロの方は寒い春先や初冬だけでなく、真夏でも手足を出したりキルトとして使用することでちょうどよい暖かさで寝ることができるようになり、文字通り3シーズン快適に使うことができるでしょう。ノーマルなスパークの方が真夏に使うことが想像できないことを考えると、この汎用性の高さはかなりのメリットといえます。
ただ、とはいえその代わりにスパークプロが失ってしまった「軽さ」や「シンプルな使いやすさ」といったアドバンテージも決して無視できません。さまざまな季節・シーン・用途での汎用性の高さを選ぶか、用途は絞られるかもしれないけどそのシーンでのフィット感の高さを選ぶか、どちらもベースとなる品質の高さは確かですが、その判断はユーザーにゆだねられているといえます。
まとめ:軽さと断熱性が魅力のシュラフはより快適に、安全に、使いやすく進化して益々山用シュラフとして隙なしのクオリティ
もともと軽さと高い断熱性が魅力であったスパークシリーズは、このアップデートによって(微妙に重量は増したものの)さらに寝心地がよくなり、そして細かい部分でより安全で使いやすくなったことで、全体として軽量シュラフとしてのバランスが向上したといえます。そこは大きく評価したい点であり、依然としてぼくの中ではスタンダードなマミー型シュラフの中では3本の指に入る登山用シュラフです。
また新しく加わったスパークプロによって、従来の軽量ハイキング寄りだった用途からより幅広い季節とアクティビティに拡張され、こちらはそこまで限界の軽さは要らないから1つで1年中使えるシュラフが欲しいという人には響く製品だと感じます。その意味で個人的には(山行スタイル的にも)従来の正統進化である「スパーク -1C」をこれからのファストパッキングや沢登りに使っていくつもりです。
この軽さ(重量当たりの断熱性の高さ)は、スピードハイキングやファストパッキングなどに最適であることはもちろんです。そしてクセのないオーソドックスな作りは、一般的な登山や過酷なマウンテニアリングなどでもまったく問題ありません。基本的に多用途にフィットしやすいのがこのシュラフの魅力なので。
そして、最後にここだけは強調しておきます。忘れてはいけないのが驚きの価格です。ここまで完成度の高い高機能・高品質で、また海外ブランド製品でありながら、あり得ないほど安い。とはいってもここまでのお手頃価格は8月までで、輸入代理店であるロストアローの異次元の割引キャンペーンが終わってしまうとこの低価格も終わってしまうかもしれませんので気をつけましょう。
もし国産のシュラフしか知らないという人がいたら、ぜひともこのシュラフも試してみれば、きっとそのクオリティの高さにびっくりするはず。この夏、ぜひお店で手に取ってチェックしてみてください。