800、900FPは当たり前。山好きのための、登山に使えるダウンジャケット 2018
自分に関していうと、登山に積極的な使用を前提にダウンジャケットを持っていくことは、よほどの条件でない限りほぼありません。理由はシンプルに、登山では使いにくいからです。行動中は大汗をかくことが多い登山では、ダウンを着たまま行動するとすぐに中が蒸れてくる。休憩のたびにいちいち脱ぎ着が必要です。また万が一ダウンが濡れてしまえば、その圧倒的に優れた保温力はどこへやら。手入れも面倒。一方、最近は化繊インサレーションの性能がどんどん上がってきている。一般的な登山におけるダウンの必要性は、日に日に薄れていっているように感じられます。
ただそれでも、現時点ではまだこのアイテムが役に立たなくなったということは決してありません。同じ重量での断熱性(保温力)においては、やはりまだまだ頭一つも二つも抜き出ていますので、ダウンジャケットは、丸めればほんの握りこぶし二つ分程度の容量で、大きな安心を備えることができます。
常時頻繁に使うことはなくても、万が一、いつもの装備ではどうしても寒いなと感じたとき、ここぞというときに最高の温もりを加えてくれる存在として重宝する、頼れるお守りのようなもの。ぼくはそれでいいと思っています。今回はそんな秋冬~残雪登山での頼れるパートナーとして、ダウンジャケットについて、特に筆者が山で使いやすいという点にフォーカスして厳選したモデルを紹介します。
目次
登山に使うダウンジャケットに求めること
山で使うダウンジャケットに求めていることは、一にとにかく軽くてコンパクトになるということ。だいたい300g以下が望ましい。もちろん中間着として、断熱性はあればあった方がいいのは当然ですが、長時間、寒空の中じっとしているような真冬の天体観測や釣りならともかく、休憩やビバーク時しか着ない想定の登山では、ヒマラヤの極寒に耐えられるほどの桁外れな断熱性は必要ありません。その意味で、使い方によっては袖のない「ベスト型」でもいいでしょう。
その他、上半身の運動・強風・多少の雨・外部の衝撃など、山での使用を想定した場合の素材使い、パーツ・あしらい、仕様になっているかどうか。最後に、普段着としてのデザイン性にも優れていれば言うことなしです。
ダウンジャケットも含めたミドルレイヤーの選び方についてはこちらの記事をどうぞ
2018-2019シーズン注目のダウンジャケット
Mountain Hardwear ゴーストウィスパラーフーデッドダウンジャケット
重量・携帯性★★★ 断熱性★★☆ 機能性★★★ デザイン★★★
このサイトをはじめて間もないころ、まだまだ手探りのなかで行った比較レビューで出会った衝撃。それから何年にもわたってたくさんのダウンジャケットを見てきましたが、個人的にはいまだにこのモデルよりも高い完成度に到達したモデルを知りません。細かい微調整はあれど、そこからずっと変わらぬ使いやすさはいわば殿堂入りといっていいでしょう。
中綿には800FPの嵩高ダウンであると同時に、NIKWAXの撥水加工が施されているためダウンの弱点である湿気による嵩つぶれが起きにくい仕様。おまけにいつからか原料である水鳥を人道的に適正に扱っている証であるRDS認証も付加されています。マスターピースでありながら、時代に合わせて内面を磨いていく努力を忘れていません。
そんな高性能ダウンが温もりを損なわない最低限の絶妙なボリュームで封入され、強度としなやかさを併せ持った極細・高密度・撥水性のあるリップストップナイロン、さらに裾のドローコード、頭にフィットしやすいフード・袖口の伸縮などによって暖気を逃さず、その結果十分に温かいのに重量はなんと205g(Sサイズ実測)。右ポケットを裏返していって収納するパッカブル仕様だから、余分なスタッフサックなども不要。もちろん上半身の動きによる突っ張りもほとんどない、ち密な立体裁断と、まさに山での使い勝手を隅々まで考えてくれている点もすてき。デザイン的にも洗練されたベーシックなフォルムやカラーリング、無駄にシャカシャカいわないところなど、街着としても全然イケます。
