比較レビュー:究極のアウトドア向けヘッドランプを探して 2020【詳細レビュー編】
前回の投稿は約3年ぶりとなる、アウトドア向けヘッドランプ比較レビューのなかでも前半部、各部門別ベストヘッドランプの発表でした。
引き続き今回はその結果に至った、各項目での比較テストの結果を共有したいと思います。ここでは全20モデルが各テストでどのようなパフォーマンスだったのかを、なるべく分かりやすく見比べられるようにしてお見せします。ぶっちゃけこのサイトでの評価結果がどうだったかよりも、こちらの各テスト結果を見比べる方が個人的には皆さんにとって参考になるのではないかと思います。それくらいに興味深い比較結果が出ていますのでぜひお楽しみに。
なお繰り返しになりますが、これは当サイトが独自で可能な限り条件を揃えて公平に行った比較テストによるものですが、そこは専門の検査機関としてのテスト報告ではありませんので、結果については客観性や再現性を保証するものではありませんので、何とぞご了承ください。
テスト環境(再掲)
スペックだけではうかが知れないヘッドランプの実力を探るには、実際に点けてみるのが一番。ただ、いろいろな場所と使い方によって「良さ」基準は変わってきますし、電池の種類など、なるべく条件を揃えてあげないと公平とは言えません。そこでこのサイトではなるべく「そのヘッドランプを買ったユーザーが通常使用するであろう条件」「周囲の明るさを合わせるため屋外でのテストは同時間帯に」という基本的な指針のもと、2020年5月~9月にかけて、以下のような3種類のタイプのテストを実施しました。
- 外からの光をシャットアウトした真っ暗な室内で定量的な比較(強さ、広さ、バッテリー寿命など)
- 真夜中のトレイルで静止した状態、歩きながらでの比較
- 実際のフィールドで一通りの使い方を試しながら使用感をチェック
専用の充電式バッテリーが付属しているモデルは(アルカリ電池も使用できたとしても)充電式バッテリーを、ついていないモデルはメーカーの推奨する電池(アルカリ電池)を使って比較しました。両電池とも毎回フル充電・新品(同メーカー・同型)を使用しています。
明るさの測定には日本製の測定器を使用しました。照度計自体の品質や光の色の違いによって計測結果にはある程度誤差が生じることや、テストによっては光の当たり所が数ミリずれるだけで数値が大きく変化したりするので、絶対値としての測定値にはあまり意味がありません。評価に際しても、各ギアの時間経過での結果や、相対比較で使用しました。
評価一覧&スペック比較表
スマホ向けの軽量表示で表が見づらいという方はこちらの通常ページに移動してみてください。
総合評価 | AAA+ | AAA | AAA | AAA | AAA- | AAA- | AAA- | AA+ | AA+ | AA | AA | AA | AA | AA | AA | A | A | A | A | A |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アイテム | Black Diamond ストーム400 | Petzl スイフトRL | Black Diamond リボルト350 | Black Diamond アイコン700 | Petzl ナオ+ | SILVA Explore3 | mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ | mont-bell EXパワーヘッドランプ | Black Diamond スポット325 | milestone MS-F1: Trail Master | Ledlenser NEO10R Black | milestone MS-G2 | Ledlenser MH5 | Petzl アクティック コア | SILVA Trail Runner 4X | Black Diamond スプリンター275 | milestone MS-B6 | BioLite ヘッドランプ330 | GENTOS CB-532D | Petzl ビンディ |
ここが◎ |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
ここが△ |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
遠距離照射 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★☆☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★☆☆☆☆ |
