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【後編】本当は秘密にしておきたい、伊豆半島絶景トレイルの旅 RIVERS ウルトラライト ハイカーマグでの極上シェラカップ飯と、大ブナの下でのコーヒーチェアリングと

Riversのコーヒー・クックウェアをソロハイカーの視点からとことん使ってレビューする企画。

今回はテントサイトでマグを使ったソロハイク飯の実践、そしていよいよ伊豆半島の最深部でのハイキング&コーヒーチェアリングの様子をレポートしていく。

1日目夜:「ウルトラライト ハイカーマグ」で作る、手軽で絶品な珠玉のソロキャンプ(ハイク)飯

夜、テントサイト。密かに楽しみにしていたソロハイク飯の時間だ。

ソロハイクでは荷物を軽量化するため、食事もお湯で戻すだけのごく簡単なもので済ませてしまう人が多いが、自分はどうしても「もったいない」と思ってしまう。その結果なかなか思い切った軽量化ができない半端なULハイカーだ。

日中もひとりで歩いている時に何を考えているかというとだいたいその日の夕食のことだったりする。学生ワンゲル時代には無駄に大きなコッヘルを担いでお米を毎日炊くことに慣れていたからかもしれない。もちろんどんな場合でもというわけではないが、簡単でもいいから何かしら自分で調理・アレンジするような食事を摂りたいと思ってしまうのだ。

そんな自分の調理欲と軽量化欲をバランスよく満たしてくれるのが、小さなクッカーでも調理できてしまう、簡単な「シエラカップ飯」だ。今回の旅ではコーヒーカップとして最適な「ウルトラライト ハイカーマグS」に続いて発売された、少し大きなサイズの「ウルトラライト ハイカーマグM」を使ってソロでも満足の行く食事が作れるか、クッカーとしてどの程度使えるのかを試してみた。

まずこの「ウルトラライト ハイカーマグ」の外観だが、軽くて頑丈なチタン製のカップで、重さはSサイズでわずか34g(Mサイズは44g)。おなじみのつや消し加工がなされた色気のある質感が所有欲をそそる。

マグカップよりも幅広で、シエラカップよりも深いフォルム、開発段階で意図していたかどうかは別として、飲料を飲むのにも、ちょっとした調理をするのにも便利な形状。また底部分の柔らかな丸みはチタン製カップとしては珍しく、何とも愛らしさが感じられる。

取っ手はスタッキングを考えて下部分をオープンにしたタイプ。確かにこれによってカップ同士を重ねることが可能になっていて便利。ただしこの取っ手は折り畳むことができない点や、「カラビナを通してザックに引っ掛ける」といった、シエラカップあるあるのスタイルを決めこむことができないという点で少し不便だ。そもそも自分はカップを外にぶら下げない派なのでそこまでは気にならないが、気にする人は気にするポイントではないだろうか。

容量・サイズはSサイズで180ml、こちらは完全にコーヒー1杯という量を意識した大きさ。一方で新発売のMサイズは320ml。大きすぎず小さすぎずだが、ここでイメージしやすいようによくある山食の既製品で当てはめてみると、フリーズドライの1食ならば問題なく調理できる大きさだが、カップラーメンのリフィルで分量通りのラーメンを作るには若干小さい(330mlのお湯が目安とある)サイズだ。

でも安心してほしい、MサイズのマグにはOD缶のガスカートリッジ(110サイズ)がちょうどピッタリ入る大きさになっている。パッキングにシビアなUL系ハイカーでもこれならひとまず納得だろう。

チキン春雨スープ

外観とサイズ感が分かったところで、早速調理をはじめよう。まず手はじめに少し腹持ちの良いスープを作ってみる。カップの中に適当な量の水を入れ、そこに焼き鳥缶(塩)と春雨を入れてひと煮立ち。塩で味を整え、青ねぎと一味唐辛子を入れれば、この通り。ものの5分で立派なチキン春雨スープの出来上がり。味は好みで何を足してもOK!

このレシピのように、ソロキャンプ(ハイク)飯の肝は、とにかく持ち運びやすい材料でできる料理であること、さらに細かい調理を必要とせず、基本的に煮る・茹でる等で完結することがポイントだ。

オリーブトマトパスタ

今度は少し手の込んだものも試してみよう。ブラックオリーブとマカロニ、そしてにんにくチップを入れて火にかける。沸騰して2分ほどのところで、いい感じに切ったミニトマトとトマトペーストを加え、お湯が適度に飛ぶくらいまでマカロニを戻しながらグツグツし続ける。最後は可能であればオリーブオイル・塩・こしょうで味を整えれば、これまたちょっとした材料とシエラカップで数分調理しただけでオリーブトマトパスタができてしまった。

ちなみに、このマグのように薄いチタンカップを水が張られていない状態でガスストーブを強火で熱すると、熱が1カ所に集中してしまい、変形・変色の恐れがある。そんな時は下の写真のようなバーナーパットと呼ばれるステンレスメッシュの下敷きを使うといい。炎を広範囲に拡散させ、柔らかな熱へと変換してくれるので、チタンのように熱の回りがアルミほどよくない素材でも調理がしやすいのだ。

