Review:TECNICA FORGE これが未来か。熱成型によるフィッティングが可能な革新的ハイキングブーツの実力は?

重荷で長時間、2本の足に相当な衝撃を加え続ける登山では、自分にフィットした靴選びが非常に重要であるのは言うまでもありません。

だからこそ、現実的にはメーカーから差し出された数パターンのサイズや形に足を合わせていくしか靴選びの方法がない僕たちは、人の評判だけに頼らず、必ず自分で試履きして少しでも自分の足に合った靴を探すことが何より重要なわけです。

ただ、選んだこの一足が自分にとって最もフィットする登山靴かどうかなんて、実際のところは簡単に分かるものではありません。ほとんどの人にとっては、大枚をはたいてオーダーメイドでもしない限り「自分に最適な靴探し」とは終わりの見えない長い旅であり、みな大なり小なり仕方なく妥協するしかありませんでした。これまでのところは。

そのような現実はもちろん世界中で同じ。だからこそ今回紹介する世界初のハイキングブーツ、ユーザーの足型に合わせて熱成型可能なTECNICA FORGEは、発表当初(昨年夏)からアウトドア業界では話題沸騰。数々のアワードを総なめし、これこそ誰もが待ち望んでいた未来の登山靴だといわんばかりの熱狂ぶりでした。

かくいう自分ももれなくそのうちの一人です。1年間待ちに待った瞬間がようやく訪れ、ついに現物をじっくり試してみることができました。

今回はありがたいことにメーカー担当の方からこの靴についての深いところまで説明を受けながら、フィッティングまでしてもらいました。するとどうやらこのモデル、熱成型フィッティングのことばかりに注目されがちですが、他にもとことん考え、計算された機能や特徴が凝縮された、かなりヤバい靴であったことが判明。

早速その革新的な特徴の数々を紐解いていきながら、実際のフィールドで感じた手応えを書いていきたいと思います。

目次

TECNICA FORGEの大まかな特徴

何十年も前からスキーブーツの世界でいち早く熱成型可能なライナーを製造してきたTECNICAが、世界で初めて熱成型によるフィッティングを可能にした登山靴。インソール・ヒール・アーチ・そしてかかと部分に熱成形可能な合成素材を採用し、お店で約20分すると誰もが安価に自分専用の足型をしたブーツを手に入れることができます。靴自体のベーシックな部分でも高いパフォーマンスを考えた機能が盛りだくさん。くるぶしまで立体的に造形した「ウルティメイトアナトミカルラスト」、解けにくく強靭なケブラー素材のシューレース、足首を巻くように固定される「オーバーラップカラー」などによってこれまでになく高いフィット性を備えています。グリップ力抜群のVibram Megagripや柔軟性とプロテクションを兼ね備えたミッドソールなど、あらゆる地形に対応する多用途性を備えたオールラウンドなトレッキングブーツは、街にも映える高いデザイン性とともに、あらゆるユーザーにとって価値のある一足といっても過言ではないでしょう。

主なスペックと評価

項目 スペック・評価
重量 595g (8UK)
アッパー生地 Nubuk leather with stretch fabric base
ミッドソール Adaptive system, 2 Layers EVA plus 1 layer ESS
アウトソール Vibram Megagrip
防水 GORE-TEX®
快適性 ★★★★☆
重量 ★★★★☆
グリップ ★★★★★
プロテクション ★★★★☆
安定性 ★★★★★
総合点 ★★★★★

詳細レビュー(1):熱成型(フィッティング)まで

クールで垢ぬけたデザインの良さ

まずなんといっても見てくださいよこのオッサレなデザイン。

もちろんこれ以外にも優れたデザインの登山靴はありますし、人によって好みもあるでしょう。でもFORGEには単にトレッキングブーツとしてのルックスの良さに加えて「靴」としてのカッコ良さを感じずにいられません。縫い目の少なく、凸凹のないすっきりとした表面、特にヌバックレザーの落ち着いた質感と色合いは何とも言えず洗練された雰囲気で、個人的にはかなり好みです。熱成型部分もすっきりとしたデザインのなかに未来っぽさを放ちながらいい意味で溶け込み、これこそまさに機能美。ドアから頂上へと途切れなく履いていけそうなデザインです。

つま先からくるぶしに至るまで計算されたラスト

熱成型ばかりに眼が行きがちですが、よりフィット性を高めるための創意工夫はあらゆる部分にみられます。従来のラスト(靴型)がせいぜいつま先から足首あたりまでを形作っているのに対し、FORGEでは踝(くるぶし)までを再現した「ウルティメイトアナトミカルラスト」を採用することによって、より実際に履いた状態に近い形を再現しています。