近距離照射 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
電池寿命 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ |
使いやすさ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ |
重量 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ |
スペック | ||||||||||||||||||||
アイテム | Black Diamond ストーム400 | Petzl スイフトRL | Black Diamond リボルト350 | Black Diamond アイコン700 | Petzl ナオ+ | SILVA Explore3 | mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ | mont-bell EXパワーヘッドランプ | Black Diamond スポット325 | milestone MS-F1: Trail Master | Ledlenser NEO10R Black | milestone MS-G2 | Ledlenser MH5 | Petzl アクティック コア | SILVA Trail Runner 4X | Black Diamond スプリンター275 | milestone MS-B6 | BioLite ヘッドランプ330 | GENTOS CB-532D | Petzl ビンディ |
公式最大光量(lm) | 400 | 900 | 350 | 700 | 750 | 350 | 200 | 700 | 325 | 850 | 600 | 400 | 400 | 450 | 350 | 275 | 220 | 330 | 420 | 200 |
公式最大照射距離(m) | 9~100 | 12~150 | 8~80 | 15~140 | 65~140 | 10~75 | 5~90 | 125 | 8~80 | 80 | 20~150 | 33 | 40~180 | 5~90 | 20~75 | 8~50 | 70 | 16~75 | 116 | 6~36 |
公式最大照射時間(h) | 5~150 | 2~100 | 3~120 (専用バッテリー) | 7~190 | 1.5~15 | 40~55 (+20℃) | 5~72 | 3.5~144 | 4~200 | 5.5~19 | 10~120 | 14 | 4~35 | 2~130 | 5~18 | 4~100 (専用バッテリー) | 45 | 3.5~40 | 31 | 2~50 |
照射モード | 近接・遠距離 | ワイド・ミックス | 近接・遠距離 | 近接・遠距離 | ワイド・ミックス・スポット | ミックス | 白色・電球色 | ミックス | 近接・遠距離 | 白色・電球色・ミックス | スポット・ワイド | ワイド | スポット・ワイド | ワイド | ミックス | スポット | 白色・電球色 | ワイド・ミックス・スポット | スポット・ワイド | ワイド |
公式重量 (本体+バッテリー) | 120 | 100 | 90 | 236 | 185 | 88 | 80 | 263 | 86 | 180 | 179 | 28 | 94 | 75 | 133 | 105 | 97 | 69 | 116 | 35 |
専用バッテリー | – | ◯ | ◯ | – | ◯ | – | ◯ | – | – | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | – | ◯ | – | ◯ |
乾電池利用 | 単4アルカリ電池×4 | × | 単4アルカリ電池×3 | 単3アルカリ電池×4 | × | 単4アルカリ電池×3 | × | 単3アルカリ電池×4(さらにモバイルバッテリーも利用可) | 単4アルカリ電池×3 | × | × | × | 単3アルカリ電池×1 | 単4アルカリ電池×3 | × | 単4アルカリ電池×3 | 単4アルカリ電池×3 | × | 単3アルカリ電池×2 | × |
ニッケル水素充電池の使用 | ◯ | × | ◯ | ◯ | × | ◯ | × | ◯ | ◯ | × | × | × | ◯ | ◯ | × | ◯ | ◯ | × | ◯ | × |
自動調光 | × | ◯ | × | × | ◯ | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ◯ | × | × | × |