にんにく子豚鍋

320mlのマグカップでどこまでできるのか、正直はじめのうちはあまり期待していなかったが、ここまでで既に完全に料理を楽しんでいる自分がいた。
次はお待ちかねのメインディッシュ。その名も「にんにく子豚鍋」にトライ。これは生の豚バラ肉を使用するので作れる場面は限られるかもしれないが、調理の限界を探る意味では意義のあること。とはいえ作り方はこれまで通り、切って、入れて、煮るだけだ。

豚バラ肉とにんにくチップさえ入っていれば、他の材料はインスピレーションでなんでもOKだろう。今回はしめじ・青ねぎを入れてみた。味はこれだけでも旨味がよく出ているので十分イケる。お好みで中華スープ・味噌・醤油など味付けを変えてもいい。

みそラーメンスープ雑炊

最後に、ソロハイク飯のもう一つの鉄板レシピである雑炊を作ってみた。材料は下の写真のみで包丁を使う手間は一切なし。当然だが、調味料や食材も必要な分だけ小分けにして持ち運べば、工夫次第でもっとコンパクトになる。

お湯にお味噌と鶏がらスープ、にんにくチップ、牛脂を入れて火にかける。沸騰して牛脂が溶け始めたらそこにおむすびをIN。

あとは普通に雑炊を作る手順と同じように、材料を加えながらぐつぐつ煮るだけ。今回は入れなかったが生卵があれば、恐ろしく豪華なみそラーメンスープ雑炊になるだろう。

本格ソロハイキングに対応する軽さと、食べやすさ・飲みやすさ、そして上質なデザインを兼ね備えたウルトラライト ハイカーマグは、Mサイズが加わったことでコーヒーを飲むだけでなく、切り詰めた中での満足のいく調理も可能であることが分かった。いわゆる山屋御用達の超軽量クッカーにはないこの味わい深さは、個性を重視するハイカーには特におすすめだ。

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2日目:ハイキングの醍醐味が詰まった伊豆山稜線歩道へ、大ブナに逢いに行く

ソロハイク飯として予想外に贅沢な夕食を愉しんだ翌日は、初日よりもさらに森の奥深くへと分け入り、原生林の中に佇む推定樹齢500年ともいわれる「大ブナ」に逢いに伊豆山稜線歩道を歩くのがテーマ。

伊豆半島のへそに位置する天城峠から修善寺虹の里までの西天城エリアの全長約43kmの尾根を連ねる伊豆山稜線歩道は、多くの峠やピークを通して深い原生林あり、開けた草原あり、富士の絶景ありと充実したハイキングが楽しめるロングルート。ぜひともスルーハイクでやりたいコースではあるが、それはまた次の機会に。今回はマイカーでの入山という事情からやむなく天城峠~猫越岳をピストンとなった。

日本列島のなかでも特異な自然を形成してきた伊豆半島ジオパーク

伊豆半島が、なぜこんなにも新鮮な魅力を放っているのか。それは本州の他の地域と大きく異なる地質学的な特異性にあるという。

本州を構成する3つのプレート「ユーラシアプレート」「北米プレート」そして「フィリピン海プレート」のうち、伊豆半島は本州のなかで唯一「フィリピン海プレート」上に位置している。

伊豆半島は約2000万年前、日本から数百kmも遠く南にある海底火山群だった。火山活動によって島ができ、プレートとともに北に移動し、やがて本州と衝突。そして約60万年前に、ようやく現在のような半島の形になったという。

半島となってからも約20万年前まで陸上のあちらこちらで噴火が続き、天城山や達磨山といった現在の伊豆の骨格を形づくる大型の火山が生まれた。現在でも地中の活動は続いており、プレートの動きは現在も伊豆の大地を本州に押し込み続けている。これらの標高の高い場所には多くの雨をもたらし、ブナ、アセビ、ヒメシャラ、シャクナゲなどの原生林や、ここだけしか自生していない固有種も育んできた。

こうした二重三重の地質学的特異性が、日本の中でも独特の自然環境を形成しているのだ。そんな伊豆半島は、ユネスコが定める地質学的にみて特に重要で貴重な、あるいは美しい地質遺産を含む一種の自然公園として認められた「世界ジオパーク」のひとつとして保護・教育・地域振興のプログラムが推進されている。

これほどまでに貴重な自然が大都市東京のすぐそばに鎮座していたなんて。まったくまだまだ自分は日本を知らない。もっと歩かなければ。

ハイキングの醍醐味が詰まった伊豆山稜線歩道へ、大ブナに逢いに行く

昨日の八丁池周辺コースと違って交通アクセスが極端に悪いこちらのルートは思った通り、人の気配がほとんどなく、静かで最高に雰囲気の良いトレイルだった。そして昨日に比べてもさらに緑は濃く、歩きはじめてすぐに風格たっぷりの巨木がそこら中に次々と現れるようになる。森に包まれながらの静かなハイキングは、大げさではなくン十万年前にタイムスリップしたかのような感覚すらしてくる。

