軽い、走れる、使いやすい。ハイカーも、ランナーも納得のファストパッキング向けバックパック【Review:SALOMON OUT NIGHT 30+5】
目次
頼れる相棒を連れて今年こそファストパッキングをはじめよう
30リットル以上の容量でも数百グラム。こんな驚くほど軽いバックパック、最近では当たり前のように見かける世の中になりました。
ただそうしたモデルは、得てしてその軽さと引き換えに背負い心地、走りやすさ(ブレにくさ)、収納の利便性など、多くの快適性や使い勝手を犠牲にせざるを得なかったものも少なくありませんでした。このためウルトラライトやファストパッキングは、ある意味その不便さを許容し、逆に工夫する楽しみを見いだせる余裕と体力をもった人の世界であり、決して万人に開かれたものではなかったというのが実際のところだったわけです。
この春SALOMONからリリースされたOUT NIGHT 30+5は、そんなある種限られた健脚のための遊びであったファストパッキングの扉を、よりビギナーたちに向けて開いてくれる細部まで配慮のとれたファストパッキング向けバックパックです。今回はスペックや実際に使用してみたインプレッションなどを踏まえつつ、細かい使い勝手まで徹底的にレビューしていきます。快適さを犠牲にせずもっと軽快に歩きたいハイカーから、山の中を走ってみたいと思い始めたランナー、初心者からベテランまで必読です。
SALOMON OUT NIGHT 30+5の大まかな特徴
SALOMON OUT NIGHTは、OUTシリーズとして2019年リリースされた、日帰り向けOUT DAY(20+4L)、連泊想定のOUT WEEK(38+6L)の間に位置づけらる、1泊2日の軽量テント泊を想定したバックパック。約756gという重量でスピードハイキングやファストパッキングといったファスト&ライトな登山スタイルに対応しながら、独自の背面システム「Motion Fit」により高いフィット感と機動性を実現。S/M・M/Lの2サイズ、そして女性用もラインナップし、幅広い体型にフィットするように配慮されています。さらにストレッチ素材を使用したフロントポケット、行動中に必要なものを取り出しやすいように充実したポケット類、雨蓋を開けずに荷物を取り出せるファスナーなど、収納性・機能性も抜群。まさにより速く・より遠くへ行きたいスピードハイカーに必要な性能を高い次元でバランスよく兼ね備えたモデルです。
おすすめポイント
- さまざまな状況でも常に身体に吸いつくような高いフィット感
- 機能的なポケット・アタッチメントによる高い収納性
- パックを下ろさず行動が可能なランニングパック由来の機能性
気になったポイント
- 手元のポケット類がもう少し欲しい
アイテム外観
主なスペックと評価
項目 | スペック・評価 |
---|---|
公式容量(本体) | 35L |
公式重量 | 756g |
実測重量 | 817g |
生地 | Lining: 100% Polyester; Body insert: 11% Elastane, 89% Polyamide; Back insert: 100% Polyethylene; Pockets: 86% Polyamide, 14% Elastane; Back body: 100% Polyester; Body: 100% Polyamide; Body lining: 100% Polyamide |
ポケット |
|
快適性 | ★★★★★ |
重量 | ★★★★☆ |
機動性 | ★★★★★ |
機能性 | ★★★☆☆ |
収納性 | ★★★★☆ |
総合評価 | ★★★★☆ |
詳細レビュー
さまざまな状況でも常に身体に吸いつくような高いフィット感
背負ってみてまず驚かされるのは、この手の柔らかな背面の軽量パックでは珍しいほどの密着感。そしてランニングなどの激しい動きの中でもブレにくい機動性の高さです。トレイルラン分野でのトップブランドだけあって、ランニングバックで培った走りの中での高い安定性はさすがですが、それに加えてこの高いフィット感を実現している秘密は、背面パネルと連動した革新的な独自のハーネスシステム「MOTION FIT™」にあります。
まず背面パネルに注目してみます(下写真)。中心を縦に縫い付けられて両側が羽根のように動き、ストラップを締めることでこれが蝶番のように背中を挟むようにフィットしてくれます。これによって、金属のフレームや硬いパネルなどのパーツを使うことなく背面が背中にピッタリと密着し、高いフィット感を実現してくれます。さらに背面パネルは左右各3つ、合計6つの通気性をもったEVA フォームで構成されており、上体の傾きや捻じりにも無理なく追従してくれます。
そしてMOTION FIT™を構成する肩と腰のハーネス部分。肩部分はショルダーハーネスと背面パネルをストレッチ素材で繋げることで、ストラップを締めた時に背面全体が連携して身体にフィットし、快適な荷重分散を実現するよう設計されています(下写真)。
そして腰部分、ウェストハーネスはしっかりとしたものがついており、密着してしっかりと背中全体で背負えるように腰を包み込んでくれます。こちらもストレッチ素材を使用し、フィット感を高めるとともにブレを抑えてくれます(下写真)。
ボディはやや下に行くほど狭く、重心は高めに保つように設計されています。ショルダーストラップは腰部分で二股に分かれてあることにより、より背中全体へ荷重を分散させたり、上半身の動きへの追従性を向上する(下写真)など、行動中のストレスを感じさせない工夫も随所に見られます。