無段階光量調節 | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | × | × | ◯ | ◯ | × | × | ◯ | × | × | × | ◯ | ◯ | ◯ | × | × |
防水性能 | IP67 | IPX4 | IPX4 | IP67 | IPX4 | IPX7 | IPX6 | IPX6 | IPX8 | IPX5 | IP54 | IPX4 | IPX6 | IPX4 | IPX5 | IPX4 | IPX5 | IPX4 | IP64 | IPX4 |
赤色照明 | ◯ | × | ◯ | ◯ | × | ◯ | × | × | ◯ | × | × | ◯ | ◯ | × | × | × | × | × | × | ◯ |
マルチカラー照明 | ◯ | × | × | ◯ | × | ◯ | ◯ | × | × | ◯ | オプション | ◯ | × | ◯ | × | × | ◯ | × | × | × |
リアライト | × | × | × | × | ◯ | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | ◯ | × | × | × | × |
ロック機構 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | × | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | × | × | × | ◯ |
バッテリー残量表示 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | × | × | ◯ | ◯ | × | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | × | ◯ | × | × |
頭部以外への装着 | × | × | × | × | × | ◯ | × | × | × | × | ◯ | ◯ | ◯ | × | × | × | × | × | × | ◯ |
各項目詳細比較レビュー
アウトドア向けのヘッドランプには、夜間行動で奥まで続くトレイルの道筋や目印を照らしたり、テント泊や野営中に作業をするために手元を照らしたりなど、用途の異なる多様な種類の明かりが必要です。このため、このアウトドア向けヘッドランプの評価では、前者の遠くまで照らす光を「遠距離照射」評価、手元や周囲を見やすくしてくれる光を「近距離照射」評価として、2種類のビーム評価を行ないました。当然モデルによっては遠距離照射が存在していないモデルや、逆に近距離照射が存在していないモデルがあり得ます(そうしたモデルにとっては、片方の評価の低さを気にする必要なんてまったくありません)。
遠距離(トレイル)照射性能
ここでは主にトレッキングやトレイルランでの夜間行動中に前方を明るく、そして歩きやすく照らしてくれる性能を比較しています。
単純にいえばライトによって昼の状況に近ければ近いほどいいはず。つまりより遠くに、そしてより全体を明るくしてくれるビームが優秀ということです。
遠くに届かせるためには、ヘッドランプから発せられる限られた量の光を光源の周囲にある反射板によって集約します。ただ光を集めすぎると、遠くまで届いたとしてもその代わり照射範囲が狭く絞られてしまい、足元が見にくかったり、周囲の状況がまったく見えず、帰って歩きにくいといった状況になってしまいます。
遠距離照射では光のパワーやどこまで遠く照らせるかだけでなく、足元や周囲の見やすさとのバランスが非常に大切といえます。このように単なるスペック的な「光量(明るさ)」だけでなく「照射距離」、そして実際での「見やすさ(快適さ)」が遠距離照射での評価ポイントです。
なお、「照射距離」とはそもそも何だ?という人は、以前書いた「ヘッドランプの選び方」に詳しく書いていますので、興味のある方は参考にしてみてください。
そこでテストでは各モデルの最高出力(遠距離照射モード、自動調光機能は使用せず)で、約2.5m離れた先の円形チャートに向かって照射した様子と約5m先の木に向けたフィールド照射とを撮影し、比較してみました。
- 約2.5m離れた先の円形チャートに向かって照射
- 約5m先の木に向けたフィールド照射
まずは各モデルが公表しているスペックを押さえておきます。遠距離モード最大出力での光の強さと照射距離を比べてみます(下表)。
