比較レビュー:日帰り登山やファストパッキングに最適な軽量ハイキングブーツを履き比べてみた
各項目詳細レビュー
快適性
どんなに軽くて滑らない靴であろうと、履いていて気持ちのよい靴でなければ楽しく歩けません。いうまでもなく快適さはどんな種類であっても靴選びにおいては重要な要素ですが、ラフな山道を長い時間歩くハイキングでは一口に靴の快適さといっても、そこには多くの要素が影響するのが実際です。そこで今回の比較ではハイキングブーツの快適さを大まかに以下の3つの角度から検証し、全体としての快適性評価としています。
- 足を入れ、靴ひもを締めたときに感じるフィット感、心地よさ
- 歩いたときに足裏に感じる衝撃、蹴り出しから着地までの抵抗感
- 活動時の通気性、防水性
コメントの前にまず大前提として、今回の10足はそもそもピックアップの時点で試し履きをしていることもあり、足を入れたときの履き心地に関してはどれも一定水準以上であることは前置きしておきます。そのうえで、選りすぐられたなかでも総合的に最も快適だったのはLa Sportiva SYNTHESIS GORE-TEX SURROUND。
ナノセル・テクノロジーによるアッパーは比較した中でも最も薄くしなやかな素材のひとつ。網目状の樹脂が足全体を包み込んでホールドするため、靴ひもを締めた時に張力が一部分に偏らず、均一で心地よいフィット感(ホールド感)が得られます。コードロック式のシューレースは締めやすく、緩めやすく使い勝手抜群。ビブラムアウトソールのIMPACT BRAKE SYSTEMはラグやや深め、ゴムやや柔らかめで衝撃吸収力高し。そしてなによりGORE-TEX SURROUNDを活かした靴全体での通気システムは、夏のハイキングでも指の間までサラサラ。この感覚だけは他のモデルでは味わえませんでした。
その他特筆すべきだったのはアッパーに独自技術SENSIFITを採用したSalomon X ULTRA MID2 GTX。足の両側から包み込むように締め上げてくるホールド感はトレイルランニングシューズのノウハウを活かしたというだけあって、靴と足の一体感が素晴らしく、ランニングシューズに引けをとらない高いホールド感が得られます。またフィット感とクッション性に優れたmontrail SIERRAVADA MID OUTDRYや、心地よいホールド感と高い足首のクッション性・可動性を備えたadidas TERREX FAST R MID Gore-Texも上記に負けず劣らず素晴らしい履き心地であることが分かりました。
グリップ
舗装された平坦なロードと違い、地形、状態、登り、下りなど、多様な条件で安定した歩行を可能にするのがグリップ力。優れたグリップ力があれば着地でスリップしにくく、蹴り出しの際、踏み出した力を地面にむだなく強く伝える事ができます。言葉にすれば単純ですが、各モデルのアウトソール(靴底)を見てみるとひとつとして同じ形状をしているものはなく、どんな場合でも完璧なソールというものはあり得ません。このため各モデルは耐久性や重量などとのバランスを考えながら、それぞれが考える最も効果的な素材やパターンなどを設計していきます。
今回の比較では下部の樹林帯からピークのガレ場と変化に富んだコースを一通り上り下りする全般的なテストの他に、湿った一枚岩を同じ時間に、同じ場所で登下降するテストも実施しました。柔らかいソールが多いハイキングブーツにとって濡れた岩肌は最も苦手とする地形のひとつですが、興味深かったのは案の定多くのモデルがツルツルと滑り落ちそうになって苦戦した一方(下の写真の腰が引けちゃっているやつ)、ごく一部はほとんど滑らず安定したグリップを発揮するという、明らかな実力差が見られたことです。
軽くて柔らかいソールのハイキングブーツにもかかわらず滑りやすい岩場でも抜群のグリップ力を発揮していたのは、ビブラムMEGAGRIPを採用したTHE NORTH FACE Ultra Fastpack II Mid GORE-TEXとVASQUE インヘイラーⅡ GTXの2つ。MEGAGRIPは決して柔らかな材質ではないため、他のラバーアウトソールと比べれば快適性(クッション性)では劣ります。ただし他のブーツが重荷の重力に耐えきれず次々とスライドしていくのを尻目に、こちらは濡れた岩肌をがっちりと掴み、普段と変わらない安定した足運びを可能にしてくれました。また、これらにやや劣りながらもかなり安定したグリップを見せていたのはadidasのコンチネンタルラバーとモンベルのトレイルグリッパー。逆にこの4足以外は残念ながら湿った岩肌においては慎重に足を置かなければ即座にズルッといく危険がありました。
こうした特別な地形以外ではどのモデルもそこまであからさまに危険なことはないのですが、それでも砂利や泥、木道など総合的な路面状況での歩きやすさを考えてみると、THE NORTH FACE Ultra Fastpack II Mid GORE-TEXとモンベル ラップランドブーツは最もブレずに地面を蹴ることができていたといえます。
安定性