写真手前に見えているのがFORGEで使用しているラスト(木型)。後ろに見えている一般的なラストに比べてくるぶしまで精巧に作られている。

シュータンを排してフィット性を高めた足首周り

フィット性を高めるもうひとつの仕組みが「オーバーラップカラー」と呼ばれる、ブーツのシュータン(ベロ)にあたる部分。この部分が従来のような分離した別パーツとしてではなく、アッパーと一体化しており、足を内側から巻くように締め込む仕組みです。ただ、これによるメリットは何でしょう?にわかには想像できませんでした。

足を入れてみると、なるほどと実感します。まずシュータンを無くすことによって、従来のタンに比べて格段に厚くクッション性のいいアッパー素材が足を包むことになり、肌当たりがよい。その他、一部の人にあった「タンのフチが当たって痛い」ということも減り、締めつけた時の皮膚へのプレッシャーが少なく、結果としてフィッティングについての問題を軽減することにつながります。さらに表に出ない大きな事情として、この構造にすると、シューレースフックを少しでも前面にもってくることができるため、くるぶし部分の熱成型素材を前の方まで十分に入れることができるとか。結果的にフィッティング性の向上につながるわけです。

耐久性を損なわずに締めやすく解けにくくなったシューレース

一見細くて貧弱そうに見えるこのシューレースにも秘密が詰まっています。

今モデルに採用されているシューレースはケブラー素材が混ぜ込んである作り。ケブラー素材の場合、細くても摩耗と切断にめっぽう強くできる反面、素材自体に張りがあるため紐を結んだ時に解けやすくなるという弱点もありました。

そこで、このシューレースは微妙に表面が凸凹しさせる(下写真)ことで、縛った時に上手く絡みつき摩擦によって解けにくくさせているとか。

さらに、通常金属などが使われているシューレースホールにも、靴紐と同じケブラー素材が使われています。

一般的な登山靴の場合、通常のD環素材では紐が滑ってしまうため、たいていは中段にある楔にかけて緩みを止めています。ところがこのモデルのようにD環部分も紐にすると、個々の穴で摩擦力が生じるため、下の写真くらいある程度縛っただけでもうほぼ滑らなくなる。一か所のD環で止めるよりも解けにくい「セルフロッキング」式のシューレースというわけです。いやはや、どこまで深く考えて作ってんのよというこだわりようです。

すべての足型に合わせてカスタマイズされる熱成型システム

ここまで細部までこだわった機能の数々を見てきましたが、いよいよ最高のフィッティングを目指したFORGEのハイライトである、熱成型によるフィッティングをレポートしていきます。

C.A.S.(CUSTOM ADAPTIVE SHAPE)」と名付けられたシステムは、各販売店に設置された専用マシンによって、インソール・ブーツ本体を自分の足にフィットさせることができる画期的な仕組み。

いやちょっと待て。「熱成型できるインソール」だってそれなりの価格で普通に市販されているわけで、普通の登山靴の価格でここまでやれるって、これをお得と言わずしてどうするよ?

さて作業自体は20分程度で完了するということで、まずは成型可能になるまで温めるところから始まりました。

インソールの方が先に温まるので、まずインソールの上に足を置き、スリッパのようなカバーをはめてから、大きな圧縮袋のようなものに足全体を突っ込みます。するとそこへ一斉に空気が注入され、足全体を血圧計のように圧迫されていきます!なんか気持ちいい。

状態で待つこと3分、自分の土踏まずのカーブにピッタリと成型された自分専用のインソールが完成しました!

同様の作業を、先ほど成型が完了したインソールを入れたブーツでも行うと、めでたくフィッティング作業が完了します。

どれほど形が変わったのか、フィッティング前後でブーツを比べてみました(下写真)。左が成型後、右が市販されている状態。どうでしょう、ブーツの形状が目に見えてほっそりと変化しているではありませんか!