アイテム | Black Diamond ストーム400 | Petzl スイフトRL | Black Diamond リボルト350 | Black Diamond アイコン700 | Petzl ナオ+ | SILVA Explore3 | mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ | mont-bell EXパワーヘッドランプ | Black Diamond スポット325 | milestone MS-F1: Trail Master | Ledlenser NEO10R Black | milestone MS-G2 | Ledlenser MH5 | Petzl アクティック コア | SILVA Trail Runner 4X | Black Diamond スプリンター275 | milestone MS-B6 | BioLite ヘッドランプ330 | GENTOS CB-532D | Petzl ビンディ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
公式最大光量 (lm) | 400 | 900 | 350 | 700 | 750 | 350 | 200 | 700 | 325 | 850 | 600 | 400 | 400 | 450 | 350 | 275 | 220 | 330 | 420 | 200 |
公式最大照射距離 (m) | 100 | 150 | 80 | 140 | 140 | 75 | 90 | 125 | 80 | 80 | 150 | 33 | 180 | 90 | 75 | 50 | 70 | 75 | 116 | 36 |
単純な光の強さ(ルーメンlm値)だけでいえば、最も高いのはPETZL スイフトで900ルーメン。ただ照射距離のトップはLedlenser MH5 で180mとなっているように、単純にパワーだけでなく、反射板の性能や構造によってどれだけ前方に集光するのか(できるのか)ということも遠距離照射性能に関係してきます。それを踏まえて、実際にまずは室内の約2.5m離れた円形チャートへの照射を見比べてみましょう。
一覧比較:円形チャートへの照射
それぞれを見比べてみると各モデルで「光の強さ・色味」と「光の広がり方」の特徴に個性があることが一目瞭然で分かります。中心が明るくなっているモデル、光に偏りがなく全体的に光が散らばっているモデル。これがヘッドランプを選ぶ上でも重要な特徴になります。
最も奥まで届く中心部分の明るさだけを見ると、想像通りLEDLENSERはワイドモードにも関わらず見るからに明るい(補足:PETZL NAO+とスイフトRLに関しては、最高出力が出るリアクティブで試せていないため、その部分は差し引いて考える必要があります)。ただ、中心部分以外での急激な暗さが目立ちます。一方でPETZL NAO+、スイフトRL、Black Diamond アイコン700、ブーストモードのmilestone MS‐F1 Trailmasterについては、明るさも抜群でしかも画面の縁まで広く明るく照らされていることが分かります。それ以外のモデルについては、光量が少なかったり、中心付近の光量はあるものの周辺の明るさが著しく弱かったりして、相対的に何かしら物足りなさが残ります。
これを実際のフィールドで照らしてみるとどのように見えるのか。それを見比べてみたのが下の写真です。
一覧比較:トレイル照射
ここでじっくりと見比べてみると、前方の木がはっきりと見え、なおかつ足元・周囲まで広く見やすいと感じたのはPETZL NAO+、スイフトRL、Black Diamond アイコン700、mont-bell EXパワーヘッドランプでした。milestone MS‐F1 Trailmasterもブーストモードでは負けないくらいに明るく見やすいです。
また円形チャートのとき同様、一見するとLEDLENSERの2モデルは照射範囲が抜群に明るく見やすく思えますが、中心の木はそこまで明るく照らされておらず、さらに照射範囲が他と比べても狭いことが分かると思います。正直好みの部分もあるかもしれません。
次点でBlack Diamondのストーム400、アクティックコア、GENTOS CB-532D、あたりが遠く・広く照らされていることが見てとれます。スペックでは3モデルともほとんど光量は変わりませんが、トレイルでの写真をみると、ワイドに照らすCB-532D、遠くに照らすストーム400・その中間のアクティックコアと言えなくもない。このあたりは用途や予算によって好みが分かれそうです。
補足:各モデルでの拡大写真
※写真ではかなり暗く見えているとしても、人間の視覚は無意識のうちに暗さに対応していくため、暗いと思われるライトも実際には時間が立つと写真よりも多少明るく見えてくるということはご留意ください。