多様な地形での歩きやすさを考える上で、グリップ力と密接に関係しているのがブーツの安定性。端的にいうと、足裏に加えられた衝撃に対して、余計な力や負荷を必要とせずいかに足がブレたりねじれたりしないでいられるか。これは手ぶらで走るランニングシューズなどと違い、登山のような重荷でのアクティビティにおいてはますます重要になってくる要素です。今回は主に2つの側面から安定性についての評価をしています。
まず基本的に今回選んだ10足はすべてくるぶし付近まで固定されるミッドカットモデルであるため、より足首が固定されていることから少なくともローカットのハイキングシューズよりは既に高い安定性を備えているといえます。ただ、足首部分の高さ、材質、形状、締まり具合などは各モデルで設計が大きく異なっているため、ミッドカットといえどもモデルによって足首の安定感、安心感は大違い。この踵から足首まわりのつくりがどのくらい効果的かが安定性評価の第一ポイントです。
もうひとつ安定性を考えるうえで重要な要素はソールの安定感。一般的な登山靴は靴の内部にシャンクと呼ばれる硬い芯材が入っており、傾斜がありラフな地面に体重を乗せても靴が歪まないようになっているため、重荷でも安定して地面に足を置くことができます。一方で多くのハイキングブーツは基本的に軽装でのスピーディな行動を想定しているため、軽さとスムーズな脚運びを優先してソール(シャンク)は柔らかく、曲がりやすいつくりなっており、靴はねじれやすく安定性が低い傾向にあります。そこで今回の比較では、軽さや脚運びのために安定性が犠牲になっていないか、あるいは両者のバランスは保たれているかなどの点を評価しています。
これらの観点から、今回最も安定性という面から最も高い評価を獲得したのはmont-bell ラップランドブーツ。十分に深くて厚い足首サポート、適度な剛性を備えたシャンクプレートは今回のなかでは最もねじれにくく、安定感は抜群でした。ただその反面、早足になって脚の回転が速くなるとそのサポート性の高さがかえって邪魔になりがちという点は否めません。一方足首が低く、シャンクも極端に柔らかいLa Sportiva SYNTHESIS GORE-TEX SURROUNDは、脚運びは最高で快適な反面、安定性はお世辞にも高いとはいえませんでした。これら極端なモデル以外ではadidas TERREX FAST R MID Gore-Texが注目に値します。変則的な足首(後ろ側は動かしやすく、側面はサポート力が高い)と予想外にしっかりしたシャンクなど、快適性と安定性が高次元でよくまとまっている、非常にバランスのとれたアイテムであることが分かります。
重量
あらためてサイズを揃えて重さを測定し直した結果、最も軽いモデルはLa Sportiva SYNTHESIS GORE-TEX SURROUNDの418g。これは快適性の高さと安定性の低さからある程度予想できましたが、それよりグリップ力・安定性を保ちながら434gと軽さも失わないTHE NORTH FACE Ultra Fastpack II Mid GORE-TEXは見事というほかありません。ただ、片足500g以下という縛りである時点で今回のモデルはどれも登山靴の中では最軽量の部類であることは間違いないので、この項目のポイント差に関してはそれほど神経質になることもないでしょう。
プロテクション
ここでは痛打しやすいつま先の保護や、摩擦や引裂きに対する耐久性など、外的な障害からの強さについて評価します。そもそも岩稜帯などの厳しい地形や数年以上の長期間に渡る使用を想定することの少ないハイキングブーツでは総じて弱い部分ではありますが、それでもきっちりと作り込んでいる優れたモデルはあります。
mont-bell ラップランドブーツは軽量さを保ちながらも、靴の周囲をスエードレザーでがっちりと補強されることで十分なプロテクションの高さが感じられます。その他TECNICA TCROSS MID SYN GTXやadidas TERREX FAST R MID Gore-Tex、Salewa HIKE ROLLER MID GORE-TEXのつま先部分には硬質素材による補強がなされ、誤って打ち付けやすいつま先を保護してくれます。
まとめ
フカフカだからといって歩きやすいわけではない、軽くて薄いからといってヤワなわけではない、ビブラムだからといって安心なわけではないなど、多くの新しい発見が見られた今回の比較では、登山靴の奥の深さをあらためて痛感した気がします。比較した10足は点数的には差がついているものの、実際に履き込んだ限りではどれもそれなりに気持ちよく歩けるものばかり。それぞれの用途や好み、そして脚力によってはこの順位は変わってくる可能性は十分あると思います。
さらに、フィット感やホールド感、クッション性についての不満は自分専用のインソール(フットベッド)を用意することで解消されることも大いにあります。実際ぼくにとっての最適な足回りにはスーパーフィートが欠かせません。今回のレポートに加えて、さらにそうした追加パーツによる組み合わせも合わせて自分に最適な靴に出会えることを願っています。最後に、これまで公開してきたOutdoor Gearzineの靴選びに関する記事を参考までに紹介しますので、物足りない方はこちらも読んでみるとよいでしょう。