さらにバックパックのブレを少なくしているのが合理的なコンプレッション機能。トップリッド)とメイン収納を連結するストラップがパックの底部分から伸びているため、内容物の多い少ないにかかわらずパック全体を圧縮し、バランスを保ちやすくなっています(下写真)。しかもバックル1つで全体を圧縮できるようにする細かい工夫がニクイ。
機能的なポケット・アタッチメントによる高い収納性
ただ大きいポケットがたくさんある、というわけではなく、使い勝手を考えたちょうどよい収納が適材適所に配置されています。バックパックを脱ぐ回数をできる限り減らしながら水分・エネルギー補給や防寒・防水、スマホなどにアクセスしたいという、ファストパッキングにピッタリの配置に仕上がっています。
まず大きいのは、フロント右側にあるストレッチポケットの存在(下写真)。ストレッチ素材が使用されており見た目以上に大きな荷物も収納可能です。ここにはレインウェアなどの嵩張るアイテムも入るし、小物も揺れずにしっかり固定してくれます。うれしいことに右手が届く位置にファスナーがついているので、降ろさずとも荷物の出し入れが可能です。ある程度しっかりした素材で小枝などに引っかかって破れたりすることもなさそう。
フロント逆サイドには、メインコンパートメントに直接アクセスできるジッパーがあり、荷物の出し入れに不便さはまったくありません(下写真)。随所でパーツを減らして軽量化を推し進めながら、適度な利便性の確保も決して忘れない、その辺のバランス感覚が絶妙です。
パックを下ろさず行動が可能なランニングパック由来の機能性
ランニングバッグからのフィードバックで、ショルダーハーネス右側にはソフトフラスクやボトルを入れるメッシュポケット、左側にはジッパー付きメッシュポケットが付いています。ウエストハーネスには左右同サイズの小物入れがあり、よく使う道具や補給食程度なら入れておくことができます。
しかし、普段トレイルランニング用パックもよく使っている僕からすると、ここにはもっとポケットがあってもよかった。背中にハイドレーションバッグを入れることができるので、ウォーターボトル入れは1つで十分ですが、伸縮性のあるポケットがあといくつか付いていると、行動中バックパックを下ろさず、すべて手元で処理できたことでしょう。
もう一つ、OUT NIGHTの特徴と呼べるものが5Lのトップリッド(天蓋)です。簡単に取り外すことができ、もちろんコンプレッションも効かせられます(下写真)。これは後述しますが胸ポケットとして使用でき、これらを組み合わせれば行動中に必要なものはすべて手の届く範囲にまとめられるので、リュックを下ろすことはほぼ無く、歩くことに集中できます。
実際に使ってみたインプレッション
実際に背負って動いてみると、やはり際立つのはフィット感。軽く走ったり、下りでスピードを上げても荷物はほとんどブレることはありません。各所で細かく調節できますし、バックパック自体を圧縮もできるので、荷物の内容にも関わらず行動中の安定感は抜群です。もちろんファストパッキングを想定しているので、さすがに15kgを超えるような重量となるとその限りではありませんが。
バックパネルは、背中にしっかりフィットしながらも、しっかりと通気性が確保されています。背中のパネルも肩のハーネスもよくみると、肉抜きがされていて通気性の向上と、軽量化にも寄与しています。そのおかげでぴったりフィットしているにも関わらず、運動量が多くなっても蒸れてしょうがない!ということにはなりませんでした。特にこれからの暑い季節にも安心です。
さらに実際の重量を背負ってみて分かったのですが、ショルダーストラップの腰への連結が上下二股に分かれていることが、ストラップを締めた際の絶妙な荷重分散と身体の中心に近い部分への荷重を可能にしていることです。その結果フィッティングしたときに、重心がしっかりと背中全体に乗っている感覚(いつもよりも軽く感じる?)が得られました。
胸のストラップは、一本ながら留める場所の自由度が高く、細かな調整が可能です。取り外すのもちょっと引っ張るだけで簡単に外れるようになっていて、ストレスはありません。
そして意外に便利なのが、取り外し可能な天蓋。もちろん必要なければ取り外すこともできますが、それを胸に取りつけて行動食やスマホ・地図・ボトルなどを入れて使うことができます。サコッシュ感覚で使用でき、行動中はパックを下ろすことなく必要な荷物の出し入れができてしまいました。
まとめ:こんな人におすすめ
重量は1kgを切り、1泊対応のバックパックとしては十分軽量です。もちろんより軽量なバックパックは他にもたくさんあるので、驚くような軽さというわけではありません。しかしこのOUT NIGHTには、それを補って余りある高いフィット感・機動性・機能性をバランスよく備え、使い勝手は抜群。より速く・より遠くへと可能性を広げていきたいスピードハイカーにとっては、動きも制限されず、荷物の出し入れもしやすいことから、最高の相棒になるでしょう。これまでU.L.用バックパックを使用したことない人も、この軽さ・フィット感には感動すること間違いなしです。
同シリーズには、他にも日帰り用のOUT DAYと連泊用のOUT WEEKの合計3モデルがありますが、OUT WEEKは50Lに迫る容量となり、1週間程度の山旅を見込まない限り少々大きすぎるように思えます。OUT NIGHTは35Lと、数日であれば連泊にも十分対応できることから、もし容量で迷うならOUT NIGHTを選んでおくのがおすすめです。
今年はより速く、そしてより遠くへ、見たことのない景色に会う旅に出てみてはどうでしょうか。