重さを忘れてしまうほどの重量に、十分な温かさと使い勝手の良さを詰め込んで、垢ぬけたデザインに閉じ込めた、まさに山好きのためのオールラウンド・ダウンジャケット。注意としては、やはりダウン量はそこそこなので、ダウンのイメージ「圧倒的な保温性とモコモコ感」は望めないこと。天候による気温の変化が激しく、装備が読めない秋~初冬にはなくてはならないお守りに、涼しい時期のキャンプでは長い夜のためのアウターとして、冬のバックカントリースキーでは滑降時の中間着としても最適です。
mont-bell プラズマ1000 アルパインダウン パーカ
重量・携帯性★★☆ 断熱性★★★ 機能性★★☆ デザイン★★☆
モンベルは「1000FP」という最高クラスの復元力を備えた高品質EXダウンを取り扱う数少ない国産ブランドのひとつ。その山岳向け軽量ダウンジャケットがこのプラズマ1000です。この1000という数値、例えば800FPのダウンと比べると、数字的には800→1000で25%のアップですが、実際の保温力では38%もの違いがあるとか(モンベル調べ)。そこには越えられない大きな差があることは、手にした瞬間から実感できます。単に軽いだけでじゃない。このダウン量にもかかわらず、身体と衣服との空間を隙間なく埋めてくれる恐ろしいほどの復元力には、世界中探しても限られたモデルでしか味わえない感動があります。
その圧倒的な復元力のダウンを、7デニールの極細・高強度バリスティック®ナイロン糸の表裏地と、縫い目を少なくした独自パターンのキルトによって封じ込めたことで、規格外の保温性と軽量性を両立させました。また、機能面での安心感も相変わらず。しっかりと密閉できるドローコード付きフード・裾、伸縮の利いた袖口、フラップ付きのフロントジッパーなど、抜かりはありません。
そして何よりうれしいのが「USモデル」の存在です。モンベルのジャケットというと全体的に広めの身幅・短い袖丈という裁断が個人的に合わず敬遠しがちという残念なことが多かったなかで、このモデルにはうれしいことに細身で袖長のUSモデルが選べます。もう控えめに見て最強です。これ1着を常時パックに忍ばせて置けば、厳冬期の冬山縦走でも安心です。スタッフサック付き。
Arc’teryx セリウム LT フーディ
重量・携帯性★★☆ 断熱性★★★ 機能性★★★ デザイン★★★
これも当サイトの2015年比較レビューで衝撃を受けた、完成度の高いダウンインサレーションジャケット。850FPの最高級ホワイトグースダウンを使用し、復元力の高さは間違いない。生地には極細・高耐久Arato™ 10 ナイロン。スリムなシルエットで身体に隙間を作らず、そのくせ腕の曲げ伸ばしでまったくストレスのない立体裁断。今回のなかでは多少重量は大きめですが、実測で200g台は通常から見れば十分軽いし、その分保温力は高めです。
そして、ここで終わらないのがやはりアークテリクス。実は頭部・肩・脇下・袖口といった濡れやすい部分に化繊綿をマッピングすることによって、濡れによる保温力の低下の影響を最小限にする工夫がなされています。つまりダウンの弱点である湿気をある程度気にせず、多少アクティブな使い方にも応えてくれるというわけです。実際に使ってみて、普通はダウンジャケットというと動いて暑くなると途端に服の中が蒸れてくるのですが、これは本当に汗抜けがいいんです。
フードはワンタッチで頭にフィットさせることができるドローコード付き。ちなみにこのモデルよりもさらに軽いモデルである「セリウムSLフーディ」と迷いましたが、軽さと保温力のバランスのよさという意味ではこちらのLTの方がより汎用性が高いので、こちらをチョイス。お守りとしての使い方を突き詰めるのであれば、SLの方が適しているでしょう。