近距離(手元)照射性能
キャンプや登山においては夜中歩くことは緊急時以外そこまで多くはないため、ある意味最も使用頻度が高いかもしれないのがこの近距離への照射です。ここでは近くの対象物を照らしたときの見やすさを評価します。
明るくはっきりと見えることはもちろん重要です。ただ直視できなくなるほどの明かるさは逆に見にくくなりますし、広くなければ全体が見にくくて不快・不便です。大切なのは、身体や視線を動かさないでも視界全体をはっきりと見やすい明るさで照らしてくれるような「より広く、均一に広さと強さがコントロールされた」照明ということになります。
それを踏まえた上で、今回は各モデルの近距離モード(近距離モードがないモデルは通常モード)で約60cm離れた円形チャートを照らして見比べてみます。
一覧比較:円形チャートへの照射
はじめに補足ですが、この比較写真で明らかに明るいモデルのなかには、そもそも近接モードがついていないため、そのまま通常モードの”強”で照らしているものです。きっとこれらのモデルで実際に手元を照らす場合には中や弱などの暗いモードに調整すると思いますが、照射範囲がよりくっきりと分かると考え、強モードで撮影したものを比較しています。
最も均一かつワイドな照射範囲で、目にも優しい明るさをつくっていたのは、milestone MS-G2。比べて分かるように、見事なまでに隅々まで均一にクリアな明るさを形作っています。照射範囲は自分の視界よりも広く、ライトの縁はまったく気になりませんでした。テント内や早朝の準備などの快適さは普段あまり気にしませんが、比較してみるとここまで違うものかとあらためて驚きです。
その他では、Black Diamondの各製品に装備されている近接モードが明るさ・フラットさともに品質が高く快適でした。他には広さこそもう少し欲しいものの、明るさとフラットな見やすさではLedlenserの2モデルも快適といえます。また、明るさを除けば自然な見やすさと均一な広がりでmont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ、BioLite ヘッドランプ330もなかなか優秀でした。
補足:各モデルでの拡大写真
バッテリー寿命
照射時間(電池寿命)は単純に長ければ長いほどよいのは当たり前なのですが、ヘッドランプという道具の性質上、寿命が尽きるまで100%のパフォーマンスを発揮できるわけではなく、評価にあたってはその減り方に注目して比較してみることが重要です。
例えば「10時間」という表示があったとしても、当然MAXの明るさが10時間続くわけではありません。また、10時間一定の割合で明るさが減っていくというわけでもありません。実態はそんな単純なものでもなく、モデルによってははじめの1時間で最大光量から半分以下の明るさに減ってしまうものもあります。さらに表示された寿命が一体どのような状態でどのような照射モードで測ったものなのか、一見すると分かりにくい表示になっていたりすることもあります。
これは各メーカーが公表している計測値が自社基準によるものであるところが大きく、主要なブランド間ではその基準も揃ってきてはいるものの(最近では「ANSI FL1」といった新しい統一規格もあり)、まだまだ表示された寿命はあくまでも目安として考える程度に留めておく必要があります。
バッテリー寿命の性能比較はかように複雑な特徴同士を比較することもあって、誰からも突っ込まれない完璧な基準というものは難しいと思います。そこでこのサイトでの評価は以下のように2つの視点、4つの指標を総合してバッテリー寿命を評価しスコアリングしました。
- 5時間経過後、照射開始直後に比べて照度の下落割合がより少ないモデル
- 3時間経過後、照射開始直後に比べて照度の下落割合がより少ないモデル
- 1.5時間経過後、照射開始直後に比べて照度の下落割合がより少ないモデル
- 5時間経過後、高い照度を保っているモデル
今回は各モデルが同じ条件ではそれぞれどのような減り方をするのかということを知るため、遠距離モード(ブーストモードやリアクティブモードなどの瞬間的・自動制御的なモードを除いたMAX出力)で5時間照らし続け、その間の照度の変化を測定しました。1.5m離れた場所から壁の照度計に向かって照射した光を測定した結果が下のグラフです。横軸は時間、縦軸は照度です。ちなみにここでの照度は照度計によって得られた照度(lux、ルクス)であり、少しでもずれると数十ルクス変わることもあるので、厳密な比較できる数値としては信頼性をもちません。ただし概算での比較や、同一モデルの5時間での変化量としては概ね信用できる値であると考えています。