無事熱成型が完了したブーツに恐る恐る足を入れてみます。

これは……何が新鮮かって、自分の足は左右で0.5cm程大きさが違んですね。だからどんなシューズも履いた時に左右で履き心地が違っているのが当たり前だったのですが、今回左右個別にフィッティングしてくれたFORGEは見事に左右どちらの足も、同じとまではいかないまでもかなりフィット感が近い。土踏まずから踵まで、(当然ですが)それぞれの足に合わせてフィットしてくれているのが実感できました。

詳細レビュー(2)フィールド試用レビュー

重すぎない重量、硬すぎず、柔らかすぎずのソール、つま先にはクライミングゾーンなども備えているとあって、このシューズの特徴からすると低山の軽いハイキングからアルプスの岩稜帯まで、ハイキング・トレッキングであればかなり幅広い地域で使えそうです。

そこで5~6月の低山ハイキングから、中央アルプス(3,000m級)の残雪・岩稜歩きまで万遍なく歩いて実力をチェックしてみました。

履いて納得、歩いて実感するフィット感と歩行の安定性

熱成型によって足型に形づくられたシューズの効果は一歩目から感じられました。

土踏まずのアーチを確実に埋めてくれるインソール、踏み込み時にはかかとが浮かず、着地時には足がブレないよう適度に絞られた内側面とヒールカップ、けがを防止するようにしっかりホールドしてくれる足首周りなど、なるほど確かに、このクラスのトレッキングブーツでは考えられない一体感と安心感です。これだけでもう病みつきになりそう。

Vibram Megagripで安心のグリップ力

さらにこのブーツが最高なポイントはアウトソールのVibram  Megagripです。ご存知の方も多いと思いますが、現状ではトップクラスのグリップ性能をもち、濡れた岩場も何のその、あらゆる地形・地面に対して吸い付くようにグリップします(慣れないうちは引っ掛かりすぎを注意した方がいいくらい)。舗装道路を歩いても苦にならない程度に柔軟なソールには、剛性と衝撃吸収性を両立するEVAとESSをミックスしたミッドソールが内蔵されており、低山の泥道や沢沿いのゴーロ、そして高山の岩場まで、幅広い地形で登りも下りも安心です。

10kg以上の重荷で岩場を歩きましたが、プロテクション・耐久性も今のところまったく問題ありません。

全体が良すぎるがゆえに・・・疲れにくさについてはさらなる向上を求ム

ここまで書いてきたように、フィット感、安定性と様々な意味での歩きやすさという点では間違いなくトップレベルに満足でした。しかし靴の良さというのはそれだけではないのも、また奥深いものです。

長時間、重荷で歩いた時の足への疲労の残り具合というか、ダメージの溜まり方については、他ブランドのモデルに比べてそこまで高いとは言えないのが気になりました。特に踵の熱成型部分の内側はクッションが相対的に薄く、その部分に疲労が溜まりやすい気がします。こればかりは熱成型の出来具合による影響もないとは言えないため、確実なことは分かりませんが、個人的には安全にゆっくり歩くというよりも結構ガシガシ踏み込んでいくことが多いため(フィット具合に関わらず)、かかと周りを支える部分にはもっと極上のクッション性があった方が疲れも少なくなるのでうれしいです(かつてのレビューで絶賛したGarmont RAMBLERのヒールロックシステムような・・・)。

まとめ:こんな人におすすめ

前評判の高さゆえ、感動はどうしても控えめになってしまったのかもしれません。にもかかわらず、冷静にみてここまで完成度、そしてコストパフォーマンスの高い登山靴はここ数年にはないというくらい、全方向的に素晴らしい出来栄えでした。特に既存の靴が合いにくいと感じていた人や、特にクセの強い足の人にとっては待望の一足であり、迷うことなくおすすめです。硬すぎず柔らかすぎず、重すぎず軽すぎずという汎用性の高さから日本全国の日帰り~テント泊の登山全般で問題なし。街歩きももちろん快適。

ただ完璧なフィットだからといって過信は禁物で、ソールの柔らかさからアイゼンを前提とした残雪や岩登りのきついバリエーションルートはやや守備範囲外。またアルパインブーツのような剛性とクッションではないので、かなりの重荷で長期縦走などに使うとなれば、相応の脚力をもっているかどうか、一歩冷静に考えてみる必要があります。

男女別モデルが揃っているのでそこについても安心。レザーにするか、シンセティック(化繊)にするか迷うところですが、スペック的にほとんど違いはないそうです。デザインで選んでほぼ問題ないでしょう。

もちろんその時は実店舗でフィッティングして購入することが前提ですが、お店によってはオンラインで購入したものを同じお店の実店舗に持ち込めば熱成型を行ってくれるとのことでした(久冨調べ)。詳しくは各ショップに直接確認してみてください。

山仲間にシェアしよう!

147 Shares

最新ギア情報をゲットしよう!