ブナの巨木も素晴らしいが、手引頭から猫越岳までに見られる、大きく育ったアセビの森も圧巻だ。曲がりくねりながら広がった無数の枝が幽玄で怪しい雰囲気を醸し出しており、まるで西洋のおとぎ話の世界に迷い込んだかのよう。思った通り、伊豆半島ジオパークの最深部は想像をはるかに上回るほど新鮮で多彩な自然を見せてくれる。

この日、引き返すことになった猫越岳の展望台からは、遠く駿河湾や富士山までも見渡せた。変化に富んだ天然のエンターテイメントが五感を刺激する。森フェチだけでなく眺望フェチにもたまらない、このトレイルがどんなひとにもおすすめできる理由のひとつだ。

大ブナに寄り添いながら愉しむコーヒー ~コーヒードリッパー ケイブ リバーシブル&ドリッパーホルダーポンドF~

先ほども書いた通り、この日の目的地は峠でも、山頂でもない。手引頭付近にあるという1本の巨木「大ブナ」だ。正確な位置も分からないし、何か札が下がっているわけではないので素通りしてしまわないかと不安が無いわけではなかったが、結論から言うとそんな心配は無用だった。

ここまで何十本とブナの巨木の横を通り過ぎてきたが、そのブナだけは別格。幹の太さといい、枝の張り出し方といい、びっしりと張り付いたコケの濃さといい、見た途端それだと分かるほど、圧倒的な存在感を放っていた。

ようやく出会えた大ブナ。周囲はこの樹木が放つオーラに気圧されているかのように開けており、上手くチェアリングさせてもらえそうな気配。早速邪魔にならないような場所を借りて、お目当てのコーヒーチェアリングの準備にとりかかった。

今日のコーヒーは、Riversのもう一つのコーヒー抽出システム「コーヒードリッパー ケイブ リバーシブル&ドリッパーホルダーポンドF」の組み合わせで淹れてみた。

「コーヒードリッパー ケイブ リバーシブル」は、アウトドアでこだわりのペーパードリップを愉しむための軽量ドリッパー。柔らかいシリコン製だから、パッキングのしやすさは言わずもがな。円錐の角度が50°と少し鋭角になっているのは、抽出時によりコーヒー豆がお湯にしっかりと絡むようにという計算された角度だという。安定感という意味でも鋭角は有利だ。

味へのこだわりはこれだけではない。”リバーシブル”という名前が示す通り、このドリッパーは裏と表で異なる「リブ(内側に刻まれた凸凹)」を備え、抽出具合を自分のこだわりで選ぶことができるというのだ。

リブの役割はフィルターペーパーとドリッパー本体の間に隙間を作り、お湯の流れをコントロールすること。より太いリブはより隙間を多く作り、抽出スピードは遅く(抽出時間が長く)なる。すると同じ淹れ方でもより苦みが強調され、酸味を抑えた抽出が可能になる。

一方でより細い長短のリブが多く配置されているパターンでは、前者よりも抽出スピードは速くなり、結果として抽出時間が短くなる。この場合は、よりさっぱりとして苦みの少ないコーヒーを淹れやすくなるのだ。

実は白状すると、リブの仕組みを知ったのはこのときが初めて。実際のところここまでこだわって毎日淹れているひとは相当のコーヒーマニアだろう。これではっきりと味の違いが出ているのかどうか、自分でもよく分からないというのが正直なところだ。

ただ、プロのバリスタの世界では抽出スピードのコントロールによる味の調整は当たり前のように行われていることは事実で、そうした自分好みの味づくりに欠かせない淹れ方の”こだわり”が、山の中で誰でもできるということそれ自体は、コーヒー好きとして嬉しいことは間違いない(こだわらなければ別にどちらかを気にしなければよいわけだし)。

唯一難点としてあげたいことがあるとすれば、シリコンという素材の特性上、ホコリが付着しやすいこと。山では砂埃、土埃、枯葉のクズが多い場所があり、濡れた布巾も使いにくいため、どうしてもゴミを取りきることができないのは衛生上少し気になるところではあった。

いずれにせよ、この軽量コンパクトでなおかつ味にこだわりたい人にやさしいドリッパーと、これまた超軽量・コンパクトな折り畳み式ドリッパーホルダー「ドリッパーホルダーポンドF」は抜群の相性で、山で本格的なコーヒーを愉しむという意味ではほとんど不満はない。

自分なら、ソロハイクで使用する前提で1杯分だけを愉しむなら「マイクロコーヒードリッパー2」を、2杯分以上淹れることがあるならば「ケイブ&ポンドF」を持っていくだろう。

大ブナのほとりで安らぎながらコーヒーを啜ると時が止まり、何ともいえない幸せに満たされる。と同時に、身もふたもない話だが、苦みや酸味といった微細な味の違いなど小さな話、そんな思いすら湧き上がってくる。

しんと張り詰めた静かな冬の森に溶け込んでいくかのような、自分が大きな地球の一部として存在しているかのような不思議な気持ち。おそらくいつものように素通りしてしまったらこの発見はなかったかも知れない。たまにはより道して、人間には計り知れない自然の大きさのなかであえてじっと腰を据えてみるのも悪くない。

参考:蓮池陽子『簡単シェラカップレシピ』山と渓谷社

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