技術的な限界から、20モデルすべての時間による照度変化を1つのグラフに収めると見づらすぎるので、便宜的に3つのカテゴリに分けてみました。
バッテリー寿命比較:登山・オールラウンドタイプ
ここでは、基本的に登山利用で最適化された機種、結果としては夜間行動・野営とオールラウンドに利用可能なタイプ12機種を集めて、照射時間と明るさの変化を表したグラフです。明るさそのものを比較するものではなく、時間経過にともなうバッテリーの消耗と、明るさの変化を見ていただければと思います。
まず全体的にわかるのは、明るさの変化には大きく分けて2種類あることです。
- 一定の照度を保ちながら一定の点で一気に落ち込むタイプ(特にリチウムイオン電池モデルに多い)
- 徐々に(数段階の落ち込みを経て)明るさを失っていくタイプ
この違いは単純な良し悪しではなく各モデルの特徴として捉えられ、これらはアクティビティによって、長所となり短所ともなります。例えばトレイルランニングに利用したい場合では、明かりがほとんどない山中を走り続けるため、行動中はずっと足元・そしてやや前方をしっかりと視認できる明るさで照らし続ける必要があります。となると、最大の明るさよりも、一定の光量を長く持続するという性能が求められます。逆にキャンプでは一定の明るさを長時間維持する必要はなく、徐々に暗くなればバッテリーの減少も感覚でわかるので便利です。もちろんずっと高いレベルであるに越したことはありませんが、このような設計の違いによる特徴を踏まえて、自分の求める性能を選ぶことがより賢い選び方といえるでしょう。
この結果をどう見たかですが、5時間を経過して高い照度を保っていた、Black Diamond リボルト350、mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプ、2モデルは総じて5時間経過した後でも明るい、という意味ではひとまず「寿命が長い」モデルであるといえます。Black Diamond リボルト350は照射開始時点の明るさも高いレベルにもかかわらず、さらに5時間経過してもその約25%以上の明るさを保っていました。一方リチャージャブルヘッドランプは最大光量が200ルーメンと少ないからか、5時間経っても照射開始時点の明るさから50%以下を下回ることはありませんでした。
一方で1.5時間まで限定で考えると少し状況が違ってきます。PETZL スイフトRL、Black Diamond アイコン700、Black Diamond ストーム400、mont-bell EXパワーヘッドランプなどは高いレベルで一定の照度を保ち続けています。ただ、PETZL スイフトRLは135分あたりで一気に明るさが落ち込むため注意が必要です。高い照度で2~3時間程度の利用であれば、これらのヘッドランプの方が高いパフォーマンスで快適に利用できると考えられます。
※PETZL NAO+・スイフトRL・milestone MS-B6は「リアクティブモード」という周りの明るさによって光を調光してくれるシステムを備えています。今回の計測にはリアクティブモードは用いていないため常に強い明かりを出し続けていましたが、実際に山などで使用する際リアクティブモードがうまく作動してくれれば、適度な明るさをより長い時間維持してくれそうです。
なお、mont-bell EXパワーヘッドランプは標準のオプションとしてモバイルバッテリーにUSB接続することができるため、実はバッテリーに関して今回最も潜在能力を秘めているとも言えるのは忘れてはなりません。
バッテリー寿命比較:トレイルランニング向けタイプ
次に、明確にトレイルランナー向けと銘打っている5モデルについてバッテリー消費の様子を見ていきます。
PETZL NAO+はスタート直後の飛び抜けた明るさが、ほとんど落ち込むことなく、90分あたりまで高いレベルを維持し続けます。これに加えてリアクティブモードで消費が抑えられればさらに持続します。そして落ち込んだという90分以降の明るさも、実際には十分使える明るさで5時間経過しても照らし続けてくれますので、明るさだけでいったらやはり文句なしです。
またSilva Trail Runner4xは、スタート直後落ち込みはするものの、それ以降は5位時間経過後まで殆ど変わらぬ明るさを維持し、後半はNAO+より高い値を維持しています。
おもしろいのがmilestone MS-F1 :Trailmasterで、照射開始時点の明るさがまったく落ちないで210分あたりまで使えます。このような特性をもったモデルは他になく、使い勝手としてはなかなか気持ちの良い設計です。
アイテム | PETZL NAO+ | milestone MS-F1 :Trailmaster | LEDLENSER NEO10R Black | SILVA Trail Runner 4X | Black Diamond スプリンター275 |
---|---|---|---|---|---|
グラフ |
バッテリー寿命比較:軽量・軽アウトドア向けタイプ
最後は日常・キャンプなど軽いアウトドア使用に最適化されたモデルを比較します。今回このカテゴリは数が少ないこともあり一部登山向けのエントリーモデルも重複していますがグラフに入れ込んでみました。
このタイプのヘッドランプでは、mont-bell リチャージャブル パワーヘッドランプとBlack Diamond スポット325は登山でも十分使えるパワーがあるのは当然として、それ以外で目立つのはBioLite ヘッドランプ330の3時間までの高い照度と、milestone MS-G2の3時間以降でも明るい持続時間でしょう。
重さ・機能・使いやすさ
この項目では明るさや見やすさといったビーム性能以外で、機能性、操作性などの道具としての使い勝手についてをまとめて評価しています。
重量に関してはやはりパワーよりも手軽さを優先しているキャンプ向けモデルやサブライトにどうしても軍配が上がります。基本的には軽いものほど点数が高いわけですが、milestone MS-G2は軽量な専用バッテリーを使用して28gという驚きの軽さにも関わらず、高い出力とバッテリー寿命も備えており非凡さが際立っているといえるでしょう。あまりにも軽量コンパクトすぎてうっかり無くしてしまうほど(買い直し済み……)。
機能や使いやすさについて、ここ数年でどのブランドのモデルも基本機能が底上げされており、誤点灯を防ぐロック機構、バッテリー残量表示、点滅・RED照射機能などはほとんどのモデルで実装されるようになりました。その意味では昔に比べて差は拮抗してきており、単純な機能のあるなしだけでは比べにくい状況でした。
そのうえで、基本的には加点方式でより便利な機能がたくさん付いているモデルを選ぶとすれば、SILVA Explore3が挙げられます。IPX7の防水性能、軽量でグローブの上から操作しやすく、誤動作もしにくくなっているボタン、間違いにくいシンプルな操作系、通常光の点滅・赤色光の他に、文字を認識しやすい琥珀色の光も照射できる近接照射機能、バックパックのチェストベルトに装着可能なアタッチメント、さらにはランタン代わりにもなる付属収納袋など、実用性のある機能や付属品がこれでもかというほど揃っていました。
その他目立ったところを挙げると、トレイルラン用途として、PETZL NAO+はスマホ連動を中心としたスマートな機能に加え、背面のRED表示や重量バランスを考えた外れにくいヘッドバンドなどランニング向け機能が充実しているのが特徴。
Black Diamondはどの機種も際立った機能があるわけではないものの、使いやすい必要十分な機能がまんべんなく備わっており、2ボタンになって操作も迷いにくくなっていたりと、かなり整理されて安心感が出てきました。ワンタッチで最大照度に切り替わるパワータップ機能も、ややこしさを廃する気遣いを感じます。
それから今回最も今後の発展が興味深かったのが、mont-bell EXパワーヘッドランプに実装されたモバイルバッテリー接続機能です。これは従来のような電池での給電以外に、専用のUSBケーブルで市販のモバイルバッテリーに接続しても使用することができる機能。スマホやスマートウォッチの利用が当たり前の今では、大容量モバイルバッテリーも装備のひとつとして一般的になってきており、これによって電源の有効活用ができるとなればかなり魅力的です。今後はオプションでもいいので、他のメーカーなどでも取り入れられていくことが期待されます。
まとめ
たかがヘッドランプ、されどヘッドランプ。こうしてみると実は奥が深い道具であることが分かっていただけたかと思います。
今回はBlack Diamondの全体的な底上げが目立ちました。総合力で考えた場合での品質は高く、度のモデルを選んだとしても基本的に公開はしないと思いました。
一方先鋭的な機能・性能という意味ではやはりPETZLも決して負けてはいません。トレイルランや、ファストパッキング、キャンプなど、より具体的なアクティビティに絞った比較であれば威力を発揮するモデルが揃っているのが強みでしょう。
それ以外でも、予算やこだわりなど様な条件が加われば、その他のブランドのモデルも基本的には十分満足のいくものだったと思います。ただ、それぞれの目的や好みに合わせた自分にとっての究極のヘッドランプを選んでみるのも、意外と楽しいということが分かってもらえれば嬉しいかなと。