THE NORTH FACE アストロライトフーディ
重量・携帯性★☆☆ 断熱性★★★ 機能性★☆☆ デザイン★★★
日本中でこのブランドのダウン製品がバカ売れしているらしいですが、注目したのはその中でもやや地味なモデル。ここで使用されているダウンは、数多くある同ブランドのダウンジャケットのなかでも、高度な洗浄技術によって最高級に磨かれた900FP東欧産グースダウンを使用したホンモノです。
特徴的なのは、他の本格山岳向けと違って若干「山でも、街でも」を志向している点でしょう。その証拠に、どちらかというと質感重視の20デニールナイロン生地を表地に、裏地にベーシックなナイロンタフタを採用するなど、軽量・高耐久を追求しているとは言い難い仕様です。また裾・袖口・フードもやや緩い(密閉できない)のが気になるといえば、気になる。
ただ、表裏を点で接着し、生地を袋織り状にしたバッフル構造によってコールドスポットを少なく抑え、軽さと保温性を高いレベルで両立したことは特筆すべき点です。生地には撥水加工が施され、ノースにしてはスリムなフィット、フラップ付きのフロントジッパーなど、十分山でも使える性能をもっていますので、山に使うよりも、街やキャンプ、スノーハイクなど主体で使いたい人にとってはちょうどいいモデルなのではないでしょうか。
ちなみにもっと思い切った本格山岳向けがよいという方のために、SUMMITシリーズからリリースされたアルティメットダウンフーディがあります。個人的にはこのラインナップの広げ方の上手さに、最近のノースフェイスの勢いというか、ビジネスセンスの高さを感じます。
Rab Zero G Jacket
重量・携帯性★☆☆ 断熱性★★★ 機能性★★★ デザイン★☆☆
本物のクライマーに必要とされるダウン製品の開発からはじまったというRabは、今でもそのルーツにブレはなく、ことダウン製品に関しての妥協のなさ加減はハンパない。てっぺんを突き詰めるその潔さとこだわりの強さ、その結果としての筋金入りの高品質は常に敬服に値します。近年のRabを代表する定番ダウンジャケットとしてはMicrolight Alpine Jacketがありますが、このモデルは同じような軽量ダウンジャケットのフラッグシップとして、極限で使用するためのクオリティを突き詰めたRabらしい超軽量テクニカル・ダウンジャケットです 。
上のモンベルと同様、ダウンは事実上最高品質の1000FPヨーロピアングースダウンを使用し、しかもダウン量はモンベルよりも多いと推測されますので、断熱性は今回紹介する中では最強でしょう。さらに表裏に使用されている生地はRabのためにPertex社によって開発された、通常よりさらに20%軽量の7デニールPertex Quantum® GL。
細部も見てみましょう。裁断とフィット感はRabではおなじみの、かなりスリムだけど完璧な立体裁断でストレスなし。袖も相変わらず長めです。フロントジップは低温に強く耐久性の高いビスロンジッパー、裏には防風フラップ付き。ハンドウォーマーポケットはハーネスに干渉しない高めの位置。袖口はしっかりと密着するようなストレッチ素材で、手首周りをすっきりとさせてくれます。鍔が硬めのフードや伸縮性の裾など、見れば見るほど隙が無い。最高級食材だけで作った料理みたいな一着です。お腹いっぱい。
ちなみに、いうまでもなく冬期アルパインクライミングにフォーカスされたこの高機能ダウンジャケットは、厳冬期を含めたあらゆる極限状況で、中間着として、あるいは乾いた環境でのアウターとして完璧に機能するでしょう。ただ街で使うにはいろいろな意味で尖りすぎ。いずれにせよRabの哲学を象徴する一着、もし纏えるような幸運に巡り合える人は、存分に堪能